前回の記事(↓)では、エタ沈にまつわる補足小話として、「エタチンメイト」という、DNAと絡みついて溶液の中から目に見える形で落としやすくしてくれるお役立ち分子の紹介をしていました。
リンクカードを再掲しましたが、記事の最後では、「色付きのメイト(=相棒、仲間、友達って感じの意味ですね)もあります」などと書いて写真も載っけていたものの、時間不足につき何も触れずに終わってしまっていました。
一部分の表示で分かりにくいものの、↑のリンクカードのサムネイルでもきちんとチューブの底のDNAだけは表示されていますね、ズバリ、DNAにピンクの色がついて大変見やすくなるということで、正直普通の白い沈殿でもちゃんと見れば見えるんですけど、まぁ画像にあるように普通は白いチューブを使うことが多いので、「色が着いているとより見えやすい」というのは間違いなくある感じだといえましょう。
…ちなみに前回の画像は、大きな画像が英語版にしかなかったので英語版の元記事をリンク先として貼っていましたが、画像は小さいものの説明文は(日本語なので当然)より読みやすい、メルク・ミリポア社の日本語版該当記事のリンクも貼っておきますが……
…こちらは「エタチンメイト」ではなく「ペレット・ペイント」という商品名のようで…
(ちなみに「ペレット」というのは、業界によっては日本語でも普通に使われていることもあると思いますが、「小さなカタマリ」を意味する英単語であり、生命科学実験では、DNAを沈殿させて画像のようにチューブの底に溜まったカタマリのことを、日本でもしばしば「ペレット」と呼んでいる感じです)
…リンクカードでも普通に「ペレットを可視化でき……ペレットの紛失を防ぐことが…」と書かれていますが、これも「ペレットをペイントする」という感じで、大変分かりやすいネーミングだといえましょう。
上記リンク記事内には小さいけれど同じ画像があり、そこの説明文にもあります通り、2つ並んだ写真の右側が肉眼で普通に見たチューブの様子で、左半分、ぼやっと光ってより見やすくなってると思いますが、こちらは一瞬何かと思いきや、普通に紫外線(UV)照射をしたチューブの様子だったんですね。
まったく全然大した話でもありませんが、割とDNAがボンