ゴルジ!

唐突にオルガネラを見始めていましたが、核とリボソームが最重要(レシピと合成実行部隊で、こいつらが細胞の全てを作るといっても過言ではないから)で、ミトコンドリア葉緑体のおかげで光と水しかまともなもんがなかった世界に、生物が使えるエネルギーが誕生したともいえるためこいつらも千両役者という感じ……といったところで、まぁ後は正直脇役・おまけ・クソザコのモブ……ってのはまぁ言い過ぎかもしれませんけど(笑)、さほど深追いする必要もない大根役者といえましょう。
(どうでもいい点ですが、千両役者の対義語って、大根役者だったんですね。千両役者は重要人物・人気者で、大根役者は単に芝居が下手な人のことを指すのかと思ってたら、語源的にも対になる感じで、「脇役・おまけ」的な意味合いでも使えるということでしょうか。
……というか、「千両役者」が別に重要人物を指す言葉でもないっていうか、そっちの意味が派生的な意味合い、って感じですかね…?)


まぁそんな前置きはともかく、あとはマイナー具材なので、「その他大勢、色々頑張ってます」で終わろうかとも思いましたが、一応1つネタになりそうなものがあったので、そちらにだけ触れておくとしましょう。

それが、ゴルジ体
(図は以前貼ったので省略しますが、細胞小器官の断面図には、必ず登場してきます。中学理科では省略されてた気もしますけどね。)

ミトコンドリア同様、初めて聞いたときは何か響きが面白く感じる用語だと思いますけど…
ゴルゴ13みたいでもあり、平成の大横綱ドルジみたいな名前でもあり(まぁ僕が習ったときは、まだドルジ呼びもされていなかったし、そんなことは思いませんでしたが)、「何か強そう(笑)」って感じの名前ですね。
 実際ドルジはチベット語の「金剛」に由来し、「強い」「無敵」といった意味をもつ語だそうです。やっぱり、音の響きで抱く印象ってのは、言語が変われど、世界共通なのかもしれませんね)
…果たしてこの強そうなゴルジは一体何者で、どういう意味なのか…?


何とこのゴルジ、まさかの、発見者であるイタリアの病理学者、カミッロ・ゴルジさんが自分の名前をつけたものだったのです!

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https://ja.wikipedia.org/wiki/カミッロ・ゴルジより

核とかミトコンドリアとか、細胞内の構成物質はどれも一般的なそのものに応じた意味の名前で呼ばれているというのに、畏れ多くも自分の名をつけるとか、何つーかスゲェなゴルジさん……と思える気も正直しますけど、でもまぁ科学の分野では発見者の名前にちなんで命名されるものは普通にごまんとありますしね、日本人名がついた生命科学用語だと、岡崎フラグメントあたりが一番有名でしょうか。

とにかく、この強そうな名前のゴルジ体ですが、この語には何の意味もなく、単にゴルジさんの名字だった、というだけなんですね。

イタリア的には、日本人でいうスズキ体とかヤマダ体とかいう名前であるのと同じ感じなのでしょうか…?

ただ、「本当にゴルジさんが名付けたのかな?実は自分で名付けたのではなく、後年、業績を讃えられて誰かがつけただけだったり…?」と思って調べてみた所、ゴルジ体発見100周年を記念して、ゴルジ体の名前に関してまとめられた1998年のレビュー記事がまとめられているのを目にしたので、ちょっと見てみましょう。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
まぁこの論文はゴルジの英語表記の変遷(Golgi apparatusとかGolgi complexとかGolgi areaとか、そういう表記の違いにどういう歴史があるのか、調べてみた、的な内容)についてがメインの話で、特に誰が名付けたとかは書いてありませんが、時代的にゴルジさんが発見して存命中にはすでにもうそう呼ばれていたということで、基本的には自分で名付けたと考えて間違いないでしょう(少なくともゴルジさん本人が別の名前を押していたわけではないというか、そう呼ばれることは認めていたはず)。

それはともかく、本文冒頭には、このまとめ記事著者がイタリアの研究者から「ゴルジというのはラテン語でどういう意味なんだい?」と問われたというエピソードが書かれていました。

それを鑑みると、イタリア人にとっては、別に「ゴルジ・コンプレックス」と聞いても、それが必ずしも人名に由来するものだとは思えないものなのかもしれませんね。

(正直、「うせやろ?日本の高校生でも、『これはゴルジさんが自分の名前を付けたものです』って習ったぜ?!本国でそのエピソード習わないとか、そんなことある?」と思えますが…。
 まぁ、以前話に出したことのある、赤痢菌の学名Shigella(シゲラ)が志賀潔さんに由来することを知らない日本人もいるかもしれないので、まぁそんなにおかしな話ではないんですかね?)


