前回の記事では、生きるうえで一番大切というか生物そのものといえるタンパク質を作る反応、翻訳について、GIFアニメをいくつか貼って簡単な流れを見ていました。
…と、そういえば、「Wikipediaのアニメーションが、ファイルサイズが大きすぎてはてなブログでは貼れなかった」と書いていたのですが、時間を置いたらなぜかアップされていました!
何度やってもエラーメッセージが出ていたのに、単に一時的に反映されなかっただけなのか、しばらくして改めて画像フォルダを見てみたところ、アップを試みた回数分のファイルがちゃんと全部アップされていたことを、はてなブログの名誉のためにも補足しておこうと思います。
うーん、正直、大きすぎるファイルですし、記事を重くしちゃうだけかとも思いましたが、まぁ今時定額じゃない従量制でネットを見ている人なんてあんまりいないでしょうから(いや、スマホ回線とかで見ている方もいるのかな…?でも今はWi-Fiがどこでも使えることが多いですし、このブログもギガを消耗して見るようなものでもないので、もしその辺意識されていなかったら、パケットを消耗しない回線であることを確認されるいい機会かもしれませんね)、参考になるアニメーションといえばまぁ参考になるので、貼らせていただきましょう。
翻訳関連のウィキペ記事で至る所に貼られているアニメですが、どこかの記事で「この2分の動画のように…」とあったので2分程度かと思っていたんですけど、まぁ正確には1分ちょいぐらいの長さでしたか。
いずれにせよ、鎖っぽいのがmRNA、最初に集まってmRNAに結び付き、そのままずっとスキャンしていく感じの大分子がリボソーム(大小2つのユニットから成る)、そしてどこからともなく飛んでくる、青いのがアミノ酸を運んできてくれるtRNAですね(後半出てくる他のものは、前回チラッと触れていましたが、まぁどうでもいいでしょう)。
これがまさに翻訳反応ですが、まぁ流石にいきなり見せられても謎だらけでよく分かんないかもしれませんね、などと前回書いていました。
…と、口ではそういいながらも、「いやでも、本当に上手いことよく出来たシステムになってはいるけど別に概念自体は難しくないし、いうほど分からんことはないか…?」と正直思っていたんですけど、非専門家の立場から、毎回とても親切で心のこもったコメントをいただけるアンさんから感想をいただいており、どうなのかなぁと期待していた所…!
『うむぅ。なんもわからん笑』
という、「うおォン、やっぱり、自分にとっては単純すぎるものでも、初めて見る場合なんかだと、イミフな感じに映ってしまうのか…!」と改めて再認識できた感じでしたねぇ…!
といっても、『流れ自体はまぁ納得はできるけど、細部が何のこっちゃ…』ということのようなので、また改めて、いただいていたコメントをもとに、つっかかる部分をメインに見直しをさせていただくといたしましょう。
まぁ実際、前回も書いた通り、僕自身、初めて習ったときは「う~ん??」とつっかかるポイント満載でしたしね、その反応・感想はごく自然のものと思われます。
なので、僕も最初全く理解できたと思えなかったクチという点では多くの初学者の方と同じだったわけですが、しかしその後の経験と学習とで、謎に思った所は少なくとも自分の中で納得した形で他人に堂々と説明できるぐらいには専門家になったともいえるので、プロの端くれとして、モヤポイントの解決にご助力できればいいなぁ、などと思えてやまない限りです。
以下、いただいていたコメントをまた適宜改変しながら引用させていただきましょう。
いや、この貼り付けてあるアニメは、細かい部分は置いといて、案外イメージできて面白かったんだけれども…
2番目に飛んでくるtRNAの件で、『mRNAのCCGというコドンを認識するので、「CGG」というアンチコドンループをもっており…」って、CGG??ってなったんだがね…まさか右から読むとは?!
って…あれ?右から読むって、最初から書いてあったっけ??見落としたのか、、そう言われても、正直ただ違和感しかないのぅ。
なんとなく思ったんだけど、紺助さん的には「こんな都合いいことある?!って思うのが普通」っぽい感じで書かれとるけれども、自分はそこら辺はあんまり気にならないっていうか、へぇ〜って思える部分かなって気がするんよ。それより、
『なにこのtRNAって、、全部同じ形なん?
