脱線その2、我らがKODAKARA!

タンパク質の翻訳の話から、tRNA・アンチコドンの話になり、そこからストップコドンのニックネームの話を経てE.T.に脱線したりもしていましたが、tRNAの方に話を戻しましょう。

あぁでもその前に、「翻訳」ってのも正直「何その用語、外国語を訳すんじゃないんだからさ…」と一瞬思えるものの、これは英語でもそのままtranslationと呼ばれる反応ですし、よく考えたらRNAのコドン3文字をアミノ酸1文字に変換するステップなので、これは紛うことなきある言語を別の言語に変換する「翻訳」に違いないといえるかもしれませんね。

なお、僕はクセでよく「タンパク質の翻訳」と書いちゃいますが、まぁ伝わるし間違ってはないと思うんですけど(「タンパク質への翻訳」の方が正しいかもしれませんが)、意味的に、より正確には「RNAの翻訳」の方が正確ですかね。

「英語の翻訳」というと、「英語→日本語」ですから、「RNA→タンパク質」という流れを踏まえると、やはり「RNAの翻訳」の方が適切といえそうだ、みたいな話です(でもまぁその辺は雰囲気でいいでしょう)。


ちなみに「DNA→RNA」のステップは転写ですが、これも英語の用語直訳で、英語ではtranscriptionですね。

transcriptは「写し」のことで、細かいことですがこれは似た言葉であるmanuscript「原稿」とは全く違う、逆の意味の単語であり、「それを読むために紙に書かれた文字」がmanuscript、一方、TVやラジオで誰かが話したことをそのまま文字に起こした(「採録」的な)のがtranscriptなので、DNAの文字列をそのまま写した形になってるこのステップは、まさにDNAの転写・transcriptionといえましょう。

(これも、「RNAの転写」って書いちゃいがちですが(多分、今までの記事でも書いたことがあった気もしますが)、正しくは「DNAの転写」「RNAの転写」の方が意味的に正しい表現かもしれませんね。でもまぁ流石にその辺は伝わるのでどうでもいいでしょう、と自分に甘くいきたいと思います。)


また関係ない話でちょっと長くなりましたが、tRNAに関しての話に戻ると、こないだのtRNAの記事では最後、アンチコドンの塩基は一部、修飾が起こり、イノシンという塩基に変わる、なんてことを書いていました。

…と、これも脱線の本題に入る前に名前について別の脱線をしておくと、生命科学は、イノシンとかイヌリンとか、とにかく名前がややこしすぎる!!…ってのが本っ当に初学者泣かせの点としてありますよね。

まぁイヌリンは日本人的にあまりにもインパクトのある名前で、これは正直別に紛らわしくもないかもしれませんが、もっと重要な、アデニン・アラニン、グアニン・グリシンとか、今まであえて触れてませんでしたけど、最初の頃は油断したらごっちゃになるというか、間違いなくテストで間違えて書いちゃった人も大勢いるだろうな、と思えるクッソややこしい形になっていると思います。


両方既にそれなりに出てきたので説明不要かと思いますが、一応、アデニンがDNA・RNA塩基のA、一方アラニンがタンパク質を構成するアミノ酸のA、そしてDNA・RNA塩基のGがグアニンだし、これにリボースまで含めた形のヌクレオシドだとグアノシン、そしてアミノ酸のGがグリシン…という感じで、不慣れな内は発狂寸前のややこしさといえましょう。

ただこいつらはあまりにも重要で出て来まくるので、語呂合わせとかそういうのなしに、もはや当たり前すぎるものとして自然に覚わっちゃう言葉かもしれませんね。

万一ド忘れしたら……まぁ、ATPが「アデノシン三リン酸」というのが100%確定で覚えている超重要用語なので、「アデノシン」だから「アデニン」がDNA・RNAの方で、アラニンがアミノ酸か、と思い出せばいい感じですかね?(でもまぁそれが思い出せるぐらいなら、もうごっちゃになることもないのかな、って気もしますが…)
(同様に、グアノシンとグリシンもややこしいけど、これは4文字じゃないから逆に分かりやすいともいえて、むしろ先ほどのAと同じように、グアノシンに近い方がDNA=グアニンがヌクレオチド塩基の方だな、と自分の中で自信をもって導ける感じでしょう。
 まぁ特にグリシンは生化学実験でめっちゃ使うので、これはもうATP同様あまりになじみがありすぎて、ごっちゃになりようもないともいえますが…。)


