前回、原子の腕の数うんぬんで有機化学のイロハに触れていたので、せっかくの機会ですし、「あっ、これ、聞いたことある!進研ゼミでやったところだ!!」と思ってもらえるような(まぁ進研ゼミではないですけど(笑))身近な物質のみに注目して、いくつか有機物を紹介してみようと思います。
腕2本の酸素で一番簡単なH2O、腕3本の窒素で一番簡単なNH3については、それぞれ水、アンモニアでしたが、最も簡単な有機化合物である、腕4本にHがつながっただけのCH4は何なのでしょうか…?
こちらは、そんな有名なやつでもないのが残念なんですが、CH4はメタンと呼ばれる物質になります。
まぁでも、メタンガスとか、どっかニュースとかで聞いたことある気がしますね。ただ、日常生活ではあんまり出てくることはないかもしれません。
ではその次に簡単な物質として、CH4の内、1つのHがCになった、Cが2個の炭素と水素の化合物はどうでしょう?
言葉だと分かりづらいですが、2つ目のCも残り3本の腕でHを従えていますから、この物質はC2H6となるんですね(後で構造式の図も貼るので、それを見れば一目瞭然です)。
このC2H6は、エタンと呼ばれます。
エタンは…全くなじみがないですかね…?
しかし、こいつから派生してできるものは、多くの大人たちが日々お世話になってる、激クソおなじみの物質になります。また後で出てくるので楽しみに待ちましょう。
そして続いてCをもう1つ増やして、炭素3つの単純な有機物、化学式で書くとC3H8となりますが、これは何と呼ばれるかというと、プロパンです。
メタンより、エタンより、C3つのこいつが、明らかに一番なじみがありますね!
「これを導入している所は絶対に借りない方がいい、超絶地雷物件」と、賃貸に詳しい人の間では忌み嫌われている、プロパンガスのプロパンです。
(まぁ別にプロパンが悪いというわけではなく、都市ガスと比べて料金がとても高いというだけなんですけどね。
冬場とか、風呂に入るだけでもめっちゃ気が引けてしまい精神衛生上よろしくない、という点はあるかもしれませんが。
使用量にもよりますけど、プロパンガスは大体都市ガスの2倍の料金になる、っていわれていると思います。)
有名なプロパンが出てきたところで構造式の図をまとめると、こんな感じですね。
Wikipedia(メタンとエタンはこの形式の図がなかったので、自作)より
炭素と水素からのみ成る、最も単純な形の有機化合物……あっ!「炭水化物」って、これのことなのか!!…と思われた方は、非常に鋭いんですけど、実は違います。
炭水化物は「炭素と水 (H2O) から成る化合物」のことであり、炭素と水素のみから成るものは、「炭化水素」と呼ばれます(まぁもうちょい具体的なグループ名があるので、あんまりそうは呼ばれませんけど)。
ちなみに、炭素の数が4つ、5つ…と増えていった物質にも、当然名前がありますが、実生活には登場しないのがほとんどですね。
一応名前(と何となくの覚え方)だけ触れておくと、
・ブタン(C4H10:ここまでがオリジナル的名前で、4は「ブタ」という日本人にとって覚えやすい名前)
・ペンタン(C5H12:5を意味するギリシャ語。五角形はペンタゴン)
・ヘキサン(C6H14:6を意味するギリシャ語。六角形はヘキサゴン)
・ヘプタン(C7H16:7を意味するギリシャ語。これは5と6に比べてなじみが薄いけど、七角形はヘプタゴン。セブンがヘプタと微妙に近いと覚えるかしかない…?)
・オクタン(C8H18:Oct=8というのはなじみがあるはず…タコ=オクトパスは8本足だし。ただ、「Octoberが10月」という罠みたいなものがあるのは腹立つのりって感じだけれども、これは、昔のローマ暦は3月開始だったので、3月から数えて8番目という、マジで腹立つのりと思える形になってるけど我慢しましょう。
一応これだけは実生活でもなじみがあって、ガソリンのハイオクは、「オクタンの割合がHigh」の略!)
