ローター問題の答

前回の記事では、遠心機・チューブバランス問題として、一般的にどういう状況なら釣り合いの取れた形で遠心機を回すことができるのか?…という点に、ちょうど入りかけた所で終わっていました。

 

例えば24穴(ウェル)ローターの場合、1本あるいは23本を配置することは不可能ですがそれ以外の全ての本数でバランスが取れる一方、10ウェルローターなんかの場合(まぁそんな中途半端なローターはまずないと思いますけど(笑))、これもまぁ偶数穴だけあってそこそこの本数はカバーしているものの(バランス配置可能なのは2, 4, 5, 6, 8, 10本でした)、2と5を組み合わせて出来そうな「7本」をバランスよく配置することは(2本を追加しようと思っても既にウェルが埋まってしまっており)不可能だという、結構面白い感じになっているという話でした。

 

これにはどういうルールがあるのか、まぁ、数学的に上手いこと一般化して記述するのは難しくても、直感的に「ローターのウェルの数の約数が関係してるんじゃないの?」という気はするものです。

 

とはいえ、10ウェルローターで8本とか……ってまぁこれは「2の倍数だし…」と思えるものの、24ウェルローターで17本とかですと、「17は2の倍数でも3の倍数でもないぞ…でもなぜ配置可能なんだろう?」と、すぐには答が見えてこない感じではありますが……

 

…それに関して、前回の記事で紹介していた数学ブログ記事(↓)で、法則を紹介してくれていた形ですね。

 

mattbaker.blog

 

正直ぶっちゃけ別に数学の話とかそない面白くもないのでサクッと答から見てしまいますと…

(まぁ、そんなこと言ったらDNAの話とかも、金払って楽しみたい娯楽には決してなり得まえんけどね(笑))

この話は、元々この問題を上記引用ブログ著者・Mattさんにバーベキュー時の雑談で紹介していた、Mattさんの友人であるガン研究が専門の生物学者・Iswarさんが長年考えていた問題らしく、まずIswarさん自身の仮説が紹介されていました。

日本語にして引用させていただきましょう。

 

Iswarの予想:

n穴の遠心分離機に、k本の同一のチューブをバランスよく配置させることが可能となるのは、「k」と「n-k」の両方が、nの素因数の和で表せる場合に限る。

 

まぁこういう「文字式を用いた一般化」に物凄い拒否反応を示す方が多いのは、僕もそうなのでよく分かりますけど、こういうのは具体的に考えるのが一番ですね。

 

例えば24ウェルローターを用いて6本のチューブを回す場合であれば、「6」と「24-6=18」の2つの数字を考える必要があり、6を素因数(というのも分かりにくいかもですが、素数である約数のことですね。24の場合、2と3になります(これより大きい約数、4とか6とかは、それ自身を2や3で割ることができるので、これらは素数ではないため))の和で表すと、

「6=2+2+2」

(まぁもちろん「3+3」でもいいですけど、複数の表し方があるというのは結局、チューブ6本を配置するパターンが複数あることを意味しているんだといえましょう)

…となり、一方、引き算した「18」の方は、

「18=2+2+2+2+2+2+2+2+2」

(これも、「3を6回」足すのでも、「2を3回に3を4回」足すのとかでもOKですね)

…と表せ、両方とも、足し算で表すことができていますから(なお、1パターンでも表記できれば当然OKです)、結論、

「24ウェルローターで6本のチューブを配置することは余裕で可能」

といえるわけですね。

 

まぁこれは当たり前すぎて何の驚きというか信憑性もないですけど、こういうのは「できないパターンで、実際に数式が成り立たなくなっている」のを確かめるのも重要ですね。

 

(ちなみに、よりパッと見では困難っぽい「24ウェルで17本」の場合も、「17=2+3+3+3+3+3(一例)」「24-17=7=2+2+3(これはこのパターンのみ)」と、どちらも普通に2と3の足し算で表すことができる形です。)

 

「バランスよく配置できなかった例」としては「10ウェルローターで、7本」というのがありました。

この場合、「7」と「10-7=3」の2つの数を考えてやる必要があるわけですけど、まず7の方は、

「7=2+5」

と、10の素因数2と5の和として表すことが可能になっています。


しかし、引き算の方、「3」という値は、10の素因数「2, 5」の足し算では表すことができないので、結論、法則の「n-k」の方が条件を満たさないため、10ウェルローターで7本のチューブはバランスよく回すことが不可能だと、ズバリこの予想は正しい法則になっていることが推察されますね!

