圧倒的一番有用で一番身近なやつが登場!

シンナー少年のトルエンに始まり、代表的なプラスチックであるポリスチレン、触れたらヤケドするフェノール、消毒剤クレゾール、酸化されて色が着くカテコールからのアドレナリンや脳内麻薬ドーパミン、美白薬ハイドロキノン、湿布薬サロメチール脳梗塞でぽっくり逝くのを防ぐ万能薬アスピリンと、これまで様々なモノを見てきた芳香族化合物シリーズですが、そろそろ終わりが見えてきましたね。

一気に進めてとっとと終わらせちゃいましょう。

ベンゼン環にOHが1つ、2つ、COOHが1つ、OHとCOOHの組み合わせ…と見てきたので、続いてはCOOHが2つでどうなるか、ですね。

これもばっちり有能な、高校化学でもしっかり学習する物質ができあがります。

その名も、フタル酸!

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https://ja.wikipedia.org/wiki/フタル酸より

当然、ベンゼン環の2つの角にくっつくので、どこにつくかの位置関係でオルト・メタ・パラの3兄弟がいるわけですが、こいつらはあまりにも有名・有用すぎて、それぞれ固有の慣用名をもっています。

メタ位についたのがイソフタル酸、対角線上のパラ位についたのがテレフタル酸と呼ばれるもので、まぁ慣用名っていっても、別にm-フタル酸・p-フタル酸って呼ぶのと文字数的にも変わんないじゃん、って話なんですが、一応平凡なオルト・メタ・パラ呼びではなく、それぞれそういう固有名詞がある、って感じですね。

それらはまた後で見るとして、まずはフタル酸……これは、こいつ自身よりも、似たような名前があってややこしすぎるという点が、高校化学で習ったときに一番印象に残るポイントかもしれません。

そう、フタル酸にあまりにも似ているものとして、フマル酸というやつも同じく有機化学で登場してきやがるのです。

フマル酸というのは、これは何気にブログ記事では触れたことがなかったですけど、結構基本的な構造の物質で、エチレン(CH2=CH2)に、これもフタル酸と全く同じく、カルボキシ基(-COOH)が2つくっついたものになります。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/フマル酸より

そして更にややこしさに拍車をかけているのが、二重結合を挟んで同じ方につながるか反対方向につながるかでシストランスという違いが生じるわけですけど、こいつはどちらも慣用名をもっており、それぞれ別の名前を覚えなくてはいけないのです。

幸い、フタル酸ほどややこしくはなく、結構名前は違うのですが、フマル酸は上記の画像の通りトランス型でしたが、同じ方にCOOHがつながるシス型は、マレイン酸と呼ばれる物質になります。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/マレイン酸より

このフマル酸・マレイン酸・フタル酸はあまりにややこしくて受験生泣かせなわけですが、まぁ別に試験を受けるわけでもないこの入門編では別にどうでもいい点ではありますけど、せっかくなので軽く触れておきましょう。

まず、フタル酸は、上述のテレフタル酸というのが断トツ有能で超重要物質なので、この「テレフタル酸」という単語は確実に頭にこびりつく状況なわけですけど、もうその時点で、「あぁ、テレフタル酸は、フタル酸のパラ位結合バージョンだったな」ということが思い出せますから、こいつがベンゼン環のあるあいつだということは、一瞬で判別がつくわけです。

なので、フタル酸・フマル酸はややこしいようで、実はテレフタル酸のおかげで、別にそうでもないのでした。

一方のシス・トランスの マレイン酸・フマル酸ですけど、これはまぁ、語呂で覚える人が多く、巷では「虎(トラ)に踏ま(フマ)れて、稀(マレ)に死す(シス)」とか覚える人が多いようですけど、これは正直バカげてますね。

僕は、授業で化学の先生(この辺の有機の序盤を習ったのは高2の時で、化学担当は生活指導長も任されていたぐらいの結構怖い先生でしたが、とても授業が上手で良かったです)が、「静まれ!と覚えろ」と教えてくれたんですけど、個人的には断然この覚え方派です。

何せ4文字で完結してますから(シス・マレ)、虎に踏まれてうんぬんかんぬん…とか、無駄に長すぎて、こんなもんはマジで受験期の貴重なメモリーの無駄使いでしかないわけですよ。
(…って、結局どっちも覚えてましたし、単に先に習った方が自分にとってのスタンダードで好きになるという、それだけの話でしかないんですけどね(笑))。

…といっても本当に一番いいのは無機質な語呂合わせなんかではなく、テレフタル酸のように、背景知識も含めて有機的に覚えることであって(有機化学だけに(笑))、実際は、マレイン酸は「H2Oが取れて無水マレイン酸が生じる」ということを抑えておくのがベストといえましょう。

先ほどのWikipediaの図では、COOHの「OH」部分が真横に並んでいなかったのでちょっと分かりづらかったですが、右のOH基を、左のOH基のすぐ隣に並べて描いてみてください。

そうすると、OHとHOがめっちゃそばに並ぶわけですが、このHHOはあまりにも近くにいるため簡単にポロリと取れてしまい、分子内からH2Oこと水が失われることで、無水マレイン酸と呼ばれる物質ができるわけです。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/無水マレイン酸より

