川も凍るよ

前回過冷却という、凝固点降下と似ているけれど全く別の現象(前者は純物質でも見られる、「融点に達してもすぐには固体にならない」ものであり、後者は「溶媒に溶質を溶かすと、凝固点が低くなる=固体になりづらくなる」というもの)に触れていました。

 

過冷却について、これも触れておきたかった話だったものの時間不足につき触れられなかったものに、過冷却の王者、グリセリンがあったので、今回はまずそこから始めさせていただきましょう。

 

グリセリン(個人的には、生化学分野で呼ばれる「グリセロール」の方が馴染みがありますが、中学理科で「脂肪酸グリセリン」を習って以来、一般的に親しみがあるのは「グリセリン」の方かもしれませんね)は、ちょうどこないだ「水以外の液体」シリーズで触れていたばかりで(↓)…

con-cats.hatenablog.com


…何気にこの記事でも触れようと思っていたものの、ちょっと説明も長くなりそうで面倒くさいな…と思い、メモ帳に、いつか機会があったら触れよう、って形で「融点と過冷却」というメモだけ残していた感じでした。


最近の話の流れで上手いこと過冷却ネタに行きついたので、今回触れてみる感じですね。

 

とはいえ別に込み入った話ではなく、「ゆっくり、静かな環境で冷やせば」水も過冷却状態になり(家庭の冷凍庫とペットボトルですら実演可能というのは、前回見ていた通りですね)、融点より低い温度でも液体状態のままキープできる…という話だったのですが、それは細心の注意を払って何とか液体を維持できる感じで、ちょっとした衝撃でピシィッと一瞬で全体が凍ってしまうのが水でした。


しかしグリセリンはむしろ真逆で、「どんなに冷やしても、全然固まってくれない!」という性質のもので、自動車の不凍液として使われていることや、これに端を発した「グリセリンの結晶化」にまつわる都市伝説もバキなんかで登場していた…という話もこないだのグリセリン記事で紹介していました。

(こないだの記事でも触れていましたが、リンクを貼って読みにくかった部分もちょっと改訂したら、何か改めてアクセス数が伸びていたので、その都市伝説記事のリンクカードを、味をしめて(笑)再度貼らせていただきましょう↓)

 

con-cats.hatenablog.com

 

そう、最初に書いた通りグリセリンはまさに過冷却の王者ともいえる感じで、100%のグリセリンの場合、なんとマイナス80℃のディープフリーザーに入れても凍らないレベルなんですね。

(ただし、凍結はしないものの、ちょっとだけ「何か固い液体」という感じで、粘度は確実に落ちる印象です。)


マイナス80℃ですら凍らないですし、エタノールの融点はマイナス114℃ですから、グリセリンの融点もエタ同様、マイナス100℃超ぐらいっしょ、とか勘違いしがちなのですが、まさかのまさか、グリセリンの融点は、衝撃の18℃……つまり、融点0℃の水よりも余裕で融点が高いってんだから驚きです!


(この辺もややこしいですが、「融点が高い」というのは、「その温度まで固体」なわけで、「より凍りにくい」といえる感じですね。

 水は0℃まで固体でそれ以上だと液体ですが、グリセリンは、まさかの18℃まで(理論上というかデータ上というかは)固体で、それより高い温度でようやっと液体になる…という話になっているわけです。)

 

しかし、先ほども書いた通り、グリセリンってぇのは18℃どころか、マイナス80℃という超強力冷凍庫に入れても、シレッと液体のまんまでいやがるんですね!


これはなぜかというと、ズバリ「グリセリン過冷却状態で極めて安定だから」というのがその理由であり、昔の人は「グリセリンは絶対に結晶化しない」と勘違いしていたぐらい、固まらない(凍らない、結晶にならない)性質をもっている物質だということなのです。


「いやいや、18℃を下回っても液体のまんまなら、じゃあ『融点が18℃』って何なのよ」って話になるようにも思えますが、これはズバリ、「一度結晶化したグリセリンをゆっくり温度上昇させたら、液体に戻るのが18℃」という、あくまで定義通りの「融点(固体が液体になる温度)」のことであり、誰も一言も「18℃で固体になる(=凝固点が18℃)」とは言っていないわけですね。

 

まぁ僕自身そういえばグリセリンの結晶は見たことがないので、本当に18℃になるまであのグリセリン様が固体状態でいられるなんて中々想像もつきませんが、データを真摯に受け止めるなら、そういうことなんだといえましょう。

 

要は、凝固点と融点が大きく違う物質がグリセリンだ、っていえる感じですね。

(とはいえ、定義によっては、過冷却というのは「凝固点を超えても固体とならない状態」のことで、厳密に言えば「凝固点と融点は、向きが違うだけで同じ温度」といえるのかもしれないんですけど、まぁそんなのは単に言葉の定義の問題で、「固まり始める温度」と「融ける温度」が違う…ってことを言いたいのは明らかといえますから、そう言ってもいいかな、と思います。)

 

なぜグリセリン過冷却に強いのかは、究極的には「そういう物質だから」としかいえないと思いますけど、イメージとしては(あくまでイメージなので、正確・厳密な話では全くありませんが)…


