人間はこれのために生きているといえる、この世の最重要物質

前回はフェノール(◎-OH)にメチル基(-CH3)がついた物質、クレゾールを見ていましたが、続いて他のフェノールファミリーも見ていくとしましょう。

次に単純なのは、やはり、メチル基の代わりに改めてOH基がついたもの、つまり、フェノールにOH基が2つ付いたやつでしょうか。

何気に高校化学では出てこなかった気がしますが、地味に身近な物質の一種ではある気がするので、触れておくといたしましょう。

これももちろんオルト・メタ・パラの微妙に構造の違う兄弟分子が存在するわけですけど、それぞれに慣用名が存在しています。

総合して、OH基が2つで、ベンゼンジオール(これはフェノールの名前が変わるのではなく、「ベンゼン・オール」のオールが2つになる形です。ややこしいですね)とも、OH基をアルコールではなくヒドロキシ基と読んでジヒドロキシベンゼンとも呼べますが、いずれにせよ、それぞれの構造に応じてそれぞれ固有の名前があるという贅沢な仕様になっているわけです。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ベンゼンジオールより

オルト位についたのがカテコール、メタ位についたのがゾルシノール、そしてパラ位についたのがヒドロキノンと呼ばれる物質ですね。

若干名前になじみはない気もしますけど、それぞれ、全然別のジャンルで活躍する有能物質です。

まずはカテコール…「カテーテル?カーテンコール?」と空目をするかもしれませんが、こいつは、酸化されて色が着くという性質が知られており、これ自身は写真の現像液として使われていた物質です。

ま、過去形にした通り、もう今の時代フィルム写真などほぼ使われておらず、全てデジカメで済む感じなので、その意味での役割はほぼ終えているかもしれませんが、異なる金属と反応することで異なる色を発色する性質から、水の中に含まれる金属イオンの分析などにも用いられているようですね。

ベンゼン環は、芳香族と呼ばれるとおり、含まれる物質には特有のニオイが生じることがとても多いわけですけど(もちろん、別に匂わないものもあり)、それだけでなく、含まれる物質に色が付くことが多いのも、知っておくとよい大切な性質といえましょう。

目から鼻から存在を訴えかけてくるベンゼンは、やはりやり手の物質だといえますね。


カテコール自身も有用物質ですが、これは、こいつ自身をもとにした誘導体がさらに有名で、1つ目が、名前もズバリ似ているカテキン

緑茶に含まれる成分として割と知られているので、恐らく誰でもご存知ではないかと思われるこのカテキンは、まぁカテコールはあくまで構造の一部に過ぎず、カテコールから直接カテキンができるわけではないものの、大本の骨格ということはできましょう。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/カテキンより

右下部がカテコールで、さらにドカドカとリングが複数つながっているかなり複雑なやつですが(左半分が、立体的にカテコールより上につくか下につくかで、(-)と(+)の微妙に違う物質になり、さらにカテコールとOHが同じ向きにつくと(この画像では、上下関係が逆になってる状態ですね)、「エピカテキン」というこれまた微妙に違う構造の物質になりますが、まぁどうでもいいでしょう)、この複雑な構造は、全体で、「フラボノイド」と呼ばれるグループにもなっています。

これも絶対どっかで聞いたことある名前ですね。

フラボノイドの名前の由来は、これが含まれる花の色である「黄色」のラテン語にあるわけですが、このグループの物質は、一部がチョコチョコっと変わることで、黄色のみならず様々な色を生み出すことが知られています。

その辺、まさにカテコールと近しい性質といえましょう。

ちなみに、フラボノイドは、チョコやココアやお茶やワインに多く含まれていることが知られていますね。

カテキンやその他フラボノイドグループに含まれる物質の性能・効果・役割は、あまりにもスゴすぎて、何かやらせ・陰謀論を感じてしまうぐらいの有能さなんですが、以前ビタミンDの記事でもお世話になったオレゴン州立大&新潟薬科大の記事が、色々学術的に確かな効能をまとめてくれているので、興味がある方はご覧になってみると楽しいかもしれません。

lpi.oregonstate.edu
基本的に、カテコールというのは酸化されやすい=自分自身が酸化されることで、人体が酸化されるのを守ってくれるということ(酸化というのは、ピカピカの鉄くぎが時間とともに赤茶色にボロボロになる(その逆はない)ことからも分かるとおり、この地球上では基本的に老化・劣化に近いものですね)、それから色を持ちやすいということはつまり光を吸収するということと同義ですから、転じて紫外線から肌を守ってくれる(上の記事はその点が中心ですね)ということ…みたいな感じで、抗酸化作用・老化抑制・突然変異防止・がんの予防などといった、めちゃんこスゴ過ぎる効果が謡われているんですね。

凄いぞフラボノイド、カテキン、ひいてはカテコール!

