ここ何回かの記事で、糖と何かが結びついた物質を見ていましたが、糖脂質、糖タンパク質と来て、続いては糖アルコール!
…といってもこいつはこれまでのものとは全然違って、糖が脂質と結合、糖がタンパク質と結合みたいなのと同じノリで「糖がアルコールと結合」というわけでは全くなく、糖がよりアルコールに近い形態を取るというだけの、何とも面白くない話になります(いや別に、結合してたところで、普通に何も面白くないですけど(笑))。
そもそも、アルコールというのは-OH基をもつ炭化水素のことなので、今まで何度も見てきたとおり糖にはOH基が複数ついてますから、「アルコールと結びつく」も何も、実は糖自身がアルコールの一種なんですけどね。
では「糖アルコール」とは一体何なのかというと、先ほどチラッと書いた通り「さらによりアルコール分が増した糖」とでもいいますか、結局また原子・分子レベルの構造の話になってしまうわけですが、順番に簡単に説明を試みてみましょう。
まず、糖と呼ばれるやつらはちょうど炭素Cと水H2Oが等量存在する構造になってるわけですけど(例:グルコースは、C6H12O6で、C6個とH2O6個)、単純にCとHだけが1本ずつ手をつなぎあった場合、絵を描いてみると分かると思うんですが、(有機化学入門一番最初の話で見たアルカンですね。CH4、C2H6、C3H8…という感じになるわけです)Hの数は、必ずCの2倍プラス2個になっています。
ここで、-Hを-OHに変えてやってもこの関係性は変わりませんから、CとH2Oが等量存在する(つまり、HがCのちょうど2倍になっている)ためには、何か手を加えていじってやる必要があるわけです。
といっても難しいことはなく、結局、Hを2つ減らしてやればいいわけですから、CとHの間で使っている腕を2本、酸素Oが占有してやればいいんですね。
そんなわけで、リング構造であれば酸素Oを頂点の一角に置いてやって、そいつが酸素のもつ腕2本ともを使って炭素Cと手をつなげば、あるいは線状構造なら、酸素が二重結合で炭素とつながって、炭素の腕2本分を独占すればOKということで、今まで見てきた糖は実際そうなっていました。
言葉でいってもマジで分かりづらいので、図を見てみましょう。
こちら、これまで名前が登場したことは確かなかったですが、キシロースという糖の構造の、魚の開きのようなフィッシャー投影図ですが…
糖が糖であるために(というか「炭水化物(炭素と水の化合物)」であるために)、アルデヒド基(CHO、CとOは二重結合)が存在することがお分かりになると思います。
糖アルコールというのは何てことはない、このアルデヒド基がOH基に変換されたものになるんですね。
なぜキシロースの構造を出したかというと、最も有名な糖アルコールであるキシリトールが、まさにこのキシロースに由来するものになっているからなのでした。
ということで、キシリトールのフィッシャー投影図……
ね?
結局、糖アルコールというのは、糖のアルデヒド基がOH基に変換されただけのもので、まぁいわば、一個アルコール分(OH基)が増えただけのもの、って感じなわけですね。
その結果、糖アルコールは最早環状構造を形成できない、という状態に追い込まれます。
Wikipediaの構造図も、全く糖らしくない、直鎖状のものだけの寂しいもんです。
…まぁリングになれないから何なんだ、って話でしかないですが、とりあえず構造的には、糖アルコールというのはそういうものになります、という話でした。
(ちなみにキシリトールは、炭素5個に、ヒドロキシ基が5個ついただけという単純な構造なので、有機化学入門で「慣用名ではない、ルールに則った命名をせよ」というのは例題としてありそうな感じですね。答は画像の「別称」にある通りです。)
っていうか、しれっと初登場かのようにキシリトールの名前を出しましたが、実は以前アルコールについて見ていたときに、一度このキシリトールと「糖アルコール」という言葉はもう出していたんですけどね。
見直しても本当に言葉を出しただけで何も語ってませんでしたが、まぁ構造とかそういうつまんない話はその辺にして、 もうちょい身近な話に移るとしましょう。
糖アルコールは、代表例がキシリトールであることからも明らかなように、身近では甘味料として用いられる物質ですね。
Wikipediaの方に、甘さとカロリーについてまとめてくれた面白い表がありました。
