意外と重要だった、超マイナーミネラル3種

ようやく終わりを迎えつつある、日本人の食事摂取基準(2020年版)で取り上げられているミネラルを見ていこうシリーズ、残すは超ド級にマイナーな元素3つとなりました。

サクッと終わらせちゃいましょう。

11. セレン(Se)

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https://ja.wikipedia.org/wiki/セレンより

セレンは「分類:半金属」(金属・非金属どちらの性質も併せもつ感じ)となっているように、物質としては面白い元素ではあるんですけどね、栄養学・ミネラルという観点からは、こんなもんいちいち取り上げる元素なのだろうか…?という気がしないでもないですね。

まぁ生体分子でいえば、セレノシステインというものが圧倒的に特筆に値するといえましょう。

タンパク質を構成するアミノ酸は20種類とずっと書いてきましたが、特殊な条件下で、もう1つタンパク質の構成分子として取り込まれるアミノ酸も知られていまして、それが何を隠そう、「21番目のアミノ酸」ともいわれる、セレノシステインになります。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/セレノシステインより

横山茂之さんという、日本の生化学研究の大家(僕が学生だった頃の、東大理学系生物科学のトップオブトップで、現在は既に退官され理研所属だと思いますが)が研究テーマの1つにされていたこともあり(まぁ横山研のメインテーマというわけでは全然ないですけどね)、講義なんかでも耳にした覚えがありますが、こちらは20種のアミノ酸の1つ、システインの硫黄原子(S)が、セレン原子(Se)に置き換わったものですね。
(ちなみにシステインは、セリン(ややこしいですが、セレンは元素で、セリンはこれまた20種類のアミノ酸の1つ)のOHがSHに変わったものなので、セリン(OH)→システイン(SH)→セレノシステイン(SeH)という流れで、特殊度が上がっていく感じといえましょう。)


しかし3文字のコドンはもう既に全て何らかのアミノ酸を取り入れる暗号として使われているわけで、セレノシステインはどうやって取り込まれているのか?…というのは気になる所かもしれませんが、これまた生物は面白いメカニズムを使っています。

具体的にセレノシステインのコドンとして使われているのはTGA(=アミノ酸を指定しない、停止コドン)なんですけど、簡単にいうと、セレノシステイン挿入配列という特殊な配列がTGAコドンの少し後ろに位置していると、その配列が特殊な酵素をおびき寄せて、その酵素の力でTGAの所にセレノシステインがつなげられる…という仕組みになっている形です。

ヒトでは、Wikipediaによると、約25個のセレノシステインを含むタンパク質(セレノプロテイン)が知られているとのことですね(酸化還元酵素の類が目立ちます)。

セレンが不足すると、セレノプロテインはセレノシステインが導入されるはずのTGAコドンの所で伸長が止まってしまい(TGAは元々停止コドンなので、アミノ酸の連結がそこで終わってしまうわけですね)、本来の機能に問題が生じるということになってしまうわけです。

ちなみに硫黄原子を含むアミノ酸には、システインの他にメチオニン(開始コドンにも使われているやつです)もありますが、メチオニンの硫黄がセレンに置き換わったセレノメチオニンというものも存在するものの、こちらは単純にランダムにメチオニン⇔セレノメチオニンの置き換え反応が起こるだけで、特にセレノメチオニンを含むタンパク質と普通のタンパク質とで、機能的な差異はないようです。

 

そんな感じで主にセレノプロテインとして生体内に存在するセレンですが、具体的な説明については、こないだマンガンでもちょっと引用していた医薬基盤・健康・栄養研究所の解説記事が、何気に背景・含まれる食品・機能・過不足が生じた場合・摂取量の目安などなどを非常に体系的にまとめてくれており、もうこれを貼って「ご参照ください」とするのが一番早くて確実なのでは、という気がしてきました。

hfnet.nibiohn.go.jp
まぁ簡単に抜粋させていただくと、セレノプロテインというものは酸化還元酵素中心であったことから分かる通り、抗酸化作用に重要な役割を担うと書かれていますが(酸化というのはまぁ老化に近い感じといえますね。つまりアンチエイジング的な作用でしょうか)、日本人の食生活で不足することはまずないとのことで(例によって海産物に多く含まれているし、植物性食品では、非常に珍しくマカロニ・スパゲッティという安くて美味しい全人類の友達のようなやつが圧倒的にセレン含量が多いとのことで、こんなメジャーフードに含まれているということは、まぁほぼ不足の心配はないといえましょう)、逆に、元素自体は毒性のある物質でもあるため(推奨摂取量から上限までの幅が小さいので注意を要するとのこと)、サプリなどによる過剰摂取には注意した方がいい、とも書かれていますね(まぁセレンのサプリを飲む人なんていないでしょうし、サプリはサプリでそんなに過剰量配合されてるわけもないでしょうから、結局特に気にする必要はないといえましょう)。

意外と長くなりましたが、ラスト2つは本当にネタがない気がするので、よくまとまっている医薬基盤・健康・栄養研究所の解説記事を貼って終わりぐらいにしちゃいましょう。

12. クロム(Cr)

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https://ja.wikipedia.org/wiki/クロムより

クロムといえば、やっぱり、何か金属やプラスチック製品が高級感漂うメタリックボディに様変わりするクロムメッキの印象が個人的には強いですね。

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http://www.yoshinodenka.com/plating/resin/01.htmlより

…カッコいい!

