とうとう糖が登場

糖について滔々と(とうとうと)語る…。

前回のゴムは、いうほど生体分子感はありませんでしたが、ついに来ました代表的な生体高分子、こと炭水化物

これがまさに、美味しい食べ物として、人間が生きるうえで一番お世話になっている有機物といえましょう。

お米、パン、ラーメン・パスタ・うどんといった麺類、お好み焼き・たこ焼きみたいな粉もん、ジュースやお菓子……そういった主食系・甘いもの系が美味しいのは、ひとえに、炭水化物=糖のおかげなのです。

糖と炭水化物は、厳密には微妙に違う(炭水化物という大きなグループの中に、エネルギーとして使えると、使えない食物繊維がある)のですが、まぁそんな微々たる違いはどうでもいいので同じとみなして問題ないでしょう。

高分子を見ている一連のシリーズで登場してきた糖ですが、実は、それだけで完結している1分子のもの(単糖)がまず主役として存在し、それが2つつながった二糖、3つつながった三糖…などがあり、たくさんつながったものが高分子(多糖類)となるというだけで、話のネタとしては高分子ではなく1分子や数分子のものが中心となります。

ですがまぁ、高分子としても存在し得る物質ということですね。

これで、炭水化物・タンパク質・脂質という三大栄養素と、さらにDNA(RNAという遺伝物質を含め、生体内の重要成分はほぼ全て触れたことになりますが、結局どれもいくつかの基本単位となる構成分子がズラァーっとつながってできた、高分子なんですね。

…まぁ、脂質は高分子ではないですが、炭素が18個とか22個とかつながった長い分子ですし、炭水化物はタンパク質・DNAとは真逆で、つながったものよりも小さい単一成分の方が主役なので毛色はだいぶ違いますが、いずれにせよみんな等しく炭素がつながってできた有機物という仲間であるとはいえるわけです。

といっても、高分子だろうと、小さい分子が小さいままバラバラにたくさん集まったものだろうと、はたまた有機物だろうと無機物だろうと、モノを食べたり使ったりする僕たち自身にとってはマジで1ミリも違いがない(そんな分子レベルの違いは分からない)ので、そんなこと知ったところで別に生活が良くなるわけでも何でもありませんし、大した話でもないんですけどね。


…と、また中身のない御託をつらつら書いちゃいましたが、糖はめっちゃくちゃ大量にあるので、サクサク進めましょう。

なお、いうまでもなく、超猛烈にややこしい話が展開されますけど、覚える必要は皆無です。

まぁ受験生は、全部ではないけれどメジャー所はしっかり覚えないといけませんが…。

しかし受験生以外は別に試験を受けることもないでしょうし、例によってあんまり身構えず、適当に読み流してもらえれば十分です、というお話ですね。


まず、「全ての糖の基本、主役、代表、一番メインのものは何?」と問われたら、みなさんは何が思い浮かぶでしょうか?

恐らく多くの方が「砂糖!」と思われるように思いますが、実は、化学・生物学の分野では、砂糖はマイナーな存在で、いてもいなくてもどうでもいい、クソザコなのです(いやまぁちゃんと登場しますし、別にそんないうほどザコではないですけど(笑))。

全糖ランキングNo. 1、最重要な存在にして全ての糖の憧れ、どの糖も最終的にこれになることが目的といえる糖界の唯一神は、砂糖ではなく……

ブドウ糖だったのです!

1. グルコースブドウ糖

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https://ja.wikipedia.org/wiki/グルコースより

重要度★★★★★

基本的に、科学の分野では日本語よりも英語名の方が使われるので、和名の方がなじみがあっても、洋名を覚える必要があります。

こちらは、ブドウ=グレープ→グルコースと覚えればバッチリですね。
(一応、実際の語源は、「甘い」を意味するギリシャ語(glukós)由来のフランス語から来ているようですが。glucoseとgrapeで、つづりすら違いますしね。)

(ちなみに、アルコールが「~オール」という語尾で呼ばれることに特徴があったように、糖は「~オース」という名前がついています。高分子の糖以外は基本全てこの形で終わるので分かりやすいですね。その他の糖それぞれの名前も、おいおい見ていきましょう。)


