イオンをかけ合わせたら必ず一定なんだ

前回は、やたら大きい数や小さい数が出てきて何かキモい感じであった、「水分子の個数」や「イオンになる割合」を計算して見ていました。


結論をおさらいしておくと、例えば3マイクロリットルの水滴(ちなみにこれは、ちょうどすぐに乾いてなくなっちゃいそうな、かなり小さな水滴1粒ぐらいですね。生命系の実験で一番よく使う範囲のボリュームなので、僕なんてもう見ただけで分かりますよ、「あ、この水滴は5.6マイクロリットルだね」とか!(…ってまぁ流石にそこまで細かくは分かんないですけど(笑)))であれば、水分子は約1000京(けい)個存在しており、pH 7.0の中性真水であれば、その内約5.5億個につき1個の割合で水素イオンと水酸化物イオンに分かれている(つまりこの例なら、1000京÷5.5億=約180億個の水素イオンと水酸化物イオンが同数存在)というお話でした。

 

…まぁ、目で見てもそんなことは分からず、舌でなめても「むむ、この水滴は1000京個の水のハーモニー…!」とか分かるわけはないので、「だから何なん?」って話でしかないんですけど(笑)、この辺の話から、高校化学なんかでは非常に面白い話を学んでいくことになります。


その発展事項へいく前にまず基本的な話として、「水はなぜpH 7が中性なのか?」という点の確認から参りましょう。

 

そもそも「酸性=水素イオン濃度が高い(=pHの数字的には小さい)」「アルカリ性=水素イオン濃度が低い(=pHの数字的には大きい)」という話だったわけですが、何をもって高いか低いかは当然pH 7の中性を中心に考えるわけですけれども、その基準となるpH 7というのはどういう状態なのかというと、これは結局、「水素イオンと水酸化物イオンの量がちょうど同じ」というのがその本質だったのです。


つまり、pH 7の水には、水素イオンH水酸化物イオンOHが同数含まれているということで(まぁ今さっき書いたことと全く同じこと繰り返しただけですが(笑))、例えばpH 7の水滴3マイクロリットルには、上述の通り約180億個のHが存在しているわけですけど、これは同時に、必ず、約180億個のOHも存在していることになるんですね!(…ってよく見たら上の文でもうその旨書いてしまっていましたが(笑))


これはでも冷静に考えたら当たり前かもしれず、例の「水がイオンに分かれる式」を見てみると…

 

H2O ⇔ H + OH

 

今考えているのは「真水」なわけで、H2Oの他には一切の分子が存在しない状況ですから、水分子がイオンに分かれて生まれたものがHであるならば、ペアであるOHも完全に同数存在しているのは至極当たり前ともいえましょう。

 

なお、今3マイクロリットルの水滴を考えているので特定の個数を挙げていましたが、これは体積がいくらであっても成立すること……つまり、どんな量の水でも、中性pH 7の水なら水素イオンと水酸化物イオンの量は同じであり、かつ、その濃度はそれぞれ3マイクロリットルあたり約180億個→そんな中途半端な体積ではなく普通に「1リットルあたり」で考えると、簡単な計算をして、1リットルあたり約6000兆個の水素イオンおよび水酸化物イオンが泳ぎ回っていることになります。


つまり、6000 (兆個/L) というのが、中性の水の水素イオン濃度および水酸化物イオンの濃度ということになるわけですね。


(なお、この個数は「モル」を使えば6という数字が1という数字に変わってより扱いやすくなるものの、「個数だと数が大きすぎ・モル数だと数が小さすぎ」というめっちゃ中途半端な感じになっているクソみたいな状況です(笑)。

 一応、モル濃度でいえば、0.0000001 (mol/L) であり、これも「兆」みたいな倍数単位を使って見やすくすれば、「ナノ」を使って「100 nmol/L」(ナノモル・パー・リットル)と表すことができ、これが数としては一番見やすいですかね?

 ちなみに0.0000001というのは「1/107」(または「10-7」) のことであり、「水素イオン濃度1/10 mol/Lの水のことを、『pH ★』と呼ぶ」というのがpHの定義でしたから、この水はpH 7といえるのです……という最初期に見ていた話にも戻る感じになりますね。)

 

…うーん、やっぱり「モル」より「個」の方が親しみやすいので個数で通したかったのですが、ぶっちゃけ「兆個」とか最早想像の範囲を超えていて結局意味が分かんないだけなので、どうせイマイチ想像できないなら数字が簡単になるモルでいきましょうか。

また、先ほど出てきた「mol/L」(モル・パー・リットル)という単位、モルというのはあくまで個数のことですから、これは「1リットルあたりの分子(やイオン)の個数」を表すわけですけど、化学や生命科学で見たい反応では「重さ」なんかより「個数」の方が重要なので(結局、物と物が反応するというのは1個のものと1個のものが接触して反応することが多いわけで、重さより個数を知ることの方が大切だからですね)、現場では最もよく見る単位になります。

