トンデミーナでかかる重力は…?

ここ何回かの記事で、分速15万回転という凄まじい高速遠心機など、回る機械について色々と見ていました。

 

今回脱線ネタの本題は、記事タイトルにもした通り、「果たして世界一速く回るものは何で、どれぐらいの速さか?」というものなのですが、その前にもう少しせっかくだから触れておこうと思った遠心機の話があったので、まずはそこから軽く補足で見てみようかなと思います。

(※一通り書き終えた後の後記:結局、この脱線補足ネタがそこそこの長さになったので、毎回クドすぎますがちょっと時間のなさすぎる日が続いていることもあって、今回はタイトルも変更し、こちらのネタに触れるだけとさせていただきました。

 なら↑の記述も直せよ、って話かもしれないものの、まぁ記事水増しということで(笑)、次回は「回転速度・世界一」について触れていく予定です…という予告代わりとさせていただきましょう。)

 

遠心機のローターには2種類あるということはもう何度も書いていますが、金属のカタマリに穴ぼこが開いた「アングルローター」は例のプッチンプリンみたいな形のもので特にモノによる違いはないんですけど、「スイングローター」に関しては、こないだは超遠心で用いる、ローターの一部に開いた空洞に鉄棒が仕込んであり、そこにフックの付いたホルダーを吊り下げる…というタイプのものを紹介していたわけですけれども……

スイングローターにはそれとは全然違う感じのものもあり、こないだ見ていた上述のやつは主に超遠心で使う大げさなものなんですけど、もっとカジュアルに使える扱いやすいスイングローターも存在しているので、せっかくなのでそれだけ触れておこうと思った次第でした。

 

まぁ言葉で書くより実物を見た方が早いのですが、簡単に文字で説明すると、ローター自体は腕が伸びただけのフレームでできていて、「腕の末端の隙間にある突起部に、チューブを入れられるバケツ(バケット)をセットして使う…というのが、これまた非常によく使われるタイプのスイングローターでして…

 

https://www.beckman.com/centrifuges/rotors/swinging-bucket/b01425より

 

…まぁ文字だと分かりづら過ぎるので結局写真が一番ですが(笑)、まさにこれと全く同じ、まぁ僕が研究室で使ってるのはかなり古いものなので型番は違いますけど、タイプとしては完全に同一のこちら、黒い金属のバケット(画像では4つ)の中に、チューブを立てることのできるアダプター(単なる穴開きプラスチックですけどね)をセットすることで、画像にあるような15 mLチューブ(水色キャップ)や50 mLチューブ(紫キャップ)を回すことができるものになっています。

 

画像説明文にもあるように、許容最高速度は4700 rpmと、普段マイクロチューブを1万3000 rpmで回している状況からすると大分遅いスピードではあるのですが、まぁこのバケットも結構な重さで、しかもローターのアームに無造作に乗っけているだけ(車輪っぽい部品があるので、回り始めると水平方向にまで傾くことはできる形です)という乱暴なデザインですから、あんまりスピードを出せないのはまぁ当然の話なのかな、という気がします。

 

(マイクロチューブ用の高速遠心機よりも半径は大きいので、このスピードでもそこそこ遠心力は稼げるものの、やはり「スピードの2乗」で効いてくるのが遠心力ですから、5桁スピードよりは圧倒的に弱い遠心力になっています。

 15 mLチューブなんかでももっと高速で回したいことはあるので、その場合はやっぱりアングルローターの力を借りる必要があるわけですが、特にこういった大型チューブだとより顕著な点としまして、遠心後のサンプルの分離の綺麗さが本当に段違い……当然、サンプル分子が壁にぶつかることなく真っ直ぐ底へ向かうことのできるスイングローターでの遠心の方が圧倒的に良い分離が得られますから、僕は15や50 mLチューブを回す際は、もっぱらこのスイングローターを使っています。

 具体的には大腸菌酵母といった菌類・細菌類を落とす用途が多いので、DNAやタンパク質といった分子と比べて、微生物とはいえ大量の分子の集合体といえる生物であるこいつらは遥かに重たい物質ですから、そんなに遠心力は必要ないので問題ない感じになっているわけです。)

 

