陽子を食べたら消えるのか…?

前回は途中状態で放置してしまっていたご質問に戻ったかと思いきや、あまりの時間のなさに、ふと思いついたコップと海の話をして終わってしまっていました。

前回引用紹介していたご質問すら途中状態だったわけですけど、ちょうどまたアンさんから前回の記事に対しての追加質問をいただいていまして、話の流れ・結びつき的にも、今回はまずそちらに触れてから、途中状態だった前回紹介分に戻っていこうかなと思います。


ネタはどれだけあってもいいですしね、見ていたお話はまたちょっと一時停止させてもらい、ありがたく、別口のポイントへと移行させていただきましょう。

 

そんなわけで、前回の記事へのご質問から見ていこうと思います。

毎度大変素晴らしく面白いコメントをいただけるアンさんには、感謝の念に堪えません。

 

『今日僕が食べた納豆を構成していた陽子の1つは、1億年前恐竜が食べた陽子と、同じものだったかもしれない…』というお話、、

「仮に辿ることができとしたら」という前提なのはまぁ置いといて、素朴な疑問なんですけど、食べちゃった陽子は陽子として残るんですか?

現実的に、恐竜が食べた陽子が納豆の陽子になるということは、恐竜が食べた草が消化されて…ああなって…こうなって…ということですか?その陽子が、ああなってこうなって、紺助さんが食べるということ??(マジで?笑)

ということは、陽子は消滅することはない?(陽子に限らず、電子中性子も?飛んでいった電子もまたどこかで何かとくっつくといった話でしたよね、確か。)

逆に、生産されることはありますよね?人の体もそうなら、植物も、この世になかったものが現れるわけですし。

うーん…何か、どんどん違う方向へ向かっているような気もします

 

⇒これまた記述不足だったと思える、ナイスポイントのご指摘でした。


まず、「食べちゃった陽子は陽子として残るんですか?」については、これはまぁ、ちょっと補足が必要な気はするものの、「残りますよ」ってのが単純な回答になるかと思います。


まぁ「陽子を食べる」って表現があんまり良くなかった気もしますが、これはあくまでも、むき出しの1個の陽子を食べるわけではなく、食べたものの中に含まれる、分子を構成している陽子のことですね。


例えば納豆の場合、まぁ有名所の成分として「納豆キナーゼ」なんかがありますが、これはあくまで付着した納豆菌が出す酵素にすぎず、納豆のメイン成分とはいえないので…

…ってまぁ別に今話を進める上では着目する物質は何だっていいんですけど、そういえば大豆に一番含まれる物質って何なんだろ?と気になったので調べてみた所…

(ちなみに最も含まれる栄養成分が「タンパク質」ってのは当たり前でそれは調べるまでもないんですけど、「タンパク質」ってのは総称なので、「具体的に、何ていうタンパク質分子が一番含まれてるの?」って疑問ですね)

…日本語の記事でもあっさり見つかりました(↓)

www.fujifoundation.or.jp
…こちら大豆タンパク質研究をされている裏出さんの寄稿文によると(この記事はより新しい知見が得られたことを報告しているものの、まぁ話を単純化させていただくと)、大豆にはグリシニンと呼ばれるタンパク質が、過半数を占めているほど沢山含まれているとのことですね!


しばしば「大豆タンパク質」とかいいますが、より具体的には、その大半がこの「グリシニン」という分子だったというわけです。


今回はこのグリシニンに着目して話を進めていこうと思います。


まぁこれもハッキリ言ってどうでもいいんですけど、タンパク質の分子情報といえばここに全てが載っているといっても過言ではない、ずっと前のタンパク質系記事(→アミノ酸について知ってみよう世界一甘いものは…これだ!)でも触れたことがありました、UniProtというサイトで、グリシニンの情報を見ておきましょう。

www.uniprot.org

(例によってこんなの見ても全く何も分かりませんけど)X線結晶構造解析で、このタンパク質がどのような形をしているかも判明している感じですね。

https://www.uniprot.org/uniprotkb/P04776/entry#structureより

まぁ構造はともかく、このタンパク質は、アミノ酸が495個つながってできたものであり、当然、そのつながる順番まで完全に分かっています。


アミノ酸を1文字表記したものを495文字分、テキストでコピペしようとも思いましたが、あんま意味ないのでスクショにしておきましょう(笑)。

https://www.uniprot.org/uniprotkb/P04776/entry#sequencesより

最初はM=メチオニンに始まり、A=アラニン、K=リシン…と続き、495番目のA=アラニンまで、アミノ酸同士が延々手をつないでつながったものが、このグリシニンというタンパク質分子ということでした。


で、話をご質問に戻すと、例えば僕が納豆を食べた場合、僕の体内では何が起こるのでしょうか…?