 

とはいえIswarさんは生物学者であって数学者ではないため、この法則の「証明」まではできずあくまで「予想」を打ち立てただけだったようですが、その後、数学者であるMattさんがあれこれ考えて、意外と難しい問題であることに気付いた後、色々調べた結果、2010年に数学の研究雑誌「Integers(整数)」に、UCバークレーのSivekさんが証明を載せた論文を報告していることを見つけられたようです。

 

記事でも貼られていた論文のPDFリンク(↓)がなぜか京大のものだったので、京大在籍時の仕事なのかと思いきや、ただこの論文を京大がアップしていただけのようで全然関係なく、普通にUC(カリフォルニア大学)のSivekさん一人の仕事でしたが……

http://www.kurims.kyoto-u.ac.jp/EMIS/journals/INTEGERS/papers/k31/k31.pdf

 

…流石に詳しい証明については1ミリも興味が湧かないので論文を紹介することまではしないものの、記述の仕方はやや異なれど、Iswarさんの予想は正しい法則であったことが、数学者の手で厳密な形で証明された形だったようです。

 

Mattさんから「君の予想は正しいと証明されていたよ!」というメールを受け取ったIswarさんは、メールの返事で、


「嬉しくもあり、悲しくもあるよ。

 もちろん、15年前に『推測』した解法が正しいと分かったことは嬉しい一方、自分の手でこの法則を数学的に証明する力がなかったことは大変悲しい!

 十年以上にもわたり、1つの問題に心が囚われてしまうのは面白いね。

 あの時の会話に、真剣に耳を傾けてくれてありがとう。」


…という温かい返信を送ってきてくれた…という報告で記事本文は終えられていました。

 

そこそこ分かりやすい、面白い法則だといえましょう。

「10ウェルローターに7本」が不可能なのは、本来2と5でいけそうなのに「被り」が発生するから=残りの穴の数が足りないから…というのがその理由だったわけですが、この法則で登場する「全ウェルの数からチューブの本数を引く」という操作は、いわば「残りの穴」について考えているともいえますから、まぁ正直数学的に厳密な論理のつながりってのは僕には全然見えませんけれども(笑)、何となく「穴の数」のみならず「残りの穴の数」も検査対象にするこの考え方は、的を射ていると思える気もしますね!

(まぁ「的を射ていると思える気もしますね!」も何も、厳密な証明で正しいことが分かっているので、射ているに決まっているのですが(笑))

 

これを応用すれば、「より大きな数の遠心機でバランスが取れるかどうか?」もそこそこ簡単に判別できる感じで、例えばこないだ紹介していた、共同実験室に置いてある乾燥機付きの遠心機・32ウェルローターの装置でバランスが取れるかどうかの判定……に関しては、これは正直、32の素因数は2のみなので、「奇数なら絶対ダメ(偶数なら全部いける)」ってのがこの法則を使わずとも明らかなのでイマイチな例でしたね(笑)。

 

まぁ2と3を素因数に持つ数字であれば、何気に「1」以外のどんな数でも絶対に足し算で表せますから…

(なぜなら、「2」をひたすら足していけば2以降の全ての偶数を表せ、最後の「2」を1つだけ「3」に変えれば、その偶数の1つ次の奇数も必ず表現可能なため)、結局6の倍数のウェルを持つローターは本当に万能で(=1本or1個だけ空き以外の全て配置可能)

「6の倍数のウェルをもつローターは、どれだけ大きい遠心機だろうと、絶対にバランスを取れる(1本のみ・1本不足以外)」


…ということが確実にいえるということが法則的に明らかだということが判明して、個人的には大変スッキリしました。

 

