液体窒素の取扱いに気をつけよう

凝固点降下に始まり、前回沸点上昇からの、「パスタに塩を入れる無意味さ」について熱弁をふるっていましたが、一連のネタは一通り触れ終えていた気もするものの、せっかくなので苦し紛れにもう1つ脱線ネタに逸れてみようと思います。


それが、こないだエタノールドライアイスの話あたりでもチラッと見ていた、液体窒素について……

 

マイナス196℃という超絶冷たい温度以外ほとんど何も触れなかったので、せっかくなので液チについてあまり大したことない話を少々することで、記事を水増しさせていただきましょう。

 

液体窒素については、話に聞いたことはどなたもあると思いますけど、実物を目にされたことのある方は案外少ないのではないか、と思います。

 

ja.wikipedia.org

まさに上記WikiP記事リンクカードの画像にも表示されているように、まぁ何の変哲もない、無色透明のシャビシャビの液体で、味もニオイもなく…

(舐めたら舌が凍傷でやられるので(一瞬で蒸発する皮膚とは違い、粘膜はちょっと、まぁ経験ないので分かんないですけど、より繊細なので気化するよりも先にダメージを食らいそうな気がします)、実際飲んだことはもちろんないですが、窒素は空気中に最も多く含まれる分子で、化学反応性にも一切欠ける、全く「特徴無し」な分子ですしね)

…もちろん超低温なので、常に気化し続けているため(画像でも分かる通り)煙が上がる&音もシュワーって鳴り続ける感じですけど、本当に見た目はただの透明な液体になっています。


上記ウィ記事の「応用」として挙がっている中で、僕は「生物学的サンプルや素材の保存」として使っているわけですが、より一般的に身近といえるものとしては、その下にある、「皮膚医療において、いぼや光線性角化症など見苦しかったり癌化の可能性がある新生物を除去するのに利用」という、イボなんかを超低温で一気に凍らせて取り除く医療行為でよく使われる、なんて聞きますね。

 

あとはこないだも書いていましたけど、超高性能コンピューターのCPUなんかは熱の発生がパフォーマンスを落とすことにつながるため、液体窒素で強制的に冷やしてやる、なんてのも、漫画知識(『87CLOCKERS』より)ですが、よくやられているもののようです(ここまでの低温につけて、壊れないの?と思いますが、むしろ液体窒素は即気化して何も残りませんし、窒素自体は本当に無害な分子ですから、精密機器を冷やすにはむしろ好都合なのかもしれませんね)。


ちょうどこないだ気になった話として、『87CLOCKERS』では個人が液チを購入している描写があったと思うのですが、それは本当に可能なのでしょうか…?

 

軽く調べたら、「液体窒素自体は安価で買えますが、貯蔵容器が高いです。5リットルの容器でも10万円近くし、30リットルの容器は20万円以上します。」という情報が、以下の冷凍機総合サイト「春夏秋凍」の記事(↓)で見当たりましたが……

 

shunkashutou.com

…確かに、液体窒素自体を正しく保管するには、専用の容器じゃないと危険ですね。


当たり前ですがマイナス200℃近い液体を入れても凍りついたり劣化したりしない素材が必要ですし、容器の中ではどうしても液体窒素が気化しますから、「密封ではないけれど、上手くガスをリリースする」形になっていないといけなく、保存だけでも厄介って話なわけです。


とはいえもうちょい調べてみたら、こちらサイサン社のページ(↓)がヒットしてきて、こちらは本当に個人でも購入可能&容器はレンタルしてくれるみたいですね…!

daitoh-mg.jp

もちろん特殊な保存容器=デュワー瓶そのものは上述の通り高価なこともあって、レンタル費用もかさむようですけど、5リットルの液チ&3日のレンタルで、お予算こんなもんみたいです↓

  •  液体窒素 5L         7,500円
  •  デュワー瓶レンタル 3日以内 5,000円
  •  配送費            3,000円
  •  -------------------------------------------------------------------------
  •  小計             13,000円(消費税別)


まあまあ、エタノールドライアイスの2倍以上冷たい(数字上の話で、実際は余裕でもっと冷たいですけど(笑))、確実に家庭で用意できる中で圧倒的にズバ抜けて冷たい液体を入手できる値段と考えたら、これは案外現実的な価格で買えるものだといえましょう。


とはいえ、「液体窒素を販売できない用途」として、「個人の方が行う治療行為 」とあったので、「何とか自分でイボを除去できないだろうか…液チさえあれば…」と思っても、これはやってはいけないものなんですね。