いっぱい種類がある中で(64種類)、そのCCGがそこを狙って飛んできて(飛んでくる時点でもうアミノ酸を持ってるん?)、アミノ酸を置いていく感じ?
tRNAも64種類なん?それともめっちゃいっぱいあってアンチコドンループの部分だけが64種類?』って感じで、自分的には、気になる点、引っかかる点が違うっていうか、考え方が科学的じゃないんかもしれんね、きっと。
…なるほどぉ~。
特につっかかったポイントとして、(恐らく書かれてないだけで他にもあるとは思われるものの)やはりtRNAが筆頭に挙げられる感じでしょうかね。
まぁ、tRNAは、名前だけ出して中身については全く触れてませんでしたしね。
順番に少しずつ垣間見ていくとしましょう。
(ちなみに、いただいた疑問点は非常にいい着眼点のものばかりで、「科学的じゃない」なんてこたぁ全くないですね…!
むしろ「形が同じ…??」とか、ちょっと教科書で学んだことのある人が見落としがちの、素晴らしいご質問に思います。)
まず、コメントで挙げられていたアンチコドンの向きとかは、これホンマにマジでややこしすぎますが(今でも、油断したら混乱します。特に、プレゼンとかで示されている図で、3'←5'向きで描かれているtRNAの模式図を読むような場合、見た目通りに左から読んでるのか、それとも分子的な正順である右から読んでるかが不明なときなんかだと、ややこしさが顕著ですね)、まぁ基本的に文字で書くときは原則として5'→3'方向に統一するので、CCGにくっつくものはCGG(どっちも5'→3'表記)だし、CGGコドンにくっつくtRNAはCCG(アルギニンが運ばれてくる)だし、AUGコドンとくっつくtRNAはCAU(メチオニン)…って感じですね。
(実際にペアを作るときは、後者を180°くるっと回す、例の感じ(実際に3文字がつながった鎖なりキーホルダーなりの現物が手元にあるとイメージして)ですね。)
もちろん、前回のアニメーションみたいな絵で表されるときは、ペアを作っている様子を示す必要があるので、既にひっくり返してある形というか、tRNAは3'←5'向きで描かれることになります。
ただこれはもちろん、mRNAが5'→3'向きに描かれている場合の話であって、もしもmRNAの鎖を3'←5'向きに描いたとしたら、tRNAは5'→3'向きに配置され、「コドン:アンチコドン」がペアを作る感じですね。
いずれにせよ、それは単に表示方法の違いであって、プロリンを指定するmRNAのコドン(の内の1つ)はCCGだし(GCCと描いてしまうとアラニンになってしまう)、それを認識してアミノ酸であるプロリンを運んでくるのはtRNA(CGG)だということには違いないわけです。
まぁ本当にややこしいので、最初は5'→3'がちゃんと明記されている図で慣れるのがベストですね(というか上述の通り、別に慣れてもややこしいままの話には違いないので、図を描く人は必ず向きを明記するようにした方がいい…というか見る人にとって親切であるのでそうすべきというのは間違いありません)。
WikipediaのtRNA記事に、ちょうど分かりやすい図がありましたね(この図が採用されていたのは、ドイツ語版の記事だけのようですが)。
こちらは、mRNAのコドンがGCCで、指定されるアミノ酸はアラニンのパターンですが、アンチコドンとしてGGCをもつtRNA(tRNAAlaとか、tRNA-Ala(GGC)とか、tA(GGC)とか、まぁ絶対的なルールはないと思いますけど分かるような短縮表記で書かれることも多いですね。いずれにせよ、アンチコドン(というかtRNA遺伝子)を文字で明記する場合は、5'→3'表記になるということです。当然絵は除く)がペアを組んでいる様子が、非常にスッキリと描かれています。
とりあえず、特徴的な形をしているtRNAですが、こいつもあくまでRNA、4つの文字が並んで出来てる物質には違いないので、方向にご注意を、って話ですね。
いただいたコメントを進めると、そうそう、途中で触れられていた点、毎度「こんな都合いいことある?!」的なのをやたら押してますが、ぶっちゃけ別にそう思わん人も多いだろ(笑)って、書いててずっと思ってました(笑)。
