補足:1つのミスで病気にぃ…?

畏れ多くもヒトとマウスやらバナナやらの遺伝子とを比較して、「ま、似てるっちゃ似てるかもね。似てないっちゃ似てないかもしれないけど」とかいう結局どっちつかずな話をここ何度かの記事でしていましたが、そんな感じで、決まりきった答がない・どう捉えるかは君の自由だ…!というのが生命科学の良い点であり、また悪い点といえるかもしれません(結局そこもぼんやりとした感じ)。

基本的にまだ分からないことも多いのがこの分野なわけですが、とはいえ分かっていることもここ半世紀ぐらいで急速に増えていることも事実なので、偉い人たちの手によって既に明らかになった知見を少しずつ自分なりに理解していくことで何となく雰囲気がつかめてくる(何が分かっていないかが分かってくる)ともいえますし、途中状態になっていたご質問の続き(この記事から)を進めていくといたしましょう。

(もうご質問をいただいてから大分間が空いたこともあり、関連した話の補足もいくつか触れていたので今更な話もあるかもしれませんが、まぁ復習も兼ねて、順に触れさせていただこうと思います。)

サラっと出てきてたtRNAの修飾も、同じアンチコドンなら(同じタンパク質を運ぶものなら、かなぁ?)76塩基全て同じ修飾?

イメージでは、1つの細胞の中に76塩基ほどのクローバー型のtRNAがうじゃうじゃいるって思ってた感じなんだけど(アニメでひたすら飛んできてたから)、その中の1塩基を修飾する酵素に不具合があっただけで病気になったりするっていうのが、なんか不思議な感じがしてまうのぅ。

DNAとは違って、なんとなくうじゃうじゃいて、代わりもいて、RNAは分解されてなくなったりもするのに…?

それがアンチコドンの不具合でタンパク質を持ってこれなくて作れないとかでもないのに…あー、ちょっと(かなり?)妄想入っとるかもしれんけど笑


『アンチコドンが同じなら、他の部分も全部同じ配列の同じtRNAになるの?』というご質問に続く話でしたが、修飾に関しては、同じアンチコドンというか、同じ分子なら当然、同じように修飾が入ります。

まぁ100%全塩基に確実に入ってるかというと、これも結局あくまでタンパク質とtRNAの物理的接触に依存した酵素反応でしかない(=念力とか神の力みたいなもので、酵素の周りの分子全てが自動的に修飾される、みたいなわけではない)ので、もしかしたら修飾漏れしてる塩基や分子もあるかもしれませんが、そういうのは少数だと思いますし、仮にいても、恐らく重要な修飾が入らなかった分子は上手く機能できず、あまり何もできないまま、その内分解されていく運命でしょう。


もちろん、修飾によっては「条件付きで修飾される」パターンもあるので、必ずしも全修飾が常に入っているのが基本線というわけではないともいえますが…

(例:細胞がストレスを感じると色々なストレス応答が引き起こされるのですが、その一環として、tRNAに新しい修飾が誘導されることなんかも知られています。
 例えばこの論文(↓)では、酵母が酸化ストレスに曝されると、tRNA-Leu(CAA)において、34番と48番のC(シトシン)が5-メチルCに修飾されることが発見されたようですが…

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

f:id:hit-us_con-cats:20211116060810p:plain

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3535174/より

…特に34番はアンチコドンですから、これは翻訳反応(タンパク質合成)に大きな影響を与えるもので、実際、この修飾が入ることでタンパク質の合成スピードがアップして、様々な酸化ストレスに対抗する酵素なんかを迅速に作り出すことにつながり、過酷な酸化ストレスに抗う形ができあがっている、とのことです。
 酸化ストレス状況下でも生き抜くために、細胞は涙ぐましい努力をしている……というか、これも改めて、よくそんな都合いいシステムができとるな…細胞、スゴすぎん?…と思える、むしろ作り話のような都合良さすら感じてしまう点かもしれませんね。)


…と、余談が長くなりましたが、あくまでそういう特定条件で引き起こされる修飾は特殊なパターンで、tRNAのよく知られている修飾、例えば以前見ていた修飾マップ(脱線その2、我らがKODAKARA!修飾も大事など)で表示されているようなやつらなんかは、常時どんな場合でも、しかも極めて高効率で修飾が入っているのが基本だと思われます。

でも改めて、何百万ある分子の全塩基を一つ残らず確実に修飾するなど不可能ですから、ごく一部は修飾漏れもあるでしょうけれども、基本的に大多数は、修飾されるべき所は修飾されている形になっているでしょう、と、そういう感じですね。


