サーモンのDNA!

前回はいきなり「フィギュアぶっかけ」的な、何かヤバいというかキモい話を展開していましたが、あれは、スパームに含まれるDNAが光っているのではなく、恐らくタンパク質が光っているのだと思われます…などと書いていました。

 

しかし、DNAやRNAは普通に一か所に集まると光ることもあるんです、信じてください何でもしますから……とそこまで懇願するほどでもないしそこまでは言ってませんでしたけど(笑)、実際「RNA光るもん!ボク見たもん!」と、メイばりに駄々をこねたくなるぐらいには、何度も目にしていることなのでその謎にも触れていきたい所ですが……

 

慢性的な多忙につきイマイチ調べる時間もなく、いいソースは見つかっていないんですけれども、オレンジ色にボンヤリと光った感じで見えるのは、思い出してみるとやっぱり「RNAを大量に合成して、しかもゲルで流したとき」が圧倒的に多く、

「ゲルの中で一箇所に密集させられたRNA分子(ゲル電気泳動は、サイズの大きさごとに分子をわける実験手法でした)であることが蛍光発光には重要なのかな…?」

と思えるとともに、RNAを流す際は「変性ゲル」と呼ばれる、主に高濃度の尿素を含むものを用いて、RNAに特徴的なヘアピンみたいな複雑な構造をほどいた形で流すことが多いため、

「特に一本鎖であるRNAが、変性状態で構造がほどかれた状態だと、蛍光性を示す…ってコト?」

という気もしますね。

 

とはいえ、一般的にはむしろ複雑な構造を取った方が蛍光とかも生まれやすいのでそれも妙な気がしますし(まぁそれはあくまで偏光とか光の吸収・反射に関して言えるもので、蛍光は分子のエネルギー状態の変化によるものですし、特にそういうわけでもないかもしれないものの…)、別に変性させないゲルでも、そういえば光って見えたことはある気がするなぁ…とも思えますから、構造はさほど関係ないのかもしれません。

 

(が、チューブの中に、それこそエタ沈とかで底の一点にまとめて集めた場合はどれだけ大量のDNA/RNAがあっても白沈でしかなく、それが色づいて見えた記憶はないですし、輝いて見えるのはゲルに流した時だけにも思えるので、何というかこう、「同じサイズのものが、電気と篩 (ふるい) の力で一箇所にめちゃくちゃ圧縮される」みたいな状況が、UV照射したり肉眼でも見える原因なのかなぁ、なんてのはやっぱりそうなのかなぁ、なんて気がします。

…あぁ、でも、チューブ内の沈殿にUVを当てたことはないので、もしかしたらエタ沈でペレットになった超大量のDNAとかなら、もしかしたらUV下では微妙に赤みがかかって見える…なんてこともあるのかもしれませんね。)

 

…と、自問自答しながら行ったり来たりしているだけで謎のまんまですし、「そもそもそんな光るDNA/RNAなんて見たこともないどころかゲルすら見たことない俺らにいきなりそんな話されても、意味分からんにも程がありますぜ…」って話だったかもしれませんが、まぁ核酸(DNAやRNAをまとめて呼ぶ際はこう呼ぶことが多いですね。何となく、経験からもDNAよりRNAの方が発光しやすい印象なので、ここは「DNA」と書くより、RNAも含めた「核酸」という書き方にしたい所です)が光るかどうかはその辺にしておきましょう。

 

(機会というか時間があればまた調べてみて、何か分かったら報告してみようかなと思います。)

 

他の脱線ネタとしては、あぁそうそう、最初に「スパーム」などと見慣れない言葉を使いましたが、これはまぁ前回から話に出していたもので、より一般的には「スペルマ」って表記の方が、特に中高生以降の男子なんかには身近かもしれません……まぁハッキリ書けば精子ってことですね。

 

