バランスは取れているの…?

前回の記事では遠心機の話に脱線していましたが、予告通り、今回もまた遠心機に関してちょっとした小ネタを挟んでみようかと思います。

ちょうどその話に持っていくのに都合が良いので、前回紹介していたチビタンから再開してみますと、小型卓上遠心機であるチビタンの特徴というか設計として、

「1.5 mLのエッペンチューブを6本入れられる『ローター』がついていることが多いですけど(8本とかのこともありますが)…」

…などということを書いていました。

 

前回のモノタロウのページでは実物の画像(ローターの様子)が分かりにくかったので、もっと分かりやすく写っている、よくあるタイプのチビタンの画像を借りつつ話を広げてみるといたしましょう。

 

「チビタン」の検索では、いまいちチューブが入っている様子・ローター部の様子がハッキリしないものがなかったので「capsulefuge」で検索してみたら分かりやすいものがありました、英語のページにはなりますが……あれ、AS ONEって日本の会社じゃん、と思ったら、アズワンがグローバル展開されている記事だったようで扱われているのもトミーのカプセルフュージでしたが、この製品写真は、チューブを入れている様子も大変分かりやすいですね!

https://www.axel-gl.com/en/asone/d/2-4439-02/より

まずその前に、「そもそも遠心機ってなんだよ」て話だったかもしれないわけですけど、このようにチューブがローターに開いた穴に少し傾けた状態でセットされる感じで、フタを閉じるとローターが高速回転する結果、チューブの中の比重の重い物質を底に沈めることができる、というもので…

(当たり前ですが、空気が上に・液体が下に来るので、飛沫が壁に飛び散った状態の液滴を底に落とすとか、水よりも比重の大きいフェノールを下層に分けるとか、液体より圧倒的に重い、固体であるDNAのカタマリを底に落とすとか、そういう用途で使用できる感じですね)

…今まで「チューブを回す」としか書いてなかったので、1本のチューブが何かグルングルン回転するイメージを持たれたかもしれませんが、回るのはあくまでローターで、チューブはローターに傾きがある形でセットされているおかげで、遠心力が底の方にかかるようになってる、って仕組みです。

 

で、この画像から分かる通り、これはチューブ6本用の、6穴ローターになっていますが…

(ちなみに穴のことを英語ではwellと呼ぶので(チビタンの場合、底のない「ただ穴が開いている」状態ですが、もっと大きい遠心機の場合、金属がチューブの形にくり抜かれた、いわば「底のある穴ぼこ」なので、そういう構造のものは「hole」というより「well」と呼ばれることが多いと思います)、6ウェルのローターなどと呼びます)

…前回書いていた通り、チビタンは6ウェルであることが多い気がします。

 

まぁもちろん8ウェルローターもありますけど、個人的には8より6が好きで、それはなぜかと言いますとズバリ……

…まぁ「なぜでしょうか?」とクイズにしようかとも思いましたが大しておもんないのでとっとと結論を書きますと…

 

(一応、もったいぶって考えていただく余白を設けてみました(笑))

 

…そう、6ウェルローターなら、チューブ2本・3本・4本・6本という、「1と5」以外の全ての本数でバランスを保って回せるからなんですね!

 

これは別に使ったことがない方でも容易に想像がつく話だと思うんですけど、遠心機というのは、ローターの軸を中心に、必ずバランスが保たれている形で回す必要があります。

 

そうじゃないと、超高速で回転運動をした際、ローターには凄まじい重力加速度がかかるわけですけど、ローターの一部だけにそれがかかる形ですと、安定した回転運動が行われず、めちゃくちゃな動きになってしまいます。

 

チビタンは小型なのでそこまででもないものの(とはいえ、↑の製品ページにもスペックが記載されていた通り、6200 rpm(回転/分)で、2000 xg(重力加速度として、2000ジ―)と、チビタンだろうとまあまあの大きさにはなります)、一般的に使われる1万3000 rpmの遠心機は、まぁローターの半径にもよりますけど、大体1万6000 xgぐらい、つまり、1グラムの物質が1万6000グラムの重量に感じられる遠心力が加わるということで、10グラムのチューブを回すと、ローターの一端には160 kgものおもりがぶら下がっているのと同じ状況になるわけですね。

 

そんな状況で回転したらどうなるか……当たり前ですが、軸に固定されたローターは安定した状態を保てず、そのおもりが乗っかっている方に傾くのが必然で、高速で回っている場合、下手したらバランスを崩して軸が壊れて、ローターが吹っ飛んでしまう=金属のローター自体は数kgある物体ですから、下手したら数トン・数十トンのエネルギーをもった物体が吹き飛ぶということで、これは大事故につながりかねません。

 

なので、遠心機でチューブを回す場合、必ずバランスを取って回さなければいけないわけですけど、ここでようやく本題に入れました、先ほどの6穴チビタンの画像をご覧いただくと分かる通り、当たり前ですが6本のチューブを全ウェルに入れて回すことは可能です。

 

ローターの全体に均等に力がかかっている形なので、これは当然ですね。

 

