脇役も見ていこう(中編:スクシン・合成)

クエン酸回路でグルグルと変わり続けていく炭水化物を見ていくシリーズ、前々回はケトグルタル酸まで見終えており、続きを見ていこうと思っていたら前回はケトグルタル酸にある「ケトン部」に話が脱線していました。


今回は本題に戻って、早速、ケトグルタル酸の続きから参りましょう。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/クエン酸回路より

 

つながりが分かるように、ケトグルタル酸(C5H6O5)の構造から再掲しておきますが…

https://ja.wikipedia.org/wiki/Α-ケトグルタル酸より


…続いては、NADの還元(=酸化型から還元型のNADHへ)と、脱炭酸、さらにはまたまた補酵素A(CoA)がしゃしゃり出てくるなど、結構大きな反応が起こるわけですけど、脱炭酸=炭素が1つ&酸素が2つ減って、かつ脱水素(「水素が取れる」のは「酸素がくっつく」のと同じ、酸化反応であり、ここで酸化が起きるから、NADは還元されるという形ですね。酸化と還元は、必ず同時に起こります=何かが酸化or還元されたら、必ず何かが還元or酸化される)も起きた結果、全体図にある通り、ここではスクシニルCoAなる分子が爆誕します。

https://ja.wikipedia.org/wiki/スクシニルCoAより


スクシニルCoAの化学式は、画像にも収めましたが、まさかのC25H40N7O19P3S……いきなりデケェー!!(笑)

 

とはいえまぁこれは当たり前ですけど、唐突に補酵素Aがくっついてきているからで、まぁいわば次の反応のためにこれまで色々いじってきた炭水化物本体に、結構デカい補酵素がひっついてるだけの中間体といえる感じですね。

 

補酵素Aの分子式はC21H36N7O16P3Sでしたから、差し引き、メイン部の「スクシニル」なる部分はC4H4O3になるわけですが、こいつは果たして…?

 

この大きなスクシニルCoA(まぁ上記画像は、大きなCoAは「CoA」のみの表記という力技で、あんまり大きくは見えませんけど(笑))はズバリ、サイクルの概略イラストにもある通り、スクシニルCoAシンセターゼという酵素の力で、補酵素Aが加水分解されることでコハク酸に生まれ変わるわけですが……

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/コハク酸より


…「加水分解」につき、先ほどのスクシニル部にさらにH2Oが加わりまして、化学式自体は「C4H6O4」となりますけど、スクシニルCoAの、硫黄原子Sの位置で手をつないでいた左半分がそのまま新しい分子になるということで、何てこたぁない、「スクシニル」ってのは、実はコハク酸そのもののことだったんですね。

 

それもそのはず、コハク酸を英語でいうと、Succinic acidであり(上記「コハク酸」記事の英語版↓)…

 

en.wikipedia.org

 

…まぁラテン語の「succinum」がズバリ「コハク」という意味ですけど(琥珀自体の英語はAmber(アンバー)ですが)、英語を知っていればこのつながりはあまりにも明白であるものの、なぜか日本語だと「スクシニル」と「コハク酸」と名前が別物になっているので、大変分かりにくい感じになっている気がします。

 

スクシニルを「コハクニル」とでも呼べば解決ですけどそれも命名ルール的にはおかしいので、コハク酸を「スクシン酸」と呼ぶ方がスマートですが、まぁ実際スクシン酸と呼んで通じなくはない(呼ばれることもある)とは思いますけど、「スクシン」なんて全く馴染みもないし単語自体は「コハク」の方が身近に感じますから、まぁ「コハク酸CoA」とでも脳内で読み換えればOKでしょうか。

(別に読み換えなくても、知識として自分が把握できてればそれで十分ではありますけどね。)

 

そんなわけで、スクシニルCoAとコハク酸はまぁ補酵素がついてるかついてないかの違いのみで、正味同じヤツだと考えても問題ない(まぁ共有結合でしっかりくっついているものなので、完全に別の分子ではあるんですが(笑))ものだと思います。

 