ちなみにゴルジって何か意味のある名字なんかな、と思って調べたら、まさかの、ゴルジさんはゴルジ村出身だということで、何か笑えましたね。

あぁでも、福井出身の福井さんとか普通にいるか…と思ったものの、何と、よく調べてみると、ゴルジさんの出身は元々はコルテノ村で、ノーベル賞を受賞した世界的な科学者に敬意を表して、村の方がコルテノ・ゴルジ村に改名したという、まさかの豊田市バージョンだったとのこと!

地元の人の喜びが伝わってくるようで、こういうエピソードは中々いいもんですね。

ゴルジ村の人々の思いも詰まっているのなら、まぁ、細胞成分に自分の名前をつける傲慢さも、許してやらんでもない、ってなもんかもしれません(いやお前は何様だよ(笑))。


なお、そうはいっても、細胞の構成要素というめちゃ重要な物質に自分の名前付けとんの、お前だけやで……と思えるのですが、実は、ゴルジ体ほど有名ではないものの、細胞生物学をかじっていたら割とよく耳にすることになるCajal body(カハール体)なんていうのも、実はサンティアゴ・ラモン・イ・カハールさん由来のオルガネラなのでした。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/サンティアゴ・ラモン・イ・カハールより

非常に面白いことに、ゴルジさんとカハールさんは神経系の構造研究で同じ年にノーベル賞を共同受賞しているんですけど、実はカハールボディがそう呼ばれだしたのは割と最近、カハールさん逝去後四半世紀以上過ぎて電子顕微鏡による観察技術が発展・普及してからのことで、カハールさん自身はこの構造を「核小体付属体」とか「コイル体」という、自分の名前など出さない慎ましい名前をつけて呼んでいた感じですね。

こちらがまさに、「発見者の功績を讃えて、後の時代の人が呼び名を改称した」というパターンというわけです。

ちなみに、そのノーベル賞共同受賞については、ちょうどカハールさんのWikipedia記事にもありましたが、

1906年ノーベル生理学・医学賞は、網状説のゴルジとニューロン説のカハールの二人が受賞し、まったく正反対の立場で受賞記念講演を行っている。後の時代の電子顕微鏡を用いた実験研究によって、個々のニューロンの細胞膜は互いに独立していることが確かめられ、ニューロン説が実証されるに至り、神経科学における基本的な概念となった。 

…ということで、両者の提唱した説は真逆というか全く異なるもので、後にカハールさんの考えた説の方が正しかったことが明らかになったということですが、やっぱり、人間、「俺が俺が」的に自分をアピールするより、慎ましい人の方が正しいことが多いんだね……という教訓にもなりそうなエピソードかもしれません。
(といっても、科学に間違いはつきもので、「当時はそう考えられていた。結果的に間違ってはいたが、その検証などを含め、科学の発展には間違いなく大きな功績となった」というのが実験科学ですから、ゴルジさんの研究や仮説が無価値とかただの間違いだったとか断じるのはとんでもなく、大きな意義のある研究だと断言できる感じですね。)


…と、名前だけで長くなりましたが、ゴルジ体やカハール体の機能は、両者とも元々は神経細胞の観察で見出されたものですけど、これらはどの細胞にも存在しており、ゴルジ体はタンパク質の修飾やら編集やら輸送やらに機能している、まぁいわばタンパク質の出荷工場…

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ゴルジ体より


一方カハール体は、RNAの修飾や輸送に関与していることが知られていますが、まだまだ詳しい機能は不明な点も多い、という感じでしょうか。

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https://en.wikipedia.org/wiki/Cajal_bodyより、緑の蛍光(小さい点)がカハール体(青が核)

どちらもよく研究されている対象ですけど、かなり専門的な話に入るので、入門編では触れなくてもいいオルガネラですね。


まぁ後残りの細胞小器官はもう、ペルオキシソームとか、これも細胞内共生で誕生した構造物ではないかといわれているとか、こないだオルガネラ最初の記事で見ていた酵母の細胞内の図で、作者の神さんは「ペロキシソーム」と書かれていて、何か可愛くて笑えた(もちろんperoxisomeなんで、全く間違ってはないんですけどね。名前の通り(オキシが酸素で、peroxi-だと過酸化~)、酸化に関わる小器官です)とか、そういう小ネタしかないので、この辺でオルガネラはまぁ一区切りにしようかと思います。

次回から、改めていただいていたご質問に触れていく感じといたしましょう。

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