圧力・気圧・水圧について、ここ最近の脱線シリーズで概ね「面白そうだから書いてみよう」と思っていたことは触れ終えたように思っていたのですが、1点だけ、触れようと思ってメモしておいたのに触れていなかったものがあったことに気が付いたので、そちらに触れて、その後、圧力ネタに脱線する前の話に戻っていこうと思います。
それが、以下のような自問自答的な自作の疑問で……
「気圧というのは上空の(=自分より上に存在する)空気の重さがのしかかってくる」とかいう話だったけど、例えば建物の中にいる場合、見上げたらすぐ天井があって「自分の上にある空気」はめちゃくちゃ少ないように思えるぞ…
…なぜ建物の中は自分の上にちょっとしか空気がないのに、外と同じような気圧になっているんだ?
…という問いかけを、病院棟がつながっているかなりデカイ職場の建物を練り歩いているときに、ふと思いつきました。
これは結局、「建物は、ドアや窓を介して外界とつながっているから」というのが答になるわけですけど、なぜつながっていたら自分より上にある空気が少なくても同じ気圧になるのでしょうかか…?
それはズバリ、本当に完全に隙間のない鉄の塊で作った箱みたいな部屋でもない限り、空気というのはどんなに小さな隙間でも通過できる(まさに空気の分子が目に見えないぐらい小さいからこそですね)ものであり、空気分子がつながりを形成しているという状況であれば、ここ最近の記事で見ていた「パスカルの原理」に従い、圧力はどこでも完全に一致するから…に他ならないわけですね。
どんな建物にも窓やドアがある以上(ないと人間が入れませんしね)、一見今いる場所の天井が低く、自分の上にはあんまり空気の層が存在しないように思えても、屋内の気圧というのは普通に外界と一致した状態になっている、ということなのでした。
しかしそうすると、例の「外界と圧力をちょっと変えている」ような部屋、クリーンルームや陰圧ブースみたいなやつは、
「ドアを開けた瞬間に空気が外とつながるんだから、圧力が完全に一致するわけ?つながったら圧力が同じになるんならそうじゃないとおかしいし、もしそうなら外とは違う圧力を保つのなんて不可能じゃない?」
…という疑問が浮かぶかもしれないんですけど、パスカルの原理というのは「静止状態の流体の圧力は、あらゆる場所で同じ」という、「静止状態」という条件が加わったものなんですね。
なので、こないだの記事で「RI室(放射性物質を使う部屋)は陰圧になっており、扉を開けて出入りする際は物凄い風圧を感じたものです」と書いていた通り、気圧差のある部屋というのは、出入り口を開けた場合、まず空気の流れ込みが発生する、すなわち風が起こりますから…
(風というのは、「何か外でどっからともなく吹いてるもの」という印象ですけど、あれは単純に、「気圧差に応じた空気分子の移動」に過ぎないんですね。なので、天気が悪い=気圧差が大きい日は、風も強くなるわけです)
…パスカルの原理はその風が吹き止むまでは適用されず、「外界とつながったら一瞬で圧力一致」ってわけでは決してないといえるのでした。
(逆に、静止状態の水や空気が詰まった空間であれば、例えば水風船を押したり油圧ポンプを押したりした際、その容器内の流体全体には、圧力が一瞬で伝わります。
…とはいえ、この「一瞬」もあくまで「同時」ではなく、最近リンクを紹介している物理解説記事のどこかで見た話で、どうやら「音速」で伝わるもののようですが、音速というのは1秒で約340メートル程度ですから、凄まじい速さとはいえますね。
実生活上、ブレーキを踏んでブレーキが実際に作動するのはほぼ一瞬だ(=人間が危険を認識してブレーキを踏むまでには時間がかかるけれど、踏んでから作動するまでにギャップはほぼない)と考えて問題ないといえましょう。)
改めて、家や建物というのはドアや窓で外界とつながっていますから(特に古い建物の場合は、全てを完全に閉め切っても隙間風が入ってくるぐらいに、ほぼ常に完全に外界の空気とつながってるといえるレベルですね)、窓やドアを開けて風を感じることがない状況であれば、気圧は完全に外と一緒になっているので、「天井が低いのに『上空の空気の重さ』である気圧が普通にかかるのはなぜだ?」という疑問を感じる必要は一切ないのでした。
