順番に芳香族化合物で、簡単なものから見ていくとしましょう。
前回は、ベンゼンにメチル基(-CH3)が1つついたトルエンと、そこに更にニトロ基(-NO2)が3つもついたTNT(トリニトロトルエン)を紹介していました。
順次、色々な官能基が付いたら何と呼ばれる物質になるのかを見ていきたいですが、まずちょっと官能基について、少し脱線して触れておきたく存じます。
メタンの腕が1つあいている状態(-Hが1つ取れてる状態、つまり-CH3)がメチル基だったように、このベンゼン自体も、-Hが1つ欠けて他の化合物につながる準備万端の状態、つまり官能基としても呼び名が当然存在するのです。
ベンゼンはちょうどいい記号がないので文字表記が難しいのですが、まぁ六角形に○が入ってる感じのに近いものとして「-◎」と書くと(実際には簡略表記であってもこう書くことはない、メチャクチャ表記ですけど)、この官能基は、メタン→メチル基なので当然ベンゼン→ベンジル基かと思いきや、マジで何でやねんと思える罠のような感じで、そうではなく、これはなぜかフェニル基と呼ばれています。
だから、「◎-CH3」のトルエンは、メチルベンゼンともいえるし、さらに見方を変えて「メタンにフェニル基がついている」と考えることで、フェニルメタンと呼ぶこともできるということですね。
(もちろん、そのどちらとも呼ばれることはまずなく、慣用名「トルエン」で呼ばれるわけですが。)
フェニルという単語は何気に今までにも出てきており、20種類あるアミノ酸の1つ、フェニルアラニンは、そういえば「アラニン」というアミノ酸もあったわけですが、ズバリ、アラニンにベンゼン環がくっついたのが、まさにフェニルアラニンだったという形なわけです。
まぁ、アラニンもフェニルアラニンもかろうじて名前が出てきただけで、特に詳しくは触れていなかったので、大して感動も何もないとは思いますが…。
ちなみに、ややこしいことにベンジル基というのも実はあって、これはまさかの、ベンゼン環だけではなく、なぜかトルエンの-CH3の方のHが1つ取れた、いわばトルエンが丸ごとくっつく官能基になります。
つまり「◎-CH2-」というものが何かの化合物につくと、それは「ベンジル○○」と呼ぶこともできるということですが、まぁ入門編では一切出てこないので無視でいいでしょう。
官能基の話で長くなりましたが、続いての芳香族化合物、いってみましょう。
やはり有機物の基本・単純なものは炭素と水素ですから、まずはCとHのみのやつをざっと抑えていくとしますか。
まぁベンゼン環は炭素が6つもあるので、TNTのように複数の官能基がくっつけるわけですけど、前回最も簡単なメチル基が1つだけついたトルエンを見たので、次に単純なのはやはり、これにもう1つメチル基がついたものでしょう。
残念ながら全く聞きなじみもなく、実際面白い小話も何もないしょうもない物質になるのですが、メチル基が2つついたベンゼンは、キシレンと呼ばれる物質になります。
まぁ唯一語る点があるとすれば、メチル基の付き方は3パターンある、ってことですね。
上の図からも明らかですが、トルエンの時点でついていたメチル基からみて、すぐ隣の炭素にメチル基がつくもの(左右は、裏から見たら同じものなので、これはどっちだろうと同一物質)、その隣の炭素につくもの、そしてその隣つまり六角形の対角線上につくものの3種類ですね。
これらは、順番に、位置関係で「オルト(o-)」「メタ(m-)」「パラ(p-)」と呼ばれるもので、高校の有機化学で覚えさせられます。
まぁベンゼン環の位置関係を語る上で便利な用語ではありますが、ぶっちゃけほぼこのキシレンでしか出てこないので、どうでもいいっちゃいいんですけどね。
一応、受験生には必須の知識ですが、入門編ではそういうのもあるというただの豆知識で、覚える必要性は皆無といえましょう。
なお、Wikipediaの図でも併記されている通り、メチル基が2個なので、場所も指定した上で、オルトキシレンなら1,2-ジメチルベンゼンとか呼ぶことも可能です。
(まぁ多分o-キシレンの方がよく使われますが、そもそもキシレンとかいう存在感のないやつを呼ぶこともほぼないので、どっちでもいいでしょう。)
これもトルエン同様毒性が高い(そこまでではないけど、有害物質)うえ、大して役に立つこともないので、単に名前(とオルトメタパラの関係性)を覚えさせられるためだけに存在している、まぁどうでもいい輩ですね。
ちなみにメチル基が3個つくやつは、もちろん存在しますが、高校化学では触れることすらないぐらいの、さらにどうでもいい存在の化合物になっています。
僕も、Wikipediaで見るまで名前すら知りませんでしたが、これも3種類の異なる構造の物質が存在することになります。
メシチレンぐらいは名前を聞いたことがあるかな?…ぐらいで、まぁこの世にいてもいなくてもいい、カスみたいな存在ですね(いや実際工業用途では使われているようなので、それは言い過ぎですけど(笑))。
さらに、メチル基4つのテトラメチルベンゼンは…
もはや、各物質のWikipedia個別日本語ページすらなし!
