前回の記事では唐突に、「な~んかこういう体験型実習って、あんま意味なくないっすかぁ?」的なことをグダグダと語っていました。
「いやそんなこといきなり俺らに言われましても……企画者じゃないを通り越して、参加したことすらないんですが……」
…って話の極みで、他にも「こういう点、『何でそうなるの?』って気になりますよね?!」みたく、さも誰しもが疑問に感じて苛立つかのような口ぶりで勝手に憤っていたものの、これも正直「いや、全く気になりませんが(笑)」って話だったかもしれません(笑)。
まぁ全体的に独りよがりな話になってしまっていたなぁ、と、書き終えてから反省していたのですが、とはいえ記事タイトルに据えていた「失敗させてよ」という点については、これは件の体験型実習に限らず、人生のあらゆることにおいて本当に重要なポイントではないかと個人的には思えます。
これは僕が学生の頃、所属研究室を選ぶための冊子の中の、教授陣が学生に一言コメントを送るページだかで見た中で記憶に残っているものなんですけど、
「成功は膨大な失敗から生まれる。身を粉にして実験すること」
…という偉い先生の言葉があり、これは個人的に結構「いいね」と思いました。
よく、「失敗を許容しない組織からは絶対に何も生まれない」…どころか、「必ず崩壊する」とまで言われることすらある気がしますけれども、もちろん、医療とか航空とか、「失敗が命の喪失につながるので、ミスは認められない」こともあることはあると思うんですけど、そういう他人の命がかかっている現場でなければ、むしろ「失敗こそがすべて」まである気がするんですよね。
…いやこれも、決まりきったルーティンワークの作業とかで「失敗が大事!」とか言ってミスしまくって開き直るのも狂ってますし(笑)、「何か新しいものを産み出すとき」に限られるのかもしれませんが、「失敗からの方が、得られるものが大きい」…これは本当に真理だと思えますねぇ。
これまた個人的に好きな言葉の紹介なのですが、名作『宇宙兄弟』という漫画で、パラシュート付きロケット作りのコンペみたいなものに参加している主人公が、仲間に向かって、
「ちょっと待った、この計画だと予算的に失敗ができない。失敗すること前提で、もう少し余裕をもって計画を立てた方がいいと思うよ」
「やけに消極的だな、成功させれば問題ないし、そんな予算を中途半端に分けたら、質が低くなってしまわないか?」
「モノづくりには、失敗することにかける金と労力が必要なんだよ。
いい素材を使ったモノがいいモノとは限らない……
…だけど、失敗を乗り越えて作ったモノなら、それはいいモノだ―」
…というやり取りをする場面があるのですが、僕はこの考え方が大変好きで、まだ若かりし学生の頃に読んだときは、「ん~やっぱりムッちゃんはカッコいいぜ!」などと甚く感銘を受けたものです。
(詳しいやり取りを引用している記事はないかと検索してみましたが、漫画ではなくアニメからでしたけど、こちらのアメブロ記事で扱ってくれている方がいらっしゃいました、参考までにリンクを貼らせていただきましょう(↓))
あと、この場面の後日譚として、↑の紹介記事にいるアドバイザー的な天才設計者がこのシーンを振り返る場面があり、そこでも、
「本気でやった場合に限るよ。本気の失敗には価値がある」
…という大変含蓄に富んだ台詞が使われていまして、世の中的にはこちらのムッちゃんの台詞の方が有名かもしれませんが、僕はやっぱり仲間を説得する(そしてやる気のなかったアドバイザーの心に火をつける)先ほどのシーンの方がより好きかもしれません。
(こちらの台詞は、大手のリクナビなんかでも記事にされていましたね(↓))
宇宙兄弟も、この辺までは本当に毎巻楽しみで仕方なかったのですが、最近はちょっとあまり追えておらず……って話は、そういえばこないだ「宇宙空間で結晶構造解析を行う」という記事で触れたことがありましたね、好きな作品を悪く言うのもアレですし、やめておきましょう(笑)。
(いや本当に、ちょっと話の進みが遅くなった気がするだけで、時間ができたらまとめて読みたいぐらい、今でも凡百の作品より圧倒的に面白いままではありますけどね…!)