ちなみに、先ほどこの変換を担う酵素の名前(スクシニルCoAシンセターゼ)をあえて出していたのですが、どう考えてもスクシニルCoAの方が巨体ですし、「スクシニルCoAが分解されてコハク酸に…」というのが自然な意味合いに思えるものの、実は、「シンセターゼ」っていうのは日本語にすると「合成酵素」という意味になっているのです。

 

まぁこれは普通の英単語「synthesize」(シンセサイズ=合成する)を、酵素の語尾である「-ase」とくっつけたものなわけですけど、「synthesize」というのはあまり見慣れない単語かもしれませんが……と思いきや、あぁよく考えたらこれは余裕でカタカナ語で馴染みがあるやつでしたね、ピアノっぽい楽器「シンセサイザー」ってのは、ズバリ「音を電気的に合成して発する装置」のことなのでした。


まぁ「『シンセサイザー』という言葉で、『合成』にはつながらんやろ~、どう考えても普通は『音』とか『鍵盤』って意味が浮かんでくるんちゃいます?」とは思えるのであまりいい例ではないかもしれないものの(笑)、まぁ単語としては「合成する」って意味で、酵素名シンセターゼってのも、日本語訳すれば「合成酵素」となるわけです。

 

そう考えると、「スクシニルCoA合成酵素」ってのは、流れとしてスクシニルCoAは分解されるものだし、百歩譲って水が加わってコハク酸が合成されるから「合成」はいいとしても、「コハク酸合成酵素」じゃないとおかしくない?って気はするものの、まぁこれは改めて、酵素というのは両方向の反応を触媒可能なものなので、コハク酸目線に立てば(=逆方向の反応ですね)、「スクシニルCoAが合成される」ともいえますから、一応おかしくはない形の名前だといえましょう。

 

(というか、そもそもこいつは別名が大量にある酵素であり、「スクシニルCoAシンセターゼ」で検索しても自動で↓の記事に転載される形で…

 

ja.wikipedia.org


…しかも記事中にはその他の別名が大量に並んでいる感じですね。)

 

…と、その点もあやふやで面倒くさいというか面白い部分ではあるんですけど、実はわざわざこの酵素を取り上げたのには別の理由がありまして、最初に貼ったサイクル画像をご覧いただくと、この反応の酵素は「スクシニルCoAシンセターゼ」であるものの、最初の、オキサロ酢酸からクエン酸を合成する酵素の名前は「クエン酸シンターゼ」となっているのがお分かりいただけるかと思います。

 

そう、クエン酸の方は、回路の流れと同じ向きの、出来上がる方の名前が酵素に使われている……というのがポイントではなく、ズバリ、「シンターゼ」と「シンターゼ」と、真ん中の「セ」の有無に微妙な違いが存在しているんですね!

 

この違いは一体…??

 

まぁ正直、専門家でもめっちゃ適当に、そん時のフィーリングでランダムに使ってることもあるんですが(笑)、実は歴史的には使い分けが存在している……けれども、時代を経るごとに元の意味からは少しズレて定着している…という、まさにこないだ見ていた「タンパク質分解酵素」の名前の使い分け(↓)に似た部分があるものだといえるかもしれません。

 

con-cats.hatenablog.com

 

果たしてどういう違いがあるのか、ズバリ、Wikipediaの「Synthase」(これはシンターゼですね。ちなみにこないだの酵素記事で何度も書いていた通り、英語だと「-ase」は「エース」なので、これは「シンテース」みたいな感じであり、もう一方の「synthetase」はカタカナ表記だと「シンセターゼ」ですが、英語読みだと「シンセテース」的な感じになります)…に、バッチリ解説がありました(↓)。

en.wikipedia.org

 

日本語版の存在しない記事だったので、翻訳引用させていただきましょう。

 

生化学において、synthase(シンターゼ)は、合成プロセスを触媒する酵素のことである。

 

