バブル構造!

DNAやRNAの構造について、全く入門編とはかけ離れたややこしさの話をここ何度かしていましたが、まあまあ、正直だいぶ細かすぎましたしきちんと理解する必要もない内容なんですけど、細かいことはともかく、DNAやRNAは…

・なるべく二重鎖を形成したい性質の物質である。

・机やその他身の回りにある物体のように常に同じ形に固定された物質ではなく、またタンパク質(熱を加えるとゆで卵に!)や糖(熱を加えたらカラメル化!)のように、条件によって姿を変えるけど一度変化したら永続的にそのままになるようなものでもなく、温度(だけじゃなくその他色々な条件でも)によって構造がダイナミックに変わり、しかも高温で変性しても温度が戻れば元通りになれる物質(「可逆性のある物質」とか呼びます)である!

…ということを知っておくと、まぁ別に何もいいことはないですけど(笑)、ちょっとDNAやRNAと親しくなれるかもしれません。


以上を踏まえて、元々この話を見るきっかけになっていた、いただいていたご質問に戻りましょう。

RNAプロモーターの力で出来上がるRNAについて、「生まれたRNAの鎖は、 DNAの残りの1本の鎖とはくっついとるん?」というご質問でした。

既にこの質問に触れた最初の記事で軽く答えていたのですが、とりあえずRNAプロモーターによってDNAからRNAが合成されるステップ、いわゆる転写について、もうちょい詳しく見ていくとしましょうか。

この記事(遺伝子のスイッチとはどんなものなのか)でも簡単な図で触れていたわけですが、簡単に描きすぎて正確性に欠けていたので、もうちょいきちんと描かれていて説明に良い図を、Wikipediaから引っ張らせていただきましょう。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/転写_(生物学)より

まぁDNA二本鎖の頭の方に、何か色んな塊がくっついていますが、これはヒトとか、より進化的に優れている生物に特有の物質群で、大腸菌とかT7とかを使う場合は、この複合体は必要ない(形成されない)ので今は無視しましょう。

とりあえず、RNAポリメラーゼ(図の中ではRNAPと略記)がプロモーター(この図だと、謎の複合体ですが)を認識してDNAにくっつき、そこからRNAの合成を始めていくというのは以前自作の図で触れていた通りなんですけど、RNAの合成を進めていくにあたり、DNAの二本鎖は、そのごく一部のみがほどかれることが知られています。

ほどかれる部分はちょうど10塩基程度だといわれていますが、そのほどかれた部分は図のようにガバッと開いてDNAの二本鎖構造が一時的に失われて、そのおかげでRNAPがDNAを読み進めやすいようになるということですね。

この状態を、ちょうどほどかれたDNA部分が、泡が膨らんでいるように見えることから、転写バブル構造などと呼ばれています。

ステムの中にある出っ張りはバルジ構造で、それと勘違いしやすいのがバルブで、これはバブルと、何ともややこしい限りですが、まぁバブル=泡は一番なじみがある言葉ですし、別にいうほどややこしくはないでしょうかね。

…がまぁ名前などは正直どうでもよく、単に、RNAPがDNAを読んでいく上で、DNAの二本鎖は部分的にほどかれるのです(そして、転写が進むにつれ、ほどかれた部分はまた元に戻っていく……壊れても簡単に戻れるのが、DNA・RNAの強い所って話につながるわけです)、って点に触れておきたかっただけなんですけどね。


ちなみに、このDNAをほどく機能は「ヘリカーゼ」と呼ばれる酵素(らせんhelixに、酵素でよくある語尾-aseがつながった語ですね。helicaseで、英語読みならヘリケース)が担っているんですが、具体的には、ヘリカーゼは水素結合を壊す機能をもっているということになります。

二本鎖のペア形成は、水素結合でなされているということでしたから、これを壊すことでペア同士手をつないでいる状態が切られて、一時的に離れ離れになるという仕組みですね。

なお、ヘリカーゼという酵素は単独でも存在するやつですが、RNAポリメラーゼは、メイン機能は当然RNAを1塩基ずつ伸長してRNA鎖を作ることなんですけど、こいつは有能で、なんとこのヘリカーゼ役も自分でこなす優れものなのです!

