テラ甘タンパク質・ソーマチンを大腸菌に作ってもらおう実験について、これまで何度も長いことかけて材料となるDNA(ソーマチン遺伝子を組み込んだpET-15bプラスミド)について見てきており、前回はついに遺伝子スイッチであるT7プロモーターをONにする役割をもった、T7 RNAポリメラーゼをもたせた遺伝子組換え大腸菌についてまで見ていました。
こっからそいつらをどのようにしていくのかもう少し詳しく見ていこうと思っていますが、ちょうどまた、毎回とてもありがたいコメントを送っていただけるアンさんからご質問&感想をもらっており、例によって触れておきたいとても良い着眼点の内容だったので、今回はそちらを見てみるといたしましょう。
Q. RNAプライマーで、ポコポコ変換(?)できたRNAは、 DNAの残りの1本の鎖とはくっついてないんだべか?
一つ一つの各論は面白ぇし、へぇ~と思えんだけどな、ちょっと一連の流れが長過ぎて、最後まで理解しながら進むのが難しいっつか、全体のつながりが見えてこねってゆうかまとまりが把握しきれねっちゅうか、正直何が分がんねか分がんねぇんだどもとりあえず理解できたスッキリ感には届いてねぇってが、ちょこっとあっぺとっぺな感じがしてしまうだ。かにかに。
(毎度、いただいたコメントはもちろんこんなエセ東北弁みたいな感じではなく、勝手に改変しているだけですが(笑)。)
A. やっぱり、用語がややこしすぎて、一連のファージだの大腸菌だの、遺伝子型がどうだとか遺伝子組換えがああだとか、さらには横文字でプラスミドのプロモーターにポリメラーゼでプロテインが…とか、なかなかパッと整理するのは難しい所かもしれませんね。
何だかんだ、一部高校生物の話を逸脱してるぐらいなので、ややこしさは折り紙つきかもしれません。僕自身、もし初見の単語ばかりの状況でこんな説明をまくし立てられていたとしたら、まずついていけない自信がありますから…。
ただ、用語が多すぎてこんがらがってはしまうものの、いってること見てること自体は本っ当~に思いの外単純なので、整理さえできてしまえば、数学や物理のような「用語は把握したけど、概念が理解できない」ということにはならないように思えます。
結局、まだ大きな全体図を見終えていないのが問題といいますか、全体の意図というか大局観が見えてこないのはそこに原因があるかもしれないので、全工程を見終えたら何となくつながってくれた、視界が晴れてきた気がする…ぐらいになることを願いたい限りですね…!
(ただもちろん、別に試験を受けるわけでも研究者になるわけでもないのに、こんなの無理して整理するほどの話でも絶対にないので、気軽に読み流してもらえれば…とも同時に強く思います。)
という、一連の説明が初学者の方にあんまり分かりやすくはなってなかったことへの言い訳はともかく、最初に触れられていた具体的なご質問へと参りましょう。
こちらは、RNA「プライマー」ではなく「ポリメラーゼ」というのが正しい語ですが(…って、前回の記事を見直したら、僕自身も一箇所ポリメラーゼとする所をプロモーターと書いてしまっていましたが(笑)。そちらはしれっと直しておきました)、いずれにせよRNAポリメラーゼでDNAが変換されてポコポコ生まれたRNA新生鎖は、まぁ二本鎖DNAを鋳型として用いていたら多分すぐ離れると思いますけど、一本鎖DNAを鋳型として使った場合は、割とDNAとRNAはくっついてるかもしれません。
…って、ちょうどこの辺の話は、もうずーっと前、DNAの話からRNAの話になり、「次回、この点について触れていこうと思います」と書いて、もう下書きで次の記事のタイトルだけは用意してあったぐらいだったんですが、まさにその「次回」から、「あの五角形のリングとかの分子の構造を見ても、何も分かりませんぜ!」というコメントをいただいたこともあり唐突に「よく分かる有機化学講座」が始まり、その後4ヶ月間、話が広がりに広がっていってまだ戻ってこれていないとう状況のネタだったんですね!
