共生!

「細胞という名のスープに浮かぶ具」ことオルガネラについてここ何回かでちょいちょい見ていますが、液胞・核というデカブツを経て、続いてはこれまた超重要な小器官、ミトコンドリア葉緑体について見てみるとしましょう。

まずはミトコンドリア、これはまぁ生物を習わなかった方でも何となくどこかでうっすら聞いたこともある単語かと思いますが、都合いい(都合悪い?)ことに世の中には糸こんにゃくとドリアという食べ物が存在するため、ついついイトコン・ドリアと区切りたくなるわけですけど、実際はmito-chondrion(ギリシャ語で、thread(糸)を意味するmitosと、granule(顆粒)を意味するchondrion)なので(ちなみに、mitochondrionが単数形で、複数形がmitochondria)、正確にはミト・コンドリアという言葉になっている…ということを覚えておいても損がないかもしれません(得もないかもしれませんが)。

まぁ結局ミトはイトを意味していたというのが驚愕の奇跡ですが(なお、英語だとマイトと発音されます)、それはともかく、こいつは模式図ではこんな感じでラグビーボール型と呼ばれる感じで描かれることが多いわけですけど……

f:id:hit-us_con-cats:20211125063701p:plain

https://ja.wikipedia.org/wiki/ミトコンドリアより

(英語版の方がより詳しく描かれてますね)

f:id:hit-us_con-cats:20211125063734p:plain

https://en.wikipedia.org/wiki/Mitochondrionより

現実的には、これも分裂や融合を繰り返して様々な形態で存在し得るブツなので、必ずしも楕円形とは限らない感じですね。

同じくWikipediaにあった電顕写真なんかは、割と真ん丸な感じです。

f:id:hit-us_con-cats:20211125063820p:plain

https://ja.wikipedia.org/wiki/ミトコンドリアより

こいつは何をしてるのかというと、ズバリ、呼吸

まぁ呼吸というと空気を吸って吐いてするイメージかもしれませんけど、分子レベルでは呼吸というのはむしろ電子と酸素分子とを使ってATPを合成する反応のことで、ATPは何度か話に出てきたこともありましたがヌクレオチドA塩基にリン酸が3つつながったもので、生体反応でエネルギーが必要なほとんど全ての反応でエネルギー源として用いられる(ATP内のリン酸結合を切ると大きなエネルギーが得られるので、それを使って酵素反応や運動を進める)ものですから、要約すると、ミトコンドリアは細胞の発電所(エネルギー工場)」だといえる感じですね。

(英語版Wikipediaではしきりに「the "powerhouse of the cell"のニックネームでおなじみ…」という記述がありましたが、まぁ英語圏ではきっとこのフレーズは有名なのでしょう。)

なので、エネルギーを必要とする細胞ほどミトコンドリアは多量に存在しており、Wikipediaによると…

ヒトにおいては、肝臓、腎臓、筋肉、脳などの代謝の活発な細胞には特に多くのミトコンドリアが存在し、細胞質の約40パーセントを占めている。全身の平均では、1細胞中に300個から400個のミトコンドリアが存在し、全身で体重の約1割を占めていると概算されている。

…とのことで、何気に総量としては核よりもっと重要な、細胞における最重要具材だといえるのかもしれませんね(何せ、こいつがいなかったらめちゃくちゃ効率悪いエネルギー生産しかできないので、もしミトコンドリアがこの世(体内)から消滅したら、まぁ単純計算で、普段の10倍の食べ物を食べても到底同じ量のエネルギーは作れないので、食糧生産が追いつかず……というか生物として元気に活動できるだけのエネルギーを得ることが(人間のみならず、どんな多細胞生物でも)無理で、全員寝たきり状態になり、人類の天下は終わることでしょう(沢山のエネルギーがなくても生きていける、細菌とかしか生きられない世の中に逆進化)。

我々が元気に走り回ったり脳を駆使して物事を考えたりできるのは、ひとえにミトコンドリアのおかげといえるわけですね。


一方葉緑体、これは説明不要でしょう。

f:id:hit-us_con-cats:20211126061543p:plain

https://ja.wikipedia.org/wiki/葉緑体より

植物だけがもつ、「水と光から、酸素とエネルギー(の塊である糖)を合成できる!」という、偉大なる細胞小器官がこいつですね。


今回この2つを同時に取り上げたのは他でもありません、こいつらにはある大きな特徴があるのです。

図からすぐ分かる点でいえば、これらは両方とも二重膜になっているということが挙げられますね。

さらに非常に面白いというか特徴的な点もありまして、こいつらは、核でもないのに内部に独自のDNAやリボソーム保有しているのです!

もちろん核内にある、30億塩基のヒトゲノム全部があるというわけではなく、別個のミトコンドリアゲノム的なものになるわけですが、こやつらは独自のDNAやtRNAやリボソームを有しているため、半自律的に細胞内で増殖・分裂なんかが行われます。

以前の記事(幸運をもたらす三つ葉のクローバー、tRNA!)で、tRNAの構造を初めて紹介したときに鈴木勉さんの論文に掲載されたtRNA図を貼っていたんですけど、(ややこしいので触れませんでしたけど)あれは実はヒトのミトコンドリアtRNA (mt-tRNA)だったのでした。

(核で作られるtRNAとは、少し配列も異なる。)

いずれにせよ、ミトコンドリア葉緑体は、生意気にも独自のDNAをもってちょっと独立して活動している、一目おくべきオルガネラといえましょう。


二重膜、独自のDNA…果たしてこれらが意味するものは何なのか…?

