もっと知りたいな、アルコールのこと…

まぁ僕は別にあんまり知りたくもありませんけど(笑)。

…とかいうワンパターンのしょうもないネタはともかく、お酒というよりむしろ本当にアルコールと分類される物質についての話ですが、ちょうどいつも的確なご質問をいただけるアンさんからいくつか疑問点を投げていただいていたこともあり、せっかくなのでもうちょっと知っておきましょう、アルちゃんのこと…。


Q1. メタノールは、メチルアルコールだから目が散ると習った記憶があるよ。そのメタノールを分解するのも、エタノールと同じ、第1段階がADHで第2段階がALDHという酵素なの?

⇒そうそう、目タノール、目散るアルコールとも呼ばれることがあるんですよね。

ご質問への回答の前に有機物の名前ネタにまた少し触れてみると、まず、炭素原子の腕4本全てにHがくっついた、一番簡単な有機CH4メタンでした。

この内、腕の1つが-OHに置き換わると、名前の語尾が「オール」に変わり、「メタン・オール」で「メタノール」になるという具合だったわけです。

しかし、ここで見方を変えると、このCH3-OH、「OHに-CH3がくっついている」ともいえるんですね。

実はこの-CH3というのもめちゃくちゃ重要でよく使われる物質というかグループでして、こいつは、メタンを形容詞化した感じで「メチル」、そして腕が1本あいているので誰か別の有機物とくっつきますから(大抵は-Hと入れ替わります)、これがくっつくことを「メチル化」といい、できた物質は「メチル○○」と呼ばれています。

ということで、-OHがくっついたものは「アルコール」と呼ばれる物質なので、CH3-OHは、メチルアルコールと呼ぶこともできる、という話なんですね。

(ただ、「そう呼ぶこともできる」であって、普通はメタノールと呼びますけどね。例えば、H2Oは一酸化二水素と呼ぶこともできますけど、普通は誰もそんな風には呼ばず、「水」と呼ぶのと似たようなものでしょう。
 あぁでも、イソプロは、イソプロピル・アルコールの方がむしろよく使われる気がしますね。ただ、(厳密にいうと)2-プロパノールが「メタノール」に対応する語で、イソプロピルアルコールが「メチルアルコール」に対応する語なんですけど、学生も研究者もその辺ごっちゃになっていて、適当にイソプロパノールって呼ぶ人も多いので、まぁ別に「アルコール呼び」をしているわけではなく、「イソプロ」というのが呼びやすいだけかもしれません。
…めっちゃ細かすぎて、どうでも良すぎる点ですね。)


今さらですけど、有機化学はこういう「特殊な役割をもつグループ」に着目して整理していくと体系的に覚えていくことができ、非常に理解しやすくなるので、この視点はとても大切なのですが、この腕1本がフリーのモノを「官能基」(英語ではそのまんま、groupと呼ばれますが)と呼んでいます。

まぁ本当に名前なんて覚えなくていいんですけど、あくまで参考として、これまで出てきた官能基をまとめてみると…

-OHヒドロキシ基(「ヒドロキシル基」とも呼ばれますが、最新の命名規則では、「ヒドロキシ基」が正式名))、-CHOアルデヒド)、-COOHカルボキシ基(これも、カルボキシル基とも呼ばれるけど、正式にはカルボキシ基))、-CH3メチル基)、-CH2CH3(エチル基)、-CH2CH2CH3(プロピル基)…などなど、炭素の数が増えても、「~アン」が「~イル基」になるだけ

…という感じです。

当然、官能基自体は腕が一本余っているのでそれ自身は安定して存在せず、必ず何かとくっつくことで存在している(そしてそのくっついた物質に特殊能力を与える)わけですね。

ちなみにメチル化は上述の通りあまりにも重要な生体反応・分子の修飾で、「DNAのメチル化」とかは日常生活でも……いや日常で聞くことはないかもしれませんが、生命科学の分野ではおなじみのワードになっています。

