決着!紙・風論争~衛生面編~

ペーパータオルとハンドドライヤーのコスト面(環境保護の観点から)を前回は見ていましたが、「最新のエアブレードタイプのドライヤーが最強。逆に、ペータオは環境破壊につながる」という、正直、「いわれなくても知ってた」という内容になっていました。

しかしやはり、個人的には申し訳ないけどそんな些細な環境コストより、乾かす満足感、ひいては衛生面にどの程度の差があるのか?ということの方が気になります。

ネタ元といえる、いただいていたアンさんのコメントにもありましたし、ニュースなんかで実際に目にしましたが、コロナ禍後、ハンドドライヤーはその肝心の衛生面において不安視されており(ウイルスを撒き散らす?)、現実的に多くの施設で現在は撤去あるいは利用中止になっていると聞きます。

これは、ペータ愛好家にとっては思わぬ形でニッコリな状況になっているわけですが、果たしてどのぐらいの差があるというのか、ここはやはり専門家の目できちんとデータの評価・検証がなされた、査読付き論文(peer review・ピアレビューと呼ばれる、学術論文掲載の際のプロセスですね)を紐解いてみるといたしましょう。


…ってまぁ、査読付き論文であればそれが絶対正しいかというと、全然そんなこともないというのは捏造論文のニュースなどでも明らかですし、それ以上に、一連のパンデミックの騒動で、WHO他、各種専門機関・専門家の人なんかでも、案外適当を通り越して、「あいつらが役に立ったこと、一度でもあるのか…?」と思われてる節もあるのが正直な所ではあるんですけど、それでもやっぱり、流石に誰か個人の感想・俺の意見的なものより査読付き論文のデータの方が信頼度が上であるという事実は覆せないように思うので、論文のデータを引用するのが現状最善かつ最も信頼置ける形かな、と思います。

(信頼度でいえば、自分が検証した生データ以上のものはないわけですけど、いうまでもなく個人で出来ることには限界があるのも実際なので、それを除けばやはり第三者的な研究機関の手によるものが一番信頼できるように思えます。
 あぁちなみに、最近の論文では、利益相反(Conflicts of Interest: COI)を明記することが義務付けられているので、ステマとか、企業からの依頼とかいう場合でも必ずそれを公開することになっているので(ドライヤー企業が研究資金を提供して、不当にドライヤーに有利なデータ操作がないように、という感じで)、その辺も信頼できるポイントといえましょう。
 もちろん、もっといえば、その利益相反がちゃんと明示されているかどうかも本当に信頼していいの?とか、突き詰めれば疑心が暗鬼を生じるともいえますが、そんなことをいっていたらキリがないので、まぁ性善説に立って信用するとともに、もちろん査読付き論文のデータでも、明確におかしな点がないかとかを自分の頭でしっかり考えて確認するのは重要といえそうですね。)


無駄な前置きが長くなりましたが、論文検索はやはりPubMedが個人的には最もいいと思うので(人によってはGoogle Scholarが好きという人もいますが、Googleスカラーは僕が専門課程大学院生に進んだ頃にちょうど出始めたぐらいのサービスで、既に「論文検索といえばPubMed」で慣れてしまったというか、ヒヨコの刷り込み効果で、僕は専らPubMedしか使わない感じです)、PubMed検索してみましょう。

コロナ禍で色々視点も変わっているでしょうから、やはりコロナ騒動以後の論文が良いのではないかと思います。

というか、まぁ普通に最新の関連論文を見てみるのが一番ですね。

検索したら、まさにペータ・ハンドラの比較をした実験記事が、今年の3月に公開されていました。

こちらですね(↓)。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
『トイレから病院内へ:手を乾かした後の、病院棟内への微生物の飛散に関する、ジェットエアードライヤー VS ペーパータオルの試験的研究』と題されたこの記事ですが、要約部(たった2文)を日本語にまとめ直してみましょう。


要約

微生物のコンタミ(汚染)を表す指標となるバクテリオファージを用いて、手指の乾燥後の病院環境へのウイルス伝播状況を調べた。ペーパータオルを使用した場合の方が、ジェットエアードライヤーを使用した場合よりも手や衣服へのウイルスコンタミ率が低く、結果として、病院内の様々な場所へのコンタミも減少することが確かめられた。

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…ということで、まぁこれも「何かもうずっといわれてた…っていうか実際使えない場所が多いし、直感的にもそらそうかもねと思えるしで、ぶっちゃけこれも知ってた」という結果かもしれませんが、普通に、ペータの方がエアドラよりも、衛生面では明らかに優秀という結果が得られたとのことですね。


しかし、どの程度の差があるのかが気になります。

具体的な結果を見てみましょう。


まず実験デザインですが、ボランティア4名(女性1、男性3)の協力を得て、まずバクテリオファージ(以前の記事で見ていた、例の火星探査ロボットみたいなアイツが再登場ですね)を加えた水(いわばバイ菌溶液)に手をつっこんでもらいます。

