図を見れば一発?!改めて、分かりやすくDNA切り貼りの仕組みを紹介!

制限酵素とDNAリガーゼを使った遺伝子のクローニングについて、うだうだと言葉中心で説明していましたが、書いてて自分でもどうにも「これは若干分かりにくいかなぁ…」という気が否めませんでした。

結局、一部しか見ていないから説明も片手落ちだったので、全体の絵を見れば、これはなるほどと膝を打つ形になるのではないか、などと思います。
(実はもう既に全体図を作ってみたのですが、これなら昔自分が初めてこの辺の話を聞いたときでもすぐ理解できただろうな、と思えたので。)

…というわけで、ようやく、実際に極甘タンパク質・ソーマチンの遺伝子を、大腸菌でのタンパク質発現用に便利に設計されたpET-15bというプラスミドに挿入する手順、こちらを、具体的に見ていくとしましょう。

(よく使う用語として、もう1つ追加しておくと、プラスミドは遺伝子を組み込む乗り物的な意味で「ベクター」と呼ばれると以前いっていましたが、これに対し、挿入したいDNAは、「インサート」と呼ばれることが多いです(まぁそのまんま「挿入」の英語ですね)。
 つまり、遺伝子のクローニングでメジャーなものは、一般的に「インサートをベクターに挿入する」という感じだといえるわけですね。
 今回見ている実験のインサートは当然ソーマチン遺伝子、ベクターはpET-15bです。)


毎回邪魔くさいですが、まぁ軽く流せばいいだけなので、全体手順も例によって再掲しておきましょう。

大腸菌にタンパク質を作ってもらおう!】

1. 遺伝子DNAをゲットする!⇒済み!

2. そのDNAを、制限酵素とDNAリガーゼを使って、プラスミドに導入する(クローニング)!←今ココ

3. 使える形に加工したら、満を持して、DNAを大腸菌にぶち込む

4. DNAがぶち込まれた大腸菌選別

5. 選ばれた「DNAがぶち込まれた大腸菌」をひたすら増やそう

6. タンパク質合成のスイッチON

7. 満を持して、目的タンパク質の収穫

8. さすがにそのまんまでは大腸菌まみれで汚いので、キレイに精製しよう!

→見事、手元には大量の純品タンパク質が!やったね!!

 

前回、pET-15bプラスミドをNdeIBamHIで切ろう、という話まで進めていました。

ということで、インサートの方も、NdeI-BamHIでカットすることになるわけで、ソーマチン遺伝子の両端にNdeIとBamHI認識部位をつけることになります。

制限酵素が付加された遺伝子は、先述の通り、IDTという合成DNAサービス最大手の会社に頼むとしましょう。

「gBlocks」という名前の製品ですね。

www.idtdna.com
以前の記事で価格表を見ていた通り、501-750塩基対までは、129ドルで合成してくれるようです。

ということで、ソーマチン遺伝子のにNdeIサイトを、お尻にBamHIサイトを付ければそれでOKなんですけど、実は、ここにも注意点が!

制限酵素は特定の6文字を認識してズバッと切るんですけど、切る作業をするために、認識配列の両端にある程度の足場が必要になるのです。

つまり、DNAの一番端っこ、その前や後ろに何もない状態では、制限酵素は、自分の担当する6文字を認識しても、作業スペースがないせいで、上手く切断することができないんですね!

何塩基が足場として必要かは酵素によりけりで、TaKaRaのサイトに、主要な酵素の情報がまとめられています。

表を抜粋させていただきましょう。

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https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?unitid=U100006082より

例えばBamHIなら、「…GGATCC」でDNAが終わってしまう(もちろん「GGTACC…」で始まる場合も同様。結局DNAは二本鎖で、しかも制限酵素サイトは回文なので、裏返せば(逆から読めば)どちらも同じことになります)、つまり末端からの塩基数が0だと、表にある通り、「切断されない」んですね。

1塩基があっても「完全に切断できない」で、2塩基あれば完全に切断できるとのことです。

…って、この表にはNdeIの情報がありませんが、僕が実際に使ってるのはTaKaRaではなくThermo Fisherという、買収と吸収合併を繰り返しまくって圧倒的世界最大のバイオ試薬会社にまで昇りつめた企業の製品なんですが、そちらの情報を見ると、NdeIも3塩基あればOKのようです。

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https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/FD0583#/FD0583より

こちらNdeIの酵素の性質情報ですが、「bp from end of DNA required for complete digestion;完全消化に必要なDNA末端からの塩基対」の所に、3と載っていますね。

