なぜメタ沈はないんだろう…?

ザ・細かすぎて面白くないエタ沈シリーズを続けていますが、ネタ不足・時間不足に悩む日々が続いているため、使えそうなものは使っていこうの貧乏性精神のもと、細かすぎるネタを続けさせていただきましょう。

 

「水に溶けたDNAを、目に見える白いカタマリにして沈めてやる」というエタ沈ですが、大まかな原理としては塩析と呼ばれるものであり、DNA水溶液に塩を加えて水への溶けやすさを減らしてやり、更にそこに追い打ちをかけるようにアルコールを加えることでDNAを析出する……という話だったわけですが、ここで使われる塩にはいくつか種類があります…なんてことをここ数回の記事で見ていました。

 

まぁ前回グラフなんかも見ていた通り、どの塩(えん)を使ってもまぁそこそこDNAは沈んでくるわけですけど、その後の実験で使う用途などを考えると、一般的には(多少混じってしまっても)各種酵素反応の邪魔をしない酢酸ナトリウムが使われることが多く、しかし「DNAを見てみよう!」的なキッズ科学実験教室なんかではもっと身近で使いやすい食塩を使われますが、その場合でもDNAは遜色なく沈む(=目に見えて現れる)ので、何ら問題がないようです……みたいな話でした。

 

それに関してまたちょろっと補足をしていこうと思ったのですが、まぁその前に、こないだ「塩も色々、アルコールも色々」などと書いていた通り、塩以外にも、アルコールの方にもいくつかバリエーションが存在しています。

 

まぁいくつかと言いつつ実際は3つしかないんですけど、それに関してはこないだも引用させていただきました、日大の春木さんによる虎の巻的なエタ沈記事(↓のPDFファイル)に掲載されている通り……

 

エタノール沈殿あれこれ(生物工学基礎講座・バイオよもやま話)

https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/8905/8905_yomoyama-1.pdf

 

…言うまでもなく、お酒そのものであるみんな大好き我らがエタノールと、それから2-プロパノール、そして通称PEGと称されるポリエチレングリコールの3種類になります。

 

まぁ「エタ沈」は言うまでもなく「エタノールを用いた核酸分子(DNAやRNA)の沈殿操作」を指す言葉なので、それ以外のアルコールを用いた場合はそう呼ばれず、「イソプロ沈」とか「PEG沈」と呼ばれる感じになるわけですけどね。

 

もちろん一般的には「アルコール沈殿」と呼称するのがベストだと思いますけど、まぁ「ペグ沈」はそこそこ響きも良さ気に聞こえるものの、「イソプロ沈」は語感も悪いのであまり呼ばれることはない気もするので、「イソプロでエタ沈」なんて呼ぶこともあるかもしれません(笑)。

 

ちなみに「イソプロ」について、春木さんの記事では「イソプロパノール」と記述されているんですけど、これは実は正確ではなく、化学用語警察によると、「2-プロパノール」または「イソプロピルアルコール」と呼ばないと不正確……というのを僕は化学の教科書だったかで習ったので、「用語警察に突っかかられても鬱陶しいな…」という意識のもと、自分で書く際は絶対気を付けるようにしているんですけれども、まぁそんなの絶対に通じますし、通称・慣用名で「イソプロパノール」と考えれば全然おかしくもなんともないですから、そんな細かいことは言いっこなしですね。

(…って、わざわざ突っかかってますけど、これは当然、記事水増しのためです(笑)。)

 

「イソプロ沈はあまり呼びませんねぇ…」などと書いていましたが、実はイソプロ沈自体はそこそこの頻度で行う実験でして、その理由がズバリ、PDF記事にもありましたけど、「加える量がエタノールよりも少量で済む」というメリットがあるからなんですね!

 

エタ沈において、エタノールはDNA溶液の2.5倍量を加えるので、1.5 mLの一般的なチューブでは、400 μL(0.4ミリリットル)程度が限界(=ここに1/10の塩=40 μLと、2.5倍のエタノール=1 mLを加えたら、ほぼ1.5 mLになるため)…なんてことを以前書いていましたけど……

…前回、「細胞からDNAなりRNAを抽出する際は、それなりの量の溶液を使わないとドロッドロで扱いにくくなります」などと書いていた通り、扱う細胞などが多い場合、たまに「もう少し沢山の溶液を使いたい…!」という場面があるんですね。

 

で、イソプロ沈においては、イソプロはDNA溶液の等量加えればOKなので、1.5 mLチューブを使う場合でも750 μLぐらい、エタノールを使う場合よりおよそ2倍弱の溶液を使ってDNAを処理できることになりますから、この差は結構大きく、非常にありがたい場面も多々あるのです。

 

とはいえPDF記事にもある通り、イソプロはエタノールよりも蒸発しにくいですし、残存してしまうとその後の酵素反応などに悪い影響を与えるため、しっかりと除く必要があるなど、実験操作の手間や注意する所も増えますし、エタノールよりも毒性が強いので、まぁ必要な場面以外ではやっぱりエタノールを使うのが基本になりますけどね。

 

でも、塩を変えて行うエタ沈よりも、今でも遥かによっぽど沢山行われている手法だといえましょう。

(僕もしばしばやっています。)

 

一方のPEG沈は、これもじっけんによっては今でもそこそこの頻度でやられる手法だと思いますけど、そういえば僕はやったことがないですね。

 