そういえば、既に以前のネタでもCH3の有無を話題にしていたことがありました。

塩基の話で、TチミンとUウラシルの違いは、CH3のみだったことを覚えていらっしゃる方もいるかもしれません(こんなの本当に覚えなくていいので、忘れてた方がいいぐらいですけど)。

図再掲…

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WikipediaTU)より

つまり、(五角形リボースの部分は無視して六角形の塩基の部分だけ見ると)TとUの違いはメチル基のみ(Uにメチル基が1つ付いたのがT)なので、実は、チミンは、「メチルウラシル」(どこにメチル基がついてるかも重要なので、5番の炭素についていることを明示するために、正確には「5-メチルウラシル」)と呼ぶこともできるんですね。

(でも繰り返しですが、あくまでそういう別名でも理論上呼べるというだけで、非常によく使われる固有名詞が存在しているわけですから、そんな風に呼ぶ人は誰もいませんけど)

無駄に長くなりましたが、官能基を知ることで有機化学マスターに一歩近づけるという話でした。しかし、別に誰も有機化学マスターになりたいなんて一言もおっしゃってませんし、そういうコマゴマした知識やルールは特に気にしなくてもいいでしょう。


ご質問の方に戻ると、「エタノールアセトアルデヒド→酢酸」という一連の流れは、ADH(アルコール脱水素酵素)とALDH(アルデヒド脱水素酵素)という2つの酵素(もちろん、酵素というのはタンパク質ですね)で行われるのですが、「メタノールホルムアルデヒド→ギ酸」という、死を招くヤベェやつが待ってる反応経路はどうなのか?

これももちろん、同じ酵素が使われています

(ちなみに前回、ADHをALHと書いてしまっていましたが、なんか変だなとミスに気づいたため、しれっと直しておきました。誤情報の掲載、改めてお詫びして訂正しておきます。)

ただ、ADHもALDHも、メタノールよりエタノールの方が親和性が高く、両方あったらエタノールを優先して分解することが知られています。

だから、メタノールを誤飲した場合の応急処置としては、エタノールを飲ませる」ことが推奨されているんですね。
(=酵素エタノールの分解に優先的に使わせて、メタノールの分解を少しでも遅く、時間を置いてあげることで、一気にホルムアルデヒドとギ酸の体内濃度が爆上げしてしまうことを防ぐように。)

ただし当然、だからといってバカみたいにエタノールを与えても、それはそれで急性アルコール中毒になることは誰でも知っていますから、結構対処が難しい事故といえましょう。

メタノールを大量にぐびっといってしまったら…まぁ諦めましょう(笑)。

って笑い事じゃないので、絶対に誤飲しないように、メタノールなんて保有しないことが一番ですね。

研究の現場でも、エタノールに比べてメタノールの毒性は遥かに強いですから、伝統的にメタノールが使われていた実験や試薬類も、最近はエタノールに置き換えられているものもままある印象です。

ちなみに、消毒用アルコールは、当然基本はエタノールなんですけど、飲めないように、(流石に毒性の高すぎるメタノールは入っていませんが)イソプロが少量混入されていることが多いです。

「嫌がらせかよ!」とアル中の方は思うかもしれませんが、実際そうする目的はまさに飲めないようにすることにあり、その理由は、飲める状態だと酒税がかかって値段が爆上げしてしまうから、という世知辛いものなんですね。

逆にいうと、飲めなくしてあるから、消毒用アルコールにはバカ高い税金がかからず、お酒より遥かに安い値段で買うことができるという、一般庶民にはありがたい措置だという風にもいえましょう。


無駄話で長くなってしまいましたが、もう1つのご質問も軽く見ておきましょう。

Q2. -OHがつくことでアルコールになるとのことだったが、これは一箇所しかつかないのか?複数付いたらどうなる?!