一応、できない例を10穴以外にも考えてみると、そんなわけで6の倍数だと「バランス不可能な例」は存在しないため、「3の倍数(かつ奇数)のローター」を考えてみますと…

105穴ローターの遠心機(そんなのあるわけないですけど(笑))の場合、これは、例えば21本のチューブであればバランスが取れる一方、

(105の素因数は、3, 5, 7。「21=3 x 7」「105-21=84=3 x 28」と表せるので)

17本のチューブであれば、

「17=5 x  2 +7」でこれはOKな一方、「105-17=88」と偶数になり、3と5と7の組み合わせで偶数を作ることは不可能ですのでこれは絶対にこの3つの数の和では表せない、したがってバランス配置は不可と、そういえるんですね!

 

(105ウェルローターの図を描くのは断念しましたが(笑)、実際、5本セットを正三角形の位置=「1番-5番」「36番-40番」「71番-75番」のウェルに配置すれば、この15本はばっちりバランスが取れているわけですけど、残りの2本、これの扱いに困るといいますか、2本なら対角線に配置すればOKかと思いきや、このローターは奇数穴のローターとかいう頭悪すぎるデザインなので、対角線の位置に対応する穴がないんですね!

 よって、実際に配置することは現実のローターを考えてもどうやら不可能そうだと、実際試してみてもそう言えるのでした)

 

…と、全然大した話じゃないのに、無駄に長々と結構な分量となっていました。

 

あ、最後にふと、「実際どのぐらいのウェル数のローターがあるのかな?」と気になったので、遠心機の世界最大手、Beckman Coultar社のローター一覧を見てみた所…

https://www.beckman.com/centrifuges/rotors/fixed-angle/364600より

…パッと見た中で、こちら36ウェルローターが一番穴の数の多いやつでした。

 

と、こちらは穴の数が多すぎて、1列に配置されておらず、上下2列に配置されていますね……。

 

この場合も、今まで考えていた話は成り立つのでしょうか…??

 

直感的に、もし上の穴と下の穴が「数字上は対応するはずのパートナー」になってしまったら、これは中心からの距離が微妙に異なるため遠心力がズレますから、同じ重さのチューブでもバランスが取れなくなってしまう、というややこしい状態になる気もするものの……

…でもよく考えたら、結局パートナーとなるのは「対角線」か「正三角形型」(36ウェルの場合、12個置き…「1-13-25」など)の2パターンしかなく、対角線の場合も正三角形型の場合も必ず相棒となる穴番号の偶奇は一致するため、画像をよく見たら分かる通り、このローターは奇数番ウェルが上の方、偶数番ウェルが下の方に位置する配置になってますから、これは絶対問題ないといえそうですね。

(=対角線・三角形どちらのパターンでも相棒の偶奇が一致するので、相棒ウェルの上下は必ず一致するということ。)

 

まぁ、天下のベックマン様が、「本数によっては使えなくなる」なんてデザインを設計するわけなかったといえましょう(笑)。

 

ちなみに、遠心ローターというのは、本当に超高速で回すためローター自体に極めて精密な均一性が必要ですから、精密機器の一種であり、とても高価です。

このローターも、直径45 cmと両手サイズの金属のカタマリ(アルミニウム製)でしかないですけど、画像に価格が表示されています通り、2349ドル=現在の為替で35万円超もしますからね!

Maxで2万2000 (回転/分)、遠心力として4万6530倍ものGがかかるということで、ローターの片側に1グラムのズレがあるだけで、常時46.53 kgの偏りが発生してしまいますから、これは死活問題なんですね。

 

「ローターの扱いには注意が必要(傷や汚れをつけたりしない)」という話で、遠心機シリーズは幕を閉じようかと思います。

 

では次回はフェノクロ・エタ沈の補足に戻る予定ですが、何気にもうほとんど補足するポイントはなかったものの、まぁいくつか適当にネタ出しをして記事水増しを図ろうかと思います(笑)。

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