・ノナン(C9H20:9を意味するギリシャ語、nonaから。ちなみに、マイナス9乗を意味するnano(ナノ)の方がなじみ深いから勘違いしやすいけど、ナノンではなくノナンであることに注意。ややこしくて腹立つのり!(…っても、ノナンなんてほぼ出てきませんが))
・デカン(C10H22 :ギリシャ語で10を意味するdecaから。10という切りのいい数字で、デカそうなイメージにもピッタリ。ちなみに、デシリットルという小学校でしか聞かない単位のデシ (deci) も、これの仲間で(10分の1を意味するラテン語)、10=decというのは、結構使われる接頭語)
もちろんCが11個以上つながったものも存在するしそれぞれちゃんと名前もありますけど、まぁなじみもなければ知識として必要なものでもないので、無視してOKでしょう。
この炭化水素についてももうちょい触れようかと思いましたが、あんまり面白くないし無駄にややこしくなるだけなのでまぁ保留でいつか触れる機会があったらまた触れるとして、少し発展させましょうか。
炭素と水素のみから成る物質を見てきましたが、次に単純なのは、当然、「酸素をちょちょいっと足してみる」感じといえましょう。
Oには腕が2本ありますので、CとHの間にOをグイッと挟んでやるのがよさそうです。
結論からいいますと、先ほどズラッと挙げた炭化水素の-Hが-OHに変わったものを、「アルコール」と呼んでいるのです!
出た!超絶なじみのある物質!!
名前の付け方ですが、先ほどの「~アン(ane)」で終わっていた名前の末尾を「~オール(ol)」と変えるだけという、とても分かりやすいルールになっています。
(なので、-OHをもつものの総称が「アルコール」であることから推測が立つかと思いますが、上で挙げた炭化水素は「アルカン」と呼ばれています(アルク・オールでアルコール、アルク・アンでアルカン)。)
先ほど上で書いていた「激クソおなじみの物質」は、これだ!
あぁ、OとHの間に手があったりなかったりしますが(当然、ちょっと表記の仕方が違うだけで、全く同じもの)、メタンのHが1つOHになってメタノール、エタンのHが1つOHになってエタノールになるんですね!
恐らくどちらも聞いたことがあると思うのですが、特に身近でおなじみ・人類の味方・神の物質と古来より崇め讃えられてきたのは、エタノールですね。
説明不要でしょう、エタノールとは、お酒のことです!
ビールにワインに日本酒にと、お酒には色々ありますが、お酒がお酒である所以、一般的には「アルコール」と呼ばれる飲み物は、全て、このエタノールを含んでいることに起因します。
(「アルコール度数 ○%」は、エタノールの濃度のこと。)
もちろんお酒だけでなく、エタノールは消毒用にも使われたりしますね。
エタノール(特に、水を少し混ぜた70-80%ぐらいのエタノール)には、強力な殺菌作用があることも知られており、医療現場どころか、最近ではご家庭でもよく使われている物質でしょう。
(手に付けたらスースーして気持ちいいやつですね。ただ、本当に強力な殺菌作用がある化学物質なので、消毒用エタノールも、過剰に付けすぎると手が荒れます。
研究の現場でもよく使われますが、「ま、エタノールだし」と油断して素手でジャブジャブ触れていると、案外すぐ手がボロボロになります。
また、お酒に弱い人(例の、分解酵素ALDH2が、無力なKK型の人)は、肌に付けただけでも、肌から吸収される分で噴射した部分がかぶれたり赤くなっちゃったりもするので、注意が必要ですね。)
そういえば前回有機物は腐ると書きましたけど、モノによっては腐らない有機物(どころか殺菌消毒に使えるもの)も存在する、ってことになりますね、よく考えたら。
(エタノールに限らずアルコールは、蓋を開けて放置しても、決して腐りません。というか、エタノールは沸点が低いので、蓋を開けて放置すると、アルコール分だけ飛んじゃう感じです。
結局、モノが腐るには水と栄養が必要で、有機物自体は基本的にとても良い栄養源ではあるんですけど、アルコールには強い脱水作用があるので、微生物はアルコールの中では増えられないんですね。)
エタノールの絡むこの辺が最も身近に感じられるネタだと思いますが、スペースもなくなってきましたし、もうちょい詳しい話はまた次回に持ち越しにしようかと思います。
一応もう少し、身近な話から外れますが、もう少し炭素の多いアルコールも最後ちょろっと見てみるとしましょう。
…と、その前に、そのネタにも関連するのですが、先ほどのメタノールとエタノールの図を見て「OHは右についてるけど、右じゃなきゃダメなの?」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
