雪を融かそう!

こないだ触れていた「ビールを冷やそう」ネタ(↓)で、もうちょい脱線して上手いこと記事を水増ししたろ、と思えた話があったため、今回もそちらの関連話を続けてみようと思います。

 

con-cats.hatenablog.com

もうクドい感じですが、氷に塩を加えると、通常得られない「0℃よりも冷たい水」が生まれて、ビールもガンガン冷やせます……という話をしていたわけですけど、前回はそこから湯煎に話を広げていましたが、今回はその「凝固点降下」(僕はあまり馴染みがありませんが、↑の記事で画像をお借りした解説記事などでもそうなっていた通り、「氷点降下」と呼ぶこともあるようですね)についてちょっと脱線してみようと思います。

 

凝固点降下というのは改めて、水に何かモノが溶けると融点が下がる=凍り始める温度が下がる=液体のまま温度が下がり続けられるようになる…という話だったわけですけど、日常生活でこれを応用した例としては、もっとも馴染みがあるものとして、融雪剤なんかが挙げられましょう(雪国経験のない方には、全く馴染みがないかもしれませんが)。

 

融雪剤というのは、道路に撒くことで路面の凍結を防ぐものになりますが、その実体は何てことはない単なる塩で……と言っても多くの場合食塩ではなく、最もよく使われるものは塩化カルシウムになるようですけど、いずれにせよこれは結局、水に塩を溶かすことで凝固点を下げてやることで、気温マイナス数℃程度では雪や氷が凍結状態ではいられなくなり、液体に戻る=車や歩行者の移動が安心安全になる、って仕組みのものですね。

 

「なぜ食塩=塩化ナトリウムではなく塩化カルシウムなのか?」ですが、これは恐らく、溶解熱が大いに関係しているのではないかと思います。


塩化ナトリウムの溶解熱(水に溶かしたときに発生する熱)は、こないだもちらっと書いていた通りマイナスの値、いわゆる吸熱反応であり、実は塩ってのは(ごくわずかではあるものの)水に溶けると水が冷えるんですね。

なので、氷水に塩を加え続けることで温度はガンガン低下していき、ビール冷却用のキンキン塩水が得られるわけですが、逆に、塩化カルシウムの溶解熱は大きくプラスの発熱反応(82 kJ/mol。一方ちなみに、塩化ナトリウムは、-4 kJ/mol)…要は、水に溶けると温かくなることから、水に溶けたら逆に冷たくなってしまう食塩よりも、融雪剤としては断トツで優秀といえることになるわけです。

 

ちなみに「凝固点降下の度合い」についてはどうかというと、これも高校化学で習う話で、計算でズバリ求まるものになっています。

 

以下のWikiP記事なんかにもある通り…

ja.wikipedia.org

凝固点降下の温度変化は、

ΔT = Kf × m


という式で求まります。

 

まぁこんな文字見ても意味分かりませんが、「ΔT」が実際に下がる温度で、「Kf」というのは溶媒に固有の値、つまり水なら常に同じ数値で具体的には約1.85、そして「m」というのは質量モル濃度と呼ばれるもので、「溶媒1 kgあたりに溶けているモル数」でして、中学以来おなじみの質量パーセント濃度でも、高校化学で頻出のモル濃度でもない、ここでしか出てこない気がする謎の単位なんですけど、まぁこれを使うことでバッチリ「何℃下がるか」が求まるということで、ちょうどこの話を考える上で都合が良かったものなのでしょう。


(一応、他の濃度と違い、これは「溶媒1 kgあたり」という、塩を溶かした際の体積変化に一切影響を受けないものなので、実は計算をする上では一番簡単で便利なものになりますから、問題を解く必要のある学生的には「むしろ全部これでいこーぜ」とか思えるぐらいなんですけどね(笑))

 

これを踏まえると、塩化ナトリウムと塩化カルシウムはどちらが「凝固点を下げる」=「凍りにくくする」効果が大きいかというと、実はこれは食塩の方に軍配が上がる形になっているのでした。


まぁ「モルと濃度の関係」を考える必要があるので不慣れな方には面倒な話になっているかもしれませんが、まずは先ほどの式から、「分子の個数(=モル数というのは、個数をまとめただけで、個数とほぼ同じ概念)が多いほど、温度の低下が大きくなる」と言えることはOKだと思います。

 

例えば水1 kgに何かが5 mol溶けていれば、「ΔT = Kf × m」の式に代入して、

温度の低下 = 1.85 × 5 (mol/kg) =9.25

で、融点=凝固点は、9.25℃低下する、つまりマイナス9.25℃になるまで水が凍らなくなる、ってことなんですね。

 