そしてもちろん、2本のチューブを回したいときも、軸を介して対角線上にチューブを配置してやれば、これは当然、安定して回すことが可能です。


(ちなみにこれまた当たり前ですけど、チューブは同じ重さでなくてはいけないわけですが、大体回すものは「同じ酵素反応を行ったサンプル」なので、チューブの中身自体は全く同じ容量の溶液(異なるサンプル)が入っていることが多く、自動的に「同じ重さのモノを回す」形になることがほとんどになっています。)

 

空の部分は0グラムの荷重がかかっており、一方チューブを入れた部分は、中に入れた溶液含めて数グラム程度の重さになるわけですけど(2000 xgでも、まさに数キログラムの遠心力ですね)、それが軸をまたいで反対側にも全く同じ遠心力がかかりますから、両者の力は逆向きに同じものが加わる形で、完全に打ち消されるわけです。

(この辺は物理で学ぶ、力のベクトルというかつり合いの話になりますけど、まぁ直感的に明らかといえましょう。)

 

一方、4本の場合もこれは明らかに可能で、2本ずつ横並びに置いて、対角線上に同じく2本並べる…要は、6ウェルに、時計回りで順番に1から名前を付けるとすると、

①チューブ ②チューブ ③空 ④チューブ ⑤チューブ ⑥空

…と配置してやれば、これはバランスが取れているので、安定して回すことが可能になっています。

 

そしてここが最大のポイントで、6ウェルローターの場合、3本という、奇数で一見バランスが取れなさそうな本数のチューブも、問題なく回せるのです!


まぁ鋭い方なら考えるまでもなく明らかかもしれませんが、結論から書けば、

①チューブ ②空 ③チューブ ④空 ⑤チューブ ⑥空

…と配置してやれば、これは、3本のチューブがちょうど軸を中心とした正三角形状に配置されることになり、遠心力のベクトルはちょうど互いに打ち消し合って0になるため、全く問題なく回転可能になるんですね。

 

文字だけだと分かりにくいですが、先ほどのチビタン画像をご覧いただけいて状況を想像すれば、とても分かりやすいかと思います。

 

「チューブ」と「空」を交互に配置したら、どう考えてもバランスが取れているように思えるでしょう。

 

しかし!

 

8ウェルローターの場合、2, 4, 6, 8本のチューブは、対角線上に1セットずつ増やしていけばバランスが取れるので当たり前ですけど、3本のチューブを回そうと思った場合、これは「その3本のチューブのみ」では、絶対にバランスよく回すことができないんですね!

 

(ちなみに8ウェルローターの場合、奇数本である5本で回すことももちろん不可能となっていますが、これはまぁ、6ウェルローターでも5本は回せないので不問としましょう(笑)。)

 

8ウェルローターの画像はなかなか見やすいものがなかったんですけど、前回モノタロウで2位に位置していたDLAB社のやつが(手前半分は見にくかったものの)一応全体の外観は分かるのでお借りしてみましょう……

https://www.monotaro.com/g/04930521/#より


…そう、まぁ8は3で割り切れないのが原因ですけど、どのように配置しようと、例えば

①チューブ ②空 ③空 ④チューブ ⑤空 ⑥空 ⑦チューブ ⑧空

…となってしまい、誰がどう考えてもこれは上手くバランスの取れていない、歪な配置になってしまうんですね~。

(1-4、4-7は2ウェルの空きがあるのに、7-1は1ウェルの空きしかないので。)

 

そういう場合はもちろん、全く同じ重さの液体の入った、いわば「ダミーチューブ」を用意して、それを1本足して合計4本にして回せばいいだけとはいえるんですけど、酵素反応は10 μLでやることもあれば100 μLでやることもあり、さらにはエタ沈の場合とかだともっと容量の大きい合計700 μLぐらいの時もあれば1.5 mL満タンの時すらあるなど、反応によってチューブの重さは異なるため、毎度「他のチューブと全く同じ重さのダミー」を用意するのも手間なわけです。

 

なので、3本のチューブが手元にあるなら3本で完結するのが本当にベストで、しかも「チューブ3本で行う実験」はしばしばあるため(機能を試したいサンプルと、対照実験として「機能しなかったらこうなる」「機能したらこうなる」といういわゆる「ネガティブコントロール」「ポジティブコントロール」という2種類を設定することが多いので)、

「3本のチューブを、ダミーを用意せず3本のまま回せる」

というのは地味にめちゃくちゃ嬉しいポイントとなっているのです。

 

したがって、僕は8ウェルチビタンより6ウェルチビタンの方が圧倒的に好きで、自分で買うなら絶対に6ウェルの方を選ぶという、珍しく「大が小を兼ねない」という例になっているといえますが、遠心機にはそういうポイントもあるのでした。

 

…と、何気にこっからもう一個、全く同じ話ですけどチビタンではなく一般的な遠心機のネタに内容を脱線拡張しようと思っていたのですが、意外とチビタンだけでいい長さになり、また時間も完全になくなってしまったので、次回、もう一回だけ遠心ネタを続けさせていただくといたしましょう。

まぁ、記事水増し以外の何物でもないですけど(笑)、個人的には遠心機を回す度に感じている、そこそこ面白い話ではないかと思います(多分そんなに面白くはありませんが(笑))。

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