お酢も、お酒も同じだよ

唐突に見始めていたベーシックなピーエッチシリーズ、前回は「水、H(水素イオン) 濃度と OH (水酸化物イオン) 濃度とを掛け算したら、どんな時でも絶対同じ数字になるんすよ」なんてことを書いていました。


割と高度な話で、ベーシックからはかけ離れていた気もしますが、pHを語る上では欠かせない話……って程でもよく考えたらないかもですけど(笑)、色々見えてくるものが広がるかもしれない可能性を秘めた、興味深い話だといえましょう。

 

なお、この「イオン濃度を掛け合わせたら数値は必ず一定」は、あくまで水のような「一部がイオンに分かれ、一部(水の場合は圧倒的大多数ですが)は分子のまま」みたいな、分子とイオンを行ったり来たりのバランスが保たれている物質にのみ当てはまる話で、必ずしも全ての物質・溶液に当てはまるものではないということにご注意ください……というか前回その旨に触れておくのを忘れていました。


具体的には例えば、食塩こと塩化ナトリウムNaCl、こいつも水に溶けたらイオンに分かれる代表格、スゲェ分かりやすいので中学生でもおなじみのこれは…

NaCl → Na+ Cl

という式で表されるのでした。


ここで矢印が一方向なのは訳があって、塩化ナトリウムは水とは真逆、水中でめちゃくちゃイオンになりやすく、水に溶けたら完全に全員がイオンになるという性質があるのです。

(※一方水は、こないだ計算して見ていた通り、わずか水分子5.6億個に1個しかHとOHに分かれないのでした。)

 

まぁこれはなぜと言われても、改めて、「ナトリウムイオンや塩化物イオンは、とにかくイオンでいたい性質の強い元素だから」としかいえない、「なぜかは知らん。イオンに聞いてくれ」的な話にならざるを得ませんけれども…

(もちろん電気的な強さがどうたらこうたらみたいな理論をこねくり回すことはできるかもしれませんが、究極的に「なぜナトリウムイオンがそういう電気的な性質をもつのか?(あるいはそういう電気的な性質をもつ物をナトリウムイオンと呼ぶのか)」とかは、「この世界はそうなってるから」としかいえないように思います)

…この場合いうまでもなく、Na濃度とCl濃度を掛け合わせても一定の値になるなんてことは全くなく、食塩を溶かせば溶かすほど、どちらの濃度もガンガン上がって行き、掛け合わせた数値は爆上げをし続ける形になっているということですね。


あくまでも、H2O ⇔ H + OHのように、ある一定の割合でイオンになるやつと水分子に戻るやつが拮抗している状態、これを化学用語で平衡状態というわけですが、「分かれたイオンのモル濃度の積が一定になる」というのは、平衡状態を形成する物質でのみいえる話だということでした。

 

…そう、「平衡状態を形成する物質でのみ」と書いた通り、実は「両イオン濃度の掛け算をしたら数字が一定」は何も水に限った話ではなく、他の色々な物質でも見られる性質なのです。

(もちろんまさに今書いていた通り、食塩など、そうはならない物質も沢山ありますが。)

 

一番よく見る……というか高校化学で習っておなじみなのは、やはり酢酸ことお酢でしょうか。

こいつは、

CH3COOH ⇔ CH3COO+ H

…のような感じでイオンに分離しますが、まず重要なポイントとして、溶液の中でHが発生することになりますから、お酢は「酸」だといえるんですね。

(もはや復習するのもバカらしいぐらい当たり前の話だと思いますが、酸というのはH濃度が水よりも大きい物質のことでした。

 だから、言い換えれば、酸というのは溶液の中でイオンに分かれてHを吐き出す物質だ、ということもできるってことですね。)


で、この酢酸イオン(CH3COO)と水素イオン(H)も、両者の濃度を掛け合わせたら必ず一定の値になっています。


しかし、水の場合は「10-14」という値でしたが(中性であれば、水素イオンH水酸化物イオンOHが同濃度なので、10-7 Mずつ存在という話でしたね)、それは水の性質であり、酢酸の場合はその「掛け算したら落ち着く値」は異なります。


これまた数字自体には全く意味なんてなく、「偉い人が測ってみたらそうなっていた」というだけなんですけど、もちろん僕は詳しい数値自体は覚えていませんでしたが、資料によると酢酸イオンと水素イオンの場合、掛け合わせたら3.5 × 10-15になっているとのことです。