(まぁ、別にそんなあえてネタ作りのために無理やりひねり出したようなそんな疑問、普通に全然感じなかったかもしれませんが(笑))
では完全に密室だったらどうなのかといいますと、当たり前ですが完全な密室を形成した瞬間から、外の気圧の影響は全く受けなくなります。
しかし、密室を作っている最中は、その作業場=外界と完全につながった状態であり、最後の隙間を埋めて「密室になった」時点でのその密室内の空気は、パスカルの原理から(っていうか普通に同じ空間の空気が閉じ込められるわけですしね)、外界と同じ気圧になっている感じですね。
なので、密室の天井が低くても、密室内はそれを作った作業場の大気圧=「地上から地球の大気層の一番上までの分の空気」がのしかかってくるレベルの気圧が形成されている形になります。
もちろん、密室の中に例えば「空気をキャッチして固体に変換してしまう」みたいな装置を入れておいて、その装置が徐々に密室内の空気を食べて気体の分子を減らしてしまうような状況ですと、段々とその密室内は気圧が小さくなり、真空状態に近づいていく感じですね。
(逆に大量の空気を詰め込んだスプレー缶なんかを入れておき、密室完成後にガスをジャンジャン開放してやれば、高気圧の空間ができるということになります。まぁ当然ですね。)
同じような話で、これは誰しも幼い頃に感じたことではないかと思いますが、
「布団を完全に被って寝たら、空気が足りなくなって窒息して死ぬんじゃないか?」
…みたいな不安に駆られたことも特に小さい頃はあるのではないかと思うんですけど、これは布団=分子レベルではスカスカもいい所で(そもそも敷布団掛け布団の間にはでっかい隙間も空いてますし)、楽に空気が通過できる状況になっていますから、仮に局所的に空気が減ってきたとしても普通に周りから空気は補充されますし(そもそも密閉されてないので減りませんが)、呼吸で酸素を吸って二酸化炭素を吐き出しても、二酸化炭素濃度が高まり続けることなどはなく、常に一定の酸素濃度が保たれるように、布団の外側と交換されるので問題ない感じですね。
(まぁこれはパスカルの原理とか気圧とかとは関係なく、空気の分子は布団の隙間なんて余裕で通過するし、単純に呼吸で吐き出す二酸化炭素濃度はそこまで高くない、というだけの話ですが。)
逆に、空気分子の通過をほぼ全く許さない、例えば布団圧縮袋みたいなビニール素材を完全密閉して、その中に人間が入り込んでしまいますと、これは余裕で窒息死してしまう感じですね。
結局、空気もあくまで分子であり、普通に布団みたいなガバガバな空間なら余裕で通れるけれど、空気分子よりも細かい構造で閉鎖されたものは通れない、というそれだけの話だといえましょう。
また、話があっちゃこっちゃ飛んでしまって恐縮ですが、例えば高層ビルのエレベーターに乗ると、敏感な人は高速で高層階へ移動する際、結構な気圧差を感じるのではないかと思います。
これはなぜかというと、上空=ビルの高層階の気圧は普通に「自分より上にある空気」が少なくなるからで、高度に応じた気圧差が発生するから&エレベーターは密室ではないので(改めて、扉が閉じていても、分子レベルだと空気は普通に外界と接しているといえるため)、上昇とともに外界との気圧に即座に一致するから…といえる感じですね。
しかしそうすると、鋭い方ですと「ん?いや待てよ、パスカルの原理だかで、同じ空間の圧力は完全に一致するんじゃなかったの?何で低い所と高い所の空気は、一つながりになってるのに、同じじゃないわけ?」と思われるかもしれないんですが、それに関しては、前回リンクをご紹介した「EMANの物理学」の↓の記事で、完全に解説していただけていた話になっています。
要は…
実際には,「容器の外から加えられた圧力」と「流体に掛かる重力によって生じる圧力」との合計が存在しており,深さによって圧力が違ってくる.
全体に一様に伝わるのは前者の「外部から加えられた圧力」の方だけである.