しかし一方で、tRNAは、実際まさに都合よく、全てほぼ同じ形をしています。
もちろん配列は微妙に違いますけど、なぜかみんなあの形に落ち着くような文字列になってるんですね。
もうその時点で「そんなのあり?」と思えるものの、結局やはり、うっすら「いやそんなわけなくね?」と思えるものでも本当にそうなってるというのが、生物学あるあるパターンではないかと思えますねぇ。
ともかく、色々な種類のあるtRNAですが、どのような生物でも(それこそ大腸菌からヒトに至るまで)全部あのクローバー型で(ぶっちゃけ「あれクローバーか…?」って気もしますけど(笑))、形が同じだからこそ、リボソームは、どのtRNAが来ても同じように扱うことができる感じなんですね(というかコドンで何が来るかは完全にバラバラなので、何が来てもいいようにそうなっている、ともいえる形でしょうか)。
こちら酵母のフェニルアラニン用tRNAの二次構造(二重鎖のステム・ループとかを表した図)ですが…
5'側先頭から順に、Dループ(Dアームと呼ばれることも)、Aループ(アンチコドンですね)、Tループの3つで、まぁクローバーリーフといえなくもないかな、って感じですが、アンチコドンとTアームの間に、ちょろっと小さな「可変ループ」と呼ばれるものもあるので、いうなれば四つ葉のクローバーともいえるかもしれません。
幸運をもたらすならぬ、アミノ酸をもたらす分子tRNAは、これがなかったら全生物は一瞬で死ぬ(というかタンパク質が作れない=形を保てないから存在できない)ぐらいですから、最重要分子の一角といえそうですね。
しかし、まぁ二次構造で描けばそうだけどさぁ、って感じで、より実際に近い、結晶構造を元にした三次構造モデルだと…
まぁ、L型って呼ぶ方が適切ちゃいます?といえそうな形かな、と思えます。
とはいえ実際はこれだって単なるモデル図で、実物はこんな色付きリボンではありませんから、あくまでイメージするための絵に過ぎない感じですね。
一方、「全部同じ…?そんなことある…??」という点については、検索したら、これまた日本人グループによる素晴らしい論文がヒットしたので、こちらを参照させていただきましょう。
東大鈴木研究室(ボスが鈴木勉さんで、メイン著者が鈴木健夫さん)による、昨年公表のNature論文ですが、特にtRNAの塩基修飾(メチル化とか、そういうの)について改めて網羅的な検証がなされた論文ですけど、図4の一覧が、今拝借するのにピッタリな、14種類のヒトtRNAを並べてくれてるいいリストになってます。
tRNA-Ala(UGC)に始まり、最後tRNA-Pro(UGG)まで沢山のクローバーが並んでいますけど(元は大きい図ですが、ブログサイズに勝手に縮小されてしまうので、文字は見にくいかもしれませんが)、アンチコドンは当然として、よく見ると細部の塩基は結構違うのに、見事みんな似たような(というかほぼ同じ)クローバーを形成しているんですね!
(ただ、ヒトtRNAは、少なくともここに挙げられたのはほぼ全て、可変ループ部のでっぱりはほぼない感じといえるでしょうか。)
その他細かいポイントとして、「3'末端は最後必ずCCAで終わっている」という点があり、実際、各アミノ酸はこのA(アデニン)にくっつく感じで運ばれることになります。
ヒトのtRNAでは、実はこの部分は遺伝子DNAには記録されておらず、DNA→RNAへと転写された後からそれ専用の酵素(CCA付加酵素)で足されるという形になっている(なので、全てのtRNAは例外なくこのCCAで終わる形になる)…なんて話もありますが、まぁその辺は細かすぎるので特に気にする必要もないでしょう。
いずれにせよ、マジでそれぞれ違う分子(配列は結構バラバラ)なのに、全員似たような構造になり、全く同じ「それぞれ担当のアミノ酸を運ぶ」機能を発揮して働いているという、ニワカには信じがたいぐらいによく出来た設計になっている、って話ですね。
ご質問いただいていたポイントはまだちょっと残っていますが、tRNAの形についての話で結構いい分量になったため、続きは次回とさせていただきましょう。