…って、こういうメタリックなのが好きなのは何か小学生男子っぽい幼稚な趣味かもしれませんが、まぁ実際シックな光沢があるのみならず、硬く、また耐食性に優れるためサビにくい傷がつきにくいといった現実的なメリットもありますからね、クロムメッキにはただロマンが詰まってるだけではないのです。

(こういうメッキボディのミニ四駆とか、憧れましたよね。

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https://www.tamiya.com/japan/products/95596/index.htmlより

…少年の心を忘れない僕としては、何なら今でもカッコいいと思いますもん(笑)。もし僕が車やプラモ好きだったら、こういうのを棚にズラッと並べて、毎晩一人でニヤニヤしていたことでしょう(笑))


ということで、クロムといえばカッコいい元素なわけですが、ミネラルとしてはどうなのでしょうか?

改めて医薬基盤・健康・栄養研究所の解説記事にご登場願いましょう。

hfnet.nibiohn.go.jp
含まれる食品トップががんもどき、続いてミルクチョコレートとか、統一性なさすぎワロタって感じでしたが(動物性食品トップの「まさば(焼き)」って何だ?知らない食品か?!と思ったら、鯖のことかよ!分かりづらっ!)、機能としてはインスリンの作用を増強するそうで、そういえばクロモデュリンという用語も聞いたことがあったような気もします(クロムの結合した小タンパク質で、インスリン受容体と結合)。

作用も何かカッコいっすね!


ただ、化学的には、酸化数の高いクロム(六価のクロムで、高校化学でも習う話ですが、深入りする必要はないでしょう)は強い毒性を示すことも知られており(昔は、クロムメッキ工場の労働者に、健康被害が多発していたようです)、食品やサプリに含まれるクロムは酸化数の低いクロムで安全とはいえ、長期的に過剰摂取を続けると健康被害の危険性はあるようですね(まぁ、クロムに限らずなんでもそうだと思いますが)。

ちなみに、調べていたら、アメリカのダイエットサプリに、セレンやクロムが高濃度で含まれており健康被害の報告もあるので注意、なんて記事がみつかりました。

www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp
先ほどセレンの項目で栄養補助としてのサプリで過剰摂取なんてありえないでしょう、などと書いてましたが、そういえばそういうダイエット系のやつで何が使われてるのか分からんようなやつは、危ないかもしれませんね。

「飲んだら痩せる」っていうのは一見魅力的に思えて実は冷静に考えるとものすごく病的なヤベェものであることも間違いないといえるので、やっぱり、怪しげなサプリには手を出さない方がいいとはいえちゃうかもですね。

13. モリブデン(Mo)

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https://ja.wikipedia.org/wiki/モリブデンより

最後の最後、モリブデン?!正直、何でなん!?知らねーよこんなやつ!!…と思わないでもないですが、医薬基盤・健康・栄養研究所の解説記事(リンクカードには何の情報もないようなので、リンクカードは省略)によると、断トツで最も多く含まれる食品は納豆

…いやはや、納豆に含まれるナイス元素さんでしたか、そうとなれば納豆フリークの僕としては、途端にいいやつに見えてきましたよ(笑)。

上記解説記事やWikipediaにもあるように、Moは窒素固定を行う酵素に必須のイオンということで、地球上の窒素サイクルに大きく関わっている、クッソ重要なミネラルということでした。

いやぁ素晴らしい!

これは本当に冗談抜きに、窒素固定というのは、空気(全く反応性に乏しい、窒素という気体)から栄養アンモニウムイオン)を作る、紛うことなき神のようなプロセスであり、もしも土の中に窒素固定をしてくれる細菌がいなかったら、農作物を上手く育て続けることができず、間違いなく人類は文明が発達する前に食糧不足で絶滅していたことでしょう。

つまり、今我々が生きているのは、モリブデンのおかげだった?!

これはすなわち言い換えると、我々人類および生きとし生ける全ての生命体は、モリブデンを最も多く含む納豆様に生かされているようなものだったんだよ!!(ナ、ナンダッテー!!)

…というのはまぁ冗談ですけど、最後に出てくるだけあって、地球規模のエネルギー循環的には、大変重要な役割を果たす元素だった、ってことですね。
(でも、日本人が不足する恐れはまたもやほぼ確実になく、さらに、過剰摂取しても容易に排出されるのでこれまた心配不要という、栄養学的には取るに足らないミネラルではあるようです。)

しかしまぁ、やっぱり、こんなので終わってしまうなら、どう考えてももっと重要なミネラルが他にあったでしょ、例えば……って、案外もうなかったかもしれませんが、あぁ、そういえば先ほども出てきた硫黄

セレンなんぞが取り上げられていたのに、なぜ硫黄は取り上げられないんですかね…?

炭素・酸素・水素・窒素の四天王元素以外に、DNAにはリン、そしてタンパク質には硫黄(メチオニンシステイン)が構成要素として含まれているわけですから、生体分子において間違いなく最重要元素の一つなのに、ミネラルとしては無視…(リンは取り上げられていたのに……)。

まぁ、タンパク質を摂取すれば確実に同時に摂取されることになるので、ミネラルとしての硫黄は取り上げる必要がなかった(タンパク質として、既に超必須栄養素扱いされているので)のかもしれませんね。


…結局一言ではなく、それぞれそれなりにネタに富んだ語り甲斐のあるやつらでしたが、せっかくなので、最後必須ミネラルをまとめた記事を次回したためて、次の話へ移行しようと思います。

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