これに目をつけて、非常に面白い説を打ち立てたのがLynn Margulisさんで(もっとも、似たような仮設は以前からうたわれていたものの、系統立てて発展させたのがマーギュリスさんですね)、それこそが、細胞内共生説

f:id:hit-us_con-cats:20211125064319p:plain

Wikipediaより、リンさんは既に10年前にお亡くなりになられていたんですね

共生説で何が主張されているかといいますと、ズバリ、ミトコンドリア葉緑体は、それぞれ「酸素を使ってエネルギーを生み出すことに成功した細菌」や「光からエネルギーを産生することに成功した細菌」が、別の細胞(取り込んだ後に一緒くたにならないように、恐らく核膜は既に形成されていたのであろうと予想される=真核細胞)に取り込まれて、その結果いつの間にか両者が仲良く共存して、一つの細胞・一つの生物として生きるようになったのではないか?…というものですね。


その根拠はもう明らかでしょう、まず、ミトコンドリア葉緑体も二重膜ですが、これは恐らく、細菌が別の真核細胞に取り込まれる際、当然、膜に陥入して入り込んだと思われるわけですけど、最後取り込んだ側の生物の膜が、その細菌を包み込むようにして形成されたのではなかろうか、ということ…

(後で貼る予定のWikipediaの画像ではその辺が分かりにくかったので、それが分かりやすく描かれていた画像をドイツの製薬バイオ企業・BIOPRO BWの解説記事から抜粋しましょう。)

f:id:hit-us_con-cats:20211125064543p:plain

https://www.biooekonomie-bw.de/en/articles/news/symbiogenesis-of-mitochondria-and-plastidsより

…そして、これこそがまさにですが、ミトコンドリア葉緑体も独自のDNAをもっていること、それすなわち、他の生命体が細胞内に取り込まれて共生した証拠に違いない、という、非常に説得力がある証拠が残されている、ってわけですね。

この説は高校生物でも習うわけですが、僕も習ったときは「おぉ、面白いじゃん」と思えた記憶があります。

Wikipediaの英語版のみにしか画像はありませんでしたが、大まかなまとめはこんな感じですね。

f:id:hit-us_con-cats:20211125064717p:plain

https://en.wikipedia.org/wiki/Symbiogenesisより

そもそも核も二重膜じゃん、って話ですけど、核はまぁ生物の本体ですし、これは恐らく、DNAをもっとしっかり保護するために、(原核生物のもつ)自分の膜が陥入して形成されたのであろう(これが、真核生物の始まり)、ということが1番と2番で描かれており、続く3番で、エアロビック(=酸素を使う)細菌が真核細胞に取り込まれて、上手いこと共生した結果これが「ミトコンドリアをもつ細胞=動物の先祖」となったのであろうこと、そして最後さらに、真核生物の中にはシアノバクテリア(ラン藻)と呼ばれる、光合成を行える細菌を取り込んだものもいて、こちらが「葉緑体をもつ細胞=植物の先祖」となったのであろう…と、実に納得できる仮説といえましょう。


なお、同じ記事の下の方にあった葉緑体(英語でクロロプラスト)とシアノバクテリアの比較画像を見てみると…

f:id:hit-us_con-cats:20211125064830p:plain

https://en.wikipedia.org/wiki/Symbiogenesisより

実は何気にシアノバクテリアも二重膜らしいんですけど、これはまぁ別に共生時に必ず膜が残るわけでもないですし、進化の過程で三層目は失われたのではないでしょうか……と思ったら、細胞内共生説のWikiページに『藻類の葉緑体は、高等植物のものと比べて、複雑な形のものが多く、それらの中には、二重膜ではなく、三重、四重の膜に包まれたものもある』と記述されていた通り、やはりものによってはさらに複数の膜をもつものもあるってことですね。

もちろん考古学の一種であり、人類は過去に戻れませんから、あくまでこれも一つの仮説にすぎないとはいえるものの、様々な証拠を総合すると、この説は多分正しく進化の歴史を表しているんじゃないかな、と個人的には思えます。


ということで、これは中々に面白い話ではないかと思うので、今回触れてみた感じでした。

ミトコンドリアのWikipedia記事の最後にありましたが、『パラサイト・イヴ』という作品が昔ヒットしたのは僕も覚えてますけど、この作品は、この辺のミトコンドリアの進化に関わる小説だったんですね。

僕は原作小説も関連ゲームも全く未体験ですが、結構面白そうです。

作者の瀬名秀明さんは、薬学研究科の博士号ももっている研究者の方だったんですねぇ。生命・生物のロマンを作品として世に還元するのも、研究者の素晴らしい仕事といえるように思います。

僕もいつか機会があったら、何か非専門家の方でも楽しめる面白い形で、社会に自分の学んだ知識を還元してみたいものです…!


とりあえず話を戻すと、オルガネラはそんなもんでいいかな、って感じですかね。

あとはまぁザコ…というと言い方が悪いというか、もちろんどれも大切な役割をもつ重要物質なんですけど、入門編ではまぁ触れなくてもいいかな、って気もしてしまいます。

その他大勢として、簡単に触れて終わりで良さそうですね。

また順番に、途中状態になっていたご質問などに戻っていこうかなと思います。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村