結局、体重の平均を取るのです

ここ何回かの記事では、「原子の構造」の話から派生し、中性子の数が違う兄弟原子=同位体というものは、不安定すぎて勝手に崩壊してその時に放射線をぶっぱする困ったちゃん=放射性同位体というものがあるのです…って話から、半減期の話を中心に放射線に関する浅い話をしていました。


ここからようやく、そもそもの発端であった、「原子の体重=原子量が、なぜ小数になるのか?」という話に戻ってまいりましょう。


まず原子量は、基本的に「陽子1つを1(中性子1つも同じ1)」と考えればいい話になっているので、素直に考えると、陽子1・中性子0の水素の原子量は1だし、陽子6・中性子6の炭素の原子量は12と、整数になるんちゃうの?と思えるような気がします。


もちろんその「陽子と中性子の数の合計」という単純な考え方は「質量数」というもので表される数字だったわけですけど、なぜ同じ「原子の体重」を表す原子量と質量数は違うのでしょうか…?


その理由はズバリ、中性子の数の異なる同位体も、天然にはある程度の割合で存在するから」という1文で済む話だったといえるんですね。


こないだの記事で見ていた通り、例えば水素原子というのは、天然に、普通の水素が99.985%、重水素が0.015%の割合で存在しているのでした。


これは、まぁ多少の誤差はあれど世界中どこでも概ねその割合になっているとみなされるもので、そうであるならば、例えば水を適当な容器に詰めた場合、その中の0.015%の割合で重水素を含む水分子が存在している(まぁ水分子には水素原子が2つあるので、厳密にいえば「重水素を含む水分子の割合」は(ダブる可能性があるので)もうちょい低くなりますが)…ということがいえるわけです(まぁ長々と書いた割に、当たり前すぎる話ですけど(笑))。


そう考えると、水分子の数(量)と重さの関係なんかを考えるとき、「水素原子1個の重さ」として「普通の水素」だけを考えてしまうと、必ず誤差が発生してしまうことになるわけですね。


なぜなら、ごく少数とはいえ、普通の水素よりも重い「重水素」からなる水も確実に存在しているからであり(あえて特別に重水素を除いたりしない限り、必ず混入しているということですね。なぜならば、この世には0.015%の割合の重水素があまねく存在しているからです)、ちょっとの割合だから…とこれを無視してしまうと、計算結果に狂いが生じてしまいます。

 

なので、厳密な議論をしたい場合、原子量は同位体の存在(もちろん、天然に存在するもののみですが)も無視してはいけないことになりまして、どうすればいいかといいますと、これは存在比を考慮した平均値を取ればいいという、大変自然なものになるわけです。


具体的には、普通の水素は質量数1で、重水素中性子がさらに加わった結果質量数2という、2倍の重さの水素なわけですけど、もちろんこれは「体重2の重水素もいるということだから、水素の体重は1.5ってこと?」というわけでは決してなく、これに存在比をかけた上で出すのがその原子の原子量だと、そういえるわけですね。

(なお、トリチウムは天然存在量が小さすぎる(もちろん、それ以上の四重水素、五重水素…も含む)ので、計算には現れません。少なすぎて無視できる、ってことですね)


そんなわけで、普通の水素の存在比は99.985%、重水素は0.015%だったので、水素の正しい原子量というのは、

1 × 0.99985 + 2 × 0.00015 = 1.00015


…になるかと思いきや、周期表データを見てみると、全然違う!

 

それもそのはず、実はここでいう「1」は陽子1個の重さではなく、原子量というのは正式には「12C原子1個の質量に対する比の12倍」で定められる数であり、その質量数12の炭素には陽子6個・中性子6個が含まれ、陽子と中性子は微妙に体重が異なりますから、陽子1つを「1」と考えるのは誤り(というか、この厳密な話を語る上では、誤差が大きすぎる)という感じでした。


…まぁ考え方としては正しいので、こんなややこしい話をするなら最初から炭素の話に書き直せよ、って話なんですけど(笑)、ちょっとまたあまりにも時間がなかったのでその修正作業も間に合わず、グダグダすぎますが、水素は誤差が大きすぎるため、ここは「原子量」の基準物質である炭素で考えてみるといたしましょう。


炭素にも当然、中性子の数の異なる同位体が存在しています。

ja.wikipedia.org

一番多い、要は最も「普通」な炭素は、陽子6個・中性子6個の、質量数12の炭素(先ほど書いていた、原子量の基準、12C(カーボン・トゥエルブ)ってやつですね)になりますが、↑のWikipediaによると、天然にはこれ以外に、中性子が1つ増えた13C(カーボン・サーティーン)も約1.07%の割合で存在しているとのことです。


(なお、もう1つ中性子の増えた14C、こちらは、極めて存在量が小さく上記ページの天然存在比では数字が書かれていないものの、何気にこれも天然にごく微量存在している同位体であり、こちらは不安定な放射性同位体(=自己崩壊して、放射線を出す)なのですが、こいつの半減期5730年という、長すぎもせず、短すぎもしない絶妙な長さであることから、こちら「カーボン・フォーティーン」というのは、考古学などで重用される、「その化石などが、いつの時代のものであるか?」を測定するための非常に強力なツールとなっています。