これは、どなたもご存知のことでしょう、当然、いわゆる消化されるという話ですね。


胃腸に含まれる消化酵素の力で、495個のアミノ酸がつながったこいつが、ズタズタに切断されて、より小さな断片になっていくわけです。


消化酵素にも種類があり、例えば胃に含まれるペプシンの場合、こいつは、

「酸性アミノ酸(D, E)‐ 芳香族アミノ酸(F, H, Y, W)」

…と続いた次のアミノ酸の前で、効率的にタンパク質をちょん切ることが知られています。

先ほどのアミノ酸配列を見ますと、191-192番のアミノ酸が「EF」となっているので、これに続く「L」の前でこのグリシニンは、まずペプシンの手によってちょん切られるという形ですね(他にも該当するペプシン切断配列はいくつか存在しています)。


もちろん人間は他にも消化酵素をもっており、例えば膵液から分泌されるトリプシン塩基性アミノ酸(H, K, R, W)のお尻側を切る…みたいな感じで、各種酵素には得意切断部位があり、協力して食べ物を消化していくわけですが、とにかく様々な消化酵素の力によってタンパク質はズタズタに切り刻まれて、より人間が体内で使いやすい、アミノ酸単独や、数アミノ酸だけがつながった断片にまで分解されるわけです。


ただし、「ズタズタに消化される」といっても、タンパク質の構成単位であるアミノ酸にまで分解されたら、そこで完了です。

アミノ酸であれば、人間はそれを使って自分に必要なタンパク質を自分の力で作れますから、そこまで分解できればもうそれ以上小さくする必要はないんですね(というか、そこから更に分解してしまったらむしろタンパク質合成に使い辛くなって、厄介なだけ)。


大豆には495アミノ酸から成るグリシニンというタンパク質が多量に含まれますが、僕がこれをヒョイパクと食べた結果、体内で消化してバラバラのアミノ酸にまで分解されるものの、そこまでいったらそのアミノ酸を使って、自分が生きていく上で必要なタンパク質……酵素や、筋肉や、皮膚や毛や、その他自分の体を構成するほとんどの物質を合成していくわけです。

それが「代謝」であり、「生きていく」ってことなんですね。


で、アミノ酸というのは、炭素と水素と酸素と窒素と、あとたまに硫黄も含まれますが、そういった原子がいくつか集まって出来た分子のことでした。

そして、そのアミノ酸を構成する各原子というのは、陽子・中性子・電子から成り立っているわけです。


以上を踏まえると、僕が食べた納豆(主にグリシニンというタンパク質)は、消化酵素の力でより小さいアミノ酸にまで分解されるものの、そこまで分解されたら僕の中の筋肉や骨や各種酵素の合成に使われ、僕自身になっていきます。

もちろん、筋肉に取り入れられたアミノ酸は、しばらく僕の中で働き続けますが、代謝によって、古い筋肉は分解され、またアミノ酸ぐらいの小さい断片になり、血液に溶け込んで、いずれ排泄物として体内からサヨナラしていくことでしょう。

その排泄物は下水に流され、まぁどういう経路を辿るかは分かりませんが、一部は肥料となったり、また一部は浄化された後、川に流されたりすることもあるのでしょう。


それを、植物が使って自分の栄養としたり、魚が食べて栄養としたり……で、さらにそこからは言うまでもないでしょう、その畑で育った大豆や川で育った魚、あるいはその魚を食べた別の生物を、また僕自身が食べることもあるかもしれない……という流れで、結局分子や原子というのはこの世界を巡り続けているわけですね。

 

で、以上の話から、原子……までいかずとも、アミノ酸ぐらい小さい分子であれば、アミノ酸の形のままで、僕や植物や魚を巡ることもあるということが分かりました。

もちろん、その分子や原子を構成する素粒子は、そのまんまの形で使い回されている、ってことになるわけですね!