あまりにも使うので、この「mol/L」という単位は「M」一文字で、「モーラー」と呼ばれる単位として使われています。


以上総合すると、pH 7の水の中の水素イオン濃度は、100 nMである(そして水酸化物イオン濃度も100 nMで、同じ数になってるから中性)と書けることになるわけですね。

 

そしてようやく到達しました、これがこないだから何度かチラ出しで仄めかしていた水の持つとても面白い性質・発展事項で、実は、水には、

「水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度を掛け合わせると、掛け算した結果は必ず一定になる」

という、初めて聞いたときは凄まじく混乱する謎な性質があるのです。


つまり、pH 7の水のH濃度は100 nM、OH濃度も同じく 100 nMで、これを掛け合わせると「10000 nM2」になるわけですが、非っ常~に面白いというか不思議なことに、pHがいくつの水でも、その水の中のH濃度とOH濃度を掛け合わせると、必ず同じ「10000 nM2」になるのです…!


「え、そんなわけなくない?」と思われるか、あるいは「いや何言ってるか分からなすぎ意味不明」という感じかもしれませんが、具体的に考えてみれば意味はご理解いただけると思います。


例えば、ある水の中のH濃度が1000 nMであったとすると(ちなみに、水素イオンが中性時より多いので、これは酸性溶液ですね)、その水の中のOH濃度は、必ず10 nMになっているのです。

なぜなら、両者を掛けあわせたら必ず「10000 nM2」になっていないといけないからですね(まぁ「なってなきゃいけない」というか、「この世の中はそうなっている」といった方が正確かもですが)。


他の例でももちろん、H濃度が例えば2.5 nMだったとすると(これは塩基性アルカリ性)、OH濃度は……これももう小学生レベルの計算で求まり、こちらは4000 nMになってるんですね、必ず!

 

…と、この「nM」表記は数字がコンパクトでスッキリ見やすいのですが、何気に単位の倍数文字に二乗が絡むと極めてややこしくなるので…

(ちょうど、面積の計算なんかで学ぶ、「100 cm は 1 m だけど、100 cm2 は 1 m2 ではない」みたいな、小学生の頃に陥りがちな罠というかややこしさが絡んでくるからですね)

…個人的に指数は何か難しそうに見えるのであまり使いたくないものの、この話に限ってはこれが一番分かりやすいので、「100 nM」=「0.0000001 M」を、「10-7 M」という表記に改めてみましょう。


この表記で改めてH濃度とOH濃度の積を考えると、10-7 × 10-7 = 10-14 (指数の掛け算は、足し算引き算になります)となり、再度改めまして、水の中では、必ず、絶対に、H濃度とOH濃度を掛け合わしたら10-14になっている、ってことなんですね。

 

ちなみにこの指数表記、先ほどもおさらいしましたが指数の数字がpHの数字にもなっているので、pHの値から直接考える上でも死ぬほど分かりやすいといえます。


つまり、pHが例えば2の水の中のH濃度は10-2 Mになるわけですけど、その水の中のOH濃度はどのぐらいになってるかお分かりになるでしょうか…?

これは激クソ簡単で、掛け合わせて-14乗になる、つまり指数なので差し引き-14になればよいだけであり、OH濃度は10-12 Mになってると瞬殺で解けるんですね!


他のどんな濃度でも必ずそうで、もちろん逆にOH濃度から考えてもよく、例えばOH濃度が「8 × 10-3 M」(=0.008 M)であったら、H濃度はもちろん、掛け合わせて10-14になる濃度になっているので、これは「1/8 × 10-11 M」=「1.25× 10-12 M」だということが自動的に決まるというか楽勝で求まるというわけです。


この話を聞いてまずパッと思える疑問点の1つとして、

「待て待て~い、お前さっき『水分子がイオンに分かれて生まれたのがHとOHなんだから、こいつらは完全に同数存在しているんですね』とか言ってたやんけ!全然同数存在しとらんやん!」

…と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、これはもちろん1つ見落としがあり、例えば2つ上で見ていたpHが2の水の例、この場合H濃度は10-2 MでOH濃度は10-12 Mでしたが、pH2の水なんてめちゃんこ強い酸性であり、言うまでもなく、このHは「水分子が分かれて生まれたもののみならず、何らかの酸性物質由来のHが存在している」という形になってるんですね。


要は、水しか存在しない真水である限りHとOHは完全に同数存在しているわけですけど、それは逆に言えば「水にどれだけ水を加えてもpH 7の中性のまま」という当たり前の話に過ぎず、さらに逆に言えば「pHがずれた=HとOHのバランスが崩れた=水に、何らかの酸やアルカリ性物質を加えた」ということができるわけです。


で、例えば水の中にHをドボドボ加えると、当然pHの低い酸性の溶液の出来上がりですが、非常に面白いことに、この水溶液の中ではOHの濃度が時を同じくしてガンガン減っていくんですね。

なぜかはお分かりでしょう、H濃度とOH濃度の積は必ず一定(=10-14 M2)だからですね。

要するに簡単に言えば、H濃度が4倍になればOH濃度は0.25倍(1/4倍)になるし、H濃度が3/70倍に減ればOH濃度は70/3倍に増える、ってただそれだけなわけです。


そうすると次の疑問点として、

「え?『H濃度が4倍になったらOH濃度は1/4倍になる』って、じゃあその溶液は何ちゅーか陽イオンの方が多い、プラスの電気をもった液体になるの?

