前回は副交感神経系で伝達されるやすらぎ物質・アセチルコリンから脱線して、その原料の1つであるアセチルCoAを皮切りに、コエンザイム=補酵素の話に触れていました。
まぁ生物・化学の分野ではやっぱり、代表的な補酵素といえばCoAになるわけですけど、しかし、一般的にはCoAとかいうよく分からん物質よりも、「コエンザイム」と聞けば、もっと別のもので「何か聞いたことある気がするぞ」と思われる有名人がいるのではないかと思います。
それがズバリ……「コエンザイムQ10」!!
こちらさんは、サプリメントなんかでもよく見るもので……と思いましたが、もしかしてもうブームは去って、今ではもう誰も知らないレベルのブツになっているのでしょうか…?
何となくそんな気がしたので、「コエンザイムQ10 ブーム 去った」で検索してみたら、まさに、栄養・健康関連の情報をまとめていらっしゃるグローバルニュートリショングループ社のこんな記事がヒットしてきましたが(↓)…
「CoQ10」
2004年にテレビの健康情報番組や雑誌で取り上げられる機会が増加し、空前のCoQ10ブームとなった。ダイエット効果、アンチエイジング効果、美肌効果が紹介され、ネット、通販、店頭すべてのチャネルで売り切れ状態になる。その為、国内のCoQ10原料が枯渇し、原料メーカーが相次いで増産体制をとり、海外からの輸入を探る企業も現れた。しかし、2006年にはこのブームは終焉した。
…と、まさしくハッキリと太字で「ブームは終焉」と断言されているのが寂しい限りですけど(笑)、2004年…ちょうど僕が大学4年とかそこらのことで、めっちゃ流行ってたのを今でも昨日のことのように覚えていますが……って、もう20年前かよ!(笑)
これじゃあ令和キッズは絶対知ってるわけないですね、トホホ…と思えたものの、まぁそもそも令和キッズがこんなブログ読んでるわけないのでそれはどうでも良かったですが(笑)、そうそう、詳しい分子機序はともかく、大流行して店頭から姿を消すレベルのものなんてダイエット・アンチエイジング・美容美肌系に決まってるわけですけど、まさかのその3種全部盛り・欲張りワガママセットの栄養素が、このCoQ10さんだったんですね(笑)。
(ちなみに前回のCoAで「コエー」同様、CoQ10は「コ・キュー・テン」ですね。)
とはいえ、実際僕が大学院に入ってしばらく経った頃にはもう、いつの間にか誰も目を向けない幻のような存在になっていたのは上記記事の通りなんですけど、実はアメリカでは、サプリ売り場で今でも普通にめっちゃ目にする印象がありますねぇ~。
名前の響きが特徴的ということもあって強く印象に残ってるのかもしれませんけど、「Coq10」で検索したらこの通り……
…未だに各社からデカデカと「CoQ10」と表示されたサプリがズラ~っと並んでいるように、バリバリ売られまくっていて、実際本当に店頭でも嫌というほど目に付く記憶しかないので未だに人気商品なんだと思いますが、果たしてこいつは何者なのでしょうか…?
まぁ既に↑の記事で謳い文句は見ていましたが、より詳しく科学的に見てみると……
…なんと、日本では一度流行が去ったやつはダセェやつ認定されてもう取り上げられることすらなくなってしまうのか、まさかのWikipediaには英語版記事があるのに日本語版記事が存在しないという体たらくでしたが、構造としては英語版記事(↓)に示されているこのように…
…意外と小さい分子かと思いきや、実は右半分の炭素4つに枝分かれでメチル基CH3がついている、いわゆるイソプレンという構造は繰り返し反復配列として10個もつながっているという、「小さい分子」と言っていた補酵素にしては案外大きめとも言えるんですけど(とはいえ、アミノ酸が何百個とか、ヌクレオチドが何千何万とつながったタンパク質・DNAとかよりは断然小さいですが)、Q10の「10」はズバリ、このイソプレン構造が10個繰り返し存在することからつけられた名前なんですね。
一方の気になる「Q」の方は左半分、ベンゼン環みたいな六角形のリング部が、いわゆる「キノン」と呼ばれるタイプの構造でして、そのQuinoneのQがCoQのQなのでした。
まぁキノンなんかも生化学の色んな所で顔を出す重要分子ですけど、細かすぎる話はおもんなさすぎるのでよりマクロな話を見てみますと……
CoQ10で検索したらちょうど、こないだ4-7-8呼吸法に関する記事でクリーブランド・クリニックについて軽く触れていましたが、そこでチラッと話に出していた、全米を通り越して世界で最も優れている病院として名高い、我らがメイヨー・クリニックによるまとめ記事がトップでヒットしてきたので、こちらさんを紹介して、日本では消えた一発屋・CoQ10の効能について知見を深めてみるといたしましょう(↓)。
Coenzyme Q10(補酵素Q10)