…これを踏まえて高校化学では酸解離定数などを考えていき、前回書いた通りマジで高校化学の最終到達点といえるぐらいに難解な話(計算問題)が待っているわけですけど、流石にそこまで突っ込むのはつまんなさすぎるにも程があるのでやめておきましょう。

 

あぁあともう1つ触れ忘れていたというか強調し忘れていた点として、この「積が一定」というのはあくまで「モル濃度」(=個数の濃度ですね)の積であり、中学以来おなじみの重量濃度ではないという点にも要注意かもしれませんね。

これまたちょっと考えてみればそれも当然の話で、イオンに分かれる・くっつくというのはそれぞれのイオン1つと1つが相互作用して行われる現象なわけですから、重さではなく個数を念頭に置いた概念であるというのは理に適っているものだといえましょう。

 

…と、前回の補足的な前置きが長くなりましたが、これを踏まえて、「水以外の液体の中性もpH 7なの?」というご質問を振り返ってみようと思います。


まず、中性というのは結局の所、陽イオンと陰イオンの数が等しい状況を指すのでした。


水の場合、H濃度とOH濃度は掛け算したら必ず10-14になるので、(ついさっきも書いてましたが)中性=同じ体積に同じ数の両者が存在しているということですから、中性の水ではHとOHがそれぞれ10-7 Mずつの濃度になっているというお話でした。

(そして、「水素イオン濃度が「10-★」の水を、「pH ★」の水と呼ぶ」という話だったので、この水のpHは7といえるわけです。)

 

しかし、ちょうど先ほど見ていた通り、この「掛け算したら必ず10-14になる」という性質はあくまで水という物質についての話なので、他の液体では別にそうはならないのです。


こないだ話に出していた、お酒=エタノールの場合を考えてみましょう。

エタノールは、こんな感じでイオンに分かれる式が記述可能ですが……

C2H5OH ⇔ C2H5O+ H

改めて、C2H5OH濃度とH濃度(モル濃度)を掛け算すると、こちらも水の場合と同様、必ず一定の値に落ち着く形になっているわけですが、その数字は、資料(※)によると、「1.3 × 10-19 M2」になっているとのことです。

(※なお、こちらは東邦大学理学部 教養科教育学教室の『化学をチカラに。 特集 pH』というPDFファイルから数値をお借りしました(先ほどの酢酸も、まさにこちらに掲載されていたものです)。)

 

ここで、「中性=分かれたイオンが等量ずつ存在」であることを踏まえて、エタノールという物質の中で、C2H5OHイオンとHイオンがちょうど同じずつになっている状況を考えてみましょう。

(ちなみにほぼ耳慣れない語ですが、C2H5OHはエトキシドイオンと呼ばれます。)

これは、先ほどの数字にルート(平方根の「√」ですね)をかけてやればよく、それぞれ「√(1.3 × 10-19) M」ずつの濃度になっている(これらを掛け合わせたら、ルートが外れてその数字になりますね)といえます。

まぁこれは右半分「10の-19乗」の部分のルートを外せば「√(1.3) × 10-9.5」になるわけですけど、pHの定義は「水素イオン濃度が10-★の状態を、pH ★と呼ぶ」でしたから、pHで表すためには掛け算の係数は1にする必要があるのですが、計算してやると(これは高校数学の指数対数計算になるため暗算では不可能ですけれども、関数電卓を使えば……例えばGoogleに「log10(sqrt(1.3) * 10^(-9.5))」と投げてやれば求まりますね)、およそ10-9.4であることが分かるため、エタノールの「中性」は、実はpH 9.4であったと、そういえるんですね。

(ちなみに指数に小数が付くのもめちゃんこ意味不明すぎますが、分かりやすい数字に直すと、10-9.4 =約3.6 × 10-10 M、つまり0.00000000036 Mになります。)


とはいえこれはあくまで「C2H5OH濃度とH濃度がちょうど等しくなった状態」を意味しているだけの数字に過ぎず、こないだこの話にチラッと触れた際、「エタノール視点の中性は、pH 7ではない…」とか書いていたんですけど、その「エタノール視点」とかいうよぉ分からん表現は、ズバリそういう意味だったのでした。