これが10 molならばその倍ですし、1 molならば五分の一の温度変化になるわけです。

 

これを踏まえると、当たり前ですが、水に溶かすモル数が多くなればなるほど融点の低下が大きくなることが分かりますから、まずポイントとして「モルが多いほど効果大」ってのが言えるわけですね。


そして、異なる塩を比べた場合、「塩Aと塩B、同じ重さの粉末を用意した場合、粒の個数がより多くなるのはどちら?」ということを考えてみますと、これは、「軽い粉の方が多くなる」というのも当然だといえましょう。


例えば1個10グラムのボールAと、1個50グラムのボールBがあった場合、「1 kg分のボールを用意した場合、個数が多いのはどちら?」という問題は、小学生でも分かります……同じ重さを用意するには、軽いボールAの方がたくさん必要になるわけですね。

(具体的には、1 kgのボールを用意する場合、ボールAは100個必要だけど、ボールBは20個でよい。)


そんなわけで、塩に話を戻すと、「同じ重さの塩を加えた場合、より個数(モル数)が多く=凝固点を下げる効果が大きいのは、軽い塩なのである」ということが分かるかと思います。


で、その「塩の重さ」すなわち「分子の体重」というのは、周期表なんかで表記されている「原子量」から求まるというのは、もう大分前の話になっていますが、一連の陽子・電子・原子などを見ていたシリーズで触れていました(↓)。

con-cats.hatenablog.com

まぁ説明もくどいのでNaClとCaCl2の「体重」をとっとと見ておくと、各原子量はNa=23、Ca=40、Cl=35.5となっていますので、単純に足し合わせて、NaClは58.5、一方CaCl2は111となっています。


これがいわば「一粒の重さ」ってことですね(見た目の一粒ではなく、分子レベルで本当に一粒、目に見えないレベルではなく小さいものですが)。


なので、「同じ1 kgの粉末を水に溶かした場合」の凝固点降下の大きさを比較しますと、軽い食塩の方が個数(モル数)が多くなりますから、こと「凝固点を下げる」という点に関しては、実は塩化ナトリウムの方が有能だ、とは言えるんですね。


しかし実を言いますと、その差は案外微妙なものしかないのです。


一粒の体重的には2倍近くの差があるというのにそれはなぜかと言うと、ここは忘れがちなポイントで受験生に対するひっかけにも思えるのですが、実は上の式でいう「質量モル濃度」というのは粒子の数まで考慮してやらなければいけない形になっていまして…

(まぁ嫌がらせのひっかけみたいにも思えますけど、しかし仕組みを考えてみたら、そもそも「凝固点降下」というのは、「水の中に邪魔な粒子がいることで、氷の結晶を形成し辛くなる」というのがその低下理由でしたから、「いくつの粒子が存在するか?」を考えるのは、実は当然の話ともいえるんですね)

…塩(えん)というのはこれまたこのシリーズの初期に見ていた通り、電離してイオンに分かれますから、実は凝固点降下の計算は、水の中で電離した粒の数を考慮せねばいけない、という話になっているのでした。

 

つまり、これは中学でもおなじみの電離式で、水中では

NaCl → Na + Cl

CaCl2 → Ca2+ + 2Cl

…という形に分かれますから、1粒の食塩はイオンに分かれる結果粒子2つ分、一方塩カルは粒子3つ分の威力を発揮できるという形になってるんですね!


ということで、より厳密に比べるなら、食塩は 58.5/2 =29.25、塩カルは 111/3 = 37 という値が「凝固点降下の計算」で使われる「体重」的なもので、電離を考慮しても食塩の方が軽いので食塩に軍配が上がるわけですが、その差は意外と小さいものであった、って感じだといえますね。


かなりややこしい説明になったかもしれませんが、せっかくなので具体的に求めてみるといたしましょう。


「2リットルの水に432.9グラムの食塩または塩カルを溶かしたとき、その水の凝固点は何度になるか?」というものを例題として考えてみるとしましょうか。

 

改めて凝固点というのは、


「ΔT(下がる温度) = 1.85 × m」

 

という式で求まりますから、それぞれの「m」を求めればほぼ解決ですね。

 

「m」は質量モル濃度というもので、単位としては「mol/kg」だったわけですが、分母は当然水の重さ=2リットルなので2 kgなのは当たり前すぎますけど、分子の方は……

