プラスチック、ナイロンときて、お次はゴム!
冷静に考えたら、「ゴムって何だ?何であんなビヨォ~ンとなるの?」と不思議に思えるわけですが、結局これも、炭素数個の簡単な分子が、互いに手をつないでニョキニョキ伸びた高分子であり、前回のナイロン同様、分子レベルでの見た目も何となくビヨーンと伸び縮みしそうだなと思える構造の、あれですね。
結局、一番大きい分類でいえば、ゴムも有機物なわけです。
生物は有機物、プラスチックも有機物、衣類も有機物、ゴムも有機物って、有機物ばっかじゃん!この世には有機物しかないのか…??と思われるかもしれませんが、まぁ実際周りを見回してみると、案外有機物が多いですね。
紙も、ビニールも、木の板も有機物ですし、何だかんだ身近なものは有機物=炭素まみれな感じです。
まぁ有機物じゃないのは金属、そしてパッと目に付くものでは、ガラスなんかも代表的な身近な無機物として挙げられるでしょうか。
ガラスは主に二酸化ケイ素(SiO2)の結晶で、ケイ素というのは周期表で炭素の下、つまり同じ14族なので、周期表の同じ縦列に所属するものは性質が似ていますから、まあまあ、ガラスも微妙に炭素から成る物質に似てるのかも…ともいえるかもしれませんが、まぁ話はガラスではなく、今回はゴムですね。
冷静に考えると、ゴムってマジで偉大なんですよね。
伸び縮みが可能なうえ、程よい弾力があってクッション的な役目までありつつも、スライムみたいにちゃんと形をもつものじゃないのにしっかりとした構造を取るという、まさに便利・有能・理想な物質です。
これがなかったら車は走れないでしょうし(タイヤがなければ、車輪はすぐボロボロになっちゃうし、そもそも道路をスムーズに走ることすらできないでしょう)、日常生活を見ても、例えば肌着はゴムで体に密着する感じのものを使ってるパターンが一番多いでしょうから、何気に普段必ず身に着けているもの筆頭ともいえるのかもしれません(いやそんなこといったら布の方がそうかもしれませんけど)。
…まぁそういうどうでもいい御託はともかく、ゴムとは一体何なのか?
ゴムというものがどうやってこの世に生まれたのか、正直知らなかったら全く想像もつかないように思えますけど、何となく、工業的に、人間の手で、工場とかで作られてそうなイメージが個人的には浮かびます。
しかし実際は、ゴムというのは歴史的に、自然から得られたものだったのです。
それが、ゴムノキ!
そのまんまのネーミングすぎてなんか面白いというか、何となく響きも可愛い名前ですが、まぁゴムノキは固有名詞じゃなくグループ名で、一口にゴムノキといっても色々ある形になります(パラゴムノキとか、インドゴムノキとか)。
いずれにせよゴムノキと呼ばれる木の特徴は、画像のように、木に傷を入れると、まるで涙を流すかのように、ゴムが滴り落ちてくる、ってことが挙げられるんですね。
ゴム人間は物語の中にしか存在しませんが、まさかのまさか、ゴムというものが実は生き物由来の物質だったとは!
…とまぁ知った風にいってますが僕はどんな感じなのか実際のものは見たことないんですけど、幸い、GIF動画で簡単に紹介してくれてるのが見つかりました。
引用させていただきましょう。
(環境によってはGIF動画が再生されないかもしれませんが、まぁ再生されることを願います。)
面白いですね!
本当にこんなに滴るものだとは、これは子供とかがいたずらしないんだろうか…?と不安になりますが、まぁ農作物同様、貴重な財産資源なので、いたずらっ子達が勝手に立ち入れるようにはなっていない感じなのでしょう。
これが天然ゴムと呼ばれるもので、そういえば中学の社会(地理)で、東南アジア圏の国の特産品として、天然ゴムなんて単語も見た記憶がありますね。
ちなみにこの白い乳汁は「ラテックス」と呼ばれるもので、先ほどの動画の感じからしても、明らかに「全然ゴムじゃないじゃん!」と思うわけですが、いわゆる「ゴム」にするためには、ここからさらに手を加える感じになります。
またつまんない化学・構造の話に入りますが、このラテックスの主成分は「イソプレン」という慣用名で知られる分子がつながったもの、つまりポリイソプレンと呼ばれる高分子なんですね。
例によって、二重結合の内の1本、弱い結合がほどかれて、別のイソプレンと手をつなぐことでつながっていく感じになります(ポリイソプレンの構造式は、Wiipediaに見当たりませんでした)。
しかし、イソプレンが単純につながるだけでは、強度も弾性も乏しく、ゴムとしては使い物にならないことが知られています。
そこで、ここからは人類の知恵で、直線状につながったイソプレン同士を橋渡しする感じの薬剤を加えてやれば、構造が網目のように広がりをもつものになり、伸びたり弾力が生まれたりする、人類にとって役立つゴムが爆誕するのです。
このときに加えるのが、まさかの硫黄!
まぁ別に全然「まさか」でもないかもしれませんが、硫黄(元素記号Sですね)というのは、-S-S-という形で有機物同士をつなげる役割があり、これは実は、我らが代表的なお役立ち生体高分子・タンパク質においても非っ常~に重要な役割を果たしているのです。
まぁその辺はまたいずれ追って触れたいと思いますが、硫黄、実は、臭いだけじゃなかったんですね!