 だってその説明読んだら陽イオンと陰イオンのバランスが崩れることになるから、そういうことだよね??」

…と思える気もするわけですが、これも当然、(こないだ似たようなことを書いていた通り)電気的に偏りを持った液体が安定的に存在できるはずもなく見落としのあるポイントでして、こちらは、

「『H濃度が4倍になった』ということは何らかの酸を加えたということだが、これは当然、水素イオンだけをドボドボと加えたわけではない。

(むしろ、まさしくこないだ書いていた通り、水素イオンだけを捕まえてそんな風に別の液体に加えるなんてことは不可能)

 酸を加えたときは、水素イオンと一緒に、その酸の持つ陰イオン(例えば塩酸HClなら、塩化物イオンCl)も必ず加えられるから、絶対にトータル電気はプラマイゼロ・イーブンのままだよ」

…というのがその説明になる感じですね。

 

他にも、想定質問…というか僕が実際初めて習ったときに思った気がする疑問点としては……

「『H濃度が4倍に増える』はまぁ加えたわけだから分かるけどさ、それに伴って『OH濃度は0.25倍に減る』ってどういうことだよ?!この世からいきなりOHが雲散霧消すんのか??」

…と感じた記憶もありますが、これもうっかり八兵衛というか思慮の足りない考えになってる話でして、これはズバリ、「OHがH2Oに戻る」ことで「イオンになったOHが減る」という事象が達成されている形になるわけです。


イオンは、いつでもまた元の分子に戻ることができるんですね。

(あるいは別のパートナーイオンと手を組んで、別の分子になることもありますが)

 

しかしこれも、

「えちょっと待ってよ、『OHがH2Oに戻る』っちゅうことはだよ、もちろんその時Hも一緒にイオンから水分子に戻るわけでしょ?

 そうすっと『HとOHの合計が常に一定』だかのあのルール、実現可能か…?だってOHを減らそうと思ったら、同時に同じ数のHも必ず一緒に減る形になってるから、それだと追いかけっこじゃん!」

…みたいな疑問が初見時に浮かんだ気がしますが、これまたおっちょこチョリ兵衛(誰だよ(笑))な考え方でして、例の「常に一定」の値は「和が一定」ではなく、「積が一定」なんですね。


なので、上手いこと差し引きすることで「積が一定」という条件は実現可能であり、例えば具体的に書くならば、一番分かりやすい「100 nM」と「100 nM」の数値表記で考えてみましょうか。

H:100と、OH:100で、掛けたら1万になるわけですけど、例えば塩酸をドバドバ加えて、Hが250にまで増加したとしましょう。

そうすると、OHは、

「やべ、Hの数がいきなり増えた!この状態はキモいから、俺らが水に戻って調節しなくちゃ……増えたHどもよ、せっかく増えた所悪いけど、力を貸してくれや」

…と、250:100から、順に両イオンが手を取り合って水分子に戻っていき、249:99→248:98→247:97→……と、OHたちは1つずつ(もちろんHとともに)どんどん水に戻っていき、最終的に200:50となった所で、

「っしゃ、『掛け算したら1万』に戻った!やっぱ俺らはこの比じゃないとアカンのですよ、快適快適」

となり、この形で安定状態に落ち着くってことなんですね!


どんな量の酸やアルカリを加えてもこれと同様のことが起こり、必ず「積が1万に落ち着いて安定状態になる」というのがこの話のポイントという感じでした。


なお、この話はいわゆる「平衡」の分野で(この話は「水のイオン積」)、高校理論化学恐らく最強の壁、これが完璧に理解できて問題を解ければ受験準備はバッチリである一方、残念ながら最後までイマイチ理解できずにこの手の計算問題は捨てていた学生も後を絶たない最高難度の話に思います。

(先ほどの200と50の話は非常に分かりやすい数でしたが、実際はこれに電離度が絡んできたり、1つずつ減らしてゴールを見つけるみたいな力技ではなく上手いこと二次方程式を組んで解く必要があったりなど、結構な難易度になりやがる感じなんですね。)

 

ということで、そんなややこしいことをこの程度の説明で初見の方が理解できるとは中々思えないのですが、発展事項として、理解できたら視野が広がるかもしれない…というお話でした。

これを踏まえていくつか保留状態だったご質問とともに、また、追って新しくいただいていたコメント質問も大変触れ甲斐のあるものが多かったので、順次そちらを見ていこうと思います。

 

アイキャッチ画像はまたしても何もなかったので、難しい話だっただけに、可愛らしいイオンのキャラクターでごまかさせていただきましょう(笑)。

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