ウイルス…ファージ…こいつらは何者?!

前々回の記事で、「追加質問を2点ほどいただいており…」と書いていましたが、1つ目の「ヒト細胞の増え方…?」はとりあえずサワリは見終えていました。

もう1点、この記事で触れていた「ori・プラスミドの導入とウイルスに感染させる実験は全然別物でぇ…うんぬん…」的な話について気になるポイントが残ったままだったので、今回はそちらに触れさせていただきましょう。

Q.  5月29日のこの記事(細胞を飼うとは?)で解説されちょった、トランスフェクションの3つの方法、『1つ目が化学的(化学物質で、DNAが膜を通りやすいように変化させる)、2つ目が物理的(強引に穴あけ!)、3つ目が生物学的(細胞をウイルスに感染させる!)やり方』…こればい。

これの記憶がうっすらあって、3つの作業が同じ目的の為のものというように思っちょったんよ。

で、こないだのブログ記事(菌の分裂と、oriについての補足)では、『「薬を混ぜる方法」「電気ショックを与える方法」、これらはどちらもプラスミドを細胞に入れるやり方ですが、「ウイルスに感染させる」のは、あくまでも「細胞がSV40 oriを使えるようにしている」だけで、実際のプラスミドを細胞に導入している実験とは一切関係ない手法になってるってことですね。』ということっちゃけど……あれ?何か矛盾しとらん?って感じてしまったオイドンが何か勘違いしちょるんか、教えてちょんまげ。

A. う~んなるほど~、『ヒト細胞への遺伝子の導入法には、化学的(特殊な試薬)・物理的(電気ショック)・生物学的(ウイルス感染)の3つがある』この部分でしたか!

この説明をもとに、「プラスミドをぶち込むには、薬を混ぜたり電気ショックを与えたりの他に、ウイルスに感染させる、ってやり方もある、って話につながるんかな?」というご質問をいただいていた感じだったってことですね…!

いやぁ素晴らしい着眼というか、覚えてもらっていて嬉しい限りですね。

これも例によって説明足らずだった感じですけど、こちらは、使ってるウイルスが全然違うので、それとこれとは話が違う感じになっていた、という形です。

oriを機能させるために感染させるのはSV40ウイルスで、これは、何度か書いてる通り細胞にSV40 oriの利用を可能にするラージT抗原なるタンパク質を作らせるためのものであり、一連の話のテーマである「(自分の興味ある遺伝子を)細胞に導入する!」という目的で使われることはまずありません。
(細胞に遺伝子を導入するために使われるウイルスもあるけど、それはSV40とは全然別物ということ。)

…というかそもそも、分かりやすいように(というか話の流れ的に)「SV40ウイルスを感染」としていましたが、ラージT抗原を作らせるために細胞にSV40ウイルスを感染させることはあんまりなく(そもそもSV40ウイルスはサルのウイルスですし、同じ霊長類のヒトにも一応感染はするようですが、普通は使わない)、単純に「ラージT抗原を作る遺伝子」のみを導入することがほとんどなんですけどね。

といっても、その導入に関しても、結局プラスミドを使う場合もあれば(SV40ウイルスではない別の)ウイルスを使う場合もあるわけですけど、うーん、話がややこしくなる一方ですね…。


とりあえず、SV40 oriをヒト細胞が使えるようにするためには、ヒト細胞にラージT抗原をもたせることが必要で、そのためにSV40ウイルスを感染させることはあるけれど、それは一連の記事の主題というかずっと説明していた「自分の好きな遺伝子を入れたプラスミドを細胞に導入する」という実験とは違う意図のもので、その意味で「遺伝子入りプラスミド導入と、ただ細胞がoriを使えるようにするためだけの実験とは、直接的に話のつながりが存在する類のものではない感じです」と書いていた次第ですね。

…と、しかし改めてよく考えてみたら、「細胞にラージT抗原を導入している」という意味では、SV40ウイルスを感染させる場合でも遺伝子を導入していることには変わりないですし、必ずしも「全然違う!」とは断言できないものだったかもしれませんね。

偉そうにバッサリ「それはちゃうでぇ~」と断じておきながら、やっぱり全然違うわけじゃなかったかも…って感じで、どうも大変恐縮です。

(ただ、やってる作業の目的みたいなのは、「好きな遺伝子を乗せたプラスミド自体を細胞に導入すること」と、「プラスミドを安定的に細胞内で維持できるようにすること」とで大きく違うので、その意味では、あのときの文脈ではやっぱり、両者は関連性が直接はないものと捉えた方がいいのではないかな、って気はする感じですね。)


せっかくなので、そのSV40・ラージT抗原についてちょろっとだけ脱線して見てみるとしましょう。

まずSV40というのは(以前も書いてましたが)Simian Virusの略で、SimianはMonkeyとほぼ同じ意の言葉(一応、SimianはMonkey(尾のある、サルらしいサル)とApe(よりヒトに近いチンパンジーやオランウータンなど)を両方含む単語のようですけどね)である通り、まさにそのままサルウイルスなわけですが、ウイルスというものはそもそも宿主特異性があるのが特徴となっています。