(ただ、その辺のことが詳しく調べられているのはヒトなどの真核生物で、より古典的な大腸菌などの原核生物や、例として見てきたT7 RNAポリメラーゼとかはそういえばどうなのかな、helicase活性についてあんまり聞いたことなかったような……とちょっと疑問に思ったんですけど、検索したら、ちゃんと構造まで調べられていた感じですね。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov…2004年と、T7 RNAポリメラーゼの歴史から比べたら意外と新しかったですが、まぁ細かすぎるしその辺はどうでもいいでしょう。)


という感じで、転写のメカニズムをもうちょい詳しく正確に見てみた所で改めてご質問に戻ると、合成されたRNAは、鋳型として読まれたDNAの鎖とどうなっているか……

…まず、鋳型として二本鎖DNAを使った場合、これはほぼ間違いなく明らかで、DNAはバブル構造で一部がほどかれますが、RNAPが進むごとにまたすぐに戻りますから、DNAは相棒の鎖と二本鎖を形成していることになるため、RNAがくっつく余地はもうなく、RNAは一本鎖として存在していることでしょう。

もちろん、RNAとDNAも水素結合でペアになることも余裕で可能なんですけど(=DNA/RNA二本鎖)、少なくともこの転写の場合は、DNAはバブル部分以外は相棒とペアを組んでいる二本鎖状態なので、なんていうんでしょうね、全体の内のわずか一部が強引に開かれた状態のものに割り込む余地などない(前も後ろもずーっと手をつないでる鎖のペアに、「私も手をつないでー」と割り込んで入っていくのが無理&不自然なのは明らか……開いた部分が閉じるだけの方が、断然エネルギー的にも楽なのは道理といえる)、ってことで、DNAの鋳型鎖とはほぼ100%完全にペアを組める配列を有しているけれど、残念ながらRNAはペアになれずハブられるしかないということですね。

一方、鋳型として、プロモーター部以降が一本鎖のDNAを使った場合…
(こないだの図を再掲すると、このパターンですね↓)

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…この場合は、まぁ完成したRNAは鋳型のDNAと完全にペアを形成できる状態のものになっていますから、もしかしたら、RNAはDNAと二本鎖を形成しているかもしれませんね。

なぜ「もしかしたら」かというと、「分子内」と「分子間」を比較した場合、どちらが構造を取りやすいかを考えてみると、これは恐らく分子内であるといえるからです。

なぜなら、分子内は自分同士なので、確実に近い距離にいていつでも好きなように構造を取れる一方、2つの分子がペアを作る場合、ピッタリとベストの位置ですり合わせる必要がありますから、これはどう考えても自分自身で構造を作る方が有利そうだといえましょう。

(ちなみに全然関係ない豆知識ですけど、「~間」は「inter~」、「~内」は「intra~」ですね。インターネットは世界中のデバイス間をつなぐネットワークで、イントラネットは社内のみのネットワーク…みたいな感じです。
 なので、分子内はintramolecular、分子間はintermolecularと表されます。)


…ただもちろん、それも絶対にそうとは言い切れない話で、例えば全部がAのAAAA…というRNAがあった場合、こいつはステムを作れませんから、鋳型となったDNAのTTTT…という鎖と、ピタッとペアを形成していることでしょう。

そういう極端な話じゃなくても、RNAが分子内でどれだけ構造を取りやすい配列になっているか、どれだけ沢山の一本鎖鋳型DNAが周りに存在しているか、全体の長さはどれぐらいなのか、温度は?塩濃度は?…などなどで、できたRNAが一本鎖なのかDNAとペアになって二本鎖になっているのかは、一概に断言できない(というか、恐らく、部分的に分子内構造を作り、部分的にはDNAとペアになっているみたいな、決まりきった形ではない感じ(その「部分的に」すら、時と場合によってどこがそうなのか変わる動的なもの)になっている)、ってのが結論かと思われます。

