この世で最も冷たいものは…

前回の記事では液体窒素についてちょろっと話をしていましたが、前回最後に書いていた通り、もうちょびっつ関連ネタで脱線小話を広げていようかと思います。

 

それが温度についてで、既に何度か書いていた通り、液体窒素の沸点は-196℃であり…

(普通の環境下では液体がガンガン気化していっている状態なので、液体窒素自体は基本的にその温度で固定という形ですね。

 ちょうど、沸騰しているお湯が100℃固定なのと全く同じ状態が、通常環境下の液体窒素で起こっているわけです)

…これは超冷たい温度なわけですけど、あくまでも「容易に入手可能(保存は大変なものの、市販されていて何の資格もない個人でも購入可能という話でした)なものの中で最も温度の低い物質」に過ぎず、「液体窒素がこの世で最も冷たい物質」というわけでは決してないんですね。

 

では具体的にもっとチベたいものには何があるのでしょうか…?

 

パッと思いつく極めてメジャーな物質でいえば、これまた普段は気体として存在している沸点の非常に低いものを液化したもの……窒素ではなく、ヘリウムを液化した、液体ヘリウムが挙げられましょう。

 

ja.wikipedia.org

とはいえ、「窒素よりヘリウムの方が沸点が低いってんなら、もっと(というか最も)軽い分子である水素の方が温度低そうじゃない?」と思えるかもしれませんが…

これは、必ずしも重い分子の方が沸点が高いとは限らない(例えば水とエタノールは、1分子の重さは水の方が断然小さいですけど(H2Oで分子量18 vs C2H5OHで分子量48)、水の方が遥かに蒸発もしにくいし沸点も高いですしね)ため、実は液体ヘリウムの方が液体水素よりも温度が低いんですねぇ~。

 

ja.wikipedia.org

上記ウィ記事にある通り、液体水素の沸点は-252.6℃(それでも液体窒素よりもずっと冷たいです)で、一方の液体ヘリウムの沸点は-269℃となっています。


とはいえまぁ、低いといってもマイナス二百数十℃ということで、「すっげぇ冷やし続けたら、マイナス1000℃ぐらい行きそうなもんだけど、無理なん?」という疑問も浮かぶっちゃ浮かぶため、3ケタ温度なんてのは若干物足りない気もするかもしれないんですけれども、それは絶対無理なんですね。


何度か書いている通り、温度というのはあくまでも分子の運動度合いを数字として表したものであり、温度が高い=運動が激しいといえるものですから、低い温度というのは逆に分子の運動が鈍いと言い換えることができ、そう考えると自ずと結論は導かれるといえましょう……

ズバリ、温度には下限があり、分子の運動が完全に停止した状態こそが「最も低い温度」に過ぎず(静止しているものよりも「運動してない」ものは存在しないため)、物理・化学の世界では、その温度を「絶対零度」というのでした。

 

ja.wikipedia.org

この絶対零度は、一番なじみの深い摂氏温度でいうと-273.15℃(僕は高校時代、先生が「こう覚えるといいかもね」と紹介してくれた「フナさん」という語呂で覚えていますが(何の意味もないですけど(笑))、小数点込みでより厳密にいうと-273.15℃ですね)であり、化学の世界ではより物質の状態の議論が容易になることから(例えばこないだ見ていた気体の状態方程式とかも、絶対温度を用いれば計算が簡単になるため、こちらが使われる感じですね)、この絶対零度を「0」と定めた「K(ケルビン)」という単位が使われるという話もしていました(0 K = -273.15℃)。


それを踏まえると、液体ヘリウムの温度は-269℃でしたから、実はこいつは絶対零度間近、絶対温度で書くとわずか「4 K」という、ほぼほぼヘリウム分子は熱運動をしていないレベルの、極低温な物質だといえる感じなんですね…!

 

まさに限界ギリギリの、「冷たい」というレベルを超えた「触れた全てを停止させるもの」ともいえる中二病物質がこの液ヘリなわけですが、こちらは液チよりも貴重なものであり、僕は現物を見たことも使ったこともないですねぇ~。


(製造コストなどももちろんですが、この世の空気の80%ある窒素と比べ、ヘリウムという原子自体が貴重な物質となっています。

 ヘリウムの希少性はよくいわれる話で、もちろん一番身近な「ヘリウム」といえば、風船に入れるヘリウムガスなわけですけど、一時、ディズニーランドで「ヘリウム不足につき風船の販売中止」というニュース(↓)もありましたし…

www.afpbb.com

…ちょうど時を同じくしたぐらいに、嵐がコンサートで気球を飛ばすためにヘリウムを買い占めて、医療・研究用途で必要な人たちがブチギレ…といういわゆる「嵐ヘリウム事件」なんかもネットで騒がれていましたが(↓)…

news.livedoor.com

…まぁ記事にある通り、なんぼ嵐のコンサートの規模が大きいといっても、医療用途のものが不足して買えなくなるなんてことはないと思いますし、これは外野が面白おかしく騒ぎ立てているだけにも思えますね。