例えば鳥インフルエンザウイルスは基本的には人間に感染しませんし、HIVことヒト免疫不全ウイルスがペットに感染することもありません。
(猫エイズとかはありますが、あれは、HIVではなく、ネコ科を意味するFelineでFIVというウイルスが原因。)

まぁそれがなぜかと聞かれると、「そうなってるから」としかいいようがないとでもいいますか、「ウイルスに聞いてくれ」としかいえませんけど、一応、基本的にあいつらウイルスは遺伝子しかもっておらず、遺伝子の複製やタンパク質を合成するための生体分子(DNA複製酵素やタンパク質合成酵素とか)などのあらゆる機能を感染先の細胞、いわゆる宿主細胞に依存しているので、その宿主のもつ生体マシーンを利用するのに特化しているから、というのが一つの理由ともいえるかもしれませんね。

(例えば、トリに感染するウイルスは、トリ細胞にある生体マシーンが使えるように設計されており、ヒトのもつ生体マシーンは使えない、みたいな。
 まぁ必ずしもそれだけではなく、それ以前に、ウイルスは細胞表面に吸着して、細胞の中に取り込まれる必要があるので、そのステップもそれぞれの寄宿先の生物種に特化している、といった点もある感じですね。)

ただまぁ(さっきもチラッと書いていた通り)サルとヒトは進化的にも近いですし、SV40はいわば「霊長類ウイルス」なのか、一応ヒトにも感染しなくはないみたいですけど(さらにいえば、例えば鳥インフルエンザウイルスも、大量の鳥が感染した鶏舎で働くような人が、超大量のウイルスに曝された、みたいな場合、基本的にはヒトには感染しないウイルスだけど例外的に感染が確認された…みたいなニュースもある通り、この辺はあくまで生き物と病原体の話なので、0か1かではなく、少数の例外もあるものだといえましょう)、原則としてはウイルスには宿主特異性がある、って話です。


そもそもウイルスとは何なのか?

…と、まぁ一応専門家に近い立場とはいえ、今現在のかなりセンシティブな世界情勢でウイルスについて語ると正直Googleとかに目をつけられて危険サイト扱いとかされるのでは…って不安も感じましたが、よく考えたら目をつけられて何かされるほどの検索流入とかもないし、別にそんな不安を感じるような立場でも何でもなかった(笑)…と気づいたので、まぁ気にせずに好きなようにやっていきましょう。

そもそも高校生物でもバッチリ習う、一般教養的な知識について語るだけですしね、逆にいえば知ってる人には当たり前すぎるしょうもない話でもありますけど、意外とその辺ご存知ではない方もいらっしゃるかもしれないので、基礎の基礎だけ見ておきましょう。

まず、ウイルスは、生物ではありません

大腸菌は生物ですし、食べ物に生えるカビとかも生物ですが、ウイルスは、基本的には生物ではない=非生物であるとみなされることが多いです。

(といっても、それはもう完全に定義次第で、人によっては「ウイルスは生物とみなしても良いと思う」と考える人もいる感じですが…。
 結局、何かの分類なんて人間が勝手に考えて決めただけのものですから、別に生物じゃないから安全とか危険とかそういうこともなく、単に「こういう考え方をしたらこうなる」程度のものともいえますね。)

上述の通り、ウイルスは生物か非生物かが一番微妙になる存在だと思いますけど(少なくとも、ロボットよりは微妙ですね)、最も広く受け入れられている定義、いわゆる生物三原則みたいなものは…

  1. 自己と外界との間に明確な境界がある(細胞構造をもつ)
  2. 代謝を行い、自力でエネルギーを産生する
  3. 自力で自己を複製することができる

…というものであり、これに照らして考えると、ウイルスという輩は細胞構造をもたず、代謝もせず、自力で自分をコピーすることもできないから、「こんなやつは生物じゃねぇ!」というのが多数派の共通見解という感じです。

ただし、細胞はなくとも、明白な外界との仕切りがある、一つながりの物質として存在しているものですし、自力ではないものの、宿主の細胞が作るエネルギーを勝手に流用して宿主の細胞内限定で自分自身をコピーして増やすことができるので、まぁ「条件付きでは生物みたいなものといえるかもしれないね」というのがウイルスだ、ってことでしょうね。


一方、大腸菌は三原則を完全に満たすので、小さすぎてほぼ目に見えないからウイルスと似たようなもんに思えるとはいえ、こちらはまさに立派な生物なのです。

同じく、さらに生物っぽくないカビ(菌類)なんかも、あんなんでも拡大してみたらちゃんと細胞構造をもって生活しているれっきとした、100%異論の挟まる余地のない、我々と全く同じ生き物といえるものである……しかし逆に(ちょうど名前が似ている)サビ(金属に付く錆)とかは、これは三原則を一切満たさない、単なる物質である(酸化鉄など)……ということで、僕も高校生物や化学を学ぶ前はそういう世の中にある様々な物質のイメージをもてていませんでしたが、そういうミクロの違いというかモノの本質のイメージを自分なりにもてるようになると、世界が違って見えるようになるかもしれませんね(まぁ別にならないかもしれませんが(笑))、という話でした。