「塩の体重 (g/mol)」と、「溶かす塩の重さ 432.9 (g)」とから「モル数 (mol)」を求める必要があるわけですが、例によって単位を見れば両者をどう処理すればいいかは明らかでしょう…

今、最終的に「mol」という単位を残したいのだから、「(g)  ÷ (g/mol)」としてやれば、分母の分母は分子にいって、「グラム」同士は約分されて消えて…という形で、残るのは「mol」だけになって完成ですね。


計算する際はもちろん、電離して2倍または3倍になることも注意が必要といえましょう。


以上を踏まえて、まず塩化ナトリウム(体重58.5)の場合…


m = (432.9 / 58.5) × 2 ÷ 2 =7.4

( (溶かす重さ / 体重) × 電離 ÷ 水の質量、って形ですね)

 

となり、塩化カルシウム(体重111)の場合…

 

m = (432.9 / 111) × 3 ÷ 2 =5.85

 

…ということで、凝固点が降下する温度はこれに水特有の係数1.85をかけて、

 

・塩化ナトリウムを加えたときに下がる凝固点=1.85 × 7.4 =13.69℃

塩化カルシウムを加えたときに下がる凝固点=1.85 × 5.85=10.82℃

 

…ってことで、同じ重さの粉末を使った場合、食塩の方が低下効率は微妙に良くなっている…という話なのでした。

 

…とはいえ実をいいますと、この公式は「希薄溶液で成り立つ」という条件が付いているものであり、溶液が濃くなればなるほど誤差が大きくなるものなので、何気にこの例は飽和食塩水に近いぐらいかなりの量の塩を溶かしている形になっていますから、実測値からは結構なズレが生じています。

(まさにこないだのグラフで見ていた通り、「100グラムの水に食塩20グラムを入れたら、凝固点はマイナス20℃を下回る」って話だったのに、それ以上の量を加えているはずのこの計算ではそんなに下がっていないことになっていますが、それは公式の条件=「希薄溶液であること」を満たせていないから、ってのがその理由ですね)

物理や化学はあくまで実際の現象を近似して表しているに過ぎないので(「摩擦はないものとする」とかですね)、現実的には理論通りにいかず測定値は往々にしてズレる事が多いわけですが、まぁ具体的な値がズレたとしても、「食塩が塩カルよりも同じ重さで降下効率が高い」って関係は不変だと思われます。


効率はやや食塩の方がいいし、恐らく食塩の方が単価も安いけれど、「溶解熱に圧倒的な違いがある」という点から、総合すると塩カルの方が融雪の効率がいいものとなっており、結果として必要量も少なくなるため経済的&環境保護にも良い……という話になってるのではないかな、と思います。

(でも、Wikipediaを見ると、塩化ナトリウムを融雪剤として用いることも、なくはないみたいですね。)

 

…って、正直、こんなつまんねぇ計算、こんな長々と話すようなことかよ…って思えましたが(笑)、せっかくなので具体的な計算方法も紹介してみた感じでした。

(濃い溶液だと使えないので、ほぼ意味のない、「問題を解くためだけの問題」だった感も否めないものの(笑))

 

融雪剤については、僕は転勤族だったこともあり実際に経験あるんですけど、まぁ雪が液体になってありがたい面もあるものの、そのせいで雪国の冬の道路ってのは、何気に不快極まりないんですよね。


具体的には、外を歩いた靴は部屋に戻って乾いたら白い塩が残る感じですし、塩=電解質が溶けた水は当然、バンバン電子の授受を行える「酸化させやすい状態」になってますから、車とか自転車のボディは、しっかり洗わないと余裕でボロボロのサビサビになってしまいます。

 

ちょうど海が近い街の塩害に近いものがあるかもしれませんけど、やはり電解質の威力ってのも相当で、雪国の冬は何ともしょっぱい感じだといえそうですね。

 

歩道とか、まさにこんな感じで…

https://www.cleanlink.com/hs/article/Ice-Melt-Dos-and-Donts--5191より

しばしば緑色に着色されたこういうソルトパウダー(写真でも、うっすら緑っぽいのは伝わるでしょうか)が、グジュグジュの道路に散在している形です。

子供は特別感があって喜ぶかもしれないものの、現実的には汚れるだけで邪魔くさいとしか思えない感じだといえましょう(笑)。

とはいえやっぱり路面凍結でツルツルなのは本当に危険ですし、塩カルの融雪効果は実際かなりのものがありますから、環境に与える害を考慮しても、これは重要な公共事業かな、と思えますね。


人類の叡智のひとつだといえましょう。

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