3名は手袋をし、1名は勇敢にも素手でバイ菌溶液に手をつっこんだみたいですが(笑)(もちろん、病原性のあるファージではないですけどね)、手袋でも素手でも以後の実験には影響がないことは確認済みのようです。

で、その後、アルコール除菌液で手を洗い、3-5枚のペーパータオルで平均12秒使って手を乾かす、または前回見ていたDysonのAirbladeで平均10秒の乾燥を行います。

その後、病院内をうろつき、ある程度指定されたアクションを行って(3分間、腕を組み続けるとか、2分間、肘掛けに手をついて椅子に腰掛けるとか)、最終的に病院内にどれだけのバクテリオファージのコンタミが見られたかをチェックする、という感じですね。

各ボランティアは、計2回実験に参加し、ペータとエアドラを1回ずつやったとのことで、個人による偏りはないといえましょう。

測定は、スポンジで各部位に付着したバクテリオファージを拭き取り、ウイルス抽出キットでファージDNAを得て、PCRにてファージDNAの存在量を計測する、という形です(といわれても何のことやらという話かもしれませんが、まぁ分子レベルで数の解析をしているという話ですね)。

さぁ、気になる結果やいかに?!

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上記論文・図1より

こちらが図1、洗浄後の、手と、ボランティアが着用したエプロンに付着した菌ファージの数の検証ですね。

まず、左が乾燥後の手で、青バーが使った元々のファージ溶液に含まれる菌体の数、赤バーがジェットエアドライヤーで乾燥、緑バーがペーパータオルで乾燥した後になります。

そして右のバーがエプロンに付着していた菌体の数で、真ん中は、左と同じく手の菌体数ですが、これは、病院内をうろついた後(うろつきは平均73分間かかったとのことです)、最後まで手に残っていたものを測った結果ですね。

結果は明白で、乾燥直後(左)も、エプロン(右)も、全実験完了後(真ん中)も、全て、ペータオの方がエアドラよりもファージ菌体の存在量が有意に少なかった、という形になっています。

ちなみに、バーの上に乗っているT字型は「エラーバー」と呼ばれるもので、バーの高さが平均値を表している一方、このバーは標準偏差すなわちバラツキを示してくれていますが、まぁ「実験ごとに、大体そのぐらいのデータの違いがあった」と考えればよく、細かい統計知識はどうでもいいでしょう。


また、*や#マークは、統計的に有意な差があることを示すマークで、これも、統計学の細かい点はともかく、「偶然この違いが得られる確率は5%未満なので、これは実験手法に意味のある差が存在したと考えてもよいと思われる」ことを示すマークです。

まぁ、「あんまりバーの大きさは違わない気がするけど、本当に意味のある差なの?」という疑問点にズバリ答えてくれてる感じですね。

そもそもあんまり違わない気がするのは、縦軸がlogになっているからで、例えば左側のバーだと、赤のエアドラはlog10の値で2、緑のペータオは3ほど元々のファージ溶液よりも菌体数が小さくなっているので、それぞれ100倍・1000倍も菌の数が減っていることになるわけです。


とりあえず細かいデータ解釈はともかく、やはり、エプロンに付着する菌の数は、そりゃ風で吹き飛ばしたドライヤーが多くなりそうなのは分かるけど、手に残存した菌も両者に差があるのが面白いですね。

ペータオは物理的な接触があるからか、残存した菌体を吸収してくれる役割があるってことでしょうか。

そして、その後手を洗わない限り、1時間以上病院をうろついて色んなものを触っても、菌体は洗った直後とほぼ同水準のまま残っているということで、いかに手洗いが重要かというのもここから見てとれるように思います。


そして続く図2で病院内の各設備にうつされた菌体数をモニターしていますが…

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上記論文・図2より

左から順に、乾燥直後の手(再掲)・ドア(引く)・階段の手すり・ドア(押す)・エレベーターのボタン・椅子・電話・病棟アクセスボタン・聴診器のチューブ(各ボランティアは、実験用に、聴診器のコスプレをさせられたようです(笑))…を手で触った結果、各部に残された菌体ですが、全て#マークがあるように、どれも完全にエアドライヤーで乾燥させたものの方が各部へのコンタミが激しかった模様…。

…って、これ、エアドライヤーが吹き飛ばしたっていうより、単に手に残存した菌体が多かったんだから、ボランティアがそれぞれその後のうろつき実験でベタベタ触ったんならそりゃそうなるわな、としかいえない気がするんですが……とも思えるものの、まぁやはりペータは優秀ってことですね。


