塩とアルコールは順番も大事

ひたすら脱線に脱線を重ねて何記事もネタ出しを助けてくれた物理小話シリーズも、ここ最近の面白錯覚画像でついに在庫が尽きてしまいました。

 

もう一回ぐらい有名所の錯覚ネタに触れてお茶を濁そうかとも思ったのですが、まぁあまりにもワンパターンなのでやめておきましょう。

 

そんなわけでようやく途中状態だったネタへと戻っていく形になるわけですけど、最早何の話でどこに戻るのかも定かではないほど前のことになりますが、DNAをキレイに精製するための生化学実験で汎用される手法、「フェノクロ・エタ沈」についての話でしたね。

 

con-cats.hatenablog.com

 

遠心ネタに端を発し、物理系の話に逸れたままちょうど1ヶ月も経っていましたが、フェノクロ・エタ沈の各ステップ(↑の記事で見ていた話)についての補足を見ていくという話でした。

 

(フェノクロでもエタ沈でも使われる遠心ステップについて、遠心力などなどから様々な物理ネタに脱線していた形ですね。)

 

まぁ実はもう補足って程のものもなかった…というか細かすぎて取り上げる程のものでもないようにも思えた…というのがより正確かもしれませんが、とはいえ他に中々ネタもない状況ですし、せっかくなのでまたそちらに触れていくとしましょう。

 

タンパク質を除くための「フェノクロ」ステップについては、DNA溶液にフェノクロを混ぜて遠心後、DNAが溶け込んでいる、上清に来る水層を回収する(タンパク質は、フェノール層との界面に出てきて取り除ける)…という話で、まぁその遠心について補足ネタに触れていたわけですけど、フェノクロに関してはもう、特にそれ以外は特筆すべきこともない感じですね。

 

ということで、続きのエタ沈のステップから見ていきましょう、上記プロトコール紹介記事から、再度掲載です。

 

(以下、いわゆる「エタノール沈殿」の工程)

 

9. 塩を加える

Add one tenth volume of 3 M NaOAc

=1/10の量の、3 mol/L 酢酸ナトリウムを加える

 

10. エタノールを加える

Add two volume of 100% EtOH

=2倍量の100%エタノールを加える


まぁ難しいことは何もなく、フェノクロ後に上の層に来るDNA水溶液に、塩を加え、更にエタノールも加えることで、いわゆる「塩析」という現象で水に溶けていたDNAが目に見える白い沈殿として現れてくる…という手法ですけれども、まぁ実際にエタ沈をやってみる方なんていないと思うので細かい点はどうでもいい気もするものの、このステップにはいささか注意点がありまして……

 

まぁまず1つは、DNAが少ない場合、塩の他にキャリアーと呼ばれる共沈剤も一緒に加えることが多いわけなんですが、キャリアーについては、「エタチンメイト」という商品名で知られるものが代表例で、具体的にはグリコーゲンとかLPAといった高分子がその物質なのです……的なことは以前の記事(↓)で触れていましたけど…

 

con-cats.hatenablog.com

 

…まぁ要は、「DNAに塩とキャリアーとエタノールを加える」というのがエタ沈のほぼ全てと言えるわけですが、加える順番に注意が必要になっています。

 

上のプロトコール例では、「9. 塩を加える」「10. エタノールを加える」となっていますけど、時短のため、その前のステップ=フェノクロを加えてチューブを遠心で回している間に(=遠心はちょうど数分の待ち時間があるので、その時間を有効に使うために)、上層に来るDNA溶液を移すことになる新しいチューブにあらかじめ塩やエタノールを入れておきたくなるのが人情ではないかと思うのですが…

 

(何か下手な文でややこしいですが、フェノクロ遠心後には、上層のDNA溶液を、ピペットを使って新しいチューブに移す操作を行う、という形でした。

 その後、塩とエタノールを加えるんだから、「あらかじめ遠心の待ち時間の間に新しいチューブにそれらを入れておけば時間短縮になるんじゃない?」という発想ですね)

 

…具体的には1/10量の塩と、数マイクロリットル(本当に数滴レベル)のキャリアーと、2.5倍量のエタノールを加えるわけですけれども、ここで注意点として、地味に加える順番が大変重要になっているという点が挙げられるのです。

 

ズバリ、「DNAが、高塩濃度にさらされ、かつキャリアーと複合体を形成する」というのが重要な工程であることから、ポイントとしては「DNAと、少ない量の塩(+キャリアー)とが混ざり合うこと」が重要とされており、こいつらをまず一緒に混ぜることが強く推奨されているのです。

 

つまりどういうことかというと、フェノクロ遠心後のDNA溶液を移す予定の新しいチューブには、塩とキャリアーはあらかじめ待ち時間に新しい空きチューブに加えておいてもいいのですが、ここに先にエタノールまで加えてしまうと、エタノールの量は多いので、塩もキャリアーもかなり薄まってしまいDNAとの混合物・沈殿を形成しにくくなってしまうため、エタノールは最後に加えなくてはいけないというのが非常に重要なポイントなんですね!

