そんな!人間は半分以上バナナみたいなもんって、それマジ?!

ここ何回かでおもむろにtRNA遺伝子の生物間の比較なんかを見ていました。

正直細かすぎてしょうもないネタでしたが、一応結論としては、

「ヒトとマウスは、辛うじて完全一致してない例もあったけど、ほとんどのtRNA分子で全く同じ配列のものを使っている(違っても1%とか)」

「でもヒトと酵母だと、普通にBLAST検索したら『類似性なし』と出るぐらい離れている(より条件を緩めて確かめたら、82%程度の相同性)」

…という感じでした。


そんなわけで、「やっぱり酵母みたいな単細胞野郎とヒトは違うんだね、めでたしめでたし」と勝手に勝利宣言を下していましたが、よく考えたら80%超って、地味に高い…高くない…??

そもそも4種類の文字列の並びだし、どの程度なら「似ている」「ランダムばらばら」といえるんだろう?…と気になったので検索してみた所、その点についての話ではなかったものの、とても面白い記事に当たったので、まずはそちらから紹介してみましょう。

www.businessinsider.com
まぁこれも関連して触れようと思っていた話で、そもそも人間は十人十色、見た目や声や性格やその他諸々で、確実に自分や他の人、他人同士の区別がつくわけですけど、実は、遺伝子DNAのレベルでは99.9%類似、あなたも私もほとんど違いなんかない、Homo Sapiensという同じ種の生物なんです、って話はどなたでも聞いたことある話ではないかと思います。

そう聞くと「マジで?0.1%しか違わないの…?!」と思えますが、でもまぁ人間には30億塩基ほどの情報があるわけで、0.1%違うだけでも300万文字は違うってことですから、「いやまぁ300万違うっていわれれば、まま、結構違うような気もせんでもないか…」と思えるともいえるかもしれませんね。

その300万文字の違いで、例えば分かりやすい例でいうと血液型が違ったり、お酒の強さが違ったり、肌の色、髪の色・質、耳垢の質…などなど、沢山の違いが生まれ、僕らはみんな違うんだ、みんな違ってみんないい……って話に繋がるわけです。


まぁそれはともかく、この記事で面白かったのが、一番最後、

『バナナでさえ、驚くべきことに、人間と60%も同じDNAをシェアしているのです!』

という衝撃の事実が…!!

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上記Business Insiderの記事より

(謎の男)『つまり、人間の半分以上はバナナみたいなもんだったんだよ!普段偉そうにしている嫌な上司も、不快な態度を取ってくる面倒な客も、あいつらみんなバナナなんだ!!
 そう思えば仕事も楽に思えるな!!ちなみに俺は、残り半分の、バナナじゃない、ちゃんとした方の人間だけどな!!!』

ΩΩΩ『ナ、ナンダッテー!!!』

(※半分というのはそういうことではない(笑))


…ま、「観客をカボチャと思え」じゃないですが、分子レベルでは人間の半分以上はバナナ(と同じDNA)で出来ているという現実を知れば、「何だ俺もお前もバナナだったのか、じゃあ何か失敗したり上手くいかないことがあってもしゃあねえわな」と思える、魔法のライフハック的事実といえるかもしれませんね。


ちなみに似たような話で、高校の生物で、教わったときにみんなが笑った面白いネタがあるんですけど、ある日の授業で、黒板に適当に丸い筒を描きながら先生が開口一番、

「人間はぶっちゃけチクワみたいなもんだからね。ただのこれ、丸い輪っかの、チクワ」

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https://ja.wikipedia.org/wiki/竹輪より

(生徒笑う)

「いや、冗談抜きに本当だって(笑)。冷静に考えたら、人間は、食べ物を口から入れて肛門から出す、ただのチクワっていえるんですよ」

と熱弁をふるわれましたが、確かに、冷静に考えたら実際そうか、我々はチクワだったんだ!……と、これまた僕の中で大いなるパラダイムシフトが引き起こされた瞬間でした。

まぁそれは大げさとしても、これは実際発生の単元の授業で、高校生物では生体の各部について外胚葉・中胚葉・内胚葉という区分を習うんですけど、その辺のイメージをもつ上でも素晴らしい掴みの授業でした。

(外胚葉は成体になったときに表面から触れる部分(皮膚とか目とか)、一方内胚葉は、表面には見えていないけど、チクワの内側の表面(いわば、口から手を突っ込んで、頑張れば触れる(笑)部分。胃や、腸の表面とかですね)、そして中胚葉は、手を突っ込んでも絶対に直接は触れない、いわばチクワの中身・肉の部分(心臓や筋肉など)…という感じです。)

 

…とまぁチクワはともかくバナナに戻ると、要は逆に、バナナでも60%同じなら、もうそれ適当な、例えばサルがワープロにめちゃくちゃに打った全く無関係な文字列同士を比較しても、4種類の文字だけ抜き出したら実はそれぐらいいくんじゃないの?って気もしてくるのが正直な所といえましょう。

そこで、まぁ適当に全く無関係としか思えない遺伝子を2つピックして類似性を分析したらどうなるか、ここはちょっくら自分で確かめてみたいですね。

1つ目は、まぁ毎度おなじみ、宇宙一甘いタンパク質ことソーマチンの遺伝子DNA(以前の記事で見ていましたが、配列はこちらなどから取得可能ですね)、2つ目は、懐かしのお酒分解酵素ALDH2なんかを採用してみるとしましょうか。