 詳細は長いので省きますが、ご興味のある方はぜひ↓の「放射性炭素年代測定」Wikipedia記事なんかをご覧ください。)

ja.wikipedia.org

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話を計算に戻しまして、この「質量数と、存在比の割合」から炭素の原子量を求めてみましょう。

 

12 × 0.9893 + 13 × 0.0107 =12.0107 

 

これを、こないだも貼っていた周期表に掲載されているデータと比べてみると…

ja.wikipedia.org

炭素の原子量は、12.0106、まぁ小数点第4位は「1」ズレてますけど、まま、これは13Cの存在比も完全に厳密なものじゃないですし、四捨五入のズレ・丸めの誤差的なもので、これはほぼ同じ値になったと考えて問題ないでしょう。


(なお、水素の原子量は1.00798であり、これは流石にさっき求めた1.00015に比べて文字通り桁違いの差があるため、全く正しいとはいえず、上で色々ごたごた言い訳をかましていた感じですね(笑))


水素は陽子がたった1個しかなく、これを「1」として考えるのは誤差が大きすぎるのでずれてしまったものの、改めて、上記の考え方自体は間違ったものではなく、原子の体重である「原子量」というのは、各同位体の質量数と存在比とを考慮し、全体の平均を取ったものとして定められている、という話でした。

 

せっかくなので、もう1つの主役原子、酸素でも実証しておきましょうか。


酸素の同位体は、以下のウィキP先生記事によると、天然に3つ存在するようです。

 

ja.wikipedia.org

16Oが99.757%、17Oが0.038%、18Oが0.205%のようですね。



存在比をパーセント表記から小数に直して計算すると…


16 × 0.99757 + 17 × 0.00038 + 18 × 0.00205 = 16.00448

 

…と出ました。

 

周期表の酸素の原子量を見てみると……

 

15.9994

 

…違えぇーー!!(笑)

 

何でや、そんなバカな…!と思ったら、あぁっと!

 

ここまで厳密な数字で考える場合、やはり陽子と中性子の重さの違いなんかを考慮する必要があるようで、ウィキP先生には、ちゃんと計算用に使うことのできる厳密な「同位体質量」まで掲載されていたじゃあないですか!

つまり、16Oは陽子8中性子8なんですけど、こいつの厳密な体重は「16」ではなく、「15.99491461956」、同じように酸素17は微妙に「17」より小さい「16.99913170」、酸素18は「17.9991610」と、どれも単純化した質量数より、厳密には少し軽かったようです。


この長ったらしい細かい数字を使って計算リトライじゃ、さぁどうだ!

 

15.99491461956 × 0.99757 + 16.99913170 × 0.00038 + 17.9991610 × 0.00205 = 15.9994049271 

 

キターーー!


先ほど書いていた酸素の原子量データと、どんぴしゃ一致!!


…ってまぁ当たり前なんですけど(笑)、炭素の場合は原子量の定義である「12」が使われていたから誤差がなかったものの、その他の原子では、厳密な原子質量を使わないとズレが出ちゃう、って話といえそうですね。

 

せっかくなので、その「厳密な体重」を使って、水素の計算もリベンジしておきましょうか。

 

ja.wikipedia.org
普通の水素の体重は、1ではなく「1.00782503207」、重水素は2ではなく「2.0141017778」とのことだったので、これを用いて再計算すると…

 

1.00782503207 × 0.99985 + 2.0141017778 × 0.00015 = 1.00797597358


…と、周期表に掲載されていた1.00798と、完全一致しましたね!!

 

多分これは、電子の質量も考慮した重さになっている気がします。

(以前、「電子の重さは無視」と書きましたが、ここまで厳密な話になると、特に水素みたいに陽子1個と電子1個しか存在しないような場合、わずかな違いであってもその影響が甚大になりますし、電子の重さが無視できないこともある、ってことですね。)

 

そんな所で、一言で終わる気がしていた原子量の話でしたが、意外な計算ミスというか凡ミスもあり、思いのほか長くなってしまったので、続きはまたご質問に戻っていく予定でしたが、それはまた次回にまわさせていただきましょう。


(ただ最後記事を書き終えて改めてよく考えてみたら、別に存在比の平均を取らなくても、その「厳密な体重」とやらの時点で既に小数になってたわけですし、元々の疑問点である「原子量が小数の理由」は、むしろ「厳密にいえば、陽子や中性子の体重は1で表されるものじゃないから」で済む話だったかもしれませんね(笑)

 とはいえもちろん、「同位体が存在しており、その平均を取るから」というのも非常に大きな理由ではありますが。)


アイキャッチ画像は、特に何もなさすぎたので体重計のいらすとをお借りしました。

原子の体重なのに、人がいて何やねん、って話なんですけど(笑)、いらすとやにしては珍しく、人なしのタイプがありませんでした。

まぁ特に意味のないイラストですし、そのままお借りさせていただきましょう。

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