(その、戻るべきRNAの記事はこちら→DNAとRNAの違いをおさえておこう)
ということで、今回はその辺の話に簡単にちょこっと触れてみようかと思います。
まず、上記記事でもそう書いていた(=「RNAは、基本的に一本鎖として存在している」)し、高校生物でもそう習うので、RNAは二本鎖になれないと僕なんかは割と長いこと思っていた(そして多分多くの学生・初学者も、そう思ってると思う)んですけど、これは、正直、んなこたぁないです。
というか、DNAやRNAという核酸分子は、基本的にAはT(RNAならU)と、CはGとくっつくことで、二重鎖を形成する方が圧倒的に安定します。
(これはもう、分子の仕組み的にそうなってるからとしかいえない話ですね。
あんまりいい例えでもないですが、ずーっと立ってるのとずーっと寝転がってるの、どっちが楽かといわれたら、ずーっと寝転がってる方が楽だと思うんですけど、それは人体の構造的にそうなってるからとしかいえない話と似た感じではないかと思います。
それと同じで、核酸分子は、ヌクレオチドがつながった一本の鎖の状態でいるよりも、できる限り相棒のヌクレオチドとくっついて二重鎖を形成した状態の方が楽というか落ち着くという話なわけです。)
なので、こいつらは、隙あらば、「可能な限り最も二重鎖を形成する領域が多いように振る舞う」ことが知られている(知られているというか、それがこいつらのもつ性質)わけですね。
…とりあえず、ここは「なぜ?」とか気にする話じゃなく(人間が寝そべる姿勢が楽なのと同様、核酸分子はその方が安定するように、世の中の仕組みがそうできているから、というだけ)、「そうなっているから、もうそれは『そういうもんだ』と受け止めて話を進める」のが最善というか、ひとまず素直に受け入れるしかない話だといえましょう。
DNAだろうとRNAだろうと、ヌクレオチドがつながった核酸分子は、「できる限り二重鎖状態を形成しようとする」…これがポイントです。
…とそれだけでは何のこっちゃ何も分からないというか話が見えてこないと思いますけど、例えばDNAは、こいつらはなぜ「二本鎖で存在している」といわれているかというと、これは「その環境に、100%自分の相棒の鎖(ペアになれるやつ=逆向きで、A⇔T、C⇔Gが入れ替わった鎖)が存在しているから」というのが理由になるわけです。
DNAは元々染色体に二本鎖で存在していますが、DNAポリメラーゼは、この両方の鎖をコピーしますから、コピー後は、片方の鎖からして見たら相棒の鎖がすぐ近所に必ず存在することになるんですね。
長いものでは億を超えるヌクレオチドがつながっているのが染色体DNAですから、その全てがお互いにパーフェクトに手をつなげる状態のものがすぐ近くに必ず存在するということで、これは当然、相棒の鎖同士で手をつなぐのが一番安定して「二本鎖を形成」できることになるわけですね。
だから逆にいえば、DNAであっても、ピッタリ合う相棒の鎖が近所にいない状況であれば、これは二本鎖を形成するのは難しいわけです。
その場合どうするかというと、自分自身で二重鎖を形成します。
つまり、DNAの鎖が折れ曲がって、自分の鎖同士で強引に二重鎖部分を作り出すってことですね。
…と、やはり言葉で書くだけでは分かりにくいでしょうか。
分かりやすいように、具体的な図を紹介してみましょう……とその前に、相変わらず話の展開がグダグダで恐縮ですが、RNAの場合は、(こないだの記事で図でも見ていた通り)RNAポリメラーゼで合成されるのはDNAの片側の鎖のみであり、一本のみが新しく誕生することになります。
なので、二本鎖が両方コピーされるDNAと違い、基本的にRNAはフリーの相棒鎖がそばにいることはないんですね。
だからこそ、RNAも、その「相棒のいない状況のDNA」と同じで、基本的に自分自身で二重鎖を形成することが多いのです。
これをRNAの二次構造と呼んでいますが(一次構造は、単純にヌクレオチド文字列の並びであり、その文字の並びが実際の環境で特殊な形を取ったものが二次構造)、これはRNAが機能する上で極めて重要であり、21世紀になり、この構造をコンピューターで予測する研究が盛んになされました。