ポリエチレングリコールというのは、今まで触れたことはなかったかもしれませんがまぁ「エチレングリコール」の「ポリマー」なので、エチレングリコールという、両端にOHの付いたエタノールみたいな分子が、端にあるOHを1つ使って(HとOHがくっついて、水が取れることでつながっていく、脱水縮合)、ズラーっと手をつないでできた高分子重合体ですが……

 

ja.wikipedia.org

 

まぁ「いくつつながったか」に応じて、分子の重さで「PEG 600」とか「PEG 4000」とか呼ばれますけど、PEG沈で使われるのは、PDF記事によると「PEG 8000」という、結構大量にPEGがつながった分子のようです。

 

役割としては、「RNAは沈殿させず、DNAのみを選択的に沈殿させる」という効果が強く、また「非常に短いDNAも沈殿させない」ようで、そういう用途で歴史的に汎用されてきたようですけど、まぁ前回も書いていた通り、今時はそれ用にもっと便利なものも開発されているので、あんまり使われないかな…?って気もしますね。

 

そんなわけでアルコール沈殿には、エタ沈の他にイソプロ沈やPEG沈というものもあるわけですけど、ふと、「そういえば何でメタノールを使ったメタ沈はないんだろうか?」という疑問が頭をよぎりました。

 

エタノールが炭素2つにOH、イソプロが炭素3つにOHであり、炭素1つにOHのメタノールも、普通に使われていてもいいような気がします。

 

もちろんある程度目星はつきますけど、何か良い情報はないだろうかと検索してみたら、我らがQuoraにそのものズバリの「なぜDNAの分離にはエタノールだけが使われるんだい?メタノールも使えないの?」という匿名質問が存在していました(↓)。


こちらの説明を一部お借りさせていただきましょう。

 

www.quora.com

 

回答は、「Great question.」という、良い質問へのお決まりの賛辞の後、

 

「考えたこともなかったね、ただ、どれだけ検索しても、『毒性がある』ということ以外に、メタノールを使ってはいけない積極的な理由は見つからなかった。

 ただ、仕組みを考えてみると、水には極性(=電気的な偏り)があり、その極性を減少させることでDNAを沈殿させているのだから、それを踏まえて、各物質の極性すなわち比誘電率を見てみよう。

…この表にあるように、水の比誘電率は80、エタノールは24.3である一方、メタノールは33とあるね。

 ということで、メタノールを加えても、少なくともエタノールよりは極性の減少につながらないから、毒性をもつということも相まって、あえて使われることはないのではないだろうか?」

 

…といった説明がされていました。

 

まさに説得力しかない、大変分かりやすい解説ですね!

 

毒性の他にも、大切な「コスト」についても、まぁエタノールは酒税がかかるので実は高くつくこともあるんですけど、大学などの研究機関であれば免税製品もありますし、酒税がかからない場合は、需要の大きさから言ってもエタノールの方が圧倒的に安いので、わざわざ「危ない・高い・効果は弱い」というクソザコリキッドを使う意味なんて一つもない…という、実に合理的な理由でメタノールは選ばれないのだといえましょう。

 

(ちょうどこないだも、「メタノールを定期的に飲まされていた夫が失明」みたいなニュース記事を目にした記憶がありますが、炭素の数が一個違うだけなのに、メタノールは極めて毒性が強いんですね。

 ずーっと前の記事でも触れたことがあった気がしますが、代謝産物が酢酸という人体にとってそこまで毒をなさないものか(=エタノール)、ギ酸という非常に強い毒性を持つものか(=メタノール)の違いが主な理由かと思われます。)

 

…と、それに関して言えば、大した話でもありませんが、以前、「アルコールランプが、学校から消える…?」というニュースを目にした記憶が蘇ってきました。

 

アルコールランプというのは、このブログをお読みの方であれば恐らくご存知…

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/アルコールランプより

…こんな感じの、小学校の理科室にあって、実際理科の実験で使った記憶のある方も大勢いらっしゃると思うのですが、どうやら主に「危険」という理由で、10年前の記事で既に「絶滅危惧種」扱い……

 

news.livedoor.com

 

blog.miraikan.jst.go.jp

 

…そして2020年の教科書改訂で、基本的には理科の教科書から完全に消え去ってしまたようですねぇ~。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

 

www.news-postseven.com


代わりに、まさかのカセットコンロが使われる、あるいはそもそも火を使う実験をしなくなっている…なんて記述も目にしましたが、僕の頃はメタノールを入れて使っていましたけど、メタノールの毒性も相まってエタノール中心にシフトされていった記憶もあるものの、ついに存在そのものがなくなりそうだということで……

…まぁ正直、特に愛着なんて微塵もないですし、「消し方」として「フタを被せて消します」とかいうの、子供心に「危ねぇにも程があるだろ(笑)」って思っていましたから、僕はあんなの絶滅してもいい気がしますけどね(笑)。

 

実際家庭で使う訳なさすぎますし、ほぼ無意味な過去の遺物といえましょう(笑)。

 

ちなみにアルコールランプは、あの紐が燃えているのではなく、「紐が吸って蒸発したアルコールが燃えている」というのも意外なポイントですけど……

…と、うーん、もうちょい色々アルコールランプの面白エピソードを書こうと思ったのに、時間不足で全然中途半端な話しか書けませんでした。

…ま、上述の通り別にこれっぱかしの思い入れもないのでヨシとしましょう(笑)。

 

エタ沈関連、もうちょびっとだけ続く形です。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村