どこにでもいる厄介なやつ…

「化学的な汚れ」は、勝手に増殖することはないけれど、ほんのちょびっつで人体に害をもたらすこともあるのです……という話をしていたそばから、前回の記事では脱線ネタとして、

「実は『ちょびっつ』と言っても、数でいえばめちゃくちゃ多いのでした。

 例えば致死量のフグ毒は18垓7500京個のテトロドトキシン分子になるし、それより強力なボツリヌス毒素でも、25京個もの分子が集まって致死量となるのです。」

…なんてことを書いていました。

 

まぁ引っ張るほどの話ではないのですが、「そら25京個も何かを摂取したらヤベェことになるのは当たり前でしょう」と思えるかもしれないものの、これは結局、(「ちょびっつ→実はすごい数→実はそうでもない」と言ってることバラバラの極みになっちゃいますけど(笑))分子レベルで物事を考えたらまぁそんぐらいの数は全然序の口といえる感じでもあるんですよね。

 

例えば、これもこないだのタンパク質関連の記事で見ていた「アクチン」、これは筋肉を動かす仕組みになっていたり、細胞の骨格を形成したりなど、あらゆる生物で超重要といえる偉大なタンパク質だったわけですけれども、あまりにも似たような話ばかりで恐縮ですが、せっかくなので「ステーキを食べたら、我々は一体どのぐらいのアクチン分子を体内に取り入れていることになるのか?」なんてことをチェックしてみましょうか。

 

「アクチン 割合」で調べてみたら、こちら京大の学生向けノートによると(かなり古い記事のようで、リンクカードのタイトルは文字化けしていたため、文字リンクのみ)…

どうやら脊椎動物の骨格筋の重量20%を占めるのがアクチンとのことですね。

 

で、アクチンというのはタンパク質解析でめちゃくちゃよく使うので業界人にとっては最早常識なのですが、分子の体重=分子量は、約4万2000となっています。

つまり、42000グラムのアクチンが、1モル個(でかい単位すぎてそう書いても分かりにくいものの、約6000垓個(垓=がい=兆・京のつぎ))の分子に相当する、って形ですね。

 

ステーキは、まぁ成人男性の食べる普通の量が200グラムらしいので、200グラムの赤身ステーキを食べたら何分子のアクチンを食べたことになるか考えてみますと…

 

肉の20%がアクチンなので、200 × 20%=40 gのアクチンを摂取することになり、上述の通りアクチンは42000 g/molで、1モルは 6×1023 個/mol になりますから、以上3つのものから「個」という単位だけを残すように考えてやればよく、まぁもう細かくは触れないものの、結局…

 

40 (g) × 6×1023 (個/mol) / 42000 (g/mol) 


という式を立ててやれば、(「分母の分母は分子」的なあれで)要らない「g」と「mol」は約分されて消え、無事、分子側に「個」だけが残ってくれる感じですね。

 

計算すると、これは5.71428571428…×1020となりまして(有名な、割り切れない「4÷7」の計算結果である「571428」の繰り返しですね)、多少分かりやすい日本語に直せば、

「5垓7142京8571兆4285億7142万8571個」

(まぁ、1モル=6×1023 個というのは全然正確な値ではないので、こんな1の位まで並べるほどそこまで意味のある数字ではないですが(笑))

…ということで、結局「兆」どころか「京」すらも超えた、次の単位が出てくるレベルの数のアクチンを平気で口に入れて消化しているってことで、ミクロのレベルではどれだけの数のものが集まっていて毎日どれだけの分子を摂り入れてるのか、結局もう想像の限界を超えている感じだといえましょう。

 

なお、アクチンは高分子であるタンパク質なので、結構1分子が重いこちらさんですらこの数ですから、主食のメイン栄養分であり、かつ、より低分子のブドウ糖(分子量180)とかだと、本当にとんでもない数のものを我々はヤバい笑顔で毎日口から摂り入れている、って感じになるわけっすね(まぁ別にヤバい笑顔で食事してる人もあんまいないかもですけど(笑))。

