どうやってつながるの…?

前回の記事では、生命の本質といえるDNAについて、細胞の中では染色体と呼ばれる構造を(主にヒストンと一緒に)形成しており、こいつは教科書でよく見る「X」字型の物体なわけですが、より細かく見ていけば、ヌクレオソームと呼ばれる「ヒストンに巻き付いたDNA」という構成単位がギュッと詰まったものから形成されており、そもそもその超長いヒモのようなDNA分子というのは、「ヌクレオチド」とか「塩基」とか呼ばれる4種類の分子(正確には、「ヌクレオチド=塩基+糖+リン酸」という関係になるわけですが、糖とリン酸は4種類の構成分子全てで共通なので、DNAの構成因子1つずつを数える際は、しばしば「1塩基、2塩基…」などと呼ばれることも多い感じですね)がひたすらにずっとつながったものであり、さらにDNAの大きな特徴として、AはTと、CはGとペアを作ることで、「全く同じ長さで、塩基がペアの相棒に代わった鎖」が二本、ピタリとくっついて存在しているのです……なんて話をしていました。

 

まぁいきなり息継ぎもなさそうな長ったらしい文で分かりにくすぎるかもしれないんですけど、改めて、こちらのWikiP記事「クロマチン」からお借りした図(↓)がズバリと言いますか、このイラストを参考にしながらつけていた説明だったわけですが……

https://ja.wikipedia.org/wiki/クロマチンより

…まぁ一つ、これは正直「そこまで細かいことは今はどうでも良くない…?」とも思えた点ではあるものの、気になったら眠れなくなるかもしれない点ですしせっかくなので改めて触れておきますと、DNAの「一本の鎖」を形成するつながり(結合)自体は非常に強固なもので、これは完全に「ひとつながりの分子」と考えられるものになっているのですが…

(具体的には、何百万、何千万、下手したら何億塩基ものヌクレオチドがズラーっとつながっているのが、生物の持つ染色体DNAになっています。)

…逆に、二本鎖を形成する上での「手をつないでできるペア」、これは、まぁ専門用語っぽい名前を出すと「何か面倒くさい」と感じると思うので「手をつないだペア」とかで十分かとも思うのですが、前回ちょろっと書いていたので言葉も出してしまうと「水素結合」という弱いつながりで生まれているもので、こちらはあくまで「鎖自身のつながり」よりも圧倒的に弱い相互作用にすぎず、実は二本鎖DNAというのは、「1つの分子」とみなすことはできず、

「全く同じ大きさの2つの分子がピッタリとくっついて、二本鎖っぽい構造を作っている」

…という方が正確で、まぁ実際通常の生理的条件では間違いなく二本鎖ではあるんですけど、より厳密には、

「あくまで2つの『一本の鎖』がピッタリとくっついて、一時的に二本鎖であるかのように存在している。

 つまり、物質(分子)としては、『二本鎖×1』ではなく、『一本鎖×2』なのである」

…って形でしかないんですね。

 

例えばそうですね…ペットボトルにラベルがついている場合、これはペットボトル本体を持ち上げるなり移動すればラベルも必ず一緒にくっついて移動してきますけど、誰がどう考えてもペットボトルとラベルは「同じ一つのもの」ではなく、「別の物質が、ただくっついて存在している」だけとみなすと思うんですが、それと似たようなものといえましょう。

(DNAは、見た目は両者全く同じ長さ・形なのに、ボトルとラベルは全然違うものなので、あんまりいい例えでもないですけど(笑)…)


とはいえ実際、ちょうどラベルを破いてボトルから離してやればバラバラの2つのものになるのと全く同じように、例えばDNAが存在する溶液を95℃とかに加熱してやれば、「塩基がつながってできた一本の鎖」自体は、ひとつながりの分子ですから当然そのまま「一本の鎖」として存在し続けるわけですけど、「鎖同士のつながり」である水素結合はそれぐらいの超高温では維持することができなくなり、普段は全塩基が仲良く手をつないでひとまとまりの物質に見えていた二本鎖DNAは、最早全ての塩基が手を放す状態になりまして、全くくっついていない独立した一本の鎖が2種類、それぞれ単独で溶液中を漂う状態になるのです。

 

ただ、温度が下がればまた何事もなかったように安定して形成されるのがDNA分子の水素結合の特徴で、バラバラになった後でも、冷やしてやればまた仲良く相棒の塩基同士が手をつなぎ、二本鎖DNAとして存在できる状態に戻ります。

 

これは実際とても面白いというか重要な性質で、これを応用した技術が、名前だけはどなたもご存知といえましょう、PCRという、DNA分子を増幅するための非常に素晴らしいテクニックで、まぁPCRについてはいずれ詳しく見ていくつもりだったので今回はとりあえず触れないものの、ポイントとしては、

「二本鎖形成の手つなぎペアは弱い結合で、『ひとつながりの分子』を形成するほどの強さではない」

…というのが、まぁ最初に書いた通りそこまで把握する必要はない気もするものの、実際そうなっているので知っておいて損はないかもしれないお話だといえましょう。

 

しかしやはりDNAが、「数千万・数億もの塩基がつながった巨大分子」たらしめているのはそちらではなく、鎖自体が強固な形でつながっていく方の結合で、前回構造式を出して簡単に紹介していた通り、こちらの結合は「P」つまりリンが関わってくるもので、リンは英語でphosphorus、まぁ生体分子では主に「リン酸」として登場するので、その英語であるphosphateの方が遥かによく聞きますけれども、その「ホスホ」という語から、こちらの結合はホスホジエステル結合などと呼ばれるものになっているわけですが…

