脇役も見ていこう(ラスト:回路の完成)

少しずつ見進めてきたクエン酸回路も、ようやく回路が一周しようかというところですね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/クエン酸回路より

前回は、リンゴ酸という、名前だけはめっちゃ親しみがありそうなのに、特にこれといってさしたる特徴もないやつで…

(特に生化学では、クエン酸回路の途中にチラッと顔を出す程度で(それも、例の細胞呼吸全体の画像だと省略されていたこともあるぐらいに、かなりの脇役)……ってまぁ一応、呼吸とは真逆の反応といえる、光合成でも顔を出すっちゃあ出すのですが、それも光合成ではマイナーな方の反応ですしね。

 ↓前回の続きということで、構造画像だけ再掲させていただきましょう)

https://ja.wikipedia.org/wiki/リンゴ酸より

…一応、上記リンクを貼ったリンゴ酸のウィ記事にもその記述がある通り、ここだけは名前負けしていない「爽やかな酸味がある」物質だそうで、実生活では酸味料などとして使われることもあるそうですけど、しかし構造も、左右対称だったフマル酸の二重結合がほどけて、ほどけた腕の両者にはHとOHという別のものがくっつくという、中途半端な形なのも、「恵まれた名前からの、クソみたいな特徴」という感を増しているかもしれません(笑)。


(とはいえその中途半端さのおかげで、こいつの中には不斉炭素原子が出現しますから(OHがつながっている炭素に着目すると、この炭素の4本腕には、「H」「OH」「COOH」「CH2COOH」がつながっているので、全員違うやつですね)、L体とD体が産まれる分子であり、まぁその特徴のおかげで、回路の反応経路を覚えようとする際には、思い出す良いきっかけ(「リンゴ酸はL-リンゴ酸って名前で、不斉炭素原子があるものだったな」という感じで)となってくれて、役に立つともいえるんですけどね。)

 

そして、「C4H6O5」となっていたリンゴ酸が最後、回路の終点であり、見方によっては外部から炭素を受け取って出発物質へとつながるものともいえる、オキサロ酢酸に変換されるという形になっています。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/オキサロ酢酸より


ズバリ、最初のサイクル画像にあったように、この反応で使われる酵素は「リンゴ酸デヒドロゲナーゼ」となっていますから、既に似たような話が何度か出ていたのでもうおなじみといえましょう……

ヒドロゲナーゼ=脱水素酵素のことであり、その名の通りHが2つ取れる、すなわちHとくっついていた炭素の腕が2本フリーになるということで、そのフリーになった腕同士はどうするのが一番楽かというと、そいつら同士で手をつなげばそれでつながれた腕の数の辻褄は合ってOKですから、基本的には脱水素されると二重結合が発生することが多い形になっています。

ここ(リンゴ酸→オキサロ酢酸への変換)では1つの炭素からではなく、OHのHも使われるため、CとOが二重結合になるわけですけど、この場合も普通に(反応前のリンゴ酸と比べて)二重結合が新たに1つ産まれていると、それだけの感じですね。

 

化学式は、「C4H6O5」だったリンゴ酸が脱水素されることで、当然Hが2つ減った「C4H4O5」になるわけですけど、カルボキシ基が3つもいたクエン酸が紆余曲折を経て少しずつ小さく、またちょろっとずつ構造が変換され続けてきた結果、最終的にここに落ち着き、こいつに外部から入ってきたアセチル基がつくことで…

(ちなみに、反応的にはアセチルCoAのアセチル基が転移されるんですけど、実は反応の後半では水分子も付加されるので、分子的には酢酸そのもの(CH3COOH=C2つ・H4つ・O2つ)が付け足されたことになります。

 あまりにも細かすぎてクソほどどうでもいいですが、実際の詳細な反応機構は、この反応の担当者であるクエン酸シンターゼのウィ記事から画像をお借りして、こんな感じですね↓

https://ja.wikipedia.org/wiki/クエン酸シンターゼより

…細かい文字の画像が縮小されて最早何も読めないぐらいかもですが、見る意味は1ミリもないでしょう(笑)、単に、電子のやり取りで結合が変わるのはこんな感じの仕組みなのです…と、そういう話でした。)

…と、補足が長くなりましたが、オキサロ酢酸(C4H4O5)はアセチルCoAの力を借りて再びクエン酸(C6H8O7)に戻ることで、めでたく回路の完成と相成ります。

 

そもそもこのラストを飾るオキサロ酢酸なる物質、「酢酸」は小学生でも馴染みがあるけど、「オキサロ」って何だよ、と非常に苛立つポイントなわけですが、なんてことはない、まさに↑のオキサロ酢酸の構造の内、酢酸ではない部分が「オキサロ」なんですね(そのまますぎますが(笑))。

 

化学辞典系の見出しを載っけてくれていて、時にWikipediaよりも役立つコトバンクに、ズバリの解説がありましたが(↓)…

 

kotobank.jp

 

