前回の記事ではtRNAの種類について、データベースの表を引っ張りつつごちゃごちゃ語っていましたが、何点か書き忘れていたことを後から思い出したので、まずそれから触れていくとともに、結果的に話が色々広がりそうなので、今回はまた脱線した関連ネタの回になる感じですね。
まず、大腸菌のもつtRNA遺伝子の表を前回最後に見ていましたが、よ~く見ていくと、なんと!
停止コドンであるTGAに対するtRNA(アンチコドンとしてTCAをもつやつ)ですが、こいつの遺伝子数が1となっている、つまり、停止コドンを認識するtRNAが存在しているじゃあありませんか!
『停止コドンに対応するアミノ酸はないからね、その分tRNAの数も少なくなるわね』…って話じゃなかったのかよ、どういうことだよッ!クソッ!クソッ!…と思われる方がいらっしゃったかもしれないんですけど、こちらよく見てみると、AA(Amino Acids、アミノ酸)の欄には、Secの文字が…。
そう、この記事(意外と重要だった、超マイナーミネラル3種)でチラッと触れたことのあった、「21番目のアミノ酸」として知られるセレノシステイン、これは停止コドンTGAが特殊な条件で読まれて取り込まれるというものでしたが、このSecことセレノシシテインをもたらす遺伝子やtRNAが、実は大腸菌にも存在したということだったんですね。
でもまぁこれはあくまで例外的なもので、基本的にTGAは停止コドンとして機能しており、アミノ酸は取り込まれません。
その辺は上記記事でも触れていた通りですが、それよりも関連して、前回の表で、停止コドン3種に見慣れない名前があったことに気が付かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。
わざわざ表は再掲しませんが、停止コドンそれぞれ、TAAの欄のアミノ酸にochre、TAGのアミノ酸にamber、そしてTGAのアミノ酸にopal Secという妙ちくりんな名前が載っていていました。
これは別にamberやochreという特別なアミノ酸があるわけではなく(Secだけは上述の通りセレノシステインですけど)、それぞれの停止コドンにつけられたニックネームみたいなもの、ってだけの話になります。
ちなみにamberは琥珀(コハク)、opalはそのままオパール、ochreは一番耳馴染みはないけど、まぁ黄土(読みはオーカーで、色とかに詳しい方は、オーカー色と聞けば黄土色っぽい感じと分かるかもしれませんね。俗語で金貨の意味もあり)という感じで、まぁ宝石というか鉱物の名前が、なぜかそれぞれの停止コドンに付けられている感じなんですね。
一体なぜ…?
これに関しては、検索したら出てきた我らが東洋紡の読み物記事に、まさに分かりやすく解説してくれたものが見つかりました。
「源流を遡る」第1回 amberコドンって? <2006年12月>
(https://lifescience.toyobo.co.jp/page/break/215)
このコラム、サザンブロット→ノーザン→ウェスタンとか、アガロースゲル電気泳動とか、サンガー法とか、まさにこのブログでも触れてきたのと同じような小ネタに触れた面白い読み物がまとめられている感じでしたが、まぁ生命科学系で小話を語るにはその辺のネタが鉄板、ってことなのかもしれませんね。
ちなみに東洋紡は、もちろん繊維系の企業として有名なわけですけど、ナイロンを開発したカロザースさんが偉大な生化学者であったように(まぁカロザースさんは有機高分子化学者ですけど)、高分子や生体分子に詳しいという立場を活かし、バイオ事業にも力を入れていて、特にPCRの酵素なんかが有名でして、僕もTOYOBOの試薬は買ったことがあるというか今でも使ってますし、大変良い企業に思います。
またPCRの話をするときに、機会があったら触れさせていただきましょう。
…と、アンバーやオパールについては、上の記事でまとめられている通り、分子生物学の黎明期、まだコドン表も完成していなかった時代に、大腸菌にファージをひたすら感染させて変異体を得るという、数をこなしまくって当たりを引くだけの手間のかかる実験を任されたHarris Bernsteinさんという学生が、どうやら「面白い変異体を見つけたら君の名を残すことを約束しよう」というご褒美と引き換えにその面倒くさい実験に着手していたようで、そのバーンシュタインさんは見事、TAGコドンに変異が入った面白い感染株を発見し、当時流行っていた映画とBernsteinという名字にかけて呼ばれていた彼のニックネーム「Immer Wieder Bernstein」(これはドイツ語ですけど、英語の直訳でAlways Again Amber、映画のタイトルForever Amberのこと)にちなんで、この変異が入ったコドンがAmberコドンと名付けられた…という歴史があったとのことですね。