ちょうど、その「フィギュアぶっかけ」とは全く関係なく、こないだからしているDNAネタの一環で、特に最初の頃、

「食塩があの白い粉末という、目の前に持ってこれる形ある物質であるように、DNAというのも物理的に現実世界に存在する物質でしかないのです。まぁ塩はどこのスーパーでも買えるものの、DNAが売られているところを目にすることはほぼないので、『これ』と示しづらいですが…」

…なんてことを書いていましたけど、これと関連して、

「DNAは実験室では可視化できるわけですが、そういえばDNAって買えるのでしょうか…?」

 

というネタに脱線しようと、実はずっと機を窺っていたのでした。

 

まぁ機を窺う程の話でも何でもない、クッソつまらん小ネタでしかないんですけど(笑)、DNAというものも、スーパーなんかには流石にないものの、試薬会社では普通に売られています。

 

まぁ今時は自分が扱っているサンプルから楽に高純度のDNAも得られるので、そんなに買う必要もない気もするものの、昔は自前で高純度のDNAを得ることも中々難しかったでしょうから、その時代の名残で販売されているのでしょう、一番よく目にするDNAとしては、「サーモン・スパームDNA」ってやつで、実際に販売されている様子を、合併吸収を繰り返して圧倒的世界最大の研究試薬企業に成り上がった我らがThermo Fisherの製品ページのスクショをお借りしてみましょう。

https://www.thermofisher.com/order/catalog/product/15632011より

UltraPure Salmon Sperm DNA Solution…ズバリ、日本語で書けば「ウルトラピュア・サケ精子DNA溶液」ってものなわけですが、まぁ今でも売られている通り、今でもちょいちょい使われるもので、具体的には↑のページの説明(Applications=応用例)にもある通り、例えば何か貴重なDNAを実験に使う際、あまりにも微量しか存在しない状況ですと、その少ないDNAがチューブの壁に引っ付いて上手く反応が進まない…なんてことなんかもあり得まして、それはよくないので、反応液中にある程度「DNAが豊富にある状態」を作るべく、いわば、

「ランダムな、実験とは関係ないDNA」

…を反応溶液に足す用途ですとか、他にもサザンブロットやノーザンブロットという、「膜の上に移した生体分子と、自分の気になるDNAやRNAと反応させる」という実験で、膜の何もない所にDNAやRNAが吸着してしまわないように、「あらかじめ無関係なDNAで膜全体を覆っておく」用途、いわゆる「ブロッキング」という意図で使われることもある感じですね。

 

(まぁ全然本筋とは関係ないですけど、サザンやノーザンについては、この辺の記事で見たことがありました(↓)…

con-cats.hatenablog.com

 

…こちらはタンパク質を使ったウェスタンですが、原理というか工程はほぼ同じで、使うのがDNAならサザン、RNAならノーザンと呼ばれているだけです。)

 

と、なんだかグダグダ分かりにくい話を書いたものの、そういう「どうでもいいDNA」として使われがちなのがこのサーモン・スパームDNAで、そう聞くと「ただのカサ増し要員、ザッコ(笑)」とも思えるものの、まぁ実験を成功させるためには重要なものですね。

 

(ちなみに、「そんな貴重なDNAとやらを使った重要な実験に、全然関係ないサケのDNAだかを大量に混ぜて平気なの?」とも思われるかもしれませんが、これは当然平気で、なぜなら自分が調べたいDNAは、混ざってもちゃんと分かるようにマーキングされているからですね。

 例えばサザンで使うDNAとかなら、放射線標識をして、放射線測定をすればその目的DNAだけを検出できるようになっている……とか、他にもDNAを使って細胞を形質転換させたいような実験では、そのDNAには薬剤耐性遺伝子が乗っていて、どれだけ無関係なサケDNAを取り込もうと、その目的のDNAを取り込んだ細胞のみが薬剤入り培地で生存できるようになるので、サケDNAの存在はどうでもいい……という感じです。

…日本語にするとややこしいかもしれませんが、やってみれば明快で、大変分かりやすい話になっているように思います。)

 