 

結局、数なんて考えても埒があきませんから、「見た目の量・重さ」を基準に考えると、やっぱり化学的な汚れってのは目に見えないレベルで有害にもなり得るもので、一方食事とかはお茶碗一杯、何皿も色んなものを大量に摂取しているわけですから、それと比べると「ほんのちょっとで…」と言うのも問題ない感じなのはご納得いただけるように思います。

 

そんな所でようやく話を戻しますと、生物学的な汚れの方はやはり、そもそも手の表面はもちろんのこと、空気中にも雑菌の類は本当にウヨウヨ大量に存在しているものですから、ある程度の微生物は、我々自身の持つ免疫が常時退治してくれていることもあり、そこまで心配する必要もない気がします。


実際、病原性大腸菌だろうとコロナウイルスだろうと、1匹(1分子)が体内に入り込んでしまった程度では、体内で増殖したり悪さをしたりする前に、免疫の力で即座にブチ殺されますから、病気には至りません。


ある程度以上の数を大量に摂取してしまったときにはじめて、免疫での退治が追い付かなくなり、奴らに体内でいいように暴れ回られてしまう…と、そういう話になっているわけです。

(まぁそんなこと言ったら、化学的な汚れ、いわゆる毒物だって、致死量や発症量以下であれば最終的に体内で分解なりがされることでやり過ごすことはできるわけですけど、やっぱり微生物は「増える」という性質があることからも、より数に敏感になるべきなのはこちらかな、っていう気もします。)

 

もちろん「何匹が侵入したら病気になるか?」は病原体によって異なり、調べてみたらそのものズバリの表が、新潟薬科大の食品安全管理用の資料に掲載されていました。

 

お借りさせていただきましょう。

 

www2.nupals.ac.jp

 

https://www2.nupals.ac.jp/~fmfsc/Topics/zui_xiao_fa_zheng_jun_shu.htmlより


まぁO157なんかは極めて感染力の強いもので、わずか10匹でも摂取してしまうと、免疫力の弱い人の場合、即発症コースになってしまうようですけど、そこまでの感染力を誇るわけでもないウェルシュ菌なんかですと、100万匹から、免疫力の強い健康な人ですと100億匹程度取り込んでしまわない限り、発症前に無事退治できることもあるみたいですね。

(なんか幅がありすぎな気もしますけど(笑)、まぁ実際何匹が感染したかを正確に見積もるのは難しいってことですね。)

 

ですが改めて、細菌・ウイルスの類の増殖力は驚異的なものがあるため、1匹スタートでも兆のレベルに達するのはそう遠い先のことではない…とこないだから見ていた通り、彼奴(きゃつ)らの爆発的な増えっぷりを決してなめてはいけない…というのは本当に大事だといえましょう。

 

(ちなみに、感染力の強さと症状の強さは決してイコールではない感じですね。

 感染力最強レベルのノロウイルスで死ぬ人はほぼ絶対にいませんが、より感染力の弱い腸チフスなんかは、毎年世界で多くの死亡者が出続けています。)

 

ただ、生物学的な汚れの特徴としては、これはこないだチラッと書きましたけれども、「殺しさえすればヨユー」ってのがあるわけですね。

(まぁウイルスは定義上「生物」とはみなさないのが普通ですし、そもそも「殺す」って表現があんまり良くないので、「不活化」とかの方が適切かもしれませんが…)

 

もちろん「どうやって殺せるか」も病原体によって異なるわけですけど、例えば魚の身に潜んでいるアニサキス

…これは寄生虫であり、まぁ微生物ってわけじゃないですけど人体に有害な生物には変わりないので例として挙げてみますと…


(まぁアニサキスは以前、寄生虫についてチョロッと語った時に触れたことがありましたが↓)

con-cats.hatenablog.com

 