その後2番目に見つかった停止コドンがTAAで、こちらは東洋紡の記事でも「出典(というかそう決めた理由)が辿れなかった」とありますが、まぁサザン→ノーザンと同じノリで、Amberと同じく色を表すOchre(琥珀もオパールも宝石っぽいので、宝石にちなんでるのかな、と思ってましたが、Ochreはちょっと鉱物感薄いですし、やっぱり、宝石というより色にちなんだ感じなんですかね?)と1965年にBrennerさん他によって名付けられ(報告論文がコレ→https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/5320272/)、そしてその2年後、最後に見つかったTGAが同じBrennerさんらによってOpalと名付けられた(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6032223/)…という流れのようです。
まぁこのニックネームですけど、正直ぶっちゃけ何の意味もない上に分かりづらいだけなので、個人的には別にTAAとかUGAとかそのまま呼べばいいじゃん、って思えるし、ハッキリいって絶滅した方がいい呼び方に思えちゃいますが、たまに使われなくもないので、まぁ専門家なら区別が付くようになっておいた方がいいといえる名前かもしれませんね。
(でも、テストとかでそんなのが問われることは絶対にないし、講義やプレゼンで話に出るときも最初に必ず但し書きが入ると思うので、積極的に覚える必要は一切ないと思いますが。)
ちなみに名前といえば、停止コドンについて、このブログで一番最初に引用させていただいたコドン表が『停止コドン』という表記だったので、同じ呼び方のほうが分かりやすかろう…と思いずっとそうしていたのですが、正直ぶっちゃけ、「停止コドン」より「終止コドン」の方がどちらかといえばよく聞く気がしますし、それよりも英語でも全く同じ用語である「ストップコドン」が個人的には一番しっくり来るというか便利な呼び方かな、なんて思っています。
毎度「停止コドン」と書くたびに、ストップコドンか、日本語で書くにしてもせめて終止コドンと書きたくなってうずうずし続けていたので、これを機に、まぁストップコドンとか終止コドンとか、より自然な呼び方のほうをその場のノリで適当に使うようにしようかなと思います。
名前といえばあとそれから、tRNAについて触れたときに書こうと思って忘れてたこととしてもう1つ、Wikipediaの記事名なんかは「転移RNA」となっていますが、これはマジで「そんな名前使うのやめようぜ」といいたくなりますねぇ~。
Wikipediaによると、訳語について、
学術用語集では植物学編・遺伝学編が「転移RNA(運搬RNA)」、動物学編が「運搬RNA」としている(すべて増訂版)。JISの生体工学用語(K3610)では「転移RNA」である。一般には「転移RNA」の方が好んで用いられる傾向にあるが、高校教育では「運搬RNA」が用いられている。
…とのことですが、確かに学校ではtRNA(運搬RNA)と習った気もしますけど、冷静に考えると「いやいや何それ(笑) 私この道数十年(ちょっと盛ってる)のプロですけど、そんな呼び方一度たりとも目にしたことも耳にしたこともないし、気持ち悪いから絶対口にしたくもないですけど(笑)」と思えるとでもいいますか、RNAをリボ核酸って書いたりDNAをデオキシリボ核酸と呼んだりすることなど全くないのと同じように、tRNAだって別にそのままtRNAでいーじゃん、としか思えないですねぇ。
tなら二画!音でも二音節!
それが何だよ転移だの運搬だの、一体何画だよ、そんなのわざわざ書いてたら日も暮れちまうわ…!!
略語ではなく分かりやすいようにスペルアウトしたい場合でも、どう考えてもトランスファーRNAでOKでしょう。
リボソームを構成するrRNAは、「リボソームRNA」と呼ばれてるんだから、カタカナ表記が許せない、なんてこたぁいわせませんよ。
そしたらあれかい、中国語だとリボソームは核糖体らしいから、rRNAは核糖体RNAとでも書いた方がいいとでもいうんかい…?