簡潔なので、リンクカードの表示分だけで完結してるレベルの分かりやすさですけど、ズバリ、こないだもチラッとだけ顔を出していました、COOHが2つ繋がった単純なシュウ酸から発生するのが最も王道となるようですが、シュウ酸の一部といえる「-CO-COOH」という部分のことを「オキサロ」と呼んでいるんですね。

(ちなみに、こないだ(シリーズ最初の「前半」記事)「オキサロコハク酸」なる輩も出てきましたが、もちろん、あいつにもこの構造が端っこに存在していた形です。)


酢酸(CH3COOH)の、3つのHがつながっている炭素……3つだと流石にそれだけで分子が完結してしまうので、Hが1ついなくなった「-CH2COOH」(Hが減った分、腕が一本出ている感じですね)になりますけど、こいつと、「オキサロ」がつながって「オキサロ酢酸」になるという、まぁ分かりやすいっちゃ分かりやすい構造とはいえるものの、


「-COOHはカルボキシ基だったんちゃうんかい!」


「-C=O(C・二重結合・O)はケトン(カルボニル)ちゃうんかったんかい!」


…とも思える話で、正直、「知ってる名前のものを組み合わせて、わざわざ知らん用語を作るなや、原立つのり(笑)」と思える話になってるっちゃなってる気もするんですよね(笑)。

 

とはいえ、そういった細々した知識が、ストーリー・反応の流れ込みで覚える上では、全体を思い出す際に役に立ってくれるというのもその通りでして、例によって何度も書いている通り、流石に受験で幅広く大量のことを覚えなくてはいけなかった高校生とかの頃は語呂頼りのことが多かったものの、専門課程に入って専門的に学ぶのであれば(あるいは大人が教養のために学びなおすのであれば)、きちんと意味を理解しながら覚えた方がいいのは間違いなく…

…そういうノリ突っ込みとか、あとは高校時代に覚えた細かい基礎知識(有機化学は専門ではないので、有機関連については、やっぱり真剣に覚えた高校時代の知識が生きている感じです)、例えば「フマル酸はシス・トランスがあるやつだから、二重結合があったはずだね」みたいなもの、それから他にはキーとなる「どこで脱炭酸が起こるんだったか」みたいなポイントポイントをしっかり抑えていくことで、無意味な語呂に頼らずとも、ある程度反応の流れを理解しながらクエン酸回路の代謝産物を自分で思い出しながら再現することが可能となる(というかやっぱり、そうすることで理解の幅が広がる)感じだといえましょう。

 

なので、ストーリーなんてものは自分の頭で自分なりに思い描くのがベストなものともいえますし、単純明快・簡潔な「オススメの覚え方はこう」みたいなTIPS的なものは紹介しづらいのですが、まぁ生化学系専攻の学生向けという極めて狭い範囲の話になってしまうものの、やっぱり自分の持ってる基礎知識と、あとは自分なりに「それぞれの分子はどういう役目をもってて、次はどうなるんだったか?」みたいなストーリーを作って覚えるのが、(手間はかかるけれど、身によくつくという意味で)一番優れているんじゃないかな、って気がします……ってのがクエン酸回路のまとめでしょうか。

 

…とか偉そうなこといって、この辺は僕もある程度試験前に無理やり焼き付けたような記憶だったので、今こうして復習したらまぁそれなりに思い出せましたけど、これをまとめる前に「じゃあ今から解糖系~クエン酸回路の反応、対応する酵素・ATPの産生・NADなどの還元含め全部書き起こして」って言われたら、「ぐおぉ~、ここ何やっけ!」と悶え苦しんで、完答は全然できなかったと思いますけどね(笑)。

 

改めて、教養として身につけるなら、遠回りに思えても「意味」みたいなものと一緒に覚えるのが結局周辺知識も覚えられて近道かもしれません、ってお話でした。

 

…と、今回オキサロのみで特に書くこともないと思っていたため、


「サイクルの左下、コハク酸がフマル酸になる脱水素反応では、小っちゃくしか書かれてませんけど、実はその奪われた水素を使って、補酵素Qの還元が行われています。

 コエンザイムQ10、まさかのここでも顔を出していたんですね!」


という点や、


クエン酸回路は英語でCitric acid cycleですが、そういえば『回路』ってcircuit(サーキット)っていう印象があったんですけど、『サイクル』と『サーキット』の違いとは…?」


…みたいな話に脱線しようかと思っていたんですけれども、何かしょうもない「ぼくのかんがえたさいきょうのおぼえかた」みたいなのを書いていたら無駄に長くなっていたため、そちらはまた機会があれば見てみるといたしましょう(CoQについては、もう触れたので改めて触れる程でもありませんが)。

 

では、次回はようやく最終ステップ・電子伝達系へと話を進めてみようと思います。

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