H2Oが取れた後に残ったOは、両方のCと手を繋ぐことになり、結果五角形のリング構造が生まれるわけですが、とにもかくにも、「マレイン酸は分子内脱水で無水マレイン酸になる」…これ自体が重要な知識であり覚えるべき話でして、そうであるならば(分子内で簡単にH2Oが取れるならば)、マレイン酸OHとOHがすぐ隣同士に並ぶシス型に決まっている、という、そういう理屈をもって語呂合わせなどせずとも覚えられるというか、どっちがどっちだったか筋道だって導き出せる、というお話ですね。

結局、テレフタル酸無水マレイン酸という別の単語を覚える必要はありますが、これはいずれにせよ覚えておくべき用語ともいえますし、ただの呪文ではなく構造などの背景知識を含めて覚えられるものですから、これのおかげで「フタル酸・フマル酸・マレイン酸」のややこしい部分は完全クリアだと、まぁこんな感じで物事を理屈立って覚えていくのが、有機化学のみならず受験のコツって感じですね。


いやぁ~、相変わらず、どうでもいい細かすぎる知識の話で長くなってしまった!

ただ、せっかく無水マレイン酸に触れたのでこっちも触れておくと、当然、フタル酸もOH同士が近いですから、これも容易に分子内脱水が起こり、無水フタル酸が誕生します(一方、無水フル酸というのは存在しません)。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/無水フタル酸より

何か、手を広げたお相撲さんみたいで、この構造、微妙に可愛いんですよね。

ちなみに、この無水フタル酸にフェノールを反応させると、これまた中学理科で唐突に出てきて中学生の脳裏にこびりついてやまなかった物質、フェノールフタレイン爆誕します。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/フェノールフタレインより

毎度温かいコメントや非専門の立場からの素晴らしいコメントをいただけるアンさんから、フェノールの記事で、「中学で習った、フェノールフタレインというものを思い出しましたよ!」というコメントをいただいていたのですが、これはまさに、フェノールに、フタル酸が結合した(フタル酸の二重結合の腕の一方が、2つのフェノールと手をつなぐ感じ)ものだったんですね。

フェノールフタレインというのは、アルカリ性で赤紫色になる溶液ですが…

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https://ja.wikipedia.org/wiki/フェノールフタレインより

実は、超絶強い酸性(酸性・アルカリ性度を表す、pHが0より小さい!)でもオレンジ色を発色するんですね。

しかし、pHが0未満なんて普通の溶液ではまずあり得ませんから、事実上、アルカリ性のみで発色と考えて問題ないでしょう。

ちなみに、これは本当なのかどうか裏が取れませんでしたが、僕は、フェノールフタレインが強いアルカリ性になるとまた無色に戻るというのは、実は「あまりにも赤くなりすぎて、人間の目では最早見えなくなって無色になる」なんて習いましたね。

なので、人間の目には見えない色も見えるとされる他の動物には、無色になったフェノールフタレインを見て、「赤ぇーーっ!こんなに赤い赤は見たことねぇーーっっ!」なんて思う場合も、もしかしたらあるのかもしれません。


…ということで、フタル酸に関してはこのぐらいでしょうか。

イソフタル酸も、特にさしたる特記事項はないのでスルーしまして、ついに来た、さっきから有能有能しつこかった、テレフタル酸

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https://ja.wikipedia.org/wiki/テレフタル酸より

あまりにもよく使われる有用物質なので、業界人の間ではTPATerePhthalic Acid)と略号で呼ばれることもあるぐらいの物質だと思いますけど(更に、高純度のものはPTA(Purified TA)と呼ばれることもあるようです)、「いやどの呼び方のやつも全く聞いたことねーし」と思われるかもしれませんが、チッチッチ…!

絶っっ対に聞いたことがあるはずですし、何なら誰しもが毎日使っているといっても過言でもない物質が、こいつから爆誕するわけです。

間違いなく、今まで出てきた全ての物質で、一番身近なモノといえましょう。

小学生でも絶対に知っているものですね。

まぁこれも純品ではなく、別の物質とともに、ちょちょいっと一手間かけてやる必要があるんですけど、その一手間かけて合成された物質の名が、一度も使ったことのない人間絶対0人説の、ポリエチレンテレフタラート

「いや知らんし(笑)」と思われた方もいるかもしれませんが、まあまあ、世の中、見方を変えれば見えてくるものもあるわけです。

英語名PolyEthylene Terephthalate、頭文字を取ってみると…?

そう、これこそが、最高に便利でお世話にならない日がないぐらいの神容器、PETこと、ペットボトルの材質だったんですね!

あまりの語感の良さに、これを習った高校生は皆、「ポリエチレンテレフタラート買いに行かない?」とか「ポリエチレンテレフタラート製の入れ物、使ったことある?ないの?ないわけないじゃん、バッカでぇ~!」とかイキって、ウザっと思われるわけです。


まぁPETや、こないだ話に出していたポリスチレンのプラスチックとか、これらは高分子化合物と呼ばれる物質で、高校有機化学の多分最後をしめるラスボス的な章ですが、また追って簡単に見ていこうと思っています。

今回で芳香族も終えて、次回高分子へ行こうと思っていたのですが、フタル酸フマル酸のせいで長くなりすぎたので、ちょっと辿り着きませんでしたね。

次回で芳香族ラストを終わらせようと思います。

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