要は、上の話は、エタノールという物質だけに着目して「C2H5OH濃度とH濃度が等しくなったときの水素イオン濃度が10-9.4 M」と言っているだけに過ぎず、これは、普段我々が意識する「水のpH」とはほとんど何の関係もありません。


つまり、「エタノールの中性はpH 9.4」と言っても、「pHが7より大きければアルカリ性だったよね?じゃあ、エタノールってアルカリ性なんだね」というわけでは全くなく、あくまで「水素イオン濃度が10-9.4 Mのとき、エタノールの中の陽イオンと陰イオンの数が等しくなっている」という話に過ぎないわけですね。


事実、「水基準のpH」で考えた場合、エタノールはほとんどイオンに分かれないことからも明らかな通り(←これは、先ほどの「掛け合わせたら必ずなる一定値」の数字が非常に小さいことから、そう言える話になっています)、エタノールというのはほぼHを吐き出さず、かといってOHを吐き出すこともしないため、H濃度とOH濃度のバランスに与える影響はほぼ無風、「水用のpH試験紙」で測定した場合、pHはほぼ「水基準で中性」の7になります。

(実際、今pHペーパーを使って100%エタノールの試してみました。まぁ試験紙は色の違いを目視で見るだけなのでざっくりしたものですが、ほぼ7と同じ色で、確実に9.4の色ではなかった感じでした…!)


めちゃくちゃややこしいですが、「エタノール視点でいえば、エタノール溶液の中性はpH 7ではなく、9.4」というだけの話であり、液体の基準が水であるこの世界ではぶっちゃけエタノール視点の水素イオン濃度なんてこれっぱかしも興味がないので、これは正直「意味のない数字だよ」としかいえない話になっていました。

ただ物事をややこしくしただけのしょうもねぇ感じでしたが(笑)、一応、「水以外の液体も、中性はpH 7なん?」というご質問に対しては、「残念ながら全くそうとは限りません」というのが回答であった、って感じですね。


(同じように酢酸を考えると、「酢酸視点の中性」は、両イオンを掛け合わせた数字が3.5 × 10-15でしたから、これのルートを取って係数を1にすると、(計算は省略しますが)中性pHは7.2になるようです(計算省略というか、先ほどの東邦大学の記事に掲載されていたのをお借りしただけですけどね(笑))。


こう考えれば、この数字に意味がないのは明らかですね。


「酢酸視点の中性はpH 7.2です」と言っても、それは「じゃあ中性=何も手を加えていない普通の酢酸、つまり純粋な酢酸のpHは、7.2なんだね」という話では全くなく、酢酸という物質はどう考えても「酸性」に決まってますから、この7.2というのはほぼ意味のない数字に過ぎないのは当然といえましょう。

(実際の純粋な酢酸のpHは2.4程度になります。なぜそうなるのかは、例によって電離度と酸解離定数の2つを使って二次方程式で解く形なので、ややこしいため省略させていただきますが、まぁ単に「測ったらそうなってた」ともいえますね(笑))

 

まぁ、ご質問があったため参考程度に長々と語りましたが、正直異様にややこしいだけの話になってしまっているので、「エタノール視点の中性」とか「酢酸視点の中性」とか、そんなの考える必要は全くないどうでもいいにも程がある話だと思います(笑)。


今回の話の中で、まだ知っておいて意味があるかもしれない点としては、「酢酸もエタノールも、どちらも水と同じように、分子とイオンの平衡状態になっている」ことだといえますが、それもそれで、別にそんなこと知ってもお酢が料理で上手に使えるようになるわけでもお酒が美味しくなるわけでもないので、まぁこれもやっぱりどうでもいいっちゃあどうでもいい点かもしれませんね(笑)。

 

…と、今回は追って新たにいただいていたご質問に触れる予定でしたが、補足だけで案外長くなってしまいました。

特にもう補足はなさ気なので、次回からまたコメントでいただいていた各種ナイス疑問点を振り返っていこうかなと思います。


アイキャッチ画像は、あまりにも意味がなさすぎますがお酢のいらすとをお借りしました。


ちなみに食用酢というのは大体4-5%程度の酢酸を含む水溶液のことのようですが、我らがミツカンによると…

faq.mizkan.co.jp


…pHは大体2.6~2.9ぐらいとのことです。

案外、酸性度の高い液体だった感じですね、お酢!!

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