フグより強い、ボツリヌス…

前回はちょっとあまりにも時間がなさすぎて、書きたかったことの要点を全然まとめきれないまま、フグ毒に触れただけで終わってしまっていたため、改めてほとんど1からおさらいさせていただくといたしましょう。

 

…と、全体の話を振り返っていく前に前回の補足からちょろっと入ってみますと、まずはそうですね……


「1匹の大腸菌が、一晩延々増え続けると281兆4749億7671万656匹にまでなるのです、恐ろしい……!」などと書いていましたが、まぁ理論上はそうなんですけど、もちろんそれは「栄養・温度などが完璧な条件の場合」という但し書きがつくので、現実的にはそこまで増えず、途中で栄養が枯渇して増殖が鈍ったり、小さいとはいえ大腸菌だって形ある生き物ですから、分裂して増える先の場所がなくなったりしても、増殖はストップする感じとなっています。

 

ちょうど、ずーっと前の分子生物学入門記事で、大腸菌のプレート培養について写真付きで見たことがありましたが(↓)…

 

con-cats.hatenablog.com


…まさにアイキャッチ画像として使っていたので(小さいながら)サムネイルにも表示されていますけど、大腸菌をプレートに撒いて、温度も栄養も理想的な環境で生育してやっても、コロニーがある程度のサイズになったらそれ以上大きくはならない(大きくなるスピードが鈍化する)感じになっているのです。

 

これはズバリ、「コロニー内部の菌(あるいは他のコロニーと接触した部分の菌)は、分裂しようにも、もう増える場所がないから」に他ならないわけですね。

(ちなみにコロニーってのは菌の集合体で、まさに何兆匹もの菌が集まって形成しているものになります。)

 

そんなわけで、よっぽどとんでもない大きさの容器に栄養たっぷりの培地を加え、一か所に集まらないようかき混ぜ続ける(液体培地で、ですね)とかしない限り、無尽蔵に倍々ゲームで増え続けることはないものの、とはいえ逆に、前回の計算で見ていた「1匹からスタート」なんてことも絶対にあり得ないので(目に見えない程小さい菌を、たった1匹だけ単離するのはよっぽど凄い装置を使わないと不可能です)、現実的には始まりの時点(=食べ物に触った時点)で何千何万の菌がベトッと付着しますから、特に温度の高い夏なんかは、一晩立つ前にもう体を壊すぐらいの菌がウジャウジャ増殖してしまう…なんてことは、余裕であるとも言えましょう。

 

そもそもどのぐらいで体に毒なのかは微生物ごとに異なりますし、「生物学的な汚れ」は、絶対に油断しないに越したことはないと、強く思えます。

 

一方関連して「化学的な汚れ」の方ですが、前回はフグ毒「テトロドトキシン」に触れて、「致死量はわずか1ミリグラム…あな恐ろしやぁ~」とかキャッキャしてたんですけど、まぁ1ミリグラムと聞くとごく微量に思えるものの、実は分子の数でいえば、これだって相当なんですよね。

 

実際に1ミリグラムのTTX(これが一般的なテトロうんちゃらの略称ですね、「テトド」とか「テトドン」とかではなく(笑))が何分子なのかは……これは計算で楽に求められる数字なので、せっかくだし改めて見ておきましょうか。

 

テトドンの化学式は「C11H17N3O8」で、「原子の体重」こと原子量は、炭素12、水素1、窒素14、酸素16であり、計算すると319となる感じですね(実際は、厳密にいうと各原子には「同位体」ってのが存在するため(参考(以前の記事):結局、体重の平均を取るのです)、それぞれ小数点の存在する数字なので正確には前回も貼っていたWikipedia記事によると319.27になるらしいですけど、まぁ計算を簡単にするため、キリ良く320としちゃいましょう。

 

で、この原子量ってのは「原子1モルあたりの重さ(グラム)」だったので、「テトドン1モルの重さが、320グラム」となるわけです。

 

そして、「1モル」というのは、毎度この話が出る度書いていますが、「1ダースが12個」というのと全く同じ感じで、「1モルは約6000垓個」(垓=がい=兆・京のつぎ)という、単なる大きな数をまとめただけの単位でした。


(なお、日本語の倍数単位はやはり計算には向かないので、6000垓=6×1023と表記しましょう。

 どちらも、「6の後に0が23個つながった数」で同じものですね。)

 