ヒトの遺伝子であれば、やはりNCBIの遺伝子データベースが、詳しい情報も載っているし一番良いので、ALDH2の配列はこちらからゲットするのが良さそうです。

www.ncbi.nlm.nih.gov
上記リンク先のデータは、ALDH2の遺伝子として、タンパク質を指定するORF以外にも調節領域も込みで表示されていますが、ちゃんと、タンパク質コード領域をハイライトすることも可能なので、開始コドンATGからストップコドンTAAまでをコピーしておきましょう。

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CDS(タンパク質をコードする領域;Coding DNA Sequence)をハイライト

 

今回は2つの遺伝子配列から一致塩基を図示するのみならず、相同性のパーセントなんかも見てみたいので、より機能が豊富そうな、最新版のアラインメントツール・CLUSTAL Omegaを使ってみるとしましょうか。

www.ebi.ac.uk
FASTA形式(単に、「>」マークで名前を1行入れるだけ)で、2つの遺伝子を入力ボックスに貼り付けて……

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CLUSTAL OMEGA入力ボックスに配列をFASTA形式で貼り付け

(例によって、数字や改行は完全に無視されるので、形はぐちゃぐちゃでも問題ありません)


いざ、アラインメント実行!


結果は…

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アラインメント結果、前半部

「*」が同じ塩基で、なるべく相同性が高くなるように、ギャップを挟んだりしてコンピューターが上手く両遺伝子を配置してくれてるわけですが、やっぱり、甘々タンパク質とお酒分解酵素という全く縁もゆかりもない両者なのに、結構、かな~りの数の一致塩基が目立つじゃあありませんか。

ちなみにソーマチンは708塩基、ALDH2は1554塩基と、サイズも倍以上違うので、特に途中からはギャップばかりの部分も目立つものの……

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アラインメント結果、終わりの部分


気になるこいつらの相同性は、結果のタブから見てみると…

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ソーマチンとヒトALDH2の相同性(%)

なんと、48.84%

結局、全く無関係に思える遺伝子でもおよそ半分は同じと出るということで、数字で感じる印象以上に、相当高い相同性じゃないと、実際に意味のある類似性とはいえないと考えて良さそうですね。

そもそも0.1%しか違わない人間同士でもこれだけ個人差があるわけで、60%なんてやっぱりほぼ違うといっても構わない、まさにヒトとバナナぐらいの大きな違いだといえる感じかな、と思います。


…と、また余談だけでいい分量になってしまいましたが、最後、また毎度温かいコメントを送っていただけるアンさんからもらっていた前回の記事の感想が、ちょうどちょっと関連していそうな話だったので、それに触れさせてもらって終わりにしましょう。

酵母の遺伝子は…違うくてなんかよかった笑

でも、最初見ていたtRNAのクローバー型のやつとか、アニメとかは、酵母のものだったよね?

具体的な塩基配列は違っても、仕組みとか働きとか、まぁよくわからないけどそーゆうのが、あのポコポコ(酵母のイメージ)と同じってゆうのも、ちょっとどーかなって気はするかも?笑

そう、「ヒトとバナナはやっぱ違うっしょ」といったものの、まさにこのコメントでアンさんが触れている通り、この「同じ仕組み」というのは生命科学の最大のポイントになるのです。

この記事(幸運をもたらす三つ葉のクローバー、tRNA!)で見ていたtRNAのクローバー構造は、一番最初の最初は酵母のやつでしたがその下ではヒトtRNAが同じ形を取っている図も貼っていましたし、この記事(翻訳をアニメで学んでみよう)や先ほどのリンク記事でも見ていた翻訳アニメは、別に酵母特有のものというわけではなく、全生物に共通するものになります。

酵母大腸菌もミジンコも、ミミズだってオケラだってアメンボだって、そしてもちろんヒトもバナナも、生きとし生けるこの地球上に存在する全ての生命体は、今現在分かっている限り、1匹の例外もなく、クローバー型のtRNAを使って、DNAからコピーされたmRNAを鋳型に、アミノ酸を運ぶことでタンパク質をポコポコ作ることで日々命を燃やして生活しています。

そう、用語はどうでもいいので今まで触れたことがありませんでしたが、この「DNA→RNA→タンパク質」という生体分子の流れを、提唱者のクリックさんはズバリ「セントラル・ドグマ」と名付け、恐らく全ての生物が同じ仕組みを使っているのであろうと考えたのです。

ドグマというと聞き慣れない言葉で、日本語の「教義」も正直よく分からん単語ですが、もちろんクリックさんがDNA二重らせん構造を発見・提唱した頃は「全生物が本当に同じ仕組みを使ってるかどうか」など誰にも分かりませんでしたから、絶対的な「ルール」や「法則」という感じではなく、宗教的な「ドグマ」という単語を選んだというのもクリックさんの科学者としての慎重さを表す例として好意的に受け止められている感じですけど、あれからもう60年以上経ってもこのドグマは例外のない絶対的なものとして君臨している、生命科学の最も中心的・根幹をなす一番重要な概念といえましょう。

この、唐突に始めて(ネタもないので)長々と続けている分子生物学入門編ですが、結局はこのセントラルドグマを知り、概ね中身が何となくぼんやりとでも理解したように思えてもらえれば、もうそれだけで100点満点の、最大のゴールにして最重要なポイントが実はこれだったのです、って話だといえそうですね。

全くDNAのディの字もご存じなかった方でも、もう、大分ご理解いただけたのではないかな、と思いますが、これを知ることで生活が豊かになるみたいなことは全くないものの、21世紀を生きる者として、教養として知っておいてもいい内容とはいえるんじゃないかな、とは思えます。


ってな所でまた余談に終わりましたが、次回は改めて、いただいていたご質問の続きを進めていきましょう。

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