みんな大好き、お酒のお話

まぁ僕はいうほど好きでもないんですけどね(笑)。

その辺については以前この記事で語っていましたが、まぁこの際多数派に話を合わせるとしましょう、僕は柔軟性の塊のような男なので…。

…と「酒にまつわる話」といっても、「このお酒、掘り出し物でオススメです!」とか「酒でしました、こんな失敗!」みたいな面白そうな話ではなく、まさかの「お酒を分子レベルで語りましょう」とかいうクッソ面白くなさそうにも程がある話で、ワクワクしてクリックされた方、どうも恐縮です。

でも、まあまあ、もしかしたらそれなりに役に立つ話があるかもしれやせんので、良かったらぜひ見てってくだせぇよ、へへっ(両手を雑魚商人のようにもみもみしながら)。


前回、いきなり始まった「よく分かる楽しい有機化学講座」として、まぁあんまり分かりやすくなかったしそんなに楽しくもなかったかもしれないんですけど、お酒というのはエタノールのことであって、そのエタノールというのは、4本腕を持ってる炭素原子2つが1本の腕を使って手をつなぎ、それぞれの残りの3本腕にHを従えてできているエタンの、1つのHがOHになっている物質だと紹介していました(既にこの説明が分かりやすくもないし楽しくもない(笑))。

言葉ではなく図を見れば分かりやすいんですけど、とりあえず今回はそのエタノールを中心に、より生活になじみのありそうなネタへと話を広げていきましょう。

炭素と水素だけから成る極めて単純明快な有機物に、-OHがつながると「アルコール」でしたが、今回は新たに2つの新顔が登場します。

用語から紹介しますと、-Hが-CHOになったものは「アルデヒド」、-COOHになったものは「カルボン酸」というグループに所属する物質になります!

う~ん、なじみのない名前すぎて面白くない…!しかし、グループ名はさほどなじみがありませんが、所属する構成員には聞き覚えのあるやつもいるので、楽しみにしておきましょう。

なぜこの2つを取り上げたかといいますと、「アルコールが体内で分解されてできる物質」が、こいつらだからなんですね。

ズバリ、絵を見るのが一番分かりやすいでしょう、エタノールが体内でどうやって分解されているかの流れ=エタノール代謝経路が、これだっ!

食らいやがれっっ!!

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Wikipediaエタノールアセトアルデヒド酢酸)より

(分子の描かれ方が相変わらずページによってちょっと違っていて、ウィキペさんも一枚岩ではないことがうかがえますが、まぁ左半分のCH3の部分は、どう描かれていても同じですね。)

まず、エタノールは、アセトアルデヒドと呼ばれる物質に分解されます。

化学的には酸化反応と呼ばれる反応ですが、これは、脱水素と考える方が分かりやすいかもしれませんね(まぁ脱水素は酸化反応の一種なんですけど)。

ちょうど、エタノールC2H6Oから、アセトアルデヒドになるとC2H4Oとなってますから、これはまさに、水素原子Hが2つほどいなくなっていることが見てとれると思います。

まさに脱水素されてますね。


そして、アセトアルデヒドは、さらに分解されて、いきなり超おなじみの物質、酢酸になるのです!

酢酸というのは、その名の通りお酢ですから、これは人体には無害ですね。

ちなみに、この反応も同じく脱水素により起こっています。

「は?いやいや、水素いなくなってないやんけ。むしろOが増えとるじゃん」と思われるかもしれませんが、チッチッチ…。

これは、簡単にいえば、「水 (H2O) を足して、水素 (H2) を引く」反応になってるんですね!

つまり、+H2O-H2で、最終的にOが1つ追加されている、という形になるわけです。

だから、これも同じく脱水素反応になっているということで、実に覚えやすいですね!(そうかぁ?)


なお、この反応は、生体内では第1段階(アルコール→アルデヒド)をADH、第2段階 (アルデヒド→カルボン酸)をALDHという酵素が担当しています。

そう、このブログではおなじみのALDH2、ずーっと「お酒分解酵素」と書いていましたが、これは分かりやすく書いていただけで、ALDH2というのは、実はアルデヒド分解酵素だったんですね…!