まぁカテコール自身は何気に劇物であり有害なんですけど、これをもとに有能物質がじゃんじゃん生まれるというのが、有機化学の面白さ奥深さですね。


一方、カテコールが大本骨格の有名有能物質はまだありまして、こちらは誰でも絶対に聞いたことがあるでしょう、ズバリ、神経伝達物質(ホルモン)として知られる、アドレナリン

アドレナリンは、「闘争か逃走か」に関わるホルモンとして知られる物質で、高校生物のホルモン・神経伝達物質の章で名前だけは触れますが、構造に関しては、そんなに複雑ではないけれども、高校化学・高校生物ともに詳しくは触れなかった気がしますね。

ちなみに、アドレナリンに似た物質として、ノルアドレナリン(名前もそっくり)やドーパミンなんてのもありまして、これまたかなり有名ですから恐らく耳にされたことがあるのではないでしょうか。

それぞれどんなものかは後ほど触れていきますが、これらは、カテコールにまたちょちょっとオマケがついたもので、「カテコールアミン」と呼ばれるグループのメンバーとなっています。

カテコールそのものよりも、大学で生命科学を学んだ人は、このカテコールアミンという用語の方が耳なじみがあるかもしれませんね。

ちなみにアドレナリンは別名エピネフリンとも呼ばれますが、英語ではエピネフリンが好んで用いられ、分野的には、生物学ではアドレナリンが、医学では日本語であってもエピネフリンがよく使われている呼び方な気がしますが、まぁどちらも同じものです。

個人的には、別に自分が生物学寄り立場にいるという点抜きにしても、一般社会的にもアドレナリンの方がなじみがある気がしますし、アドレナリン派ですね。

構造は、英語版Wikipediaが違いを分かりやすく上手に並べてくれていたので、こちらを引用しましょう。

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https://en.wikipedia.org/wiki/Norepinephrineより

ご親切にカテコールの構造も並べてくれていますが、左がノルエピネフリンことノルアドレナリン、そして真ん中がエピネフリンことアドレナリンですね。

そう、両者の違いは、ノルアドレナリンの端っこのNH2のHがたった1つ、メチル基に変わっただけだったのです!

…って、そもそもアドレナリンとノルアドレナリンの違いが何なんだよ、って話かもしれませんが、まず「アドレナリン」については生物を学んだことがない方でも聞いたことがあるでしょう、興奮したときに分泌される、火事場の馬鹿力を生み出したり、血まみれになっても痛みを感じず戦い続けたり…といったことを可能にする、闘争熱血ホルモンですね。

先ほどちらっと触れた「闘争か逃走か」というフレーズでおなじみですが、まずこのフレーズ、英語のFight-or-Flightと全く同じ意味でかつ全く同じように韻を踏めているという、素晴らしい形になっていると思えてなりません。

よくこんな完璧な翻訳があったな、これもうバベルの塔が崩れなかった世界線の出来事だろ…と感心しますが、これはれっきとした学術用語で、Wikipediaにもきちんと項目が存在するフレーズになっています(表題タイトルは、全然上手くない「戦うか逃げるか反応」になってますが…)。

ja.wikipedia.org

アドレナリンとノルアドレナリンは、構造もそっくりだったことから明らかなように、どちらも闘争本能に火をつける形の、ほぼ同じ役割をもつ物質です。

違いは、アドレナリンが心臓を強く収縮させて心拍数・血圧などを上げる一方、ノルアドレナリン血管を収縮させることで血圧上昇などの興奮作用を生み出す、という微妙な差があるといわれていますね。

一方、これもよく聞くドーパミン、こちらは、ノルアドレナリンOHがなくなった(Hになった)だけの物質で、これも非常にそっくりな構造(そもそも、ノルアドレナリンは、ドーパミンから作られます。なので、「ノルアドレナリンが、ドーパミンにOHがついた物質」という方が、より自然な見方ですね)をしており、同じく神経伝達物質として働いていますが、こちらは熱血物質アドレナリンブラザーズとは少し違い、幸福の感情と密接につながりのある物質ですね。

ドーパミンといえば、さらに同じ神経伝達物質で、こちらは精神の安定に重要なセロトニンもありますが、こちらはカテコールを含まないので今回は無視しましょう。)

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ドーパミンより

簡単にいえば、うれしい・楽しい・気持ちいい・やる気がある・幸せといったポジティブな感情を抱くときに多量に分泌されているものであり、逆にドーパミンが減る(全然分泌されない)と、になったり、集中力や物覚えが悪くなったり、さらには認知症につながることなんかも知られています。

要は、ドーパミンがないと、生活・人生の全てが終わる、ってことですね。

しかし逆に、ドーパミンが過剰すぎても、幻覚・妄想が出てきたり、落ち着きがなくなったりして統合失調症につながることが知られていますから、何事も程々が重要ということでしょう。

ですが、ま、一言でいって、人間はドーパミンを分泌させるために生きているといっても過言ではないぐらい、生きる意欲を生み出す源泉ともいえる、この世で一番人間にとって大切な物質だと断言して構わないとさえ、個人的には思えます。

ドーパミンがこの世に存在しなかったら or 人間がドーパミンを利用できるように進化していなかったら、人類は絶対にここまで発展していなかったでしょう。

測ったことはありませんが、僕なんかは多分人よりドーパミンがドバドバ出ているタイプの人間ではないかと思うので、今日も今日とて、ドーパミンをドバドバ垂れ流しながら、僕は楽しく日々を生きていくのであった…。

…と、その辺の神経・ホルモンに関する話もまたいつか機会があったら改めてしてみたいですが、今は有機化合物を見ていくシリーズなので、ひとまずその辺にしておきましょう。

実際これらのホルモンはカテコールからではなく、実はベンゼン環をもつアミノ酸から誘導・合成されるものなのですが(その意味でも、アミノ酸・タンパク質を摂取するのは本当に大事!)、構造としてはカテコールを含むものなので、カテコールは人間にとって欠かせない物質(の一部)ともいえますね。

あまりにも重要物質すぎたので、これだけで十分な(長すぎる)分量になってしまいました。

また次回、続きから進めていきましょう。

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