んで、今知りたいのは「TTX 1 mgが何個か?」なので、例によってこういう計算は単位を意識すれば楽勝であり……

「320 g/mol」と「6×1023 個/mol」という二つの数字(単位)をどう組み合わせれば、「1 mgあたり何個」すなわち「個/mg」という単位が得られるかといいますと……

 

「分母の分母は分子へ行く」みたいなことを考えてやれば、「後者÷前者」をやってやれば「mol」という単位は約分されて消えて、残すは「個/g」となるわけです。

 

実際の数字で計算すると、(6×1023) / 320 = 1.875 ×1021となるわけですが、これは「個/g」であり、今知りたいのは「1グラムあたり」ではなく「1ミリグラムあたり」すなわち「個/mg」ですから、「ミリ」ってのは1/1000なので、さらに1000で割ればよく…

(まぁ流石にこの変換は何も考えずそのまんまいけると思いますけど、一応これは、より丁寧に考えてやれば、「分子分母に「1/1000」(慣れたら「10-3」と考えた方が分かりやすいですが)をかける」とみなすのがいいかと思います。

 具体的には、この場合、分子は「10-3」をかけることで数字を減らし(指数の掛け算は指数同士の足し算引き算になるので、この場合、21-3=18乗になる)、分母はこの「1/1000」をそのまんまそれを意味する「ミリ」に置き換えれば、無事求めたい数字&単位ゲットってことですね)


…今↑で書いた通り、結局は「1.875 ×1021 個/mg」ということになりまして、これはズバリ……18垓7500京個の分子が含まれるってことになりますから、実は281兆匹の大腸菌なんて目じゃない、とんでもない数の分子が「(致死量である)1ミリグラムのテトロドトキシン」には含まれているので、言うほど「化学的な汚れは、少量でも有害に…」ってわけでもなかった感じだったのでした(笑)。

 

とはいえあくまでそれはTTXの場合であり、世の中にはもっと少量で致死性を発揮する分子も存在しまして、極めて少量で毒性を発揮するので有名なのは…ボツリヌス菌の産生する、「ボツリヌストキシン」なんかがありますね!

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/ボツリヌストキシンより


これは、懐かしのリボンモデルで表示されている通り実はタンパク質で、「タンパク質は様々な機能を持つ分子なのです」と何度も書いていた通り、まさかの超最強レベルの毒にすらなる感じだったんですねぇ~。

 

上記ウィ記事にある通り、ヒトの致死量は体重1 kgあたり1 μg……ミリの下の「マイクロ」オーダーということで、60 kgの人であれば60 μg=0.06 mgということになりますから、フグ毒よりもさらに2桁も小さい、まさに塩粒一粒未満の量でイチコロなうえ、タンパク質=高分子であるため「1分子あたりの体重」は遥かに重いですから、「分子の数」で言っても極めて少ない数でいける感じですね。

 

…まぁせっかくなので計算してみますと、結局ポイントとなるのは分子の体重=分子量だけで、テトドンは約320 (g/mol) でしたが、こちらボツシンの体重は、1モルあたりまさかの14万3920グラム!

 

ってことで、こちらさんの致死性を示す個数を求めてみますと……

 

先ほど求めた「1.875 ×1021」という数字より、重さは0.06倍でよく、個数は320/14万3920倍でいいことになりますから…


(ちなみに、この手の計算の分子分母は、「数を減らせばいいか増やせばいいか」を考えれば、逆にして間違えたりせずに立式できると思います。

 今回の場合、必要重量はどう考えても少ないわけだし、1個の重さが重いんだから、必要個数も少なくなるはずなので、どちらも「数を減らす」方向で掛け算をしてやればいいってことですね)


結局…

1.875 ×1021 × 0.06 × 320/143920=約2.5×1017 

…となり、これは日本語でいえば、約25京個

 

……いや、最強ボツリヌス毒素でも「京」の数の分子が必要ということで、意外と多くて驚きでしたが、逆にいうと、ごく少量の汚れでもそこには天文学的な数の分子が含まれているので、どうか化学物質などの有害汚れにはご注意ください、というそっちの方に話をもっていくのがよさそうですね。

 

…といった所で、正直「こういうモル計算、前も水の話でもうやってたやん」って話の単なる再放送になってしまった気もしますが、今回もあまりにも時間がなかった結果、結局おさらいに全く入れず単なる毒物の個数計算をしただけというしょうもない記事になってしまいました(笑)。

(多分、その計算自体も、分かってる人には当たり前すぎる話で、不慣れな方にはガチで何を言ってるのか意味不明な、あんま意味のないものになってしまっている気もしますが…。)

次回、また前回の続きを見ていこうと思っています。

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