アルデヒド」がクッソなじみのない名前すぎるので、あえてお酒分解酵素とずっと書いていた感じです、逆にややこしくなっているだけだったらどうもすみません。

また、先ほど上でいちいち脱水素とか訳分からんことをいきなり語りだしたのは、実はこのためでした。

何を隠そう、ALDH2は、正式名称がアルデヒド脱水素酵素2型なんですね。

なので、この名前を覚えておけば、「あれ、アルコールの代謝、どういう反応でどういう物質が生まれるんだったかな…?」とうっかり忘れて迷った場合、「あぁ、脱水素酵素が働くんだから、H2がなくなるんだったな。そうそう、2段階目では、水が加わって脱水素だったよね」と、無事思い出せるのです!

(まぁ、酵素の名前覚えてんなら、反応も覚えてるだろ、ってなもんかもしれませんが、とにかく覚えることの多い有機化学なので、何重にも記憶の保険をかけておくのは悪いことではないのです。
 もちろんちなみに、受験で必要とされている方でもない限り、この辺のコマい話は、一切全くこれっぱかしも必要ありません。記憶容量の無駄使いなので、忘れましょう。)


なお、ALDH2うんぬん抜きに、こまごました脱水素の反応に触れたのには、実はもう一つ理由がありました。

そう、このALDH2によるアセトアルデヒド→酢酸の反応には、まさに文字通り水 (H2O)が必要なんですね。

つまり、当たり前というか言い換えてるだけですが、この反応では、水が大量に消費されるわけです(単純に、1分子のアセトアルデヒドを酢酸にするのに、水1分子が必要)。

だから、お酒に酔っ払ったらのどが渇くし、酔っ払いには水を飲ませて、分解の手助けをしてあげる感じなんですね!

う~ん、実生活と分子レベルの反応が結びついた瞬間、実に気持ちいいっ!(そうかぁ?)


エタノール代謝に話を戻すと、これは有名な話ですが、エタノール自体にはそこまで人体に対して毒性がなく、また、酢酸もお酢ですからむしろ身体にいいまであるぐらいですが、途中のアセトアルデヒド、こいつがあらゆる悪さをする原因、この世を代表するクズ、ゴミカスであり、人類の敵なんですね。

具体的には、画像を使わせてもらったWikipediaに書かれている情報だけでも、「有毒二日酔いの原因・タバコの依存性を高める・発がん性体臭の原因・大気汚染物質・シックハウス症候群の原因」などなど、マジでひどい書かれようです(でも事実)。

だから、こいつを分解するALDH2は、本当に重要なんですね。

もちろん、このステップさえ越えてしまえば、あとはお酢になって、酢酸自体は最終的に二酸化炭素と水にまで分解されますから、もう安心です。

酒飲みの方ですと、「それなら酒を飲むことはお酢を飲むことと一緒で、むしろ身体にいいやんけ!酢を飲んで健康ーっ!」と思われるかもしれませんが、やはり残念ながら途中のアセトアルデヒドによるマイナス面の方が遥かに大きいので、代謝学的・身体的側面で見れば、お酒を飲むことは害しかないと断言できるように思います。

ただこれも以前の記事で書きましたが、お酒を飲んで気分が良くなるなどの精神的なメリットがあるなら、それは絶対に十分な意味があることだと思えてなりません。

結局、(これは個人的な直感で、特に裏を取ったわけでもデータがあるわけでもないですけど)あらゆる要素で健康に悪いもの圧倒的No. 1はストレスだと思いますから、ストレスを緩和できるのであれば、多少身体にダメージを与えるものであっても、トータルでは本当に有益だと思います。

すっかり長くなりましたが、もう1点だけ有機化学講座なので分子レベルで物質に着目しておきましょう。

エタノールを分解するとアセトアルデヒド、さらにそれが分解されて酢酸になるわけですが、エタノールより簡単な物質、Cが1つのメタノールだとどうなるのでしょうか?