2023年8月9日
概要
コエンザイムQ10(CoQ10)は、体内で自然に生合成される抗酸化物質です。細胞は成長と維持のためにCoQ10を使用しています。
体内のCoQ10レベルは加齢とともに減少します。また、心臓病など特定の疾患を持つ人、およびスタチンと呼ばれるコレステロール低下剤を服用している人では、CoQ10レベルが通常より低下していることが分かっています。
CoQ10は肉、魚、ナッツ類に多く見られる成分です。しかし、これらの食材に含まれるCoQ10の量は、体内のCoQ10レベルを有意に上昇させるには十分ではありません。
CoQ10の栄養補助食品は、カプセル、チュアブル錠、液体シロップ、ウエハース、さらには点滴などで入手可能となっています。CoQ10は、片頭痛のみならず、特定の心臓疾患の予防や治療にも役立つ可能性が謳われています。
研究結果の紹介
特定の症状や活動に対するCoQ10の使用に関する研究は以下の通りです:
- 心臓疾患。CoQ10はうっ血性心不全の症状を改善することが示されています。調査結果は種々ありますが、CoQ10は血圧を下げるのに役立つ可能性があるといえるようです。また、ある研究では、CoQ10を他の栄養素と組み合わせることで、バイパス手術や心臓弁手術を受けた人の回復を助ける可能性も示唆されています。
- 糖尿病。まだまだより多くの研究が必要ではありますが、CoQ10が糖尿病患者の低密度リポタンパク質(LDL;悪玉)コレステロールおよび総コレステロール値を低下させ、心臓病のリスクを低下させる可能性があると示す研究が報告されています。
- パーキンソン病。最近の研究によると、CoQ10を大量に摂取しても、特にパーキンソン病患者の症状改善にはつながらないようだ、ということが示されています。
- スタチン誘発性ミオパシー。CoQ10が、時にスタチン服用に伴う筋力低下や痛みを和らげる可能性を示唆する研究が報告されています。
- 片頭痛。CoQ10がこのタイプの頭痛の頻度を減少させる可能性があるとする研究が報告されています。
- 運動能力。CoQ10はエネルギー産生に関与するため、このサプリメントは運動能力を向上させる可能性があると考えられています。しかし、この分野の研究からは、肯定否定様々な結果が得られています。
我々の見解
一般的には安全
CoQ10サプリメントは、うっ血性心不全の治療や片頭痛の予防に役立つ可能性はあります。CoQ10は安全で、副作用はほとんどないと考えられています。ただし、必ず医師の指導の下で摂取するようにしてください。
安全性と副作用
CoQ10サプリメントは、指示通りに摂取すれば安全で、副作用もほとんどないと考えられています。
軽度の副作用としては、以下のような消化器系の問題が発生するかもしれません:
- 上腹部痛
- 食欲不振
- 吐き気と嘔吐
- 下痢
その他の可能性のある副作用としては:
妊娠中および授乳中のCoQ10摂取の安全性は確立されていません。妊娠中または授乳中の方は、医師の許可なくCoQ10を利用しないでください。
相互作用
可能性のある相互作用は以下の通りです:
…ということで、流石は俺たちのマヨ、断言することなく、ほぼ全て「may/might(かもしれない・可能性がある)」という表現に徹しており、また効果がないものには「効果はないようだ」ときちんと示してくれるあたり、信頼性があります。
とはいえ記事を書く上で改めてコエンザイムQ10の記事を調べていたら、↑のメイヨー記事を見終えた後、何気に遥かに詳しくまた網羅的で学術的にもしっかりとした記事が、しかも日本語で見つかりました。
以前、サプリメントやミネラルの記事でもお世話になったことがある、オレゴン州立大と新潟薬科大の共同研究事業がまとめてくれている栄養素記事で(↓)、まさに完璧、長くて読むのが面倒なこと以外、「CoQ10の全てに関してはこれをお読みください」とリンクを貼っておけば済む話になっているレベルでしたね(笑)。
まぁ本当に↑の記事に全てが書かれている感じですが、結局は日本で流行った理由といえる、飲むだけで痩せる・若返る・肌ピカピカになる…みたいな効果は流石になく、わーくににおいて「じゃあ要らねぇわ」となるのも納得ではあるものの(笑)、とはいえ「年齢を重ねるごとに減少していく、抗酸化作用(酸化というのは、老化のみならず、各種病気の原因でもありますね)を持つ物質である」ことは間違いないので、サプリ大国アメリカでは今でも飲む人が大変多いもののようです。
多分日本でもまだ探せば買えるんじゃないかと思いますけど、まぁ僕は別にあえてCoQ10なんて飲みませんし、そこまでして摂取するもんでもないんちゃうかな、なんて気がするかもしれませんね……という個人の感想で今回は〆とさせていただきましょう。