まぁ実際自分でやるのも危険極まりないですし、医療機関にお願いすればこの液チ費用でお釣りがくるぐらいで施術してもらえると思いますから、素直にプロの手を頼るのがベストといえましょう。

 

(そしてそれ以外で、日常で液チが必要になる(有効活用できる)場面なんて、まさにCPUの速さを競う競技者とかでもないとありませんから、まぁ結構な値段をかけてまでして買うものではやっぱりないかもしれませんね(笑))


ちなみに僕は研究室で液体窒素を定期購入してますけど、今明細を見てみたら、160リットルの結構大型タンクが、輸送運搬費14ドル込みで、78.80ドルとなっていました。


まぁ円安なので円換算すると1万円オーバーになりますが、まあまあやっぱり研究用途ということもあり、個人でちまちま買うよりは安いですね(例によって、「だから何だよ、安く買える自慢かよ」って話でしかないですが(笑))。


ちなみに、ガス・気体系販売の恐らく全米最大手、Airgas社を通して購入しているのですが、配達されるのはまさにWikiP記事の画像2枚目にあった、こういう下手したら自分の身長ぐらいある、デッカいタンク(↓)で運ばれてくる感じです。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/液体窒素より


なお、先ほども書いていた通り、液体窒素の貯蔵にはこういう専用のしっかりしたシリンダータンクが使われるわけですが、この中でも当然、液体状態の窒素は時間が経つごとに少しずつ気化していくものであり、密閉してしまうと、気体がガンガン増えてしまい、内圧が超上昇……最終的に爆発してしまいます。

 

なので、この容器には、採水(採液チ)用の弁の他に、高圧になったら自動的に気体をリリースする用の弁もついており、これがまた、忘れた頃にいきなり「プシューーーー!!!」と凄まじい音でいきなりガスを放出する感じになっていまして、まぁタンクは基本あまり人のアクセスのない所に保管しているわけですけど、近くを通りがかった際にいきなり「プシューッ!!」に襲われると、めちゃくちゃ驚いてしまう、大変心臓に悪いものになっています。

 

(でもそうしないといずれ破裂して大事故になりますし、必要な機能なのでしょうがないんですけどね、「何のドッキリだよ!」ってレベルですし(笑)、あれに慣れることは一生ないでしょう…)

 

そう、液体窒素はやっぱり、低温であることも当然ですが、それ以上に高圧ガスの一種でもあるため、扱いには大変な注意が必要なものとなっています。


とはいえ僕は別に大学院時代も、特に何の専用の講習とかも受けずに「じゃあ液チ汲んできて」と先輩とかにお願いされて汲みに行ったりもしてましたけど(大学院時代は、各研究室ではなく、部署が一括で購入・管理しているシステムで、別の建物に取りに行かねばいけなかった感じでした)、正直、最初使うときはめっちゃ怖かったですね。

 

もちろん、普通に「弁についてる蛇口やコックを捻ったら液体の窒素が出てくる」だけなんですけど、弁のオープン時はかなり凄まじい音がしますし(何も知らなかったら、「え?本当にこれ爆発しないの??」と不安になるレベル)、どう考えても、「いや下手なことしたら、これ死ぬやつじゃん…」と思えた……

…というか実際そうなので、まぁ流石に最初は場所の紹介とともに先輩が付いてきてくれて汲み方を見せてくれましたけど、まるで水道から水を汲むがごとく、何の注意もなく「じゃあ以後よろしく」って感じだったので、初めて自分で弁を開くときは、本当に恐怖でしたねぇ~。

 

まぁこの手の製品は安全管理が厳重に、どんな素人が扱っても大丈夫なようにきちっとされているに決まっていますし、そもそもよく考えたら日常生活でも、取り扱いをミスったら普通に死ねるものなんていくらでも使ってるとはいえるわけですけど…

(例えば圧力釜とか、まぁ圧力釜なんてあんまり使わないかもしれないものの炊飯器も一種の圧力釜ですから、高温・高圧が発生するものなんていくらでもありますし、もっと古典的に普通にポットとか、最悪包丁だって余裕で命を落とす事故につながりますからね…)

…やっぱり出てくるものも危険なら出す装置も結構大掛かりなもので威圧感があり、しかも時々「プシューッ!!」と脅してくる感じまでありで(笑)、液チタンクはどうにも恐ろしい感がしてしまいます(実際そう思って慎重に触るのが、一番いいとは思いますが…)。

 