その結果、熱力学的な自由エネルギーがうんちゃらかんちゃらで、極めて高い精度で、RNAの配列を打ち込むだけで、その分子がどのような構造を取るかを計算して絵を描いてくれるソフトが開発されたのです。
最初期に開発され、一番有名なのはmfoldと呼ばれるソフトで、Webサーバー上で無償で公開されている超便利なソフトなのですが、どうもいつの頃からか公開方法が変わったようで、検索しても簡単にプログラム実行画面に辿り着けなかったので、後発の似たようなソフト、ウィーン大学が公開されているRNAfoldというものを代わりに紹介するとしましょう。
rna.tbi.univie.ac.at
例えば適当に、(分かりやすい構造になるように意図的に打ったものですが)GGGGGGGGGGGAAAAACCCCCCCCCCCという、27塩基ぐらいのRNAが存在していたらどうなるか、こちらさんに計算していただきましょう。
上記RNAfoldのウェブサーバーにある入力ボックスにこの文字列を打ち込み、Proceedボタンを押すと…
まさに、「このRNAはどういう形で存在しているか?」を予測というか計算して、図に示してくれるのです。
このRNAは、上図から明らかなように、GとCは互いに手をつなげる塩基同士ですから、このGとCがガッチリとくっついて、いわば分子内で二重鎖を形成しているということなんですね。
(これを二本鎖というのはおかしいので(一本の鎖からできているものなので)、先ほどから何度か「二重鎖部分」とか書いていましたが、業界人は基本的にこの部分をステム(stem、茎)などと呼んでいます。
そして、Aの部分は当然ループ(loop、輪っか)ですから、RNAというのは基本的にステムループ構造を取って存在することが極めて多い分子といえるかと思います。)
ちなみに、これまで何度か「核酸分子には向きがある」と口(指)を酸っぱくして書いてましたが、この二重鎖も、ちゃんと、Gは上から下に5'→3’向きである一方、Cは下から上に向かって5'→3'向きになっているように、きちんと逆向きの状態で二重鎖を形成していることも特筆すべきポイントですね。
分子内の二重鎖形成であろうと、必ず、二本鎖部は「5'→3'」と「3'←5'」方向の鎖が重なり合うようになっています。
今回図にした例はあまりにも簡単(極端)なものでしたが、どんなに複雑なものであっても、核酸分子は自動的に、最も安定的にたくさんの二重鎖が形成できるように、上手いこと折れ曲がって存在することになります。
…改めて、それが核酸分子のもつ性質だからですね(フリーの一本鎖がプラプラしているより、A⇔U、C⇔Gで二重鎖を形成した方が、こいつらにとって非常に落ち着くから)。
…と、ちょっと今回は時間がなかったので、説明したかったことの半分も書けておらず中途半端な形になりましたが、次回改めて、もうちょい詳しく丁寧に核酸分子の構造(今まで見ていた炭素原子とかリングとかの1塩基レベルの分子構造ではなく、もっと規模の大きな、分子全体の二次構造ということですね)を見ていこうと思います。
とりえあず序論のみに留まってしまいましたが、今回出てきた重要点だけでも改めてまとめておくと…
- DNAは基本的に二本鎖、RNAは基本的に一本鎖で存在しているけれど、それは細胞のもつ環境がそうさせているだけである。
(染色体は元々二本鎖だから新しく生まれるの鎖も二本同時だし、逆にRNAの場合、合成されるのは片側の鎖だけなので) - だから、環境中に相棒の鎖がいなかったら、DNAだって二本鎖を形成することはできない。
(逆に、今回は触れていなかったけど、RNAだって、すぐ近くにピッタリくっつける相棒の鎖が存在していたら、普通に二本鎖を形成できる) - 「RNAは一本鎖」とはいうものの、実は、こいつをもっと細かくよく見てみると、その一本鎖分子は折れ曲がって、上手いこと分子内で二重鎖を形成している。
(もちろん一本鎖DNAも、可能な限り沢山の二重鎖を形成できるように自動的に折れ曲がる) - これは結局、二重鎖を形成する方が核酸分子にとって居心地がいいから、自然とそうなる、ということにすぎない。
…って感じですね。
その他複雑なRNAの構造の例・分子内と分子間の違い・結局RNAポリメラーゼで合成されたRNAはどうなのよ?…他、その辺はまた次回へまわさせていただきましょう。