ベーシックな話(塩基性の話)に端を発する一連の記事シリーズにいただいていたご質問から、「水っぽくない液体も、実はほとんどの場合、ベースは水なのです」みたいなことをつらつら述べており、さらにそこから発展して、「水じゃない液体もある?」という点に触れ、前回の記事では代表的な非水液体である、お酒の本体ことエタノールに触れていました。
水とエタノールの不思議な関係(=混ぜたら減る、どんな割合でも混ぜられる…など。そない不思議でも何でもなかったですけど(笑))に長々と触れていたわけですが、エタノールに関してはもう1つ触れてみようと思っていたネタを思い出しました。
前回も書いていた通り、エタノールは生命科学実験で大量に使うわけですけど…
(消毒用エタノールのみならず、確か一連の分子生物学入門シリーズで触れたことがあったはず…と思ったら、この記事(↓)とかで触れてましたね……
…「エタノール沈殿」という、DNAを塩の効果で白いカタマリとして沈めてやって濃縮や洗浄をする…みたいな実験の他、様々な実験でも至る所で顔を出す、いわば代表的な有機溶媒といえる感じです。)
で、日々大量に使うので、エタノールは試薬としてよく買うのですが、研究用途に買うエタノールは、なぜかしばしば「200 Proof」と呼ばれるものである(そう表記されている)ことが多いのです。
確か学生時代の、日本にいた頃も、試薬会社によってはそういう表記がされていたこともあった気がしますが、初めて見たときは、「ん?Proof(証拠・証明)って何やねん」と思ったものだったんですけれども、これが実は、調べてみたら特に研究業界の用語ではなく、普通に「度数」を表す、いわばブリュワリー(醸造者)界隈で伝統的に用いられていた表現だったんですねぇ~。
我らがサントリーにも、簡単な解説記事がありましたけれども(↓)…
…あっと、これまた単位でよくある、アメリカとイギリスが違うパターンだったんですね、こいつも!
記事にある通り、アメリカで用いられるProofは、アルコール度数(=体積%)のちょうど2倍になっており、要は「200 Proof エタノール」というのは、何てことはない、その半分が濃度%になりますから、100%エタノールのことなんですね!
(一方、イギリスで用いられるブリティッシュプルーフは、半分ではなく、0.571倍したものが度数になるとのことで、100 ブリプルーフならば、そのお酒の度数は57.1度(=エタノール57.1%)ってことになりますけど、流石はブリカス、意味分かんねぇ数字にも程がある(笑))
しかし、実際アメリカンプルーフの方も、「何で2倍やねん」ってずっと気になっていたのでこの際調べてみたのですが、日本語版Wikipedia記事には全く何の説明もなかったものの、英語版の方にはそれなりに詳しい説明というか歴史が紹介されていました。
せっかくなので軽く翻訳引用させていただきましょう。
Proofという言葉の起源は、蒸留酒がアルコール度数によって異なる税率で課税されていた、16世紀のイギリスに遡る。蒸留酒の製造と課税が一般的になるにつれ、同様の用語と方法論が他国にも広まっていった。
イギリスでは当初、蒸留酒は基本的な「可燃 or 不燃」試験でテストされ、発火するアルコールを含む液体は「above proof(プルーフ以上)」と言われ、発火しないものは「under proof(プルーフ未満)」と言われていた。
燃焼を維持するのに十分なアルコール度数の液体が100 proofと定義され、課税の基礎となった。
アルコールの引火点は温度に大きく依存するため、この方法で定義された100プルーフは、アルコール重量度数(alcohol by weight; ABW)でいうと、36℃(97°F)における20%から、13℃(55°F)では96%のように、多岐に渡る;24℃(75°F)の100プルーフが、ABWで50%となっているのであった。
…と、これはもちろん歴史の最初であり、現在の定義とは異なるんですけど、なるほどそういう歴史があるなら、度数をそのまま100としなかったのも納得といえましょう。
当初は、重量度数で50%……エタノールは水よりも軽いので、体積度数でいえば60%超となりますが、それ未満は「こいつはお酒じゃない、通ってよし!」となってたんですね。
とはいえ説明文にあった通り、引火点は温度によって大きく変わるものですから、これはあまり実用的ではないように思えるものの、まぁそんな歴史でプルーフ(酒の証明)は始まっていた…ってことで、何ともためになりました。