ということでウイルスはこのように非生物なれど生物的存在といえる物体なわけですが、具体的には、(最初の方でも少し書いていましたが)遺伝子と、申し訳程度に遺伝子の入れ物として存在するタンパク質だけから成る物質で、当然、自力でしゃべることも動くこともできない、ただそこにあるだけの物体・物質・ただのモノです。

具体的なモノとしてはどんな感じなのかというと、多くのウイルスは、よくイメージ図で見るスパイクつきのボールみたいな単純な形が多いですが、よりインパクトを出すために、「こういうのもいるよ」というのの紹介で、大腸菌に感染するウイルスことファージ(単純に宿主が細菌なだけで、名前は違うけどウイルスと同じもの)の画像を見てみましょう。

ウイルス(ファージ)は、こんなやつ…!

ジャジャーン!!

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ファージより

ギョエェ~、こんなん、虫じゃねぇか!

むしろ虫よりメカっぽい感じで、生物ですらない単なる物体がこんな凝ったデザインとか、うせやろ?…と思われるかもしれませんけど、マジなのです。

いやこんなのただウイルス界から圧力がかかって実際よりカッコ良く描いてるだけで、実際はちゃうだろ?こんなの工業製品じゃねーか!…とかいう気もするんですけど、誇張なしにこうなんですね。
(ってまぁ、色は、小さすぎて肉眼では見えない(電子顕微鏡レベルでやっと見える…電顕は可視光線ではなく電子線を使うので、色の区別は不可能)ので、着色されてますけどね。)

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ファージより

こちらは先ほどのT4ファージではないのでちょっとだけフォルムは違いますが、まぁ冗談抜きにメカメカしい頭と、ネジのような胴体と、あとあからさまに脚じゃん(笑)と思える脚っぽい何かが存在している感じです。

しかも、実際に細菌に感染する場合どうなるか…というか何が起こるのかというと、脚が細菌の細胞膜上に着地し、胴体から針のようなものをぶっ刺してDNAを菌体内に注入、そのDNAがこのイカしたシェイプのファージを菌体内で再構成(DNA→RNA→タンパク質という、生体分子お決まりの流れの合成)して、最終的に細菌をぶち壊して凄まじい数のファージが爆誕大量発生する…

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ファージより

…と、いやそんなことある?!というぐらいに、ぶっちゃけ生物よりスゴいことをやってのけるのが、こいつらファージ(ウイルス)なんですね。


まさに、あまりにもスゴすぎて、ウイルスは何かと聞かれたら、正直…

…デロデロデロデロ…デン!

「ウイルスは、宇宙人~」

…とでもいいたくなるレベルですが(もちろん冗談)、まぁ本当にこいつらが何者なのかは、誰にも分からない(自然発生したにしては、よくできすぎている)というのが結論かと思いますけど、でもまぁそれをいったら人間の方がスゴイし、結局、生命の神秘、ってやつですね(いやだからウイルスは生物じゃねぇんですけど(笑))。

(まぁ、宇宙から来たとして、それも誰がどうやって作ったのよ、って話になるだけですけどね(笑)。
 ちなみに、ウイルスを生物とみなすなら、この世に最も多くの種類が存在する生き物は圧倒的にウイルスになるぐらい、世界には多種多様なウイルスが存在しています。)


まぁ冗談は置いておくとしても、結局信じられないぐらいに上手く出来過ぎててスゴ過ぎる、謎の多い生物もどきみたいなやつがウイルスだ…という話で、正直何の結論もなく、ぶっちゃけただ単にファージのかっこいいフォルムを載せたかったから今回触れてみただけの話でしたが(笑)、人間に感染するウイルスは、ファージよりもっとシンプルな、ただの球体(タンパク質でできたボールの中に、遺伝子(遺伝子=DNAである一般生物と違って、ウイルス遺伝子はRNAのこともある)が入っている)であることがほとんどですね。

自力では動くことも増えることもできないクソザコボールなのに、そんなのがこの世に存在し続けることなんて可能なの?…というのは、今のコロナ禍の惨状を見ればどなたでも実感をもって理解できる話といえましょう。

それだけ、宿主に感染するためのメカニズムも、宿主細胞内で大量に増えるメカニズムも、どちらも非常に優れているということですね。


あぁ最後に、「ウイルスは生き物じゃないとのことだけど、『ウイルスはアルコールで死んで感染力がなくなる』ってよくいいませんこと?」って疑問をもたれる方もいらっしゃるかもしれませんが、まぁそれは言葉の綾で、生物ではないけど、ウイルスにとって感染力がなくなったらそれは死も同然ですから、感染力を失ったウイルスは死んだも同然だ、という意味の、まぁ単なる例え話ってことですね。

別に生き物じゃないのに、「タピオカの流行は死んだ…」とかいうことができるのと、同じ話といえましょう。

 

…といった所で、SV40から派生してウイルスの話(実践的なものではない、ただのしょうもないサワリ知識のみ)で長くなってしまいましたが、次回はこいつの作るラージT抗原、こいつもまあまあ面白そうな話があるっちゃあるので、こいつに着目してみるといたしましょう。

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