例によって時間不足・ネタ不足につき、とりとめもない前置きをツラツラと書き連ねてしまいましたが、本題の方に戻ってまいりましょう。
DNA抽出実験として、ブロッコリー・バナナ・自分の細胞の3つを材料に用いた方法の解説記事を紹介していたわけですが、若干の差異はあれど、まず最初は「DNA抽出液」として、「塩水に洗剤を垂らした溶液」を用意する所から始まっていた感じでした。
啓林館の、高校生向け実験紹介記事(↓)の方では…
筆者は④の酵素反応を進めている間や,⑥の卓上遠心分離機を使っている間に「食塩水を用いた理由は?」「洗剤の役目は?」などそれぞれの手順の意味について,隣や前後の生徒どうしでグループを作らせて考えてもらうようにしています。
…とありましたけど、結局、そういう「全てのステップの、全てのポイントの意味を考えること」がやるからにはとても大切なことであり、大体の体験型実習はそこがおざなりになっていて「ただ言われた通りに脳死でやるだけ」になっている気がして、個人的には「うーん…」と思えるポイントでもある…なんてことを前回書いていたわけですけど、まぁ少人数で丁寧な実習なら、こうして担当の先生が議題に挙げて考える時間も与えられるのかもしれませんね。
(ただこの手のやつ、特に学校の授業だと、レポート課題として与えられて、自分なりの考えをまとめてレポートで報告をすることはあっても、大学だとレポートが返ってこない講義もかなりありますし、結局答が分からないまま……ってこともあったような気がします…)
今回はまず、より分かりやすい洗剤の役目から考えていきますと、洗剤というのはズバリ「界面活性剤」のことであり、これがどういう作用を持つものなのかを考えれば自ずと答えが浮かんでくるものです……
…そう、こいつは「水と相性よし」の部分と「油と相性よし」の部分が共存しており、水中に溶かすことで、油をキャッチして「ミセル」という油滴を形成して取り除くなど、油の構造を破壊することのできるものなのでした。
(だから、油汚れを落とすために洗剤が使われるんですね。ちょうど、こないだの洗剤について触れていた記事で、その辺のこともちょこまか書いていました(↓))
…まぁ、それが分かっても、あと「今使ってる材料はどういうものなのか?」という点も知識として必要なので、答が自動的に浮かんでくるって訳ではなかったかもしれませんが……
とりあえず「この実験では何をしたいのか」を考えてみますと、「細胞からDNAを抽出したい」ということで、DNAはどこに収まっているかというと、細胞の中の「核」という構造なのでした。
核の話はしたことあったっけ……と検索してみたら、一応かなり昔の、この辺の記事(↓)から何回かにわたり触れたことはあったみたいですが……
…分子レベルの構造の話を一緒にまではしていなかったようなので、それがハッキリ示されている画像を学習サイトからお借りしてきましょう……
…と、どうも日本語記事には例の「頭に足2本」の構造を併記してくれたものが見つからなかったので、英語の学習サイト・Study.comで公開されていた動画からのスクショになりますが……
…核というのは膜に囲まれており、核膜ってのも例によって、脂質からできているものになってるんですね。
(Phospholipidとあるように「リン脂質」ってやつです。呼吸で重要だった「リン」は、膜形成でも極めて重要な役割を果たしているので、意外とマイナーな元素P(リン)ですが、生体においては最重要レベルまであるかもしれません。)
で、細胞をすり潰して水に溶かしてやっても、すり鉢とかで人間が加えられるような物理的なダメージではミクロな膜は中々破壊できず、実は核の中に収まったDNAというのは、思うように水中に出てきてくれないんですね。
そんなわけで、この実験では、膜に守られたDNA(核のみならず、細胞自身の膜である細胞膜も、同じくリン脂質でできています)を取り出したいというのが大きな目的ですから、それを可能にするのがズバリ、油分からできている膜構造を破壊する界面活性剤だったと、そういう意図で使われるのが洗剤だったんですねぇ~。
ということで、こんな長々と語るほどの話でもない(そこまで気になる人も多分いない)感じだったかもしれないものの、今回は「なぜDNAを取り出すのに洗剤を使うのか?」という点を見てみました。
続いては「塩」について見ていこうかなと思いますが、これは案外難しい話である気がするものの、なるべく簡単に触れてみようかなと思います。