とにかく、タンパク質でもゴムでも硫黄による橋渡しによる連結処理はめちゃんこ重要で、ゴム加工におけるこの工程は加硫と呼ばれるステップになっており、どの程度硫黄を混ぜ込むかで、ゴムの性質はガラッと変わります。
(加硫のページに、何気にポリイソプレンの構造が存在しましたね↓)
数%の硫黄を加えることで、誰しもが思い浮かべる有能なゴムが出来上がり、一方、数十%ほどの大量の硫黄を加えると、これはカッチカチの物質に様変わりしまして、こいつは、エボナイトと呼ばれる物質になります。
高校の化学の授業で当然この辺は習うのですが、エボナイト、授業で教わったとき、有機を習ったのは高2だったんで例の怖い感じの先生だったんですけど、「硫黄を30-40%加えると、ガチガチに硬くなる!エボナイト!みんな知ってるだろ?」って、さも当たり前の感じで説明してて、実際周りのみんなも「あぁエボナイト棒ね」とか納得してたんですけど、エボナイトなんてみなさん知ってます?
僕は全く知らなかったし、今でもエボナイト棒と聞いても全くイメージすら浮かびませんが、エボナイトでできたものといえばボウリングの球のようで、あぁなるほど確かにカッチカチだね、と無事イメージが湧いたのでした。
…とまぁエボナイトはともかく、程良い量の硫黄を加えると、みんなおなじみのビヨンビヨン伸びるゴムが出来上がります。
用途としては、日常で使われるタイプのゴムがほとんどこれ由来で、例えば輪ゴム、ゴム手袋なんかがこの、「程よく加硫した天然ゴム(ポリイソプレン)」でできているものですね。
ちなみに、例の先生の化学の授業では「これが日常でよく使われるゴムの成分だ。製品の例としては、輪ゴム、風船、ゴム手袋、それからコンドーム!」と教わりましたが、男子校とはいえ、最後のやつでちょっとザワザワしたんですけど、そんな中、お調子者の生徒が「先生も使ってるの?」という質問をしたのです。
そうしたらこの厳しい先生、「当たり前だろ!何人子供ができると思ってるんだよ!!」と、はぐらかすでも恥ずかしがるでもなく、毅然と、茶化したりごまかしたりせずにハッキリと答えていて、「うーん、大人だな!カッコいいじゃないの」と個人的に感じ入ったことが強く印象に残っており、今でもよく覚えています(教室全体もそんな空気になりましたね。ハッキリ覚えてるので、自分が真ん中前から2番目の席で、その質問をしたのは隣の列の先頭に座ってたお調子者だったことまで覚えていますよ)。
ということで、僕もあの先生に倣って触れておきましたが、まぁ別にそんな語るほどのエピソードでもなかったかもしれませんね。
多分当時の先生の年齢より今の僕の方が年齢が上だと思いますが(割と若い、厳しくも頼れる兄貴先生的な感じだったのです)、当時の先生の方が遥かに大人だなぁ、と思えてなりません。
…と話が逸れましたが、イソプレンのゴムが天然ゴムと呼ばれるもので、一方、これに倣って人間が生み出した人工の、合成ゴムと呼ばれるものも存在します。
最初期に開発されたのが、イソプレンのメチル基を塩素原子Clに置き換えたクロロプレンをつなげた、その名も(そのまんま)クロロプレンゴム!
このクロロプレンゴムを開発したのが、なんとまさか、2回連続登場の、カロザースさん!
やっぱり凄いよカロザースさん、一体いくつ有能物質を発明すれば気が済むというんだ…!(カロザースさんの短い生涯で、高分子に関する52の論文、69の米国特許を取得)
ただ、後年、クロロプレンゴムよりさらに優れたゴムが、ドイツにて開発されます。
それが、またまた登場のスチレンと、炭素4つのブタンに二重結合が2つついたブタジエンとが手をつないで延々とつながった構造の、スチレン・ブタジエンゴム!
とにかく名前が面白く印象的なのですぐ覚えてしまえるやつですが(まぁブタンという単語自体が、日本人には楽しい響きですしね)、styrene-butadiene rubberの頭文字を取って、SBRと呼ばれるこのゴムが、Wikipediaにもある通り耐熱性、耐摩耗性、耐老化性、機械強度に極めて優れ、自動車の部品やその他様々な用途で用いられる高品質なゴムとして、今現在でも最も使われているゴムになります。
僕はゴムといえばこの万能スチレンブタジエンゴムが全てを網羅していると思ってたんですが、輪ゴムとかゴム手袋とか簡単なものは、今でも天然ゴムが使われているんですね。
というか、食品以外のあらゆる製品は何となく機械的・工業的に、人工物から作られてるような印象があったので(その方がばらつきもないし、大量生産も楽そうだしで)、逆に、天然ゴムみたいな自然に由来するものが、ゴム製品みたいな統一規格が重要そうなもので未だに使われている、ということが実に意外な気もします。
でもまぁよく考えたら、木目のあるテーブルとか板とかは、工業製品だけど完全に天然由来でモノによって大きなバラツキがあるものですし、実際輪ゴムとかゴム手袋って、たまに継ぎ目みたいなのがあったりしてバラツキみたいなものもありますしね(まぁそのバラツキと、天然成分由来であることとは一切関係ない気もしますが)、別にその程度のバラツキは許容範囲に過ぎなく、未だに天然のものに依存している工業製品というのも、考えてみたら沢山あるのかもしれませんね。
また、SBRと関連して、さらにもう1つ、以前見たことのある分子(名前に触れたぐらいでしたが)を混ぜて得られるのが、ABS樹脂!
まさに画像の通り、レゴブロックに使われている頑丈な樹脂ですが、こちらは、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンがつながった物質(当然、各頭文字を取ってABS)ですね。
最早ゴムではないですが、1品増えるだけでこんな感じに性質がガラリと変わる面白い例ということで、名前だけ紹介してみました。
…といった感じで、今回はゴムについてちょっと見てみましたが、また次回、さらなる天然高分子について、もうちょっとだけこの有機化学入門講座を続けていきましょう。