 

(要は、DNAと塩+キャリアーの順番はどっちが先でもいいものの、エタノールだけは無駄に量が多くて各試薬を薄めてしまうので、一番最後(DNAと塩・キャリアーがしっかり混ざった後に)に入れる必要がある、ということ。)

 

まぁ実際、相当DNAの量が多ければ先にエタノールを加えても余裕で沈殿はすると思えますけど、DNAの量が少なくて沈殿が形成されづらい場合は、なるべく効率よく沈殿を形成するために、この順序は絶対に守るようにすべきだと、僕はBiotechnicalフォーラムの有識者から教わりました。

 

なので僕は毎度、

・DNAにフェノクロを混ぜてシャカシャカ振る

→遠心機にセットして遠心スタート

→遠心の待ち時間に、新しいチューブを用意し、塩とキャリアーを加えていく

……としており、まぁサンプル数によってはすぐ終わってしまいますが、多くのローターの最大サンプル数である24本のチューブを扱う場合なんかは、1本あたり5秒で入れても120秒はかかるので(実際はチューブのキャップに何のサンプルかのラベルなどする必要もあるので、1本5秒で終えるのは不可能ですしね)、新しいチューブに塩とキャリアーを加えて、DNAを移す準備を終えたらもうちょうどいい時間が経っているので、そこで遠心は止める感じでやっています。


もちろん、遠心を終えた上清DNAを「塩+キャリアー」が入ったチューブに一本一本ピペットで移動させるわけですけど、その後、2.5倍量のエタノールをまた一本一本ピペットで加えていく形ですね。

 

非常に細かいですが、実際の実験を行う上では何気に重要なポイントなので、これは気を付けるべきポイントだといえましょう。

 

その順番について描かれているわけではないものの、他にアイキャッチに使えそうなものもなかったので半ば強引に(笑)、DNAに塩を加えて沈殿が生じる仕組みについて簡単に説明してくれている画像を最後にお借りしてみますと…

…と思いきや、この辺の学術系のものは英語の方がやっぱりしっかりしたものが多い印象なので当初英語記事から借りようと思ったのですが、日本語でも「エタ沈 キャリアー」なんかで検索したら、順番もバッチリ描かれている画像がありましたね!


生命科学系の人には非常におなじみ、試薬関連で大きなシェアを誇るナカライテスク社の「グリコーゲン溶液」の商品ページに、簡単なエタ沈の概略図があったのでこちらをお借りさせていただきます。

https://www.nacalai.co.jp/products/entry/d002032.htmlより

そこまで順番が強調されているわけではないものの、DNA溶液にまず塩とキャリアー(この場合グリコーゲン)を加え、その後に撹拌した後アルコールを加えると、そういう流れであることが明示されていますね。

 

…とはいえ、これはあまりにも簡略図すぎて、2.5倍量入れるはずのアルコールを加えてもチューブ内の液量は全然変わっていませんし、分子レベルの仕組みは何一つ書かれていなかったのでまぁこれはこれとして(笑)、同じ検索で、これまた生命科学系・医学系の書籍で最大手といえる羊土社の特集で、エタ沈の記事がありました。

 

こちらは「Principle(原理)」とあるように、「なぜ塩を加えたらDNAが水に溶けなくなるのか」についての仕組みを説明してくれていますね!

https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/nucleic_acid/vol1.htmlより

…ってまぁこれは、結局「塩析」という現象を説明しているだけに過ぎないんですけど、せっかくなので軽くその仕組みに触れてみますと……


そもそもDNAというのは「デオキシリボ核酸」という名前の通り「酸」であり、水素イオンを出して自分自身はマイナスに荷電している物質なわけですが……

(上記画像にある通り、リン酸基がマイナスになっています。)

 

以前、「イオンが水に溶ける」話(↓)で書いていた通り…

con-cats.hatenablog.com

 

…水分子というのは酸素と水素の「電子の引っ張りやすさ」の違いで微妙に分子の中で電気勾配が生じており、この微弱な電気勾配(水素原子側が微妙にプラスに帯電)のおかげで、マイナスに荷電した物質は水素原子が優しくタッチすることで水と仲良くなり、結果として「水に溶ける」という状況になる、などと書いていたわけですけど……

 

マイナス電荷を多く抱えたDNAも、そのおかげで水によく溶ける性質を持っているわけですけが、ここに塩……羊土社の解説図ではMとなっていますが、陽イオンが加わることで、水分子よりも塩の陽イオンが強くDNAのマイナス電気(これは、リン酸基由来です)と強くくっつき、結果として水分子との相互作用が失われて、水に溶けにくくなる=沈殿となって固体として目に見えるようになると、それが塩析の仕組みですね。


エタ沈の場合は、水に溶けにくくなった状態に、更にエタノールを加えて追い打ちをかけることで完全に液体との相互作用を断ち切ってやるというのが流れになる感じです。


まぁ、長々と細かい説明をしてみたものの、正直そういう分子レベルの細かい話はどうでも良すぎると思うので、こんなのは無視した方がいいですね(笑)。

とはいえ羊土社の記事には他にも面白いデータがあったので、今回もともと他に触れようと思っていたまた少し別の小ネタとともに、エタ沈の補足を次回もう一回だけ見てみようかなと思っています。

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