tRNAに関するご質問、まだまだ面白い着眼点のナイスQが目白押しなので、続けて参りましょう。
めっちゃどうでもいい話かもしらんけど、あのtRNAのごちゃっとした修飾マップ(こちらの記事の、Phizicky研究室から抜粋した図)、「34番塩基」って左から数えて34番目じゃない……いや何度数えても34番目になってなくない?
最初の1つ目は数えないとしても(適当←ありがちだから)、あ、もしや途中の白いやつも数えてない感じなんか?
なるほど、何か理由があるってことなら、それでえぇんだけどさ笑
34番とか37番とか言い切ってるのに、これも実は決まってなくてそう呼んでるだけだよ、とかだったら、ちょっと私は暴れようかなと思って笑
これまた素晴らしいポイントのご質問ですねぇ。
こないだの画像は「tRNA modification」とかでイメージ検索したらヒットしてきたものを使って、あの画像は大分解像度が小さかったものの一番ごちゃっと「大量に修飾されてます!」ってのが見て取れる感じだったのでそのまま使っていたんですけど、調べたらオリジナル論文に、より高解像度版の画像が普通に存在したので、同じPhizickyさんによる下記レビュー論文から、こないだと全く同じ画像ですが高解像度のやつを改めて拝借しましょう。
(今度はむしろデカすぎるかもしれませんが(笑))
論文の図の説明文をそのままコピペしましたが、このレジェンド(図の下に付けられる説明文のことを、Fiigure legendと呼びます)に、疑問点は全て説明され尽くしているのでした。
簡単に必要な部分を日本語に起こしておきましょう。
(緑の丸)全ての酵母tRNAで修飾されていない塩基;(ピンク丸)一部、または全てのtRNAで修飾されている塩基;(白丸)いくつかの(ただし全てではない)tRNAに見られる追加塩基(20aと20b番)で、こいつらは修飾されていることもある;(水色丸)CCA末端。
図の分子はポジション-1(マイナス1)番から始まり、次の塩基(+1番)から76番(20aと20bの2塩基の挿入も含む)まで連続して番号が振られている。tRNAの中には44番塩基から始まる可変アームがより長いものもあり、Dループや可変アームの塩基数が異なるものも存在する。しかし、アンチコドンは常に34, 35, 36番塩基と呼び、CCA末端は74, 75, 76番と呼ぶことになっている。
…ということで、多少長い短いがあっても、アンチコドンは必ず34, 35, 36番と呼ぶように決まっているというのがtRNA界隈におけるローカルルールだったのです。
そのため、白い丸の塩基なんかは、20a、20bなどと呼ばれて調整されることがある(最初も、「-1番」から始まることがある)など、結局やはりtRNAで一番偉いのはアンチコドンということで、アンチコドンを中心にtRNA世界は動いている、という話でした。
まさに初学者からしたら「ざっけんなよ、何でや(笑)」って感じかもしれず、わざわざ数えてチェックされたアンさんなんかは今頃金属バットで壁ボコボコ・障子バリバリ・窓ガラスガチャーンとかされていないか大変心配ですが(笑)、これはよく考えたら、「番号は頭から順番につける」という世の中の常識に真っ向挑戦するとんでもないやり方になってるともいえますし、もしかしたら出るところ出たら勝てるかもしれませんね(笑)。
「tRNAの番号がイミフすぎるせいで壁に穴があいた。訴訟」と、RNA学会でも相手取って法廷に立てば、もしかしたら障子の紙代ぐらいは実費で返ってくるかもしれません。まぁ僕は協力できませんが(笑)、ひょっとしたら「この悲劇を繰り返さないために、今後は頭から順番に1番と呼ぶことにしよう」と、この狂った伝統を変えられるチャンス&ガラスを割って分子生物学の歴史を変えた男(女)として、歴史に名が残る可能性も、もしやしたらあるかもやしれないですね(…もちろん冗談です。そんな可能性はないので、壁パンはしないことをオススメします(笑))。
あとそれから、緑の丸は修飾が見つかっていない塩基ということで、一見ごちゃっとはしていましたが、意外に修飾されてないものもある感じといえるかもしれませんね。
でもまぁやはり、半数近くの塩基には修飾が見つかっているということで、最も修飾されているRNA分子なだけあるといえるように思います。
と、番号の謎だけではアレなので、もうちょいご質問を進めておくとしましょう。
合成直後のtRNAはアミノ酸がくっついてないし、mRNAのコドンに対応するアミノ酸を届けた直後もアミノ酸は離れてなくなっている、そして、そのフリーのtRNAは、またアミノアシルなんちゃらによってアミノ酸がくっつけられて、何度も繰り返し働く、っていうことでOKよね?ここはちょっと理解できたっていうか、イメージできた気がすんね。
この、tRNAとアミノアシルtRNA合成酵素の構造解析図(リボンのぐっちゃぐちゃのやつ)は、両者は(この場合の両者は、「tRNA」と「アミノアシルtRNA合成酵素」の意味)くっついてるように見えて、実はくっついていないってことなんかな?