 

ja.wikipedia.org

 

…「水素結合」以上に、そんなややこしいカタカナの名前は心底どうでもいいと思います。

名前を知っていることよりも、「リン酸基-PO4を介した結合」という中身をイメージできていることの方がよっぽど大切で、昔の僕を含め大体の学生は「名前だけ呪文みたいに覚えているけど、実際のイメージはまるでできていない」という状態なことが多いですから、やはり「内容というか本質を理解する」ことが大事だといえましょう。

 

そんなわけで今回はその、リン酸基を介した結合がどうなっているのか、まぁ↑のウィ記事のサムネ画像に載っていますけど、この画像は以前、DNAの構造について初めて触れた頃とかの記事で使ったことがあった気もするもののあんまり分かりやすくないので、もうちょい模式的に、しかし最初に貼ったクロマチン記事のイラストほど何の実態も示してくれない簡略図ではないものが何かないか調べてみた所…

ヌクレオチドをつないで、DNAを伸ばしていく酵素」であるDNAポリメラーゼの、日本語版にはなかったものの英語版記事に、一番いい具合に「程よく簡略化されつつ、重要な点も示してくれているイラスト」があったのでこちらをお借りしますと…

https://en.wikipedia.org/wiki/DNA_polymeraseより


…まぁこの画像は伸長の様子を示してくれているもので、元のイラストはDNAが伸びていく様子がもっと下の方まで何コマもつながっていたんですけど、最初の2点で十分なのでカットさせていただいたわけですがそれはともかく……

 

まず、「DNAというのは4種類の塩基が一つずつ繋がったものだ」と書いていた通り、こいつは鎖として1塩基ずつつながっているものなのですが、画像では緑のA,、橙のC、青のG、紫のTがありますけど、これらがどうやってつながっていくかと言いますと、

相棒の鎖(画像だと二本鎖の下側)を読んで、それのペア塩基を1つ1つ、実直に付け足していく

ということが行われる形で……

…画像の例だと、「TGGAC」までは既につなげられていて、その次に、相棒の下側鎖にいるのは「A」なので、そのペアである「T」がつなげられる様子を描いたのが上図なわけですが……

 

グレーのスライムみたいな物質がその反応を行う偉大な酵素「DNAポリメラーゼ」で、この凄まじく有能な分子マシーンが、この図の最初(上半分)の状態で、

「次の相棒は『A』だな、では周りに存在する『T』を引き寄せて、Tが持っているリン酸結合を一時的に切って、端っこの『C』にくっつけてやろう」

という反応を実行し、1塩基だけ「Extension」(伸長)してくれるんですね!

 

…まぁ、こういう話を聞いても、

「いやいや、どうやってよ?その酵素とやらは、目でもついてるのか?しかも『結合を切って、つなげる』とか、手でもついてるのかよ、そんな都合よく進む話があってたまるか」

…などとどうしても最初は思えてしまうのですが(別に思えないかもしれませんが(笑)、まぁ僕は何となく意味が分からなさすぎて怒りを覚えるぐらいですね(笑))、こればっかりはこの世界の不思議で、DNAポリメラーゼという酵素はマジで、

「相棒の鎖が次、どの塩基が来ているかを見て、それのペアとなる塩基を手繰り寄せ、一つ前の塩基につなげる形でDNAを1つ1つ伸ばしていく」

というとんでもないことを平然とやってのけているんですねぇ~。

 

そして言うまでもなく、数千万・数億塩基がつながったのが染色体DNAですけど、本当に実直に、ほぼ1からこの反応を数億回ひたすら繰り返すことでつなげて作られるのが、染色体DNAとなっているのです。


相棒の鎖を見て対応する塩基を正確に1つつなげられるだけでも凄すぎるのに、それを数億回、ミスなく、しかも極めて速やかに行えるという、まさに生命の神秘のひとつといえる高性能マシーンがDNAポリメラーゼだといえましょう。

(各生物の持つ実際の酵素によって異なりますが、同じ機能を持つPCR用の酵素で性能のいいものですと、大体10秒で1000塩基くっつけることができるものも存在しています。わずか1秒で、この「相棒を見て、ペアを引き寄せて、くっつける」という一連の行為を100回行えるとか、これもう工業製品より凄すぎるだろ…としか言えませんね。)

 

ちなみに、「いや、じゃあその『相棒の鎖』とやらは、そもそもどうやってつなげられたというか合成されたのさ?」と思われるかもしれませんが、これは正直、「親から受け継いだものです」ってのが単純な答になるので、究極的には「どうやって生物は生まれたの?」という誰も正解を知らない問に辿り着くわけですけど……

…まぁその難問はともかく、生体内で「新しくDNA鎖を伸ばしたい」という場面は、基本的に細胞分裂を行う際に必須となる「DNAの複製」に限られますから、「相棒鎖がいて、その情報をもとに新しい鎖をつないでいく」という酵素さえあれば十分といえるわけです。

 

と、ヒストンなどの話からは大分逸れた補足ネタでしたが、この辺も初めて見聞きした際は割と気になる点だと思うので、今回ちょろっと触れてみた次第でした。

 

改めて、DNAの「1塩基」にあたるヌクレオチドはリン酸を介してつながっていくわけですけど、それはDNAポリメラーゼという偉大な酵素が責任もって何万回何億回と働いて実施されている…というのがまとめですね。

では次回はまた少しずつ染色体の話へと進めていこうと思います。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村