ただ、例えばヒトの細胞を使って実験をする際にヒト由来のDNAをそういう「どうでもいいランダムなDNA=カサ増し要員」として使うと、流石に「何か意図しないことが起こっても嫌だな」と思えますし、その意味で、ヒト細胞からDNAを取るのなんて今の技術なら本当に簡単に行えるわけですけど(純度を問わなければ、家庭で小学生が行えるレベル…ってのはシリーズ一連の冒頭に触れていた話です)、あえて市販のものを購入するのは(というかSalmon Sperm DNAが売られているのは)、研究とは全然関係ないサケ由来のものだから、ってのがあるのかもしれませんね。

 

あとは歴史的な背景として、精液ってのはやはり遺伝子DNAの乗り物に特化した物体であり、細胞の中でもタンパク質よりDNAの割合が有意に大きいものでしょうから、まだ生命科学の技術があまり発達していなかった時代でも、高純度なDNAを得やすかった、ってのもあるのかもしれません。

 

その辺の歴史は僕はあまり分かりませんけど、そんな背景もあって昔からよく「カサ増し用のDNA」として伝統的に使われてきたものな気がしますし、実際今いる研究室でも(僕は買ったことはないですが)昔に買われたSalmon Sperm DNAがあり、実際何度か使ったこともある感じです。

 

今さらですがThermo社でのお値段は、5ミリリットルで200ドル程度と、高級化粧品よりも高いぐらいですね、たかがスパームのくせしやがってからに(笑)。

 

もちろん日本でもよく使われる実験試薬で、我らがWako・Fujifilmでも取り扱いがありました、こちらは、まぁもしかしたら欲しい人がいるかもしれないので(絶対いないですけど(笑))スクショではなくリンクカードを貼っておきますが……

labchem-wako.fujifilm.com

 

…時とともに値段も変わると思いますけど、今見た値段だと、1グラムが1万2700円ってことで、1円玉1枚の重さで1万数千円とか、サケごときの精液がナメやがってからに(笑)。

 

まぁでも試薬ってのは概ねこんな感じで高額ですしね、需要が大きいものではないから高いのも仕方ないといえますし、基本的にポケットマネーではなく研究資金(グラント)から支払うものなので、多少高くても誰も気にせず買う…という殿様商売的なアレもあるかとは思いますが(笑)。

 

ちなみに、RNAも、細胞や生体から邪魔くさいぐらいいくらでも取れますけど、これも似たような用途で使われる「純粋なRNA」がしばしば売られていて、実際の実験でもそういう高品質なRNAが使われることがままあります。

 

DNAといえば「サーモン・スパーム」って印象が強いですが、RNAの方は、「酵母のtRNA」ってイメージが強いですね。

 

検索したらトップに出てきました、化学薬品系の世界最大手・我らがシグマの製品を見てみるとしましょう。

https://www.sigmaaldrich.com/US/en/search/yeast-trna?focus=products&term=yeast%20trnaより

「baker's yeast=パン酵母のtRNA」ってやつですが、シグマはこうして同じ名前の商品でも微妙に精製度や製法の違う、カタログナンバーも異なるタイプの製品がありますけど、まぁあんまり使わないなら一番安いR8579の100ユニットで69ドル(未だに1ドル100円換算している円安回顧脳的には7000円ぐらいな印象ですけど、現在の為替だとこれで1万円超えるんですねぇ~)……

ただまぁRNAは分解酵素の強さ的に分解されやすいため、扱いが面倒なので、粉末ではなく溶液になってるものの方がいい気もするので、溶液(solution)を買うならR8508の方が良さ気であり、先ほどのサーモンDNAと同じ5ミリリットルだと349ドルと、う~ん高い!

 

でもまぁ、これも大体そんぐらいかな、って感じかもしれませんね。

 

という所で、今回はまさかのサーモンスパームDNAとかを見てキャッキャしてたら、いつの間にかいい感じの分量になっていました。

ちょうど似たような感じで、また別のエタ沈関連試薬にも触れようと思っていたのですが、そちらは次回持ち越しとさせていただきましょう。

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