…ということで、「パスカルの原理が適用された上で、さらに追加で重力によって高低差で圧力が発生する」…という、若干ちょっと「ご都合さ」も感じざるも得ないものの(笑)、まぁ現実世界はそうなっている、って話なわけですね。
(ですが、「わかりやすい高校物理の部屋」(↓)でも、それを踏まえて見事な解説がなされていた感じですね。)
…と、長々とあんまり大したことない想定質問を自問して答えてきましたが、先ほど書いていて広げられそうだなと思ったポイントの1つとして、記事タイトルにもしました、「圧力は身体のどこで感じるのだろう?」というのがありました。
まぁ物質から加わる圧力、例えばパンチされたりモノにぶつかったりといった場合は、身体のどこでも感じることが可能ですけど…
(とはいえ、ヒジの皮膚とかは鈍感かもしれませんね。これも子供の頃誰でも経験することでどなたもご存知かと思いますが、ヒジって、全力で思いっきりつねっても、マジで全く痛くないんですよね。
子供の頃、面白すぎてつねりすぎて、皮膚がちぎれた…というのは流石に嘘ですけど(笑)、痛覚が全くないのでしょうか、鈍感すぎて笑えます)
…今考えるのは、特に目に見えない、気圧や水圧についての話ですね。
これはまぁ、先ほどのエレベーターの例を浮かべれば分かる通り(ネタバレになるので先ほどはあえて「どこで気圧差を感じるか」は書かなかったのですが、想像すれば明らかですね(笑))、非常に面白いことに、身体の中で一番圧力の違いを敏感に感じ取れる部位は、繊細な手や、長さとか面積の大きい脚などの皮膚とかではなく、まさかの「耳」なんですよね。
とはいえ「音」というのは空気の振動を読み取るもので、そう考えれば「微妙な気圧差を一番敏感に感じ取れるのは耳」というのも納得ですが…
(そう考えると、「バランス感覚はどこで作られるもの?」というのが、実は体幹とか脚の筋肉とかではなく、実は耳の中の三半規管だという話の方が不思議度は高い点かもしれません)
…いずれにせよ気圧は、以下の子供用科学サイトKoKaNetから拝借した画像の通り、内耳の、鼓膜の側にある「耳管」という部位が検知できるようになっており…
…「気圧変化に弱い」方は、実は頭が弱い(バカということではなく(笑)、「頭のどこかの部位・器官に脆弱性が…」ということですね)わけではなく、耳が強い…と言うのも変ですが、耳管の機能が強すぎて、ちょっとの気圧差に敏感になりすぎてしまっているのが原因だといえるのかもしれません。
なので、天気性頭痛に悩む方は、何気に耳のマッサージをしたり、耳の中を意図的に動かしてみると…
(↓で、厚労省検疫所がまとめてくれている通り、バルサルバ法と呼ばれる「耳抜き」などですね。気圧差が頭痛の原因なら、強制的に気圧差を治す方法で対抗するのも手といえましょう)
…もしかしたら改善することがあるかもしれませんね。
(とはいえ、耳のマッサージなんて普通に痛い頭をさするときに一緒にやってるものかもしれませんし、バルサルバ法は強力すぎて逆に鼓膜付近を傷めるだけかもしれず、要注意かもしれませんが…)
…といったところで、もう脱線するネタもなさそうですし、圧力に関してはこの辺で一区切りかな、という感じですね。
最後に改めて「圧力とはなんぞや」という根本の部分をまとめると、圧力(特に目に見えない気圧や、いわば水圧も)というのは、結局は物理的に「押される」ことで発生する力であり、手で壁を押したら生まれる力と同じように、空気の分子や水の分子が身体を押してくることで感じる力にすぎないのだ……ってのが、抑えておくとちょっと圧力と仲良くなれるかもしれないポイントといえそうですね。
…まぁ、そんなの知ったところで、低気圧で痛くなる頭は治りませんし、特に生活が良くなることもないかもしれませんが、普段の生活で分子の挙動を意識するのも乙なものだといえましょう。
では次回はまた、途中状態のご質問ポイントに戻っていく予定です。