最後図3では、エプロンが触れた各部位の菌体数をチェックしていますが…

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上記論文・図3より

聴診器の胸当て部&ヘッドセットも当然エアドラ乾燥後のエプロンに接触したものから有意に多くの菌体DNAが検出されたものの、肘掛け椅子からは、まぁ明らかに赤いバーの方が大きいですけど、統計上これだけは唯一有意な違いは存在せず、「この差は、ドライヤーと紙タオルとで、偶然出たものかもしれない」という結論になっているようです(エラーバーもバーそのものの大きさと比べて大きいですし、値が小さすぎて偶然とは言い切れない、って感じですね)。
(ただし一応、こちらはバクテリオファージのP3遺伝子をPCRで検出していますけど、P12遺伝子を検出したらエアドラとペータオで有意な差が出た、とのことです。)


ってなわけで、最新の研究によると、どうもエアブレードタイプのドライヤーは、残存した菌の除去という点では、ペーパータオルに遠く及ばないという結果ということで、ふむふむやはりペータは神だな、と思える結果になったといえる感じでしょうか。

ただ、先ほども書きましたが、何となくドライヤーを使うデメリットとしてイメージしていた「菌が風で吹き飛ばされて、建物内の別の場所に飛散する」ってわけでは別にないのかな、って気がしますね。

(一応エプロンにかかった菌体による影響もあるようなので、吹き飛ばし効果がゼロではないにせよ。)

いずれにせよ、この論文からは、ペーパータオルの方が衛生的とみなすので良さそうです。

 

…と、一応面白い結果の論文には当たりましたが、検索していてもう一つ目に付いたのが、こちらの今年1月のレビュー記事(=研究まとめ記事)……

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
『衛生観点からの、ハンドドライヤーとペーパータオルの比較:文献群の、クリティカルなレビュー』というタイトルのこの記事が目に付きました。

ちなみにhygieneという単語は、衛生・清潔・公衆衛生学的な意味の語で、僕はこちらへ来るまで知らなかった単語ですけど、特に病院棟とかで非常によく見かける単語ですね。

ハイジーン、印象的で大切な単語です。


…で、この論文では、時系列的に先ほど見ていた論文は含まれていませんが、似たようなハンドラ・ペータオの比較検証をした論文の結果・データを大量に比較検証したという、1つ高い次元の比較レビュー記事ですけど、まぁもう随分長くなってしまったので本文に詳しく触れはしないでおきますが、この論文の結論は、

「色んな研究論文が出とるが、言ってることてんでバラバラ。論文間で矛盾するデータもあるし、得られたデータから出す結論としてはあまりにも飛躍しすぎているものもあるし、そもそもの検出方法や実験デザインが不適切なものも多い」

という、辛辣なれど、正直ぶっちゃけ、それは僕もそう思う、といえる、ハッキリいって実に同意できる内容でした。


先ほど最初に見た論文も、そもそもバイ菌溶液に手を浸してから実験するって、それホンマに現実的に意味のある調査なんかな…?って気も若干しますし(まぁ、一応、菌が残存している場合のシミュレーションとしては意味があるとは思いますが…)、結局の所、このレビュー論文が結言で書いている通り、「どちらの乾燥方法がいいかという点に関しては、これまでの研究調査からは、一切絶対的な結論を下すことができないように思われる」というのが、最も慎重で科学的に正しい姿勢なのかな、なんて気がしますね。


もちろん、ドライヤーの方がコストでは確実に優れるとか、ある実験では紙の方が菌を撒き散らさないとか、逆に紙に付着した菌をもらう可能性もあるのでフィルター付きのドライヤーが最も望ましいとか色々な主張はあるにせよ、どの施設・状況でも絶対的に下せる結論は、今のところ存在しない、ってのが結論ということですね。

つまり、好きな方を使いましょう、ということでしょう。

(ただ、ドライヤーの方は直感的に菌を撒き散らしそうでイメージも悪いですし(改めて、現在分かっている限りでは、通常使用で公衆衛生的に有意に害があるレベルでドライヤーの方が衛生的に良くないという結論は決して下せません)、現在は利用停止中なことが多いようなので、選ぼうにも選べないのが現実かもしれませんけどね。)


一応、個人的な結論としましては……

…デロデロデロ…デン!

どっちでもいいなら、便利で満足度も高い、ペーパータオルがいいと思います!

…ってな立場に一票を投じようと思います(笑)。

でも改めて、正しく手を洗ったのであれば、今時のドライヤーは本当に効果的に乾かしてくれるようですし、どちらでも実用上全く問題ないので、乾燥用に何かがトイレに用意されていたら普通に使えばいいと思います、というのが真摯な態度といえそうですね。
(まぁいわれなくても、普通の利用者は、用意されていたものを使う以外の選択肢はないわけですが(笑)。)


…という所で一応の決着はつきましたが(「決着はつかない」という形で決着がついた)、次回もう少しだけ、ハイジーンに関して個人的に感じる小話をして一連の紙シリーズはおしまいにしようかと思います。

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