そんなに都合いいものは存在しない

糖新生の残りの反応について、「単純な解糖系の逆行ではないものが、まだあります」として、解糖系の最終ステップであるピルビン酸→ホスホエノールピルビン酸(PEP)以外にもそういう「不可逆反応ゆえ、迂回する必要アリ」というものがあるため持ち越しましょう……と今回に持ち越してはみたものの、もう本当に出がらしのような、1ミリも面白くない話しか残っていない感じですね。

 

ネタが広がらなさそうすぎるので、前回のナンジャモカラーネタを今回にまわせばよかったと後悔していますが(笑)、まぁせっかくなのでそのどうでもいい残りの反応にも触れていくといたしましょう。


改めて、解糖系の流れがよくまとめられた例の一枚絵をお借りしておきますが……

https://ja.wikipedia.org/wiki/細胞呼吸より

…普通に「糖新生」のWikipediaページにまとめられている話でしかないんですけれども、その「同じ酵素を使って、解糖系とは逆反応を起こすことで分子を戻す」という行程が取れないステップというのは、前回見ていた「ピルビン酸→PEP」以外にあと2つほど存在し、それがちょうど、

・貴重なエネルギー分子であるATPを消費する反応(「貴重な」というか、「それを作るのが目的の反応なのに、消費してしまう」という、初期投資的な部分ですね)

…の2つでして、ズバリ、グルコースとフルクトースをリン酸化する初期の2反応がそれに当たります。

 

(というかそういえばこの図は概略図であり全反応が明記されているわけではないものでしたけど、一番先頭のグルコースグルコース-6-リン酸になるのは図の通りですけれども、それが変形されてできるフルクトース-6-リン酸は、そのまま中盤の主役・グリセルアルデヒド 3-リン酸になるのではなく、その前にもう一つリン酸基が追加されてフルクトース-1,6-ビスリン酸になるというのがより詳しい、実際の反応でした。

 糖新生で逆行できないのは、ちょうどその「フル6リン」に「さらにリン酸基を1つ追加する反応」になっています。)

 

糖新生のウィ記事から化学反応式をそのままコピペ引用させていただくと、その「真逆の反応ではない、迂回反応」というのは以下のように……

 

フルクトース-1,6-ビスリン酸+H2O → フルクトース-6-リン酸+Pi (⊿G'°=-16.3 kj/mol)

グルコース-6-リン酸+H2O → グルコース+Pi (⊿G'°=-13.8 kj/mol)

 

…という形で、ズバリ、単純にリン酸が取れる反応(脱リン酸反応)になっているだけなわけですが、この取れたリン酸(Pi)はADPをATPにする形では使われず、ただ取って捨てられるだけになっており(=遊離のリン酸となって、細胞内を漂う)、残念ながら貴重なATPを再生することは不可能なんですね。

 

要は、水分子が加わって「糖にくっついていたリン酸基」が「単独のリン酸」に戻るだけ=リン酸化糖が分解されるだけなので、この手の反応を加水分解とも呼ぶわけですが、まぁそんな名前というか用語はともかく…

もしここで普通に「ATPの再合成」が可能だったならば、糖を再合成しつつエネルギーまで獲得できるという夢のような永久機関が完成していたわけですけれども(まぁ、糖新生の他のステップでATPは使われているので、ここで2 ATPが増えたとしても、まだトータル収支がプラスではないわけですが…)、残念ながらそんな都合いい話は存在しない、って話になっているわけです。

 

まぁでも、より現実に即して言えば、仮にここでATP=エネルギーが発生していたら、飢餓状態のときでももっともっとバンバン糖新生が進むことになり、血糖値増加=インスリンが分泌されることで糖の脂肪への変換が促進される……ということになっていたはずですから、餓死はしにくくなる代わりに、飽食の現代では圧倒的により太りやすくなっていたとも言えるわけで……

…肥満が悩みの種になりがちな(というか、痩せる方が太るより圧倒的に困難な)現代人にとっては、この反応が都合よく逆行できてATPが再合成される形じゃなくてむしろよかったと、そうも言えるかもしれませんね(笑)。

 

いずれにせよ、生化学的・エネルギー収支的には、もし素直な逆反応が起きてATPが合成できていたら本当に大変ありがたかったわけですけれども、そうは問屋が卸さない、って形になっているという話でした。

 

なお、ATP⇔ADPの反応が関わるステップは、前回の「PEP→ピルビン酸」もそうでしたし、「こいつが絡んでくると逆反応が起こらないものなの…?」と思われるかもしれませんが、よく見るともうひとつ存在するATPが絡む反応=1,3-ビスホスホグリセリン酸からリン酸基がひとつADPに移って3-ホスホグリセリン酸になるステップ、これは普通に逆反応が起こるもののようで、素直に解糖系と真逆の反応が起こって戻っていく形なので、「ATPが絡むと一方通行の反応になる」というわけでは決してありません。

 