これは実は、ただこう書いているだけで、-OHがつながるのはどこでも構いません。
冷静に考えれば、例えばメタノールですと上下左右どこにつながっていても、見る場所を変えれば全く同じ…というか、描かれた紙を回転させるだけでも全く同じであることは、明らかでしょう。
エタノールも同じで、上の画像だとOHは右のCにつながっているように見えますが、裏から見たら、これは(裏に立ってる人にとって)「左のC」に見えるわけですから、事実上、順番(向き)などないのです。
一応この図からは、「でも、上・横・下のどの腕につながってるかは、違いがありませんこと?」と思われるかもしれませんが、腕一本でつながっている部分(C-C)は、実は、グルグル回転することが可能です。
さらにその上、ちょっとまた説明が複雑になっちゃいますけど、平面上にお絵描きするためにまっすぐ並んでいるように描かれていますが、実際の分子は、立体的につながってできています。
ちょうど、メタンのWikipedia画像が分かりやすいですね。
この通り、ピラミッド型といいますか、右上の画像でいうと太線が手前、破線みたいなのが奥に伸びていることを示しているんですけど、実際の分子はこういう感じなのです。
それを踏まえて、一本腕で手をつないだ部分はグルグル回転できることと、Cを中心に4本腕はそれぞれピラミッド型に伸びていることとを総合すると、先ほどの画像で右にいるように見えたOHはちょっとC-Cの軸が回転すれば下に行きますし、さらに回せば上にも行きますし、現実的にどこに描こうと、実質的な違いは存在しないんですね。
(ちなみに、二本の手を同時につないだ二重結合になると、これは回転できないんですけど、まぁ今はどうでもいいでしょう。)
…うーん、ちょっとややこしいかな…?
まぁぶっちゃけこんなこと理解する必要は一切ないんですけど、一応、冷静にじっくり考えたら、OHがどこにくっついていようと、見る場所を変えたり回転させたりすれば、全て同一物質であることは間違いない感じになっています。
しかし!
炭素が3つつながると、つまりプロパンのアルコール、プロパノールになると、話が変わってくるのです。
要は、↓の2つは、どう回転させてもどこから見ても一致しない、全く別の物質である、ってことですね。
1番目の炭素にOHがつながるものを1-プロパノール、2番目の炭素につながってるものを2-プロパノールと呼んでいますが、まぁこの例なら「別物であること」は割と明らかですね。
真ん中のCにOHがついてるやつは、どう考えても、端っこのCにつながってるやつと、同じにはなりようがありません。
ただしというかちなみにというか、プロパンにOHが1つついたものは、この2つ以外には存在しません。
「3-プロパノールは?」と思われるかもしれませんが、これは、エタノールの場合と一緒で、紙の裏側から見たら、その3番目のCは1番目のCと区別がつかないんですね(左右対称だから、向きがないので)。
なので、「3-プロパノールもありそうかと思いきや、それは1-プロパノールと全く同じもの」なのです。
…いやわざわざ触れておいてなんですが、この辺が有機化学を学び始めて最初に嫌になるポイントですし、入門編では全く気にしなくてもいい話だと思います(ただ、受験では超重要)。
受験で重要ですし、当然、現実世界でも、1-プロパノールと2-プロパノールは、性質も、現実的にいうと値段も、かなり違います。
プロパノールも実験・研究の現場でめちゃくちゃ使われますが、圧倒的に、ほぼ100%レベルで、2-プロパノールが使われます。
(こちらは「イソプロピルアルコール」とも呼ばれるので、通称「イソプロ」と日本では呼ばれてますね。)
化学物質の試薬メーカーとして世界で最も有名なSIGMAの定価を調べてみたら、1-プロパノールが2.5 Lで202ドルに対し、イソプロは同じ2.5 Lで95.2ドルと、半額未満でした。
…ってまぁこれも本当にわざわざ触れる必要もない細かい話ではありますが、当然、炭素の数が増えるごとに、存在するアルコールの種類は増えていきます。
Cが4つのブタノールには4種類の、Cが5つのペンタノールには8種類のアルコールが存在している、みたいな感じですね。
(そもそもブタン自体が複数の構造を取り得る(Cが直線に並ぶか、途中で枝分かれするか)ので、Cが4つ以降は、パターンの数が加速度的に増えていく感じですね。)
…まぁ、掘り下げるといくらでも複雑になってしまいますし、マジで重要な話ではないので、この辺の複雑な内容は忘れてください。
(でも、考えることが好きな方でしたら、この辺は本当に面白い話になっているようにも思います。)
結局無駄に長くなってしまいましたが、次回はエタノールを中心に、その辺の話にまた少し触れてみようと思っています。