冷媒とは

引き続き、エアコンや冷蔵庫といった「モノを冷やしてくれる装置」についてのちょいネタに触れていこうと思います。

 

con-cats.hatenablog.com

↑のリンクカードの見切れている画像他で既に何度も見ていた通り、モノを冷やすために昔の偉い人が考えたシステムは、

「気体を圧縮して液体に(ここで生まれる熱は、別の場所・外に逃がす)→膨張させて気体に戻すことで、周りから熱を奪う(=周りの温度を下げる)」

というアクションの繰り返しで冷気を上手いこと取り出している…という話だったわけですが、「その『気体』って何やねん」って話に触れていなかったため、今回はそちらに触れてみようなかと思った次第です。

 

もちろん気体といっても普通の空気を使っているわけではありません。

普通の空気すなわち窒素と酸素は、圧縮して液化するのに多大なる力・エネルギーが必要になるため(…無論、超高圧をかけるなりしてやれば液体酸素や液体窒素は製造可能なので、普通に世の中で売られているわけですけど、相当な力が必要になります)、それでは効率が悪すぎるんですね。


かといってもちろん、世界一身近な物質である水なんかは逆に、すぐに固体になってしまって思うような冷気を生み出せませんから、当然水でもない……


まぁ空気や水が使われているなんて思われた方はいなかったかもしれませんが、ここで使われているのが、記事タイトルにもしたいわゆる「冷媒」と呼ばれる物質なわけですね。

 

「冷媒」なんて聞くと、何となく……「霊媒」と同じ響きだからかもですが、何か能力者の人の口から出てきそうな、おどろおどろしい人魂みたいな謎物質が思い浮かぶかもしれないんですけど(別に全然そんなのぁ浮かばないかもしれませんが(笑))、これは普っ通~に、常温常圧では単なるガスの、目に見えない気体でしかないんですね。

 

もっとも、冷却サイクルの中においては圧縮されることで液化するわけですけど、1気圧・10℃とか20℃とかという平地の条件では、無色透明の目に見えない気体でしかないものになります。

(もちろん同じガスでも、窒素や酸素よりは圧倒的に液体になりやすく、熱の交換が容易な形になっている、ってことですね。)


とはいえ「冷媒」というのはあくまで一般名というか総称名で、「冷媒」という名前の何か1つの決まった物質があるわけではないのですが……より聞き覚えのある名前でいうと、ズバリ「フロン」!

 

代表的な冷媒物質には「フロン」が挙げられますが、恐らくほとんどの方はそこまでのイメージをお持ちではないように思うんですけど、実はこの「フロン」も決まった物質を表すものではない、単なる総称・グループ名であり…

(例えば「ネオン」が、原子番号10番の貴ガス分子という、特定の決まった1つの物質を指すいわゆる固有名詞であることとは全く違うわけですね。

 むしろ、「フロンガス」は何かそういう特定の化学物質っぽいですし、逆に「ネオン」は、「ネオンサイン」なんて聞くと色々な色のものがあってそういう鮮やかな光を持つ物質の総称に思えるので、イメージ的に両者の固有名詞・総称名詞の割り当ては、全く逆の印象もあるかもしれませんが(笑))

……固有名詞ではありませんから、WikiP記事でも「フロン」となっている感じでした(↓)。

 

ja.wikipedia.org

とはいえその名前…というか、グループの特徴としては、多くのメンバーが「フッ素(英語でfluorine)」を含んでいるというものであり、フッ素化合物を意味する「フルオロ」(「フロロ」とも呼ばれます)から来たものというか、そのフッ素的なイメージを持つので間違いないような気がします。

(とはいえ、フロンは英語だとfreon、発音は「Free-on」(フリィ・オーンが近い)になるので、LとRの違い込みで、あくまで「イメージ」でしかないんですけどね。

 なお、そのfreonという名前は、偉大なるカロザースさんがナイロンストッキングを発明したのでおなじみ(参考:以前の楽しい有機化学講座シリーズの記事↓)、デュポン社による登録商標だそうです。これは知りませんでした…!)