なお、本来、生化学的命名法において、synthetaseとsynthaseは区別されていた。当初の定義では、synthaseはヌクレオシド三リン酸(ATP、GTP、CTP、TTP、UTPといったもの)からのエネルギーを使用しないが、synthetaseはヌクレオシド三リン酸を使用する、という違いであった。しかし、Joint Commission on Biochemical Nomenclature(JCBN;生化学命名法に関する合同委員会)において、「synthase」は合成を触媒するあらゆる酵素ヌクレオシド三リン酸を使用するかどうかにかかわらず)に使用することができ、一方「synthetase」は「ligase(リガーゼ・ライゲース)」と同義に使用される語である、と規定されている。

 

まぁちょっとややこしく書かれてますけど、ずっと「生体反応でエネルギーが必要な場合、ATPが持つエネルギーが使われます」などと書いていた通り、何か化学反応を起こそうと思った際、場合によってはエネルギーが必要なものもあるわけですけど、元々は長い方の「synthetase」の方が、そういったタイプの、「ATPのエネルギーを必要とする酵素」に使われていた語だった、という感じですね。


短い方の「synthase」は、元々は「ATP不要」の、外部エネルギーなしに反応を進められる酵素のみに使われていたわけですけど、JCBNの規定によると、ATPを使う使わないにかかわらず、合成を行うあらゆる酵素について使えるのがこのシンプルな方にしよう、と決められたそうで、その辺、短い「protease」がタンパク質分解酵素全般を指すという感じだった「プロテアーゼ」に近いものがある気がします。

 

一方の、長ったらしい「synthetase」は「『ligase』と同義」という何の説明にもなってない感じでしたが、その「リガーゼ」というのは、このウィ記事にもある通り(↓)…

 

ja.wikipedia.org

 

…まぁこの記事もあんまり分かりやすくはないですけど、ズバリ、「ATPのエネルギーを使って、モノとモノをくっつける」という酵素のことでして、まぁモノとモノをくっつけたらそれは「合成」ともいえるので、合成酵素では間違いなくあるんですけど、この語の由来となった一般英単語「ligate」は「結合する・結紮する」という意味なので、個人的には「結び付ける」というイメージが非常に強い感じですね。

(もちろん改めて、モノとモノとを結びつけるという行為は、それすなわち「合成」といえるわけですけど、まぁだからこそligaseとsynthetaseは同義語なわけですが、やはりイメージとしては、何か新しいものを作り出すような「合成酵素」という大げさなものより、もっと簡単な「くっつけ酵素」って感じがするものだといえましょう。

…とはいえ、反応自体は簡単でも、逆にATPのエネルギーは必要となる形ではあるんですけどね。)

 

なお、synthaseの方が広いものをカバーしていそうな気もしますけど、実は分子生物学では、例えば「DNAとDNAをくっつけて、より大きなDNAを得る」みたいな実験を死ぬ程よくやりまくるので、どう考えても「synthase」よりも「ligase」の方が圧倒的によく使うし、日々呼びまくっています。


DNAの結合をする酵素なら「DNA ligase(ディーエヌエー・ライゲース)」みたいな感じで、まさに僕は今日も使いました(笑)。

 

…といった所で、まぁ「細かいことはどうでもいいでしょう」とか言っておいて、自分に馴染みがある分野の話だけはクッソ細かすぎることを嬉々として早口で語った感じでしたけれども(笑)、ちょうどイラストにも「シンターゼ」と「シンセターゼ」の2つが掲載されていたので、今回微妙な違いについて触れてみた次第でした。

 

まさに、専門家以外にはどうでもいい話なので…

(改めて、専門家でも正直「シンゴニョーゼ」みたいに適当に使ってますしね(笑)。さらに言えば、特に初学者の学生に多いですけど、酵素の名前の方が馴染み深いのか、「XXを合成します」と英語で言いたいときに、「synthetase XX」みたいに、「シンセテース なになに」って言っちゃう子(正しくは動詞の「synthesize XX」(シンセサイズ なになに))……まぁ非ネイティブがほとんどですが、結構いますねぇ)

…覚える必要性は皆無ですね(笑)。

 

では、また途中で逸れてしまって中途半端な区切りですが、次回こそは回路の最後まで見てしまおうと思います。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村