案外奥の深かったバランス問題

回転するローターの穴(ウェル)にチューブを入れることで使う高速遠心分離機が、「安定して回ることが可能となっているかどうか?」という、いわゆる「バランス(釣り合い)を取る」話について(引っ張るほどのネタでも何でもないのですが)ここ何回か見ており、前回は最も一般的といえる24ウェルローターの遠心機について、具体的な配置(というか、「僕が普段どういう風にチューブを入れているか」という、世界で一番要らない情報(笑))を見ていました。

 

まぁ24ウェルローターは、1本(と、「空きが1穴だけ」という23本)のみバランス取りが不可能で、後は全部チューブの追加なしでバランスが取れるという神設計という話だったわけですけれども、中途半端に全部は見終えておらず、17本の配置まで見終えた所で時間切れとなり中断となってしまっていました。

 

無駄にデカく作りすぎてちょっと見づらかったかもしれない図でしたが、続きを見るために再掲しておきましょう。

 

17本の場合

これを見て、直感(事前情報抜き)で「バランスよく配置されていますね、安定回転可能です」と判断できる人はこの世に存在しないと思うのですが……いや、めちゃくちゃ数的センスの高い人なら、直感的に分かるものなんですかねぇ…?

 

少なくとも僕は空間認識能力が凡も凡なので、パッと見で「これを回転させたときに発生する遠心力ベクトルの合計、ゼロ!」なんて絶対に分かりませんけど(笑)、まぁ前回も書いた通り、

  • 17本入れるためには「3+14」と考えて、まず3本を「8飛び」で入れた後(画像は、1-9-17に入れた状態でした)、後は対角線に空きがあるペアに2から順番に入れていく

…という風に考えれば、これはちゃんとバランスが取れているんですね。


とはいえ、「まず3本入れて、後は対角線を見ながら2本ずつ追加…」というやたら地道なやり方を取るので、そんなシチ面倒くせぇことするなら流石に1本足して18本で分かりやすくバランス取るわ……となるようにも思えますけど(笑)…

…でも、バランス用のチューブを用意するのが面倒(あるいは、普通のチューブではなく、ミニカラムが付属している特別なチューブを使う場合など、「同じ重さのモノを用意するのが面倒くさい、あるいは初めて使うカラムとかで、そもそも手元に全く同じモノの余りが存在しない(まぁそれでもそのカラム付きチューブの重さを量って、全く同じ重さの水入りチューブを用意すればいいだけではあるんですけどね)」)という状況であれば、17本のままでやる他ないので、↑のような配置で頑張りますが……

 

…いずれにせよ、ここまで見てきたことですしせっかくなので続きの19本の場合も見ていこうと思ったんですけど、これはもう画像を用意するまでもなく、「11-23」さらには「12-24」もまだ対角線ペアとして利用可能ですから、そこに2本ずつ足していけば、「19本」「21本」パターンの配置が得られ、「23本」は不可能パターンでしたから、これで奇数本は全て攻略済みって感じでしたね。

 

(あぁでも今さらですが、「7本」は少し頭を使う配置だから逆にややこしくなるため、「17本」配置する場合は素直に↑のやり方にする気がするものの、「19本」なら、「(先ほどのやり方で17本まで入れて)さらに2本追加」という流れではなく、例によって「19本のチューブを入れる」は「満杯状態から、5本チューブを抜く」と同義であるため、「1-9-17、そして2-14」という、かなり馴染みのある「5本配置」の逆バージョンと考えればそれが楽なので、僕ならそっち向き(=空ける5本を頭に浮かべて、底以外を順番に脳死で満たしていく)で入れてく気もしますねぇ。

 

(そしてさらに言うまでもなく、21本なら「7-7-7」というセットで入れるだけですから、難しいことは考えず(=1-9-17と3本埋めて、後は対角線が生きてるスポットに2本ずつペアを埋めていく…という考え方はせず)、普通に「7-空け-7-空け-7」って感じで入れてくだけですね(笑)。

…言うまでもなく、上の画像から4本足した状態は、「5-13-21」が空いているという、そのものズバリの状況になっています。)

 