ただこの反応の場合は、逆反応が起こることでATPは消費されるわけですけど、基本的にATPを消費する反応の方が起こりやすいのは原則ですし(エネルギーを使って、何か起きづらい反応を無理やり起こしてあげている、という形なので)、まぁここが素直に「逆反応も進む」というのは自然のことかな、という風にも思えます。

 

ちなみにその辺の、「その反応が進みやすいか進みにくいか」みたいな話は、まぁ厳密に語るには大学で学ぶ熱力学の知識が必要になるのでめちゃくちゃザックリとした形にはなってしまいますが、先ほどウィキペディアから引用していた化学反応式の末尾に括弧付でちょろっと記載されていた、「ΔG」という、いわゆる「自由エネルギー変化」というものが参考になる話になっています。

 

エントロピーやエンタルピーという、概念としては(特にエントロピーの方は)それなりにとっつきやすいものの、数式も込みで厳密に語り出すと大変難しい話が絡んでくるため、改めて「かなり適当に端折ると」という但し書きが付きますが、自由エネルギーっていうのはその物質の持つエネルギーそのものであり、この数値が大きいと、(まぁ当たり前ですけど)抱えているエネルギーが大きいわけですが、エネルギーが大きいものを想像すると分かる通り、高エネルギーの物質っていうのは基本的に不安定になっています。

 

めちゃくちゃ暴れ回っているボールと大人しく動かないボールのどちらが安定して形を保てるか・その場にいられるか?……ということを考えれば明らかだと思いますが、言うまでもなく、世の中、低エネルギーの物質の方が安定しているんですね。

 

それを踏まえると、この「自由エネルギーの変化」が反応の前後でマイナスの値になっている場合、それは「反応後に物質の自由エネルギーは小さくなる」という変化になっているといえまして、これは言い換えれば「反応後にできた物質の方が安定している」といえますから、「不安定なものが安定なものに姿を変える」というのはどのような反応かといいますと、これは世の中、自然に起こることが多いわけで、基本的には自由エネルギー変化がマイナスの反応は、「自発的に起こる反応」であるといえる形になっています。

 

そんなわけで、リン酸化グルコースとダブルリン酸化フルクトースからリン酸基が外れる…という上で見ていた反応は、式を見ると分かる通り自由エネルギーがマイナスになる反応でしたから、これは自然に起きやすい反応であり、以前、解糖系の最初のステップを見ていた際、

「このリン酸化糖を作るのにATPが必要なら、元々リン酸化されてる糖を摂取した方がエネルギー効率はいいんでないの?何で生物はリン酸化糖を基準物質とするように進化しなかったの?」

…みたいな疑問を自問自答で書いていたことがあったんですが、その答のひとつがズバリ、リン酸化された糖は不安定であり、このように勝手に自発的にリン酸基がただ無意味に外れて、元の形へと戻ってしまうことが多いから、「多少エネルギーを消費しても、必要な時に糖へリン酸基をくっつけて、分解される前に次のステップに速やかに移行する」という形の方が都合がいいため……という話になっているわけですね。

 

(リン酸基がつくとか外れるとか、糖がどうとかややこしいにも程がありますが、まぁ落ち着いて読めば筋は通っている話かな、と思います。)

 

ちなみに、自由エネルギーの「G」は、この辺の熱力学理論を構築した偉大な化学者の一人、ウィラード・ギブズさん(↓)の名前である「Gibbs」から取られたもので(なので、自由エネルギーはギブズエネルギーとも呼ばれます)……

 

ja.wikipedia.org

 

…先ほどのウィキ引用式では「ΔG'°」と、アポストロフィと〇マークが右肩についていましたが、アポストロフィは「生理的な条件として、pH 7に固定して考える」、〇マーク(度数記号と同じ、右上の〇ですが)は「標準状態で考える」という意味(熱力学(生化学)における標準状態は「25℃、1気圧、各種濃度は1 M」となっています)ですけど、そんなのは特に気にする必要はないでしょう。

 

まぁ、マークの意味どころか、概念自体も本当に極めて心の底からどうでもいい話でしたが(そもそも説明そのものもめちゃくちゃ厳密性に欠ける、細かい部分を端折った適当なものですしね)、この辺の話が面白いと思われた方は、生化学や熱力学の大学生向けの本に目を通してみるのがオススメですね。

 

僕はあんまり面白いと思わないので、そっちが専門でもないですし、単なる「専門書をご参考ください」という逃げでしかないかもしれませんが(笑)。

 

今回も画像がなかったので、前回同様、まだ見ていないアミノ酸代謝経路の画像を貼ってみようかと思ったんですけど、今回全くその話も出ていなかったのに何やねん、と思えたので、まぁ、この辺のエネルギーうんぬんで都合のいい存在といえば「永久機関」だということで、久々にいらすとやの方から、有名な水車と水路のいらすとをお借りしましょう。


次回は……まぁちょろっと話に出してしまいましたし、その「各アミノ酸代謝経路」について、細かく見る意味も面白みも全くないんですけど、ザっと見ていこうかな、などと思っています。

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