 とはいえヘリウムが貴重で、世界的に供給不足が深刻…ってのは確かな話で、研究用途で液体ヘリウムを使う際は、気化したヘリウムを必ず回収することが義務付けられていると思います。

 

 また、ヘリウムガスなどを販売している川尻工業のページ(↓)を覗いてみたら……

www.kawajiri-kogyo.jp

…アクセスしたら自動的に出てくる注意書きに、「ヘリウムは非常に貴重で、特定の用途への提供に限らせていただきます」という文言とともに、後半では…

バルーンイベントの会社から日本中の相当な割合を使っている会社だから出せと言われる時がありますが、それだけ力があるのなら、太陽がヘリウムを使った核融合で燃えているので、太陽に行ってください。

…という、「煽るねぇ(笑)」と思える怒りの文章も用意されていましたけど(笑)、実際この世に存在するヘリウムという原子が貴重なのは間違いなく、近い内、もしかしたらプカプカと浮く風船はどんどん見る機会が減っていってしまうかもしれませんね。)

 

…と、話が逸れましたが、液体ヘリウムは極めて低温でほぼ絶対零度に近い温度なわけですけど、果たしてこれがこの世で最も冷たい物質といえるのでしょうか…?

 

検索してみたら、ズバリ、科学者がこれ以上に冷たい物質の作成に(短時間ながら)成功した報告があるようで、我らがギネスブックに登録されていました。

 

www.guinnessworldrecords.com

こちら、ドイツの研究グループが報告したもので、原著論文はこちら(↓)になりますけど…

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

詳しい仕組みは僕も門外漢なので不詳なため省略させていただきますが、ごく簡単に書くと、特殊な無重力装置にルビジウム原子をさらすことで原子の運動を抑え、一時的に「38 pK」という、超スーパーべらぼう低温を達成したとのことです!

(「pK」と書いてもピンと来ないかもしれませんが、これは倍数単位(ミリ→マイクロ→ナノ→ピコ)の「p」を用いたピコケルビン…「ピコ」は1兆分の1なので、「1兆分の38ケルビン」ってことですね。

 要は、全てが停止する絶対零度よりも、わずか0.0000000000038℃だけ高い温度ということで(出発点が違うだけで、「1度」の大きさは、℃もKも同じです)、これは……とても冷たいっ!(それ以上気が利いた言葉がなくて残念ですけど(笑)))

 

とはいえ逆にいえば、人類はまだ絶対零度にまでは到達していないんですね。

 

というより、絶対零度というのは「分子の運動が完全に停止」といういわば理想状況であり、少なくとも現在の科学技術では到達が不可能とされているものになります。

(物理の問題でよくある「なお、このヒモの重さは0とする」みたいな、「いやこの世に存在してるなら、重さ0はありえないでしょ」というのと同じような話で、それは不可能なんですね。)

 

とはいえしかし、実は、絶対零度よりも低い温度、いわば「負の温度」というものも、考え方によってはなくもないとされているようです。


要は、熱というのは「分子の運動・振動」として物質同士に伝わるものですから、「絶対零度の物質よりも、もっと熱を奪うものがあれば、それは絶対零度よりも冷たいといえるのでは?」みたいな話で、(もちろん改めてこの辺の話は僕もモグリなため大分適当な物言いですけど、概ねそんな感じで…)統計力学的には「負の温度」というのも考えられているとのことですね。

 

サイエンス記事の大御所サイト「WIRED」の翻訳記事をメインで掲載してくれているwired.jpのこちらの記事(↓)なんかに、関連話が大変よくまとまっていたので、興味のある方はぜひ参考にご覧いただけると楽しいかと思います。

wired.jp

この記事や、他にも微妙に触れようと思っていた関連ネタがあったものの、例によって完全に時間切れとなってしまったため、今回はここまでとさせていただきましょう。

 

アイキャッチ画像も全く思い浮かばなかったのですが、「液体○○」にはもう1つ有名所で「液体酸素」もあり、こちらは4兄弟の中では一番沸点の高い雑魚なため、「最も冷たいもの」という今回の記事の趣旨とは全然外れてますけど(笑)、液チ・液ヘ・液水と違い、こいつは液化するとうっすら青みがかったものになるんだそうで、これも僕は見たことがなかったのですが、興味深かったのでこの画像をウィッキー先生からお借りさせていただくとしました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/液体酸素より

酸素といえば大気の青というイメージが強いですけど(まぁ、原子モデルとかだと、燃焼の赤であることも多いものの)、液体になったらまさに青になるというのも、ロマンがあって面白いものですね。

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