まぁ何ぞよぉ分からんというか、かなり独りよがりな「思考の流れ」を書いた感じになってしまったのでごちゃごちゃしてしまいましたが、「遠心機を回す」という生化学・生命科学実験で毎日必ずやるような操作で、特に上の画像みたいな「一見バランスが取れていないのに、実は全体として釣り合ってる」という状況になる度、

「ん~、チューブを足さずにあるものを上手く使って並べたぞ、俺って天才…?」

…とまではまぁ別に思いませんけど(笑)、無駄な達成感があるのも事実だといえましょう。

 

ちなみに、バランスが取れている状態から一箇所でも間違えてしまうとそれは「不釣り合いな配置」になりますから、何度も書いている通りその状態で高速回転してしまうと凄まじい異音が発生し機械に甚大なるダメージを与えてしまうわけですけど……

それもそのはず、(これもこないだ書いていた話ですが、先述の通り)チューブの重さはまぁ数グラムぐらいはありまして、高速遠心機の最高回転数、1万6000 xgとかが加わると、そのまんま重量の1万6000 倍の荷重がかかるわけで、数十kg、下手したらバランスの悪さによっては100 kg超の偏りがローターの一方にかかることになるわけですから、そりゃ機械も壊れてしまいかねないですね…という話になっているわけです。

 

ちなみに、バランスが取れていない状態で回し続けると冗談抜きに本当にローターが吹っ飛びかねない勢いで破壊されるもので(実際は遠心機のフタを閉じて、かつ、ちゃんとロックがかかる仕様になっているため、金属のカタマリであるローターが空を吹っ飛んでくることはまずありませんが)……実はかくいう僕は、経験済みだったりします。

 

もちろんアンバランスな状態だと凄まじい異音を発するのですぐ気付くはずなんですけど、アメリカの研究室では冷却機能を持たない遠心機を冷蔵庫の中(といっても家庭用のよくある冷蔵庫みたいなのではなく、引き戸タイプの透明扉で囲まれている感じの、いわゆるクロマトチャンバー(クロマトグラフィーという実験手法がよく使われる冷蔵庫なので)とそう呼ばれます)の中に遠心機を置いて、

「冷蔵機能を持たない安い遠心機だけど、4℃で回すことができる」

というセコいやり方がよく行われるのですが(笑)、チャンバーの中に置いてあるためローターのウェル番号が見づらいこともあり、また、せっかく冷えている冷蔵庫の扉を長時間開け続けることに猛烈な罪悪感を覚える男である僕は慌てて作業してしまいがちなこともあって、こちらへ来てすぐの頃、慣れないチャンバー内の遠心機に、チューブを1本か2本ズラしてセットして回し始めてしまい、しかしすぐにチャンバーの扉を閉めてあんまり音が聞こえない状況になってしまった結果、不幸にしてしばらくしたらチャンバーの中から「バキッ、ボガン!」みたいな音がしてきまして……

 

…言うまでもなく、ローターが外れるぐらいの極端な負荷がかかってしまったのか、内部でローターが暴発してしまうレベルの大惨事を起こしてしまい、あわや大事故にもなりかねない状態にしてしまった(もちろん、遠心機は壊れて回らなくなってしまいました。ロック状態で固定されたこともあり、分解しないと、遠心機のフタすら開かなくなった記憶があります)という、赴任早々、注意力散漫すぎる、まさにカスのスタッフっぷりを発揮してしまったのでした(笑)。

 

(とはいえ、ボスに平謝りで報告したら「It happens.(=そういうこともあるよ。)No warries.」と非常に寛大な心でまた新しい遠心機を購入してくれたという、まぁ全然いい思い出ではないですけど(笑)、以後、チャンバーの中では特に、細心の注意を払ってチューブを配置するようにしています。

…ってまぁ、学生ならともかく、博士課程を修了したレベルの研究スタッフが気を付けなきゃいけないような話じゃなさすぎますけどね(笑))

 