…と思ったら、一応その下に現在の定義の説明もあったので、こちらもせっかくなので紹介させていただきましょうか。
17世紀末には、イギリスは比重に基づく試験をproofの定義に導入した。しかし、イギリスで比重に基づく法的基準が定義されたのは1816年になってのことであった。19世紀から1980年1月1日まで、イギリスではアルコール度数を蒸留酒比重に基づいたプルーフで公式に測定しており、これは、水の比重の12/13、または923 kg/m3(1,556ポンド/立方ヤード)の比重を持つ蒸留酒と定義され、ABV(alcohol by volume; アルコール容量度数)57.15%に相当した。
結局全然キレイな数字じゃない、意味不明すぎる定義である所にブリカスさんらしさが溢れてますけど(笑)(って、ネタで書いてるだけで、むしろイギリスって結構キッチリカッチリしてる印象もありますけどね…!あぁ、それはドイツだったかもしれませんが(笑))、まぁそういう風に定義したのであれば、そんな変な数字になったのも納得かもしれません。
一方、アメリカはどうだったのでしょうか。
アメリカのproofシステムは1848年頃に確立され、比重ではなくアルコールのパーセンテージに基づいたものであった。容量比でのアルコール度数50%が、100プルーフと定義された。
これは、50%体積分率(パーセンテージで表示されたもの)とは異なることに注意を要する;後者は、混合による体積変化が考慮に入れられていないが、前者は考慮している。
純粋なアルコールから50%のABV(アルコール容量度数)を作るには、50のアルコールを取り、水で100に希釈し、溶液を混ぜながら作る。
体積分率で50%のアルコールを作るには、アルコール50と水50を別々に計量し、それらを混ぜ合わせる。その結果、体積は100ではなく、96から97の間になる。なぜなら、より小さな水分子が、より大きなアルコール分子の間の空間を占めることが可能だからである(体積変化の節を参照)。
アルコール度数の尺度としてのproofの使用は、現在ではほとんど歴史的なものとなっている。今日、酒類はほとんどの場所でラベルにアルコール度数を表示して販売されている。
まぁ、こちらは分かりやすく、普通に「容量パーセント濃度の倍」ってだけだったんですね、やっぱり。
まさしく前回の記事で説明していた、「混ぜたら減る」の説明がズバリされていて笑いましたが(笑)、ちょうどアンさんからのコメントで…
「なんでってあなた、米一升と麦一升を混ぜても、二升にはならないでしょう」
を読んで、
「あ、そーなの?」
と普通に思いましたけど笑
「バケツ1杯のピンポン玉とバケツ1杯の砂を混ぜてもバケツ2杯にはならない」
ならわかりますが、同じ意味ですよね?
…というご質問をいただいていましたが、まさにその通り同じ意味で、しかも、確実にお書きいただいた例の方が分かりやすいですね!(笑)
まぁ、米と麦の説明をくれたのはおじいちゃん先生だったので、やや古風な例えだった…ということで許してあげるとしましょう(質問丸投げして教わってた立場で、どんだけ上から目線だよ(笑))。
と、最後に「最早プルーフはほとんど使われていない。度数表示が普通」などとありましたが、一般のお酒ではもう過去の遺物だということで、むしろこの表記は研究試薬にだけ残った伝統なのかもしれませんね。
ちなみに、ちょうどエタノールが減ってきたので、研究室で注文したものがまさに今日届いてたんですけど……
当然、買ったのは「200 Proof Ethanol」で、デカデカとそう表示されているもので…
調べたら普通にありましたが、まさにこのDeconの、ちょうど↓でお借りした画像にもある、キューブ型のドデカい5ガロン(よく見たら画像は10ガロンキューブでしたが、大きさが違うだけで同じ感じです)を(直接ではなく、試薬代理店・今回はVWRを通してですけどね)購入したのですが……
せっかくなので、クイズとでもいいますか、ちょうど今日届いた(話の都合が良すぎますけど(笑)、先週買って、やはり手続きにちょっと時間がかかった結果、本当にまさに今日届きました)この、5ガロン=約18.93リットルの100%エタノール、果たしておいくら万円でお買い求めできていたかお分かりになりますでしょうか…?
ちなみに、その前段のクイズとして、エタノールは他のアルコールに比べて、圧倒的に需要が大きいはずなのに、価格はむしろ断然高いことが多いのですが、その理由は一体何でしょう…??