…と、名前についての御託はともかく、tRNAに関して、アンチコドンの塩基の一部はイノシン修飾されているわけですが、イノシンのみならず「塩基がめちゃくちゃ修飾されている」というのがtRNAの大きな特徴で、まぁ(たった4種類しかない塩基による)あんな短い分子であれだけ特別な機能をもつためには、そういう後付けの特殊な装備品が必要だ、ということなのでしょう。

こちら、改めて登場の鈴木勉さんによるtRNAのレビュー記事からですが、ヒトのtRNAの、これまでに修飾が見つかっている塩基のマップですが…

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https://www.nature.com/articles/s41580-021-00342-0より

ほとんどの塩基が修飾されとるやんけ!…ってぐらいの、見事な修飾されっぷりですね。

ちなみにまだまだtRNAは奥深い分子で、検索していたら、ヒトtRNAではないですが、古細菌のtRNAで、わずか2年前にまた新しい修飾塩基が見つけられた、という報告が、岐阜大学のニュース記事で目につきました。

www.gifu-u.ac.jp
まぁこちらの横川さんらによる論文は「新しい修飾塩基を発見した」というより、その修飾を行う酵素を発見した、という意味合いが強いですけど(一応、反応の中間体として、新しい修飾も見つけられた感じです。その新しい塩基は、以前チラ見したことのあった質量分析・マススペックで確かめられたものですね)、アーケオシンと呼ばれる古細菌特有の修飾塩基に関するこの研究のように、令和となった今でも新しい知見が積み重なっているという感じなんですね。

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https://www.ehime-u.ac.jp/wp-content/uploads/2019/11/ef1e14f3ba2d59f69bdb726fd5c3c55e.pdfより

ちなみにそのアーケオシンというのは、古細菌の英語呼びarchaea(アーキア)からつけられた名前になるようですけど、古細菌アーキアとは…?

何気に耳慣れない感じですが、こいつは、「この地球上の全生物をグループ分けしてみよう」と考えたときに、まぁ素人目線で考えると「動物と植物かな?」と思えるわけですけど、進化学・分子細胞生物学的にそいつらはもうほぼ一緒のグループも同然でして、より大きく分けるのであれば、何回か話にだけは出していた最大の区分けは「原核生物真核生物」となり、特にその原核生物の中でも、地味に原核と真核ぐらいに違うものとして細菌古細菌というものに分けられまして、いうなれば、地球上の全生物を3つのグループに分けたら、「(真正)細菌・古細菌・真核生物」の3つに大別されるという、かなりでかくて重要な軍団って形なのです。

これはマジで名前が悪い気がするんですけど、古細菌というと「細菌の古い版?まぁ似たようなもんなのかな」とどうしても感じられてしまうものの、実は、「酵母は、細胞レベルでは大腸菌よりむしろヒトに圧倒的に近い生物」というこないだの話同様、「細菌と古細菌より、古細菌と我々真核生物の方がむしろ近い生物といえるぐらいである」「真核生物は、古細菌と同じ先祖から誕生したのであろう」と考えられているぐらいなんですね!