そんなわけで、このチューブ配置問題、毎回「5本」とか「7本」とかで一見アンバランスな並べ方になった状態を見る度、

「これ、小学校入試…は流石に未就学児が受けるものなので無理だと思うけど、中学入試の数学(か理科)の問題として面白いんじゃないかなぁ。

 いくつかチューブを配置した画像を並べて、『安定して回転させることのできる状態のものをすべて選べ』って問題にして、分かりやすい線対称の配置の他に一つだけ、一見めちゃくちゃなのに実はバランスが取れているやつも入れておいたら、相当数の子が引っ掛かりそうな意地悪問題になりそうだ」

などという考えが浮かんでは一人でニヤニヤしているんですけど、まぁでもこんなの、「対角線上のチューブをチェックし、なければ正三角形配置になる相棒がいないかをチェックし…」とやっていくだけなので、大して数学的思考を問える問題でもないんですけどね(笑)。

 

しかし、これに関して、ちょうどこのシリーズを始めるにあたり遠心機&チューブのバランス画像を検索していたら、例の「Redditの13本配置の画像」を紹介している数学ブログがヒットしてきまして(なので、Redditよりむしろこちらの記事が最初のインスピレーションだったわけですが)、この「遠心機バランス問題」を色々数学的に考えている面白そうな記事が見つかりました(↓)。

 

mattbaker.blog

 

24ウェルローターは、1本・23本以外の全てでバランスを取ることが可能で、これは「2本(対角線)配置と3本(正三角形)配置を組み合わせて作れるものだった、ということはこれまで何度も見ていた通りなんですけど、果たして他のウェル数のローターの場合、同じようなことは言えるのか…?

一般化すると、どういう法則があるんだろう?

…ということを、数学好きなブログ著者の方が色々と考えた記事になっています。

 

僕は24ウェルローターに慣れているため、「2本と3本の組み合わせをすれば、実は『1本のみ』以外は何でもイケるんちゃう?」などと思っていたのですが、「より少ない本数の組み合わせでは決していけない」というパターンも(当たり前ですが)存在するんですね。

 

分かりやすいもので、「10ウェルローター」の例が挙げられていました。

 

↑のブログ記事は文章だけの説明なので、例によって簡単にイラストを用意してみましょう。

 

こちら、10ウェルローターを適当に描いてみた図ですけど…

10穴ローター、全部空の状態

 

まず、偶数本のチューブは、例によって誰がどう考えても、対角線に入れていくだけなので余裕で可能ですね。


当然、2本はどこでもよく……

2本の場合


…さらに2本追加する場合、どっちに入れても「直行する十字架」みたいに完全に均等に分散された状況にはならないのですが、まぁ少しでも「なるべく分散させて配置」するために、一つ間を空けるとしましょう。

4本の場合

あとは、図を貼るまでもないですけど、2本ずつ足して…

 

6本の場合

 

8本の場合

 

10本の場合

 

…と、偶数本なら2~10本(満タン)まで当然すべて配置可能なんですが、記事には、10ウェルローターは、「2, 4, 5, 6, 8, 10本を配置可能で…」とありました。

 

物理の能力が貧弱な僕は、「3本で正三角形を作っていた」ということに引っ張られて、「5本…正五角形を作ればいいってことなのかな?あんまり正五角形になる自信がないけど、まぁ5本でバランス可能って書いてあるんだし、実際それっぽい形で配置すれば正五角形になってるんだろう」と思って、このローターで描けそうな「1-9-3-7-5」を頂点とする図形を思い浮かべてそこにチューブを入れてみましたが…

5本の場合

…なんてこたぁない、気が付けば単に「1-3-5-7-9」と、「一本置きで入れている状態」になっていましたから、バランス取れてるに決まっているのでした(笑)。

 

で、ここからが話のポイントで、「2本と5本が配置可能なんだから、7本も配置可能に思われるが、実は7本は不可能なのである。なぜなら、空きウェルの対角線上のウェルは、既に全て埋まってしまっているからだ!これを、オーバーラップ問題と呼ぶことにしよう」などと書かれており、そう、「2本」「5本」が可能なのに、それを組み合わせた「7本」をバランスよく配置することは、10ウェルローターでは無理なんですね!

 

…と、えらい中途半端すぎますが、またまた最後のまとめに行く時間が完全になくなりました(笑)。

次回、そのまとめだけして、またフェノクロに戻ろうかと思います。

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