 

con-cats.hatenablog.com


英語的には「フロン(フリオン)」とフッ素の「フロロ」はそこまで直接的な関係はないかもしれないものの、しかしやっぱりフロンは、F(=フッ素・フロロ化合物)って印象が個人的には強いですね。


一方ついでなので関連ネタとして、フロンが破壊するとされる、地球を太陽光から守ってくれるオゾン層の「オゾン」について……

これは面白いことに、単一の物質……どころか単一の元素からなる単体分子であり、これも高校化学で習うものですが、化学を履修されなかった方はご存知ないかもしれません…

…オゾンってのは実は、酸素O2にもう1つO原子がくっついた、O3っていう案外単純な分子だったんですね!

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/オゾンより

オゾンは特有のにおいがあるのが特徴で、酸素が紫外線を浴びたら生成されるものでもあり、強い殺菌性もある物質であるため、具体的にオゾンの純物質を直接嗅いだことはないのでもしかしたら違うのかもしれませんが、UV殺菌を行っている細胞培養室なんかでたまに感じる「強力な殺菌効果のありそうな、シャキッとしたニオイ」がそうなのかな、なんて思っていたものの……


改めて検索してみると、オゾン臭は例えて言えば…

「日差しの強い海岸、森林の空気のにおい、雷雨の中で感じるにおい、コピー機で発生するにおい、生臭い魚のようなにおい」

…などなど、「いや森林の空気と生臭い魚って、あまりにも違いすぎるやろ(笑)」としか思えない錯綜っぷりで、(個人的には「森林・雷雨時のにおい」って印象が強かったので、なんというかスッキリしたにおいと思っていたのですが)何が本当のオゾンの香りなのか、まるで分からなくなってしまいました(笑)。

 

さらに、オゾン層は太陽光の有害光線から地球を守ってくれるわけですけど、当のオゾンは先ほど「強い殺菌性」と書いていた通り、菌を殺すぐらいの極めて反応性の高い分子(具体的には、酸化力がバリクソ強い…酸素を3つも持ってるんだからイメージ的にも当然でしょうか)であるため、実は人体に対しては、特に高濃度になると極めて有害なんですよね。


美容業界では「活性酸素種」なんてのをよく聞くかと思いますが、細胞老化に最も影響のあると言えるその手の活性酸素の代表選手がオゾンともいえますから、「におい」が謎なら「人類にとって味方なのか敵なのか」も謎な、よぉ分からん輩がオゾンだといえましょう(笑)。


(まぁ別に物質ってのは人間のために存在するわけでもないですし、普通に地球上空にあれば紫外線を吸収してくる頼もしいやつですが、実際に身の回りにあると反応性が高すぎて細胞が酸化されて老化してしまう…という、それだけですけどね。)

 

冷媒であるフロンの方に話を戻すと、その「フロン類」ってのは、以下の「冷媒」ウィ記事で紹介されていた通り、命名には体系的なルールがあるようです。

ja.wikipedia.org

  • 先頭 : 環状化合物なら、英大文字「C」をつける。
  • 千の位の数 : 炭素間の二重結合の数。ただし0(飽和)の場合は表示しない。
  • 百の位の数 : 炭素の原子-1。ただし0(炭素1個)の場合は表示しない。
  • 十の位の数 : 水素の原子数+1
  • 一の位の数 : フッ素の原子数
  • 付加記号 : 臭素を含むなら、英大文字「B」+個数をつける。
  • 付加記号 : 異性体の区別があれば、2種類目以降は英小文字「a」「b」等をつける。


フロンのウィ記事にあった通り、最初に開発されて流通したフロンガスR12と呼ばれるものだったようですけど、このネーミングを順番に見ていくと…


まず、先頭のRは「冷媒(refrigerant)」のRでどの冷媒にもつくものですが、数字は、百の位が0なので炭素1個の有機化合物であることがわかり、十の位が1なので水素は0個、そして一の位は2なのでフッ素が2個あることが分かる感じですね。