しかし、「全tRNA分子の全塩基が完全に修飾されているわけではない」と聞くと、そんなんで大丈夫なの?修飾されないと、病気になることすらあるんじゃなかったの…?と思える気もするわけですけど、これは結局、割合の問題といえましょう。

例えば細胞内に300万分子がある中で、大多数が100の仕事量をこなせる完全修飾分子である所、一部の塩基が修飾されていなくて例えば70の仕事量しかこなせない非完全なtRNA分子がごく少数、例えば数十とか数百とかいたとしても、全体の仕事量としては特に大きな問題はないわけです。

しかし、修飾する酵素そのものが壊れており、特定の塩基に一切修飾が入らず、全てのtRNAが最大でも70とか60とかの仕事量しかこなせない状況を考えたら、これは影響が甚大で、場合によっては病気にもなるかもな、というイメージにはなるように思えます。
(重要な修飾だったら、それが入らないだけで、仕事量が10になったりするパターンもあるかもしれませんしね。
 繰り返しですが、ごく少数そういう重要な塩基への修飾漏れがあっても、別にホンのわずかな分子でしか漏れがないなら、全体としては特に問題がないわけです。)


そもそも修飾の有無自体も、「修飾されなかったら、その時点でもうそのtRNAは死ぬ」というわけではなく、「正しく修飾が入っているtRNAの方が、修飾なしタイプよりちょっとアミノ酸を運びやすくなる」という感じで、その積み重ねで最大効率のtRNA最終形態・完全体が出来上がっている、という考えをした方がより現実に即しているともいえるように思います。

結局、何事も0か1か極端な形ではなく、ある程度の幅があるといいますか、改めて割合というか全体をバランスよく考える必要がある、といえる感じかもしれませんね。

(もちろんそれはイメージであって、(つい先ほども似たようなことを書きましたが)本当に重要な部分、例えばアンチコドンの塩基が1つおかしくなるとかだったら、それ一発でtRNAが完全に死んだも同然、というパターンも間違いなく存在します。
 塩基の重要さ・修飾の重要さも0か1ではなく、段階的に色々なものがある、ってことですね。)

その「修飾の不備」について、以前いただいていた&今回の疑問最後の「アンチコドン以外も大切なの?アンチコドンに不具合がないのに、1塩基の修飾がダメなだけでアミノ酸が運べなくなって病気になるとか、ニワカには信じがたいが…」という点にも関するポイントですが、まぁ色々原因というか影響はあると思いますけど、アンチコドンに不具合はなくても、例えばアミノアシルtRNA合成酵素(=tRNAにアミノ酸をつなげる酵素)が上手くtRNAとくっつけなくなるとか、あるいは運ばれたアミノ酸を伸びてるタンパク質鎖に渡すための酵素がくっつけなくなるとか(どちらも、酵素(タンパク質)がtRNAを認識しづらくなるというか、くっつきづらくなる、つまり物理的な接触が妨げられるから、というのがその理由といえますから、塩基の修飾という分子表面の性質を変えるものがそういう接触効率に影響を与えそうだというのは、納得できる話になっているのではないかと思えます)で、結果、アンチコドン部以外の不具合のせいでうまくアミノ酸を運べなくなる(というより改めて、0か1かではないので、より正確には「運ぶ効率が落ちる」)可能性は大いにあるので、それが積もり積もって病気になるというのは全然あり得る話でしょう、って感じですね。

改めて全体の流れが重要といいますか、tRNAはコドンを認識する以外にも、まずアミノ酸を正しく受け取る・そしてそれを伸長中のタンパク質鎖に正しく渡すなどといった様々なステップおよび相互作用する相手が関わっているものだという視点を忘れないようにするのが大切だといえるかもしれません。

総合すると、tRNAは短いのに有能な分子だけあって、完全体じゃないと満足に働けないので、上手く修飾が入らず完全体になりきれていないものばかりだと良くない、ってことですね。

(そして繰り返しですが、言ってることが真逆ですけど、別に完全体じゃないと一切働けなくなるというわけではないので、多少修飾がされていない塩基があったり、集団全体にそういう分子が多少混ざっていたりしても、それで即何もかもがダメになるというわけではない、というのも重要ですね。)


…と、何か全然進まないというか、細かい点をグダグダとしょうもない内容になってしまった感じで予想以上に話が進みませんでしたが、まだ面白いご質問は残っているので、1つずつ順番に触れていくとしましょう。

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