さくっと引用という名のパクリをさせていただきましょう。
比較対象として、砂糖(スクロース)が一番下に載っていますが、キシリトールだけは何とか砂糖と同じ水準の甘さをもっているものの、基本的に糖アルコールは砂糖より甘さが小さくなってしまうことがほとんどのようです。
しかし、重さあたりのカロリーの方も、甘さが失われる以上に小さくなることがほとんどなので、「カロリー控えめの甘味料」としては、有用なやつが多いということですね。
具体的には、表一番右の「甘みの強さとカロリーの比」が大きいほど、「甘いけどカロリーが小さい」になるので有能なわけですが、一番最強なのはマルチトールというやつで、ほぼ砂糖と同じ甘さのくせに(90%)、カロリーが約半分という夢のような物体ですが、こちらはマルトース(グルコースの二糖ですね)の、片方のグルコースのアルデヒド基CHOがアルコール化されたもの(というのは正しくない用語ですが、まぁOHになるってことで、その方が分かりやすいでしょう。正確には、ちょうど水素付加になるので、酸化の逆である「還元されたもの」となります)のようですね。
マルチトールに続く高スコアなのはキシリトールで、これもマルチトールとほぼ同じ甘さカロリー比になっていますが、世の中でキシリトールの方がよく使われている気がするのは、恐らくコストの問題なのでしょうか。
その他はエリトリトール(エリスリトールとも表記されますが、構造を見たら、キシリトールの炭素4つバージョンでした)なんかも、ほぼカロリーが発生しないという点で特筆すべきやつですが、一方、グリセリンのゴミっぷりもひときわ目立ちますね(笑)(甘さはかなり控えめなのに、カロリーだけはいっちょまえにかなり(砂糖より)高い。)
…でも、グリセリンは、どう考えてもこの中で一番重要な生体物質だから(震え声)……。
ちなみに、個人的にはソルビトールとマンニトールが、研究の場でまあまあ使われる試薬(浸透圧調整とか、そういう感じの用途ですね)なのでなじみがありますが、だから何だよ的な話でしかないのでどうでもいいでしょう。
また、ちょうどこれに関連する話で、毎度温かいコメントや非専門家的な立場からの素晴らしいご質問をいただけるアンさんから、「甘味料といえば、スーパーでこういうのも見かけます」という情報をいただいていました。
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糖類Zeroのチョコ!面白いですねぇ~。
糖類の使用がゼロ(とはいえ、100グラムあたり0.5グラム未満なら「シュガーフリーといっていいんですよ」ということを盛んに強調されていたので、恐らく表示義務のない範囲で使われてるのかな、という気はしますが)、ただし糖アルコールを使っているので、糖質がゼロなわけではありませんが…と、何だかやや詭弁というか上手いこと言ってるな…とも感じますが、砂糖の摂取を控えたい人には、とてもいい商品になっているように思います。
一応、チョコレートというのはデータ上、100グラムあたり558 kcalというのが栄養成分表示に定められている一般的な数字のようですが、こちらのゼロチョコは…
10グラムで、48 kcal……。
まま、「ゼロを謳う割に、思ったより結構カロリー残ってはりますね…」って気もするものの、普通のチョコよりは大分低カロリーで、カロリーを気にする方にも(少なくとも普通のチョコよりは)安心といえる気はしますね。
また、原材料表記にある通り、カカオマスに次ぐ主成分として、ちょうど先ほど見ていたマルチトールが使われているようです(キシリトールの清涼感は、チョコには合わない、って点があるのかもしれませんね)。
果たしてこれがどんな味なのか気になる所ですが、レビューを見る限り「ちょうどいい甘さ」「優しい甘さ」という感じで、味そのものも悪くはないようなので、チョコ好きの方は試してみるのも面白そうな商品かもしれないですね。
…と、そんな所で、次回はまた関連して、その他の甘味料についてもうちょい深追いしてみようと思っています。
前回の糖タンパク質の続きで、もしスペースがあれば書きましょうかとかいってたのは、結局スペースもなくなりましたし、全く面白くなさそうにも程があるので、ボツとしました。
ようやく糖の話も終わりに近づいてきた感じですね。ではまた次回…。