tRNAの一番お尻のA塩基はアミノ酸がくっつくはずだし、、アミノアシルなんちゃらは、ただ覆ってる感じで周りを固めてるだけで、アンチコドンを認識してそれに合ったアミノ酸を持ってきて(いや、この時点では既に持ってる??)、お尻のAにくっつけるってこと…なんかえ??
最初の段落で書かれている点はまさにその通りです。
もちろんtRNAは永久に働けるわけではなくその内分解されますが、分解されるまでは繰り返しアミノ酸がチャージされて働き続ける感じですね。
後半の点は……「くっつく」というのが有機化学構造式でのC-Cみたいな結合を意味するなら、くっついていません=結合しているわけではありません、といえますね。
ただ、至近距離でぴったりとくっついている(触れ合っている)のは間違いないので、まぁ専門用語っぽい言い方をすると、「相互作用をしている」という感じでしょうか。
物理的にピッタリ寄り添い合うことで、アミノ酸をつなげる反応を可能にしている(「反応の場を提供している」という方がより上手く状況を表しているかもしれません)ということですね。
いい図はないか検索したら、SPring-8という兵庫県にある大規模放射光研究施設がまとめている研究紹介記事に良さ気なのがあったので、こちらを引用させていただきましょう。
もう何度目の登場かの横山研の研究で、当時東大理学系研究科の大学院生だったと思われる小林さんの仕事だと思いますが、研究の本筋とはあまり関係ないものの、描かれていた概念図がちょうど分かりやすい感じですね。
左上にあるように、アミノアシルtRNA合成酵素はちょうどtRNAがすっぽり収まる(抱きかかえるような)形になっている、かつ、アミノ酸を収納するポケットまであって、ちょう~どぴったりtRNAのCCA末端がそこに位置するようになっており、ここで上手いことアミノ酸の受け渡し反応が行われている、ってことですね。
(なお、この小林さんの研究では、図左下で描かれているように、そのアミノ酸ポケットを改造し、非天然アミノ酸(20種類のアミノ酸ではないアミノ酸)がすっぽり収まるようにしてやることで、人工tRNAを用いてそういった非天然アミノ酸を含んだタンパク質(アロプロテイン)を作ろう!ということを目的とした面白い研究ですね。
ここで報告されている実験ではそこまでは進んでおらず、酵素の結晶構造をSPring-8を用いてX線解析した、という話のようですが。)
あぁ、ちょうど最後の段落で、アンさん自身が「くっついてるんじゃなくて、ただ覆ってるだけなんかな?」と書かれていましたが、まさに覆ってるだけのようなもんと考えてOKでしょう。
まぁ「ただ覆ってるだけ」といっても、強い結合ではないもののRNAヌクレオチドとタンパク質アミノ酸とが相互作用でそれなりにピッタリとくっついているとはいえるので、「ただそばにいるだけ」と「分子を形成するぐらいに強く結合している」のちょうど中間ぐらいかと思いますが、概ね「覆ってる感じ」ぐらいのイメージで間違いないと思います。
まだご質問は残っているので、次回もまたいただいていたご質問続きをみていこうと思っています。