紙に書いて考えると見落としがちですが、改めて、こいつらは熱運動で水の中をビュンビュン飛び回っている分子であり、色々自由気ままに振る舞っていますからね、どうあれ「100%全ての分子がこうなっている」とは決め付けることはできない感じです。


なお、鋳型DNAとRNAポリメラーゼと材料となるヌクレオチドNTPを混ぜてチューブの中で転写をした後(ワクチンを作るときの反応ですね)は、鋳型のDNAはもう必要ありませんから、チューブの中にDNA分解酵素を加えて、容赦なく用済みのDNAをぶっ壊します。

DNAをバラバラに分解することで、完成したRNAを精製しやすくするんですね。

DNA分解酵素かますことで、仮に一部がDNA/RNA二本鎖を形成していようと、強引にDNAにはブチブチに切れることでお亡くなりいただいて、最終的にはRNA一本鎖のみが残るという設計です。
(当然、分子内では一部構造を取ってステムを形成していることでしょう。必ずしもあのrRNAほど複雑な構造は取っていないかもしれませんが、改めて、ステム構造の一切ない完全一本鎖では恐らくないといえますね。
…もちろん、超高温にさらしたら、どんなに複雑な構造を取るものでも二次構造を維持できませんから、これも改めて配列と温度その他周りの環境による、としかいえない話なのはいうまでもありませんが…。

 なお、DNA分解酵素は、DNAのみを分解し、RNAは一切分解しません。
 これも、「DNAとRNAなんてちょっと(酸素原子1つ)しか違わないのに、そんな厳密に区別できるのぉ~?」って気がしますが、マジで厳密に区別します。生体分子は本当に有能ってことですね。)

 

…という所で、極めて細かい点に深入りした感もありますが、せっかくなら説明しておいてもいいかなと思えたDNAやRNAの構造について、ここ何回かで結構詳しく見れた感じですね。

ただ改めて、正直ぶっちゃけ、書いてても、「うーん…この説明で、初学者の人が、転写とかRNAの構造とかをバッチリ理解できるようにはならんだろうな…」と思えてしまう感じではあったかもしれませんねぇ…。

というのも、実際自分のことを思い出しても、高校生の頃、この辺の分子生物学の単元について習った後のまとめで、生物の先生に「この漫画が一番分かりやすいよ。これで分かんなかったら……もう無理だわ(笑)」という感じで、分かりやすい図で描かれたDNA→RNA→タンパク質の流れの、何かの本からコピーされたプリントが配られましたが、その先生は本当に分かりやすかったし、生命科学の道に進んだのもその先生のおかげといえるぐらいなんですけど、マ~ジでそのプリント見ても、ぶっちゃけ全く「理解できた」とも「流れがつかめた」とも「そういうことだったのか!」とも、一切これっぱかしも思えませんでしたもんね。

もちろん今見たら「おぉ~、よくまとまってるね!」と思える図だったように記憶していますが、な~んていうんでしょうね、「それが現実に起きている現象である」ということまで頭の中でつながらないというか、どのようにして起こっているのかの想像がおっつかないというか、何度か書いていた「DNAにくっついて、鎖をほどいていき、ヌクレオチドをポコポコつなげていくとか、こいつらは目がついてるのか?意思があるのか!?」と思ったというかまぁそれだけでもないんですけど、学び立ての頃は、分かりやすい絵を見ても何を聞いても、一切全く「分子生物学、完全に理解した」とは全然1ミリも思えなかった記憶がありますねぇ。
(結局受験を終えても大学に進学しても、専門課程で割と深く学ぶまで、テストで聞かれたらそりゃ答えられるけれど、何となく漠然と分かったようなよぉ分からんようなの状態…まぁ正直、細部やちゃんとした流れの深い部分までは理解できてないままだった……というのは以前書いた通りです。)

この辺はやっぱり、自分の手で動かしたり触ったりしてみないと、どうにも理解するのは難しい話なのかもしれません(まぁ僕の理解力が悪いだけなのかもしれませんが(笑))。


そんな所で、DNA→RNAの転写の話は一区切りで、次回はソーマチン合成のほぼ最終ステップ、RNA→タンパク質パートへと進んでいこうかと思います。

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