当然、アルコール→アルデヒド→カルボン酸という流れは同じであり、メタノール代謝経路はこんな感じになります。

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Wikipediaメタノールホルムアルデヒドギ酸)より

メタノールから生まれるアルデヒドは、ホルムアルデヒド (HCHO)、カルボン酸は、ギ酸 (HCOOH)になります。

(ちなみに、もう何度か書いてて今さらですけど、アルコールは-OHですが、アルデヒドの場合、アルデヒドであることを明示する意図での1行表記だと-CHO、カルボン酸の場合は-COOHと書く決まりになっています。特にアルデヒドが何か変な感じですが、これはそういう決まりなんですね。
 つまり、アセトアルデヒドは分かりやすく1行で書くとCH3CHO、酢酸はCH3COOHとも表記されることがある、という形です。)

メタノールは、目タノールと書かれることもあるぐらい(いやないですけど、冗談でそういわれることはある)、飲むと失明する・死ぬという話は有名です。

日本中毒学会のページによると、ヒトの致死量は30~100 mL程度であり(つまり、アルコール度数5%程度のメタノールビールがあったら、500ミリリットル缶でも飲み干したら、無事ご昇天するぐらいですね)、わずか10 mL程度飲むだけで失明に至るようです。

このようにメタノールはパネェ毒性を示すことが知られていますが、その原因は、やはり代謝産物であるホルムアルデヒドとギ酸にあるんですね。

ホルムアルデヒドは、これはもしかしたらアセトアルデヒドより身近でよく聞く物質ですかね?

先ほどアセトアルデヒドでも挙げられていましたが、シックハウス症候群といえば、ホルムアルデヒドの方がより戦犯として挙げられている気がします。

新築の家の建材や家具で使われている、身体に有害な危険物質ですね。メタノールを飲むと、蒸気で吸うのではなく、これが体内でモロに生成されるわけですから、一人シックハウス症候群になり、シックになっちゃうのも致し方なしのヤバさがあるわけです。

関連してさらに有名なのとして、ホルムアルデヒドが水に溶けたものをホルマリンと呼ばれるのですが、理科室のホルマリン漬け(まぁ今時ホルマリン漬けの標本がある理科室なんてない気もしますけど)は、まさにこいつなのです。

細胞が固定されて、微生物すら繁殖できない状態なのがホルマリン漬けですから、生きてる細胞にはどれだけ厳しい状態なのかは想像に容易いと思われます。

一方、ギ酸の方は、これは酢酸より断然マイナーですが、漢字で蟻酸と書くように、アリさんに多く含まれる酸として有名です。

なので、アリんこを食べたことのあるワイルドな野生児の方ならご存知かもしれませんが、アリさんは蟻酸を多く含むので、食べたら酸っぱいといわれていますね(僕は食べたことないので知りませんが)。

まぁアリはともかく、人間は蟻酸を酢酸のようには速やかに分解できないことから、体内に溜まりやすく(一応、蟻酸もさらに酸化されて炭酸になり、最終的に二酸化炭素と水になりますが)、体内のあらゆる所を攻撃するヤベェやつなんですね。

基本的に、代謝反応の都合で、炭素の数が偶数個のアルコールはまぁ一応安全で、一方、奇数個のアルコールは(代謝の結果)毒性が高くなりがちといわれています。

つまり、炭素が2個のエタノールや、4個のブタノールは、もちろん一気に多量に飲むとこれも危険ですけど、炭素が1個のメタノールや3個のプロパノール5個のペンタノールなどよりは安全になっているのです。

だから、「この内どれかのアルコールを飲み干さないと出られない部屋」に閉じ込められた場合、生き延びるために、炭素の数が偶数個のものを優先して選ぶようにしましょう(いやどんな状況だよ(笑))。

(…とずっと思ってましたが、イソプロとか実験室でもよく使われるし、調べてみたらプロパノールはそんなに毒性は強くないんですね。でもまぁ原則として、炭素が偶数個の方が、代謝産物は安全と覚えておいていいと思います(少なくとも僕はそう習いました)。)


…という感じで、結局いうほど生活に密着しておらず、これを知ったところでお酒に強くなるわけでもお酒が美味しくなるわけでもない話でしたが、分子レベルではお酒はこんな風になっているんだ(お酒は、お酢の親?)というイメージをもっておくと、人生が少し豊かになるかもしれませんね(強引なまとめ)。

実はアルコールに関してはまだもうちょいネタが残っていたため(ちょうどまたご質問もいただいていました)、次回ももう少し続く予定です。

日常生活に根付いた有機化学ネタも、せっかくなのであと少し見ていきたいですね。

ってわけで、なおも続く…!

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