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分かりやすい生命の分類図・https://ja.wikipedia.org/wiki/古細菌より

まぁ、「だから何なん?」という話にはなりますけど、人間のことを知る上で、その起源とも考えられる古細菌を研究するのは重要な意義をもつことなのです、って感じですね。

だから、大腸菌(代表的な細菌)は我々とは全く関係ないゴミクズ同然の存在ですが、古細菌さんはいわば我々の親同然の存在なんで、今後もし古細菌と触れ合うことがあったら敬いましょう、という、まぁそういうことです(冗談ですが(笑))。

ちなみにWikipedia翻訳の記事では最後に「古細菌の翻訳」という段落がありましたが、『古細菌の翻訳過程はまだ良く分かっていない。』という記述から、次の文はもう1文節ごとに怒涛の[誰によって?][要出典]の連発で、恐らく専門家の方による「適当なことはいっちゃあアカンよ」という鋼の意思が感じられる具合になっており、笑えましたね。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/翻訳_(生物学)より

まぁこの古細菌アーキアですが、具体的にどんなやつらがいるのかというと、超好熱菌(沸騰しているようなアチアチな環境で暮らす)とか、高度好塩菌(海水より5倍とか濃い、クソショッパ塩水を好んで暮らす)とか、そういう何というかヤベー奴らの集まりでして、通常の条件(体温付近・体液付近の我々にとって常識的な環境)での培養が困難であることも多く、その意味で極めて興味深い研究対象なのに中々解析が進んでいない生物といえるかもしれません。


なお、アーケオシンはThermococcus kodakarensisという名前の超好熱菌(の持つtRNA)から発見された塩基修飾なんですが、この種名、よく見ると「コダカレンシス?」とちょっと日本語っぽい響き(子音と母音の連続は、やっぱマジで日本語感があります)がありますけど、これは何を隠そう、我らがKODAKARA島の硫気孔(火山ガスが噴き出す穴)から発見・単離されたことから付けられた名前なんですね!

アルファベットでの名前の方がよく見たので、KODAKARA島はてっきり子宝島で、子孫繁栄にご利益のある島か何かかな?…と思っていたんですが、実は小宝島で、同じ鹿児島県にある宝島の脇にある小さな島のことだったんですねぇ。

ja.wikipedia.org
上記Wikipediaによると2018年時点で人口は53人と、人が住んでらっしゃる島とのことで、名前含めてめっちゃロマンがあります。

ちなみに小宝島へ赴きkodakarensisを単離されたのは当時阪大教授をされていた今中忠行さんで、現職(もう退官されてるのかな?)の立命館大学に、今中さんの記事があったので紹介させていただきましょう。

www.ritsumei.ac.jp
そう、記事内でも触れられている通り、kodakarensisはtRNAの修飾以外にも有名なものがあり、それが何を隠そう、PCR酵素

この古細菌から得られた酵素は、従来のPCR酵素よりも極めて正確(合成ミスが少ない)、速い(反応がすぐ終わる)、難しい鋳型でも難なく合成できる強さもあるという素晴らしさで、個人的にはお気に入りのPCR酵素なんですが、こちら、KOD DNAポリメラーゼという名前で、TOYOBOから発売されているのです。

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https://lifescience.toyobo.co.jp/detail/detail.php?product_detail_id=166より

…ということで、脱線その1で出てきた東洋紡に早速つながるネタがあったのでした、というそれだけの話でした。


ちなみに、kodakarensisは、今中研究室のページではkodakaraensisとなって「コダカラエンシス」と表記されていますが、Wikipedia他どのサイトでもkodakarensisとなっているのが気になりますね。

発見者が間違えるわけもないし、今中さん自身はコダカラエンシスと名付けたけれど、国際的にはより学名として自然なコダカレンシスとして受け入れられてしまった、とかいう感じなんでしょうかね…?

まぁ、アメリカとイギリスでスペルが違うなんてこともありますし、aが入る入らないは大きな違いではないという感じでしょうか(個人的には、コダカラエンシスの方が小宝が分かりやすくていいし、何より発見者自身の命名だし、こっちの方が好きですね)。


こっから脱線してもう1点別のネタに触れようかと思っていたんですが、いい分量になってしまったので、また次回にまわすか、イマイチ面白くなさそうだったらまぁボツにしてもいいかな、って感じですかね。

とりあえずtRNAの修飾は非常に重要・古細菌もとても面白い研究対象で、一番有名な菌の1つが日本産…なんてのが、今回の脱線のポイントでした。

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