「液体が固体になるときは、(前回書いていた『結晶化コアの形成』みたいな)何らかの大きなエネルギー状態を一度超える必要があり、グリセリンはそのコア形成に必要な『低温エネルギー』がめちゃくちゃ大きいのであろう。

 逆に固体が液体になる際は、その障壁はなく、素直に理論通りの温度で状態変化が起こる」


…みたいな感じで、凝固点と融点の違い(=過冷却の必要性)を僕は頭の中で勝手にイメージしてますけど、その結晶化コアの形成が、グリセリンは大変困難を伴う物質なのである(ヌルヌルしてますしね(笑)。まぁそれも完全に適当な、何の学術的意味もないイメージですけど(笑))……ってのが、詳しい仕組みはともかく、固まる温度と融ける温度が大きく違う理由なんだろうな、というざっくりした説明になるように思う、って感じですね。

 

といった所で、「過冷却グリセリン」については、まぁ「グリセリンはどれだけ冷やしてもそう易々と結晶化しない」ということは以前の記事で書いたことがあったので既出情報ではあったのですが、「これもまさに過冷却の例ですね」ってことに触れておきたかった感じでした。

 

と、これだけではあまりにも物足りなかったので、凝固点降下の例について、もう1つ脱線ネタに触れていくといたしましょう。

 

これまで、「融雪剤」が一番生活でよく見かける凝固点降下の応用例ですかね……とか書いていましたが、しかしよく考えたら、もっと身近……かどうかはともかく、よりイメージの付きやすい例がありました。

それがズバリ、「海の水は凍らない」ということ!


夜中、氷点下を超えて冷え込む冬の海でも、海の水が凍っている所を見たことのある方はほぼいらっしゃらないと思います。

 

これはズバリ、海には様々な塩が溶け込んでいるため、凝固点降下の効果で「凍り始める温度」が下がり、マイナス数℃の環境では凝固点に達さず、液体であり続けるから、ってのがその理由なわけですね。

 

以下のウィッキー先生記事(↓)によると…

 

ja.wikipedia.org


…海水の塩分は3.4%程度ということで、あれ、海水ってそんなに薄かったっけ、と思えたものの、これでも数℃の凝固点降下はあるため、海水が、雪が降るような冷え込んだ日でもそう容易くは凍らないのは当然のことだといえましょう。

 

とはいえあくまで「凍りにくい」であり、オホーツク海の流氷とか、北極・南極には氷山が浮かんでいる・氷の大陸になっているのも想像に容易いですね。


しかし、前回書いていたジュースが凍る例然り、氷が発生するほどその近傍の液体の塩濃度は上昇していくため、「平均3.4%」よりどんどん濃い海水になっていく=どんどん凍りにくくなっていきますから、かなりの低温でも、無尽蔵に海水全部が凍ることはない形になっているといえるように思います。


(気温は普通にマイナス50℃とかになる場所もあるようですけど、水は比熱が大きいですから、何気に海の底とかまでその温度になることはないということもあり、塩濃度の上昇で凝固点が下がり続けることも相まって、「海が海底深くまで完全に凍結してしまった、魚はどうなる!?」という心配は無用なんですね。)

 

…と、しかし、海が凍りにくいのは塩が溶けてて凝固点降下とやらでいいとして、

「じゃあなんで川は凍らないの?川の水は、しょっぱくない真水でしょ?」

…と思われるかもしれませんが、まぁ川の場合は流れがあるため、例の結晶化コアが形成され辛く、過冷却効果で固まりにくい…って話はある気もするものの、そもそも論として、普通に川は凍るんですよね。


雪国・北国経験のない方には未知の話かもしれませんが、マジで北国の川って、余裕で全体が凍ることもあるのです。


検索したら、北海道は上富良野町後藤純男美術館によるブログ記事に、非常~に美しい凍結河川の様子が収められていたので、アイキャッチ画像用にお借りさせていただきましょう!

 

gotosumiomuseum.com

 

https://gotosumiomuseum.com/restaurant/5172/より

澄んだ冬の、気持ち良さそうな好天ですね!

普通に、この上でスケートを楽しめるぐらい(といっても、真ん中の方ちょっと液体のままの部分も見えるので、この状態の川でスケートするのは危なすぎるかもしれませんが)、河川一面全体が凍るのも、北海道なんかでは日常茶飯事といえましょう。

 

もちろん、流れのない池や湖が凍るのはよりありふれたことで、大きな湖の湖面で、冬はマジで子供たちがスケートを楽しむのは恒例行事なのである、って感じだと思います。

同じように、流れる川も、案外凍ることがあるのです、って話でした(僕は実際見たことも、川面を「凍ってるー」と靴で滑ったこともあります)。

 

(ただこの場合でも、水の比熱と、あとは凍ることで起きる不純物濃度の上昇による凝固点降下などで、川や湖の水が底まで完全に凍結し尽くすことも、あまりないんじゃないかな、って気がします。

 川の魚とかは、多分底の方でひっそりと暮らしているように思えますね。)

 

…とそんな所で、今回もかなり浅い話しかしていないものの、時間切れとなってしまったため、この辺で区切りとさせていただきましょう。


関連ネタ、もう1つだけ触れておこうかな、と思える話があったので、一連の低温シリーズ、次回もう一回だけ逸れていく予定です。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村