ちなみに液体窒素といえば、この業界にいるとどこかで必ず耳にする有名な話として、「低温室をもっと一気に冷やそうとして液チをまいた人が、窒息して死んだ」という事故がありますね。

(※低温室=部屋全体が4℃・冷蔵庫的な、実験サンプルを保管したり、低温でやりたい実験を行う場所ですね。低い温度に保たれていますから、当然密閉された空間です。)


有名事例なので、記録もあるかな、と思って検索したら、安全講習系の資料にちゃんと掲載されていました。

 

千葉大学のこちらのページ(↓)がまとまっていたのでお借りしますが…

 

physics.s.chiba-u.ac.jp

窒息事故

〔液化窒素による窒息〕
・1992年8月
・北海道

概要:低温実験室内の温度を下げようとして液体窒素をばらまき、呼吸不全のため2名が死亡。

原因:冷凍機の故障により低温実験室の室温が上昇、これを0℃以下にとどめようと、大量の液体窒素を気化させ室内の酸素濃度が低下し、 酸欠状態に陥ったと考えられる。

 

北大での話だったようで、「事故例」として、北大の物理学科がPDF記事でより詳しい説明(新聞記事含め)もまとめてくれていましたけど、物理学科の先生&生徒という専門知識がある人でも、「低温室の故障」という異常事態についついそうしてしまったぐらい、冷やす上では本当に魅力的な超低温物質なわけですけれども、まさにこの例からも明らかな通り、人間にとっての酸素分圧の重要性は、本当にあまりにも、これ以上に大切なものはこの世に存在しないレベルだといえるので、液体窒素は「密閉空間での取り扱い」が、何気に一番気をつけるべきポイントであるように思います。


より詳しい注意点は、先ほどの千葉大の親記事的なものに非常に丁寧にまとめられていました(↓)。

 

physics.s.chiba-u.ac.jp

以前、ドライアイスの話で、「ドライアイスを保管している金庫みたいなボックスがあるんですけど、そこに顔を近づけたら、一瞬で気が遠くなるぐらいの感じになって、怖かったです」なんて書いていたときにも触れていた記憶がありますが(検索し直してみたら、この記事(↓)でしたね)…

con-cats.hatenablog.com

…まさに、千葉大安全講習記事にもある、この記述(↓)が全てですね。

 

息を止めても我慢できるのと低酸素濃度の空気を呼吸するのとは全く違います。濃度によっては一呼吸で倒れます。 実験室で人が倒れていた場合、助けに行きたくなりますが下手に入室すると本人も酸欠で倒れかねません。救助の時は冷静に判断 してください。

 

結局、「酸素分圧」というのが極めて重要であり、酸素分子の量そのものは液体窒素をぶちまける前後で全く減っていなくても、この場合「モル分率」という方が正確かもしれませんが、「空気全体における、酸素の割合」が著しく低下しているため、窒素が大量に存在する空気(というか、酸素の割合が低い空気)は本当に、ひと吸いするだけで気を失うこともあるレベルなんですね。


(同じように、人間の呼吸には酸素の「分圧」というものが重要なので、例えば高地・高山とかは、酸素濃度および割合自体は平地と変わらなくても、気圧そのものが低く、それに応じて「酸素分子の作る圧力(これを分圧というわけですが)」も小さくなるため、「同じ濃度の酸素でも、圧力が小さいと苦しくなる」って感じになるわけです。)

 

もちろん千葉大の記事にあったように、窒息事故よりも爆発事故の方が件数は多いようですし、そちらも十分注意すべき点なわけですが、超低温であることそのものに加え、爆発・窒息という副次的な危険性も高いため、やっぱり液体窒素は強力な物質なだけあって、取り扱いには本当に細心の注意が必要だといえましょう。

 

(ちなみに記事で写真付きで紹介されていた通り、液体窒素タンクの運搬の際は「エレベーター同乗禁止」が原則みたいですけど(一人がタンクをエレベーターに載せ、タンクだけを移動させる→別の人が移動先であらかじめ待機し、エレベーターが着いたら、受け取る)、Airgasのおっちゃんたちは、普通に乗ってる気がしますけどね(笑)。

…まぁ、開放系の容器ではなく、弁を閉められるシリンダータンクなので問題ないとはいえますが…。)

 

…と、ここからもう1つまたネタ派生しようと思っていたら、またまた完全に時間切れとなってしまいました。

水増しが酷すぎる感じかもですが(笑)、続きのネタは次回持ち越しとさせていただきましょう。

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