(ちなみに、元々この制限酵素Fermentasという試薬会社が開発したもので、「全ての制限酵素を同じチューブで反応させることができる」という画期的なものだったんですけど(従来の制限酵素は、反応にベストな条件(塩濃度や温度など)がマチマチで、酵素によっては二種類のものを一度に反応させることができなかったんですね。それが、全酵素で常に同じ条件で反応可能(=同じチューブで、一度で反応を終えられる)という便利なものになり、これは革命的な商品でした)、FermentasはThermoに買収されて消滅してしまいました(まぁ吸収されただけなので、生き残ってるともいえますけど)。
 Thermoは企業買収後、元々その企業が出してくれていた役に立つマニュアルを闇に葬り去ることも多く、研究者の間では若干不満の声も上がっています。
 この制限酵素のマニュアルも、辛うじてFermentas時代のデータをアップはしてくれていますが、画像の通りボケボケの画質で、非常に見辛いものとなってしまいました(テキストベースじゃなく、画像ベースですしね)。
 個人的には好きな企業ですけど、やや不親切な所も目立つ……そんなThermo Fisherですね。)


なお、制限酵素は、同じ名前の商品であっても企業によって多少の工夫がされているようで、微妙に性質が違うことがあるようです。

例えば、Thermo FisherのNheIは、完全な切断には末端に5塩基が必要のようで…

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https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/FD0974#/FD0974より

TaKaRaの表ではNheIは1塩基あれば完全切断可能ということだったのに、全然違います。

なので、実際は、自分の使う予定の会社の制限酵素の情報を確認しましょう、ということですね。

BamHIは、Thermo Fisherの製品でも、足場として2塩基あれば完全に切断可能とのことでしたが、まぁぶっちゃけ、750塩基までなら何塩基足しても値段は変わりませんし、分かりやすくどちらの末端にも3塩基足しておけばいいでしょう。

(むしろ、足場が十分あることに越したことはないので、どんな場合でも末端には5塩基を付加する人もいます。)


以上の注意点を含め、ちょっと前置きが長くなりましたが、ようやく、実際のデザインをするときがやってきました。

「分かりやすく描けました」と自分で豪語してやまない、素晴らしい図を用いて、絵を見ることで、クローニングの流れ・仕組みを理解してみましょう!

画像ドン!

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うーん、我ながら分かりやすい…!……のか?


ちょっとゴミゴミしていて結局説明が必要ですけど、上から順番に見ていくとしましょう。

f:id:hit-us_con-cats:20210730063747p:plainまず、左側がベクター(pET-15bプラスミド、リング状のDNAですね)、右側がインサートで、IDT社に後ほど注文する(まぁ、ソーマチンがどんな感じなのか味わってみたくはあるものの、流石に、自分の研究に何の関係もなさすぎるので、実際に購入はしませんけどね)ソーマチン遺伝子の両端に、制限酵素サイト足場として3塩基ほど(ただの足場なので、何でもいいです。基本的に、「GやCがつながりすぎると、DNAの合成が難しくなる」(結果、合成できなかったり、エラー率が高かったりする)といわれているので、個人的には、適当にTとAを並べる感じです)足したやつですね。

これを、それぞれ別のチューブの中で、制限酵素(NdeIとBamHI)と混ぜて反応させます!

(ちなみに、「チューブ」は、こういう(↓)親指サイズのやつですね。

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https://www.eppendorf.com/fileadmin/Countries/Japan/files/2019_Tube_Plate.pdfより

 こいつの中に、DNAと、制限酵素とを混ぜて、反応させるわけです。

 ちなみに、Eppendorf社が歴史的に高クオリティの商品を出していて市場シェアが大きかったので、この手のチューブは「エッペンチューブ」と呼ばれることも多いですね。
 英語では、「micro tubes」とか「1.5 mL tubes」とか呼ばれることの方が多いかな、って気がしますが。)


これらを切ったら、それぞれ、こうなるわけですね。

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ベクターは、リングだったDNAが、二箇所で切られ、リングが開いて末端のある直線状になるとともに、当然、両制限酵素の間に存在していた部分が、要らない小断片として発生します。

インサートの方も、ソーマチン遺伝子を含む必要な「両側が制限酵素カットされた遺伝子断片」とともに、突出部を含む4~8塩基(制限酵素認識部位+足場)の要らない小断片が生まれてきますね。

ベクターとインサートの目的産物(=どちらも、大きい方の断片。ベクターは5690塩基対ぐらいで、インサートは、ソーマチン遺伝子全長を含む、630塩基対ぐらい)を混ぜて、DNAリガーゼで連結させてやるわけですけど、このまま両者を混ぜると、要らない小断片が邪魔をして、目的のライゲーション産物ができにくくなってしまうと考えられます。
(当たり前ですが、DNAリガーゼはくっつけて欲しいやつだけを選択してくっつけてくれることはなく、つなぐことのできる状態のものを純粋にランダムにつなげるだけなので、インサートのメイン断片と小断片とが再連結されてしまったり、ベクターに小断片が連結されてしまったりして、成功確率が著しく低下してしまいます。)