⇒これもいいご質問ですねぇ~。結論からいうと、OHが1分子内に複数つくことは……ありまぁす

その前にまずギリシャ語の倍数接頭辞について触れておこうと思うんですけど、こないだのアルカンの記事で、5以降はペンタンヘキサンヘプタン…という感じで登場していましたが、C1~C4は、オリジナルの固有名詞があるので出てきていませんでした。

1~4は、こいつらも結構耳なじみのある語もあると思うんですけど、1モノモノレール(線路一本)とかモノクローム(単色)とか)、2(日本語の二もジっぽい)、3トリトリプルトライアングルなどなど)、4テトラテトラポッドは4つ足(あんまり全体のイメージないけど)、牛乳のテトラパック(正四面体)とか)です。

…で、それにのっとり、OHが2つあるものを一般的にジオール(…と思わせて、これもオリジナルの専用語・グリコールと呼ばれることが多いんですが)、3つあるものをトリオール、4つあるものをテトラオール…と、まぁ呼ぶっちゃ呼ぶんですけど、実際にはあんまり使われることはありません。

じゃあ何でわざわざ接頭辞の説明までして出したんだ、って話なんですが、あまり出てこない理由として、OHの数が増えると、それだけ骨格である炭素の数も増えて、最早アルコールというより別のグループとしての側面が強くなることが多いので、「アルコール」として呼ばれることが少なくなるからなんですね。

つまり、「OHがついてアルコールなら、複数ついたらもっと強いスーパーお酒ドリンクにでもなるのでは?」と思いきや、むしろ逆で、OHがたくさんついているといわゆる酒っぽい性質は消えていくのです。

なので、基本的に「アルコール」は、OHが1つついたものとイメージするので問題ないでしょう(というか、実際現実的に「お酒」なのはエタノールだけですしね。ただ、メタノールやプロパノールは、肌につけたらスッとする感じも、においも、かなりエタノール=お酒に近いです)。

ちなみに、そもそもOHはH単独に比べてかなり大きいモノですから、現実的な分子のスペースの都合で、1つの炭素原子にそう何個も何個もくっつくことは難しい、という話もあります。

例えば、メタンのH4つが全てOHになったもの、「メタンテトラオール」はどうでしょう?

こちら、普通は通称の「オルト炭酸」と呼ばれるものですが…

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https://ja.wikipedia.org/wiki/オルト炭酸より

文字による構造式(図の左上)だとまぁ別に普通ですけど、真ん中の球体モデル(黒が炭素、白が水素、赤が酸素のボールモデル)だと何かキツキツ感があるように、こちらは現実的には存在することができない、架空の物質なのです!

(まぁ架空とまではいえませんが、上記Wikipeiaにもあるとおり、あまりにも不安定すぎて、仮に生成しても即座に水と二酸化炭素に分解してしまいます。)

「いや別にキツキツ感なんてなくね?」と思われるかもしれませんが、結局原子同士の結びつきというのは電子のやり取りなので、実際の電子の分布とかを鑑みると、もうこれはお話にならないぐらいありえない構造の物質なんですね。

ただ、毎度書いてる通り、その辺の電子軌道論はマジで複雑すぎて面白さも絶無ですから、深追いするのはやめましょう。

単純に、「-OHに限らずその他どんな官能基も、そんなにポンポンと自由気ままにどの腕にもくっつけまくることはできないのです」ということを抑えておけばOKですね。

しかし、メタンテトラオールほどふざけた物質でなければ、OHが複数ついてるもので、結構生活に密着したおなじみの物質もチラホラ存在します。

もちろん、それぞれが特有の性質を示す物質ですし、上述の通り、不思議なことにOHが複数ついていると「アルコールっぽさ」は失われます。

「生活と化学」講座の一環として(そんなタイトルだったか…?)、次回、またその辺のアルコールっぽくないアルコールについて触れてみようかと思います。

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