んなバカなこたぁないからね、tRNAは常に「tRNA」、口頭で分かりやすく伝えたい場合とかなら「トランスファーRNA」といえばOKなんで、転移だの運搬だの気持ち悪い書き方・呼び方は、今後二度と、金輪際使わない方向で、どうぞよろしく~~(いや誰に向かって言ってんだよ(笑))
(あぁちなみに、mRNAも「mRNA」で、「エムアールエヌエー」はやや言いづらいから、こちらは口頭では「メッセンジャーRNA」と読まれることの方が多いぐらいですが、これも伝令RNAとかいう腐った用語を使うのはやめましょう(笑)。
ま、文字数は増えちゃいますけどね、いきなりすれ違った人に出会いがしら「伝令RNAがさぁ…」とかいっても確実に通じませんから(…って、そんな意味分からんシチュエーション、mRNAでも通じない可能性はありますけど(笑))、我々賢い大人は「mRNA」表記(場合によっては「メッセンジャー」呼び)を貫きましょう。
いたずらに分かりづらい日本語に変換しないのもまた、紳士の嗜みです。)
…と、脱線といいつつ、tRNAに絡めた話に進む予定でもうちょいネタは用意していたんですが(何気に東洋紡がいきなり再登場してきて、「『機会があったらまた触れたいですね』の機会が、わずか数分後にキター!!」とかやりたかったんですけど(笑)、次回持ち越し)、無駄に名前ネタだけで長くなってしまったので、脱線雑談は2回に分けさせていただくといたしましょう。
せっかくなので、写真のない記事も寂しいもんですし、申し訳程度にアンバー・オーカー・オパールの画像ぐらいペタッと貼って終わりとしましょう(クッソどうでもいい(笑))。
アンバーの画像は虫入りだったので、閲覧注意という意味を込めて、先に見た目の良さそうなオパールから順番にいきましょうか……と思いきや、虫入り画像がトップなのは英語版のamber記事だけだったので、日本語版記事にあったペンダントを載せて、記事トップに表示される画像とするとしましょう。
ま、宝石にほとんど興味も知識もない僕でも、琥珀というのはこういうもんだ、ってのは何となくイメージつきますね。
一応、琥珀は有機物が主成分とのことで、ちょっと無機物(ミネラル)っぽいなとも思えたけど、まぁハチミツっぽいし有機物であるのも納得かな、って感じでしょうか。
ちなみに、虫入りの琥珀ですが、そんなに虫虫していない、ただのアリ入りだったので、載せておくとしましょう。
琥珀に閉じ込められた生物なんてのも、有名なやつですね。
まさに、琥珀の中で永遠に…という感じでしょうか。
一方謎のオーカー、こちらは、まぁ顔料みたいものが挙げられていましたね。
例の十六進数表記のRGBコードだと、赤CC緑77青22と、当然赤色成分の強い黄土色ですが、一応、上記記事の中には、含まれる鉱物の例としてリモナイトなる物質が挙げられており、こちらは日本語記事もありました。
褐鉄鉱とのことで、まぁこれからオーカーを頭に思い浮かべる必要のあるときは、こいつを描けばいい感じかもしれませんね(まぁそんな必要のある瞬間など、この先の人生で絶対ないと思いますけど(笑))。
最後オパールは……
あれ?オパールってこんなんだっけ?
って、色は「白色」ってあるのに、どう見ても青やんけ!…と思いきや、まあまあ、虹色や琥珀色を放つものもある、ってことで、オパール一派も一枚岩ではないってことですね。
ちなみに先ほどの東洋紡の記事でも触れられていましたが、オパールは和名・中国語名ともに蛋白石(タンパク石)らしいですけど、そのくせ実際はタンパク質どころか炭素も一切含まないものなので(Wikipedia概要にある通り、単に水を含む二酸化ケイ素なんですね)、やや謎な名前(まぁ見た目がゆで卵のようにも見えるから、ってらしいですが)な気もします。
この「コモン・オパール」が何となくイメージどおりのオパールかな、って気もしますが…
こんなファイアー・オパールなるカッコいいやつもあれば…
装飾品として使われるときはこういう青白い美しさを放つものや、プレシャス・オパールなんかだとマジで虹色に輝いていて…
…なかなかイカした宝石だといえるのではないでしょうか(まぁ、個人的には虹オパより、左のシンプルな方がどちらかといえば好きですけど)。
ちなみにオパールは10月の誕生石とのことですが、リモナイトはもちろん、琥珀も誕生石には含まれていないんですね。
さっきのアリさんみたく、永遠の象徴ともいえますから、どこかの誕生月さん、琥珀を自分の月の誕生石に採用してみてはいかが…?
まぁ、僕は自分の誕生石に琥珀が選ばれても、別に全く嬉しくも何ともないどころか、むしろ虫入りとかキモいし来ないで欲しいですけど(笑)。
余談が長くなりましたが、脱線雑談、次回へ続く…。