そこでどうするかというと、以前、多糖の記事で触れたことのあった、寒天に似たアガロースという物質を使って「ゲル」を作り、DNAを流してサイズに応じて分けてやる、という素晴らしい方法を用います。

検索したら、ちょうどピッタリ理想的な図があったので、抜粋引用で紹介させていただきましょう。

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https://up.n-genetics.com/categories/application/8207/より

アガロースゲルの一端に穴を空けて(レンジで溶かして、容器に注いで固める前に、穴あけ用のクシを挿して用意します)、その穴にDNAを乗せて(沈めて)、電気を流すと、DNAはサイズに応じて分離するんですね!

この図でいうと上に穴を空けて、上から下方向に電気を流しているわけですが、当然、短いものほどゲルの中を速く移動できるので、短いものが先の方(下側)まで流されます。

M1というのが「サイズマーカー」と呼ばれるやつで、サイズの分かっているDNA断片が沢山混ぜられたものであり(色々なサイズを含む製品が市販されています)、これを一緒に流すことで、どの位置にどのぐらいのサイズのDNAが来るかが分かるわけですね。

ある程度の時間ゲルに電気を流し終えたら、特別な試薬でDNAを染色して、目で見えるようにします。

そうして目に見えるようにしたのが上の図ですが、まさに、ちょうどサンプルAの方がプラスミドベクター、Bの方がインサート(まぁ、ソーマチンは630塩基ちょいなので、ちょっとサイズは違いますけど、大体そんな感じ、ということで)に近いサイズなので、実際の実験もこんな感じになるって形ですね。
(不要な小断片は「あまりにも小さすぎてゲルではよく見えない」パターンがほとんどですけど(DNAが短い=染まりが悪い&移動も速すぎて、シャープなバンドにならないというダブルパンチで)、まぁ見えなくても、制限酵素は非常に効率がいいので、どちらも間違いなくちゃんと切れていると考えてOKでしょう。)

この、白く見えているバンドをアガロースゲルから切り出して(普通に、メスとかカミソリ刃みたいなので、杏仁豆腐を切るみたいに切ります)、その後DNAをゲルから溶出してやれば、ばっちり小断片を除去することに成功するわけです!
(小断片と目的のブツとはあまりにもサイズが違いますから、こうして切ったDNAには、不要な小断片を一切含まない、目的のものだけが存在するわけですね。)


…ということで、無事、ベクターもインサートも、必要な方のDNA断片のみを得ることができました。

あとはこの2つのDNA断片と、DNAリガーゼとをまたチューブ内で混ぜて反応させてやるだけで、無事、目的の、「pET-15bにソーマチン遺伝子が(NdeI-BamHI制限酵素サイトに)挿入された」新しいプラスミド…ゲットだぜ!……となるわけです!

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各断片の突出末端は色付けしてあるので、どのようにして連結されたかが明らかだと思いますが、現実的には、インサートDNA由来だろうとベクター由来だろうと、存在するのは同じヌクレオチド(A, C, G, Tの各塩基)に過ぎないので、一度つないじゃえば、そこだけ後から外れやすいとか、ここが外部由来のDNAだと分かるかそういうことは一切なく、完全な一つながりの分子、新しいプラスミドとして存在する形になります。

ポイントは、制限酵素で切ってつなげば、1塩基もズレることなく、確実に望んだような配列のDNAを再構成できる、という点にあるかもしれませんね(ご覧いただければ分かるとおり、ライゲーション後のプラスミドには、NdeIサイトもBamHIサイトも、完全に復活しています)。

 

以上、クローニングについて詳しく見てみましたが、これで、何をやっていたかは割とかなりスッキリされたのではないでしょうか。

2種類の酵素を用いることで、方向が確定することも、これでハッキリ明らかとなるのではないかと思います。

両方同じ酵素だと、制限酵素の回文構造の性質により、180°回転させても結合可能になりますから、どっち向きでも入り得るんですね(別の酵素であれば、同じ突出部位同士でしかつながらないので、向きが確定する、ということ)。


…と、流れが分かったところで、次回は実際にgBlocksでの遺伝子注文方法を見てみようかと思っています。

別にそんなの配列を貼り付けて送るだけなのですが、ここにも意外な注意点というか落とし穴が…?!

まぁ細かすぎる話になりますけど、せっかくなので丁寧に見ていこうかなと思っている次第です。

では次回、遺伝子の注文編、お楽しみに~。

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