アニサキスは「冷凍すれば死にます」ってのは有名だと思いますが、冷静に考えると、冷凍したらアニサキスは死にはしますけど、でも実は死骸はそのまま魚の身の中にいるってことになるんですよね。

 

なので、我々はアニサキスの死骸はそのまんまペロリと食べていることが多いわけですけど、先述の通り、アニサキスがヤベェのは腸の壁を「ガブリ」と食い破ろうとして「痛いっ!」となるのがその理由でして、死んでいたらあんな白いモヤシみたいなヒモ、全く何の害でもなく、むしろタンパク質を摂取できて栄養源ゴチです(笑)…としかいえないものなわけです。

 

…ま、冷静に考えると、「何がゴチだ、寄生虫なんてキメェだろ食べてくねぇよ」って話ではあるんですけど(笑)、害か無害かでいえば、生物的な汚れってのは、基本的に殺菌さえすれば問題ないため、比較的対処しやすい(=数が増える前なら許容範囲だし、増えても、殺せばオッケー)とは言えるかもしれません。

 

したがって、食中毒の対策としては、「しっかり加熱すること」と言われることが多いわけですが、それは結局、生物学的な汚れを熱でヌッ殺して、別に摂取しても問題ないただのDNAやタンパク質の塊に変えちゃいましょう…という、そういう意図のものだったんですね。

 

とはいえここで一つ注意点があり、生物の中には、置き土産的に化学的な汚れ=毒素を生み出す嫌がらせ的なことをしてくるやつも存在しまして、まぁその代表的なのがこないだも見ていたボツリヌス菌なんですが、他にも、いわゆる「感染型」ではなく「毒素型」に分類されるものとしては、黄色ブドウ球菌なんかも超メジャーどころでしょうか。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/黄色ブドウ球菌より

こちらは上記ウィ記事にもある通り、そもそも我々自身の体表にほぼ必ずくっついて存在してやがるものでして…

(特に化膿した部分、ニキビや傷口などに大量に存在しますが、普通に毛穴や鼻の中や皮膚表面にも存在しています)

…菌自体の毒性はむしろ小さいのに(よっぽど超大量に、こいつの瓶詰めを一気とかバカげたことしない限り(笑))、分泌する毒素が人間にとって危険な有害物になっているんですね。


東京都保健医療局の以下の記事(↓)にもある通り…

www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp

 

…こいつの分泌する毒素は、100℃20分の加熱でもほぼ全く分解されないため、十分加熱して混入した菌を殺すことができたとしても、既に毒素をブリブリと食品の中に排泄してしまった後は、余裕で食中毒になってしまう……つまり、一度増えたらアウト、もうその食品は捨てるしかないという、大変やっかいな存在になっています。

(要は、「増えないけど、殺すことができない」化学的な汚れを、増えることができるやつがジャンジャン産み出していくという、実に腹立つのりな状況ってことですね。)

 

もちろん、そもそも食品に混じらなければ毒素が作られることもないので、とにかく清潔を心がけるのが重要なわけですけど、人間の体表には必ず存在している…どころか空気中のホコリにすらくっついてる類の菌ですし、どうしても完全にコンタミ(=菌の混入)を避けることは不可能ですから、結局の所、これも「数」が重要になってくる話で、

「混じった菌が増殖して、毒素をプリプリ食品に出す前に食べてしまいましょう。

 体内に入れば、多少菌が混じっていても、我々自身の免疫細胞がきちんと殺してくれます」

という、「夏場は作り置きはせず(保管するなら、必ず菌が増えにくい低温で!なぜ夏は危ないかというと、高温だと微生物の細胞分裂が活発に起こるからに他なりません)、手指や調理器具も清潔を心がけ、速やかに食べましょう」的な、食中毒を避けるための基本ルールになってるわけですね!

 

…といった所で、何となく話のキモについては触れられた気もするものの、そもそものご質問にはまだ答えていなかったので、その辺含めてまた次回まとめさせていただこうかな、と思います。

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