これが、全ての糖の代表であり、あらゆる糖はこいつに帰着します。

なぜなら、我々の細胞がエネルギー源として直接使えるのは、グルコースだけだからです。

(例えば砂糖とか他の糖を摂取しても、結局は分解したり構造を変換したりして、最終的にこの糖代表であるグルコースに形を変えてからでないと、歩いたり走ったり、物を考えたりタンパク質を作ったり…といった、生命活動を行うために必要なエネルギーを生み出せないんですね。
 具体的には、解糖系と呼ばれる代謝プロセス(呼吸の一部)が、グルコースを出発物質にしているから、というのがその理由ですが、そんなことはまぁどうでもいいでしょう。)


グルコース…に限らずどの炭素6つの糖もそうなのですが、化学式はC6H12O6で、これは言い換えると、C×6・H2O×6ですから、まさに、炭素と水が混じりあってできた物質、すなわち炭水化物だということなわけですね。

構造は、Cが6個で六角形かと思いきや、実は1つの角は酸素Oになっており、炭素は1つ飛び出している形になっています。

高校化学で最初に習うときは、上記のどの描き方でもなく、六角形を少し寝かせて(平らな面が下になるように)、飛び出た炭素も省略せずに書いたものですが(というか最初はどのCもHも全て省略せずに書いた方が分かりやすい)、先ほどのよりは多少分かりやすい図が、英語版のグルコースページにあったのでこちらも載せておきましょう。

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https://en.wikipedia.org/wiki/Glucoseより

やっぱこれが一番なじみのある描き方な気がしますねぇ~。

まずOを六角形の右上の頂点に置いて、その隣(左上)に出っ張ったCをつなげます。

全ての炭素はOHをもつ(出っ張ったCがつながってるやつ(六角形の左上頂点)を除く)ので、この出っ張り炭素にもOHをもたせて、(残りの腕は、当然Hがつくから)こいつはCH2OHになり、そこから反時計回りに、(六角形各頂点の炭素に)順番に下・上・下にOHをくっつけて、最後一番右に位置する炭素の上にOHをつけたらこれがβ-グルコース、一方、(でっぱりのCH2OHもカウントして)上・下・上・下・下と、最後だけ下が連続する中途半端な方がα-グルコースと呼ばれる物質であり、かなりややこしいですがこれを受験生は覚えさせられます。

なので、日本語版のトップ絵は(説明文にある通り)β-グルコースで、英語版の画像は(これも明記されている通り)α-グルコースが描かれていますね。

なお、日本語版画像の真ん中左の描き方の場合、以前一度触れた通り「太線が手前(上)、破線というかくさび形みたいなやつが奥(下)にある」ことを示していますが、この図ではOの右隣りの結合が見慣れない波線みたいなやつになっており、これは「上下どちらもあり得ます」ということを示しているのでしょう。

そして、グルコースの構造の描き方には、他にも、日本語版真ん中右に表示されていたような、ちょうど魚の開きみたいな形の記法もあり、これをフィッシャー投影図と読んでいます(まぁFischerさんの考えたやり方で、魚とは関係ないんですけど)。

これは別に勝手に展開図を描いているわけではなく、実際に、水に溶けたグルコースは、環状のものと、ちょうどフィッシャー図で描かれているような、リングが切れて両端の生まれた線状(鎖状)になったものとが、行ったり来たり構造を変えながら存在することが知られているのです。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/グルコースより

ちょうど、線から環になるGIF動画が、英語版Wikipediaに貼られていたので、パクらせていただきましょう。

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https://en.wikipedia.org/wiki/Glucoseより

ただし、水中ではほとんどがリング状で、線状の構造はごくごくわずかしか存在していません。

ちなみに、αとβでは、ベータの方が上・下・上・下・上とバランスがいいので恐らくより居心地がいい形なのか、βの割合の方が高い(60%超)ことが知られているようですね(αが40%弱。パッと見の構造が分かりにくい直線カスは、1%未満)。