…あぁ、このローターの許容MAXスピードは上述の通り4700 rpmなんですけど、一度他の研究室の人が「遠心機を貸してくれ」と来たことがあって貸したんですが、その人はまさかのこのスイングローターで9000 rpmとかで回しやがりまして、しかも長時間、確か30分ぐらい回している最終盤あたりで気付いて慌てて止めたんですけど、あ~れは冷や汗ものでしたねぇ…。

 

何か色々雑な人だと思ってましたが、まさかの遠心の設定すら守れない感じとは言葉を失いましたけど、とはいえ何気にバケットは吹っ飛ぶことなく数十分回り続けていたので、案外安全設計でできているというか、多少(といっても、許容の2倍ぐらいで、多少どころの騒ぎじゃないですが)スピードオーバーになっても、一応壊れることはないんだなぁ、という面白い経験にはなったかもしれません。

 

そんなわけで、ちょっと違うタイプのスイングローターにもおまけとして触れてみた感じでした。

 

先ほどの画像は、実際に自分の使っているものと同じなので身近だったため写真をお借りしていたのですが、全体的に黒いし、ローターにセッティングする様子が分かりにくかった気もしたため、バケットを取り外した状態で撮られている写真の製品をもう1枚、ローターリストの方から参考程度にお借りするといたしましょう。

https://www.beckman.com/centrifuges/rotors/swinging-bucketより

まさにこんな感じで、ローターアームにバケットをセットするというのが、この手のスイングローターの仕組みになっています。

…と、ここまで書いた時点で、「…もう、今回はこのネタだけでいいかな」と思える分量になったこともあり、当初ここから「世界最高速で回るもの」ネタに行く予定だったのですが、スイングネタで更にもうちょいおまけに触れてオシマイとしてみますと……

 

こちらはまぁ、本質的には全く同じですけど、スイングローターでよく使われるものに、「PCRプレートをセットして、プレート内壁に飛び散った飛沫を落とす」というものもありますね。

https://www.beckman.com/centrifuges/rotors/swinging-bucketより

まぁこれも、二つのバケットがあって、そこにPCRプレートと呼ばれる、96ウェル(画像はこれ)や、さらに細かい364ウェルのプレートをセットし、回すことで液を各ウェル(穴ぼこ)の底に落とすことができる…というそれだけですが、96ウェルでも結構細かいウェルなのに、384となるともう肉眼では各ウェルの内壁の底の方まではハッキリと見えないぐらいですし、そもそもサンプルをウェルに添加する際に、ちょっと跳ねてしまった液滴を手で全部落としていくのも手間ですから、こうして遠心力で落とすのが賢いやり方なんですね。

 

この装置はあくまで「しぶきを底に落とす」程度の役割で、「DNAを沈殿にして落とす」ような高速が必要となる用途では使われませんから、本当に低速、MAX許容速度は3000 rpmとなっていますが、実際は1000 rpm程度で運用されている感じのものになっています。

 

…と、特にこれ以上スイングローターネタも思い浮かばなかったので、最後の最後、特にこないだ貼っていたタイプの超遠心用のスイングローターを見ていて思いついたネタとして、あの「回ると腕が水平方向に上がって、遠心力がかかる」というのは、遊園地のアトラクションを思い起こさせるものがあるかもしれませんね…なんて話に触れてお茶を濁しておくといたしましょう。

 

そう、僕の頭に浮かんだのは、「スイング 遊園地 アトラクション」でヒットしてきた、としまえんのこんなやつで(↓)…

zekkyo-bancho.amebaownd.com

 

…回転とともに、アームが遠心力で(まぁこんな重量の重さのものが多少の回転でそこまでの遠心力がかかるとも思えませんし、腕の上昇は機械制御な気もしますが)上がるもので、まさに「人間スイングローター遠心機」と言えましょう(いや言えねーよ(笑))。

 

せっかくなのでこの時にかかる遠心力を計算してみたかったのですが、スイングアイランドの仕様は調べても見つかりませんでした。

 

もうちょい別のものを検索してみると、アトラクションの仕様も載っているサイトに、我らが富士急の公式紹介ページがありましたが、こちらはちょっと頭に浮かぶ「遠心機っぽさ」のイメージとは違うものの、「回転速度」というデータがあったので参考にさせていただきましょう、Pizza-Laがスポンサーとなって開発されたのであろう、トンデミーナ!

 

www.fujiq.jp

 

トンデミーナ!