…が、炭素の腕は4本なので、残り2つが水素じゃないなら何なんだ…?と思ったら、どうやらこれは塩素だったようで、こんだけ色んなルールがあるのに塩素の存在が分からない(明記されていない)のもちょっと片手落ちな気がしたものの(笑)、まぁルールはともかくとして、まさに炭素原子にフッ素2つ・塩素2つがくっついたものが、最初期に開発された、「フロン」の代名詞的なスーパー冷媒・「R12」の正体だったということですね。

 

炭素1つはメタン、それに塩素=クロロ基が2つで「ジクロロ」、フッ素=フルオロ基が2つで「ジフルオロ」ってことで、ジクロロジフルオロメタンというのが一般名の化合物になります。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/ジクロロジフルオロメタンより

まぁ塩素やらフッ素やらといった強力な電子授与元素が合計4つもついてるってことで、「環境には悪いでしょうな…」とは察しがつくわけですが、天下のデュポン社が開発した、圧縮・膨張を繰り返すことで凄まじい効率で冷気を作れるこのR12は、非可燃性なので取り扱いも安全で楽な上、人体にも特に害はないという夢のような物質だったわけですけど、後年、地球のオゾン層を破壊するという事実が発覚してしまい、1987年のモントリオール議定書だかで、世界的に利用禁止・使用自粛の憂き目にあう形になってしまった感じですね。

 

とはいえもちろん冷蔵庫もエアコンも現代人類社会に必須のアイテムなので、禁止されてからも人類はまた別の冷媒を開発し使っているわけですけど、現在最も使われているのはR410Aと呼ばれるやつのようです。

(百の位が400~700番台は先ほどのリストの例外で、炭素の数ではなく何か特殊な意味づけがされているらしく、400は「非共沸混合物(液体を混ぜて沸騰させたとき、両者の沸騰割合が同じ(=気相と液相が同一組成のまま保たれる)ものを共沸混合物と呼び、「非」なのでそうではないもの)」のことで、末尾の「A」は混合比率で、この場合2種のフロンガスを等量混合とのことですね。)

 

日本語記事はなかったものの、英語記事があり、チェックしてみると・・・

 

en.wikipedia.org

こちらはどうやらCH2F2(冷媒番号表記:R-32)CHF2CF3(冷媒番号表記:R-125) の混合物みたいですけど、オゾン層破壊係数は「0」であり、「親オゾンな優しい物質」とはいえるものの、どうやら地球温暖化係数はかなり高く、二酸化炭素の2090倍とのことで、やはりこれでもなお環境に優しくないみたいですから、最近は、上記2種混合物の片割れである、R32単独(こちらの地球温暖化係数は、R410Aの約1/3である650)での使用が進められている……なんてことが、こちらは日本語版記事が存在していたそのR32ことジフルオロメタンの記事(↓)にも書かれていました。

 

ja.wikipedia.org

https://ja.wikipedia.org/wiki/ジフルオロメタンより

そう、何気に地球破壊物質の悪名を負わせられて消えていったR12に比べて、塩素原子が水素原子になっただけの、より単純な物質が最近の冷却装置では使われているとのことで、これは意外というか、まぁ環境を考えた人類による進歩とはいえるのかもしれないんですけど、何となく時代が経て退化しているような感じもして面白いですね。

 

(もちろんデュポンは色々試して最も効率よく冷やせるものが「塩素2つ付き」と見出した形でしょうし、冷却効率自体は(各種データまでは確認していないものの、ほぼ間違いなく)初代の塩素2つ付きのものが最強だったはずで(R410AとR32を比べても、恐らくわざわざ混合している前者の方が効率は高そうに思えます)、環境のために泣く泣くちょっと効率の劣る冷媒分子を用いている、という形になってるんじゃないかなぁ…って気がして、人類の苦悩が窺えるようで面白いです。)

 

そんな感じで、冷媒というものについて、実際どんな化合物なのかを見ていたらまた時間切れとなってしまいました。

そろそろネタ切れですが、もうちょい温度ネタを続けていこうと思います。

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