(一応、デュレンだけはありますが、見る価値なしのゴミページ)
…そして、メチル基5つは、ここまでくると逆に「Hが1つ」ともいえるので、トルエンの逆バージョンであり異なる構造のものは存在しないわけですが、もう画像も貼りたくないぐらい、「映す価値なし」の物質…
メチル基6つなら、多少バランスは良さそうだし何か現実世界で使われてるのかな?と思いきや、これまた何者でもありませんでした。
一応、メチル基4つまでは液体で、5つ以上からは固体になるようですが、「そう、関係ないね…」としかいえないどうでもよさですね。
ということで、ベンゼン環にメチル基がくっついたいわばこのトルエン(メチルベンゼン)ファミリーは、全く大した物質でも何でもありませんでした。
やはり、生きるために重要な物質、酸素様がいないと、ゴミカスみたいな性質にしかなれず、日常生活でなじみのある物質にはなれない感が強いわけですが、せめて何かベンゼン+C, Hのみでちょっとでも面白いやつはいないのでしょうか…?
メチル基の次に単純なやつは当然、Cが2つのエチル基(-CH2CH3)ですが、ベンゼンにこれがくっついたものは、慣用名すらないエチルベンゼンであり、こいつも目立つ点のない、単なる脇役カス…。
しかし、このエチルベンゼンから作られる、エタン部分からHが2つ除かれて(脱水素して)得られる物質、つまり、二重結合をもつ、いわばエチレンとベンゼンがくっついた形のもの(◎-CH=CH2)が、ついに来ました、誰でも知ってる有能物質!
そう、スチレン!
いや、聞いたことねーし(笑)と思われるかもしれませんが、別名をスチロールとも呼び、これは流石に聞いたことないとはいわせませんよ。
また、実はこれは有能物質の「モト」であり、現実的にはもう一手間ちょちょいっとかけることでおなじみ物質になるわけですが、その辺は、この芳香族化合物を見るシリーズが終わって次に触れようと思っている話になります。
まぁ詳しくはそのときに…としたいですが、名前ぐらいは触れておきましょうか、その名もポリスチレン!
スチレンはあまりなじみがなくとも、ポリスチレンと聞けば確実にぼやぁ~っとイメージが浮かぶことでしょう、代表的なプラスチック容器の材質ですね。
もちろん、スチロールという名前からピンとくる、発泡スチロールも、ポリスチレンの一種です。
いやぁ~、何とか、無能化合物のオンパレードかと思いきや、最後にハチャメチャ生活になじみのあるものがあってよかったですね。
なお、またちょっと官能基の名前ネタに触れておくと、エチレンの水素の部分がフリーの腕になっているもの、これは、「メタンがメチル基だから…エチレンのこれは、エチレル基?」かと思いきやこれも慣用名が用いられており、上のWikipediaの図の中にも顔を出していましたが、これはビニル基と呼ばれます。
そう、ビニール袋のビニルは、まさにこいつ由来の名前なんですね。
スチレンはビニル基をもっているので、何となく発泡スチロールとかはどことなくビニールっぽい感があることを考えると、なるほど確かにとスッキリ納得のいく話になっているのではないかと思います。
ということで、スチレンは、「フェニル基のついたエチレン」でフェニルエチレンとも、「ビニル基のついたベンゼン」でビニルベンゼンとも呼ぶことができる(そして毎度恒例の、実際普通はそうは呼ばず、慣用名で呼ばれるというのもいつも通り)というわけですね。
(ちなみに、「エチレン基」というのも存在して、これは、「-CH2CH2-」と書かれる、エチレンの二重結合が解かれて腕2本がフリーになった状態のものを指します。
腕2本ってことはそっからさらに複数のものがつながるわけで、結構複雑な感じですし、あんまり登場しないですね。)
そんな感じで、炭素・水素のみの芳香族化合物は、めぼしい所は大体このぐらいでしょうか。
次回は、酸素をひっつけてみましょう。