まぁ画像から明らかな通り、アームは振り子運動するだけで、回転するのはドーナツ状の座席部分だけなんですけど、せっかくなのでこの座席の回転でかかる遠心力を、前回使っていたSIGMAの計算機で求めてみようと思います。

 

■最高到達点 : 43m
■アームの長さ : 25m
■スイング角度 : 240度(左右に120度)
■最高速度 : 102km / h
■回転速度 : 13km / h
■回転直径 : 8.5m

 

回転速度は、まぁ実験機器やエンジンではないので当たり前ですが「rpm」ではなく「時速何キロ」という表記なので変換が必要ですね……時速13キロとのことなので、分速は216.66…メートルで、このドーナツ座席は直径8.5 mとのことですから、円周は直径に円周率をかければいいので、一周で約26.7メートルですね。

 

ということで、「216.67 m/分」と「26.7 m/周」から「周/分」という単位を残せばいいので(まぁ単位を考えなくてもこれは単純すぎて明らかですけど)、「分母の分母は分子へ」という考えから、216.67÷26.7=約8.11…

…つまり、この座席は8.11 rpmということで、「かなり遅いです」と言っていたプレート用スイングローター遠心機とは比較にならないスロースピード(1分でわずか8回転)になるわけですけど、まぁ人間をそんな1分で何千回転もする遠心機にかけたら下手したら(下手しなくても)臓器がつぶれちゃいますからむしろ当たり前でしょうか(笑)。

 

ということで、「約8 rpm」と、「半径425 cm」とでかかる遠心力をツールに入れて計算してみると……なんと、残念ながら、小さすぎて計算機では「0」と表示されてしまったので、手計算するしかなさそうですね。

遠心力の公式は、

  • RCF(遠心力)=11.2 × 半径 (cm) × (RPM/1000)2

ということだったので、数字を当てはめますと、11.2 × 425 × (8.11/1000)2=約0.31……なんと、重力と同じ力ですらない、重力のわずか0.3倍程度の力しかかからないということで、このアトラクションはザコですね(笑)。

 

…ってまぁ、座席の遠心力が売りのアトラクションではないのでそれは滅茶苦茶な難癖ですけど(笑)、座席が回るのはあくまでオマケですから、この回転で「遠心力で押し付けられる感覚」は、重力の0.3倍の力って言われてもあんまり実感できないものの、まぁ座席にへばりつく程のものではないことは明らかだといえましょう。


もちろんアームの振り子でかかる遠心力は相当なものがあると思いますけど……っていうか普通にそっちがメインですし、そっちを求めるべきでした(笑)。

 

先ほどの仕様データによると、アームの長さが25メートル、そして最高速度が時速102キロということで、同じ手順を踏んで計算してみますと……

  • 102000/60 (m/分) / 25π (m/周) =21.64 rpm 

になるため、最高速でかかる遠心力を求めてみると、

  • 11.2 × 2500 × (21.64/1000)2=13.11…

…と、約13G、実に重力の13倍以上の力が乗客にはかかるということで、う~んこれは「キャーー!!」ですね!(何じゃそりゃ(笑))


(→追記訂正:アームの長さ25メートルは、よく考えたら全長で、振り子運動の半径としてはその半分でしたね。

 なので、実際の遠心力はその半分、6.5G程度だった感じです、それでも大きいですが!)

 

まぁ漫画とかで重力ルームなんてのはよく出てきますが、そんなSFっぽい環境を一番簡単に実現できるのはまさにこんな「回転による遠心力」を加えればいいだけの話であり、実際13倍の重力環境ならトンデミーナで体験可能だと、そういう話でした。

(って、そんなこと言ったら、前回触れていた公園の回転地球儀遊具が一番簡単な「重力ルーム」と言えそうですけどね(笑))

 

そういえば最後関連して、以前「イグノーベル賞」で話題になっていた、「ビッグサンダーマウンテンで尿路結石が取れる」という話がふと頭をよぎったんですけど、これもジェットコースターの「G」が理由なんじゃなかったっけ…?と思ったら…

 

toyokeizai.net

 

…こちらは、遠心力っていうより「絶妙な振動」がキモだったようですけど、まぁ「絶叫マシーンで何か内臓フワッ」は絶叫系の良さだといえましょう(時間不足につき、強引なまとめ(笑))。

 

何か結局長くなってしまいました、では次回は予告通り、「世界最高回転速度のもの」を見ていこうかなと思います。

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