そして、αとβのみならず、さらに話をややこしくするものとして、先ほどからチラチラ名前だけは表示されていて気になった方もいらっしゃることでしょう、糖にはD体・L体という違いまで存在します。

ちょっと脱線して、D/Lの違いについて触れておきましょう。

これらは鏡の関係にある物質で、グリセルアルデヒドというこれも糖の一種(ちょうど、グルコースの半分、C3H6O3)が、真ん中の炭素を中心に見ると、4本腕全てに別のものがつながっている形なのですが…

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https://ja.wikipedia.org/wiki/グリセルアルデヒドより

(右側の図が分かりやすいです。水素H、OH基、アルデヒド基CHO、メタノール(CH3OHからHを一個取って炭素と手をつないだもの)の4種ですね。
 ちなみに書き忘れていましたが、糖というのはアルデヒド基と複数のOH基をもつ物質の総称と定義されます。
 なので、糖というのは、実はアルコールの一種とみなすことができ、さらにアルデヒドというグループの一種ともいえるんですね。)

…この画像の位置関係になっているものを、D-グリセルアルデヒドと呼ぶと決められています。
(そして、これを基準に、この配置パターンと一致する分子を、D体の構造をもつ分子とみなす)。

「ピラミッド(正四面体)構造の4つの頂点が全部違うものの場合、決して重なり合うことのない2つの構造が存在する(鏡に映すと同じものになる)」ことに注意すると、2つの頂点を入れ替えたものはどう回転させても一致しませんから、それをL体と呼んで区別しているんですね。
(ちなみに、Dはラテン語Dexter由来で「右」、LはLaevo由来で「左」を意味する語です。)

まぁ、マジで頭がこんがらがってくる話なので、その辺の詳しい構造の違いや定義なんかについては、どうでもいいにも程があるので、忘れましょう。

理解する必要もないし覚える必要もありませんが、糖にはD体L体があるということだけ頭の片隅に入れておけばそれでよく、また、非常に面白いことに、ほとんど全ての糖は、天然ではD体のみが存在することも知られています。

そしてさらに面白いことに、同じく鏡像関係の物質が存在するアミノ酸は、糖とは違って生体内ではL体しか使われないという感じになっています。

不思議ですね。

(ちなみに、グルコースアミノ酸は当然、実験でもよく使いますが、ラベルに「D-グルコース」とか「L-バリン」とか記述されており、めっちゃくちゃ目にするので、覚えようとせずとも、糖がD、アミノ酸がLというのは、何となく覚えてしまっています。)


なお、グルコースは天然にはD-グルコースしか存在しないし、体内で使われるのもD-グルコースのみですが、人工的にL-グルコースを合成することは可能です。

構造は当然、D-グルコースを鏡に映したもので、ちょうど反転したものになっていますが…

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https://en.wikipedia.org/wiki/L-Glucoseより

こちらは、D体よりやや弱いものの甘味は存在する物質で、前述の通り体内の代謝では使われない物質=言い換えると、どれだけ食べてもゼロカロリー!の物質なので、ノンカロリー人口甘味料の一種としての利用が期待されるわけですが、コストの問題で、L-グルコースは、現時点で市販品に含まれていることはないとのことですね。
(恐らく、もっと安くて、もっと甘い低カロリー甘味料が存在するため。また、L-グルコースは、下痢を誘発することでも知られているようです。)


D体・L体、さらにαにβにリングがほどけた鎖状のやつまであったりと、あまりにもややこしすぎるのが糖の悩み所ですが、実はこれで終わることはなく、さらに、OHが上・下・上…のどちら側につくかという些細な違いで、化学式C6H12O6は全く同じくせして、名前も、甘さも性質も、全く異なる糖が爆誕し続けるわけです。

これも、受験生泣かせの、捨てたくなる分野の1つといえましょう。

ズラーッと糖類の一覧を見ていこうと思いましたが、まさかのグルコースのみ(一応グリセルアルデヒドも登場しましたが)、しかも、正直クッソつまらん分子構造の話のみで大分スペースを食ってしまいました。

続きはまた次回見ていくとしましょう。

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