(当然、化学反応で、別の原子と電子の入れ替えや共有が行われる可能性も大いにありますが)


この話を、地球規模を通り越して、時代を超えて受け継いでいけば、もしかしたら恐竜が食べたタンパク質を構成するアミノ酸を構成する分子を構成する原子を構成する素粒子が(例によってややこしすぎますが(笑))、巡り巡って、僕が食べた納豆にまだ存在していた、って可能性もあるかもしれませんね、って話だった感じです。


ちなみに、納豆にどのぐらいの素粒子が含まれているのかも、せっかくなので数えておきましょうか。


先ほど貼ったUniProtのデータに、アミノ酸配列が載っていました。

アミノ酸分子式(=炭素が何個か、水素が何個か…など)は全て決まっていますから、このアミノ酸配列から、当然、グリシニン1分子に含まれる各原子の個数も完全に求まります。


UniProtには分子式の表示はなかったものの(そんなのは生化学で必要なデータではないため)、各アミノ酸分子式は分かっているためまぁ自力で計算すればいいものの、当然、アミノ酸配列を打ち込んだら分子式を計算してくれるという便利なツールも公開されているんですね。


検索したらヒットしてきた、国立医薬品食品衛生研究所の公開されていたツールをお借りしましょう。

jpdb.nihs.go.jp

フォームにアミノ酸配列を入力し、「分子式・分子量の計算」をクリックしたら、一瞬で計算されました。

https://jpdb.nihs.go.jp/programs/mwprotein.htmlより

表示の通り、この分子は、C2432H3808N706O762S18 という分子式で表されるということが分かりました!


で、原子番号6番の炭素は陽子を6個、水素は1個、窒素は7個、酸素は8個、硫黄は16個の陽子を持っていますから、素粒子の1つである陽子は、このグリシニン分子1つに、

2432×6 + 3808 + 706×7 + 762×8 + 18×16 =29726個の陽子が含まれている、ってことになるわけですね!


ただ、これはグリシニン分子わずか1つに含まれる陽子です。

1食分の納豆には、果たして何分子のグリシニンが含まれているのでしょう…?


僕が一番お世話になってる「金のつぶ におわなっとう」は、ミツカン公式の情報によると…

 

www.mizkan.co.jp

納豆100グラムあたり、15.4グラムのタンパク質が含まれているとありました。

まぁ1パック50グラムとして、7.7グラムのタンパク質が含まれる……最初の情報によると、大豆は約半分がグリシニンで出来ているとのことでしたから、まぁ納豆菌の重さとかも考慮して、大体3グラムのグリシニンを食べていると仮定しましょう。


3 gのグリシニンは、何分子…?


これは、分子量を使えば一発で求まる話で、UniProtにも先ほどのツール計算画像にも掲載されていましたが、グリシニンの分子量は、55,705.70でした。

分子量というのは1モルあたりの重さで、1モルというのは約6×1023個の分子になりますから、以下の3つの数字を使って、「個」という単位を残しましょう。

「3 g」「55700 g/mol」「6×1023 個/mol」


「g」と「mol」は分子と分母に分けて上手く約分されるように、「個」は最終的に分子側に残るようにすればよいので、

3  × 6×1023 / 55700

と計算すればよく、これは、電卓の力を借りた結果、約3.23 × 1019 と求まりました。

つまり、約323京個のグリシニン分子を、僕は毎日ガツガツ喰らって体内に取り入れているわけですね!

(ギリギリなじみのある「京」という単位で何よりでした。まぁ、↓ではさらに大きくなっちゃいますが(笑))


そして、1個のグリシニン分子には29726個の陽子が含まれているということでしたから、僕は毎日、なんと、約323京×約3万=約9杼(じょ)個もの陽子をゴックンしていることに……といっても、これは納豆の中の、しかもグリシニン分子のみの話なので、食事全体ならもう、途方もなさすぎる数の陽子を体に入れてるわけですね!


多分、その中の1つぐらいはきっと、恐竜の体内に入ったことのあった陽子も存在してくれることでしょう…(まぁ、別に僕は恐竜のファンでもないし、いたところで、マジで「だから何だよ」でしかないんですけど(笑))。

 

…と、これまた完全にご質問の途中状態ですが、計算も含めたら結構いい分量になってしまいました。

続きはまた次回とさせていただきましょう。

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