これはズバリ、エタノールには酒税がかかるからでして、どこの国でもお酒には税金をかけており、特に日本は世界一酒税が高いなんて聞いたこともありますけど…
…あぁ、我らが財務省の上記データを見てみると、ビールでは実に小売価格の40%超が消費者負担の酒税になってるってことで、こんなもん最早税金呑んでるようなもんじゃねーか!(笑)
…ってまぁ、「店によって違う」とかならともかく、別にどこで買ってもその値段なら、個人的にはそれは税金だろうがなんだろうが、「それはその値段」って割り切れるので(仮に自分がビール好きで飲むとしても)特に気にならないと思いますけど、まぁ実際税金がバリ高なのは否定しようもない事実なので、酒を飲まなくてラッキー、って感じかもしれません(笑)。
それはともかく、アメリカでも当然酒税はかかるもので、他のアルコールよりも、製造コストや需要的に一番安くなって然るべきなのに、エタノールは案外高いことが多いんですね。
とはいえ、大学などの研究機関では、特例でtax exempt(非課税)のものも、商品によってはある(一応、契約条項みたいなのにサインする必要がありますが、それだけで非課税の安価なのが買えるので、大抵の場合そっちを選びます)感じで、僕が今回購入したのも、非課税品なんじゃないかな、って気がしますね。
(詳しくは実はよく分かりませんが、一応、契約条項確認からの承認が必要なタイプの商品でした。)
ちなみに、日本でも消毒用エタノールとか安価なエタノールはあるんですけど、これ、実は酒税を回避するために、飲むことができない、炭素数3の「2-プロパノール(イソプロピルアルコール;通称イソプロ)」なんかを混入してあるはずだったと思います。
イソプロが入った時点で飲用用途としては毒になりますから、飲めない=酒税がかからないということで安く買えるわけですけど、逆に言えばアル中の方は、70%ものアルコールが入ってる消毒用エタノール、超高濃度の酒だからといって飲んでしまうと、体を壊すことになるのでご注意ください、という話だといえましょう。
ちなみに研究用の「200 Proof」などのエタノールは、学生の頃、「酒税回避のために、実は100%エタノールには、イソプロが微量入ってるらしいよ」などと聞いた記憶もありますけど、「いや、それじゃ200 Proof(100%)ちゃうやん(笑)」と思えますし、流石にそれは大学の契約で特例で税金がかからない形で安くなっているだけで、こっそりイソプロを入れられたりはしていないことを願いたい限りです。
と、雑談で十分なスペースを空けた所で、最初のクイズに戻って参りましょう。
約19リットルの100%エタノール……ビール中瓶は前回見ていた通り、1本あたり25ミリリットルのエタノールが入ってるとのことでしたので、40本で1リットル→その19倍で、ズバリ、ビール中瓶760本分のエタノールは、一体いくらで買えたのか…?
正解は…
70.7ドルでした~!
…って、19リットルが70ドルとか言われても、正味高いのか安いのかすらよぉ分かりませんけど(笑)、ビール中瓶760本分のアルコールが、70ドル=約1万円(最近は円安ですけど、個人的にはやぱり「1ドル=100円」換算が一番分かりやすいので、70ドルは7000円と思えちゃいますけど(笑))ってことで、ビール1本分の酔いが十数円で提供できる値段でアルコールをゲットできた、ってことですね。
(まぁ、ビールはアルコール以外にも醸造の行程とかもあるので、そんな単純計算はおかしいかもですが(笑))
もちろんこれを飲料用に横流ししたら(改めて、契約で安くなっているだけで、イソプロとか勝手に混入はされてないので、飲めることは飲めると思います(笑))、普通にお縄・クビ・死刑コースが待ってるのでそんなことは決してしないわけですけど(まぁ死刑まではされないと思いますが(笑)、普通に犯罪ってことですね)、研究用であれば、エタノールも税金なしで安く買えるんすよ、というクソみたいな自慢でした。
(酒飲みじゃないので、何の自慢でもないんですが(笑)、そういえば、酒好きの先輩は、エタ沈とかの実験するとき「あぁ、酒のニオイだ、飲みてぇ~(笑)」と喜んではいましたね(笑)
ちなみに、非契約価格だと、同じ5ガロンで500ドルとか、会社によっては1000ドル超えのものもあったので、やはりエタノールは高い、ってことですね!
…ゆーて、酒税だけでそんな10倍も値段が変わるわきゃあないですし、非課税以外にも、特別契約とかがあっての価格なのかもしれませんが…)
…おっと、まさかのProofネタだけで割と…というか完全にスペースが埋まってしまいました!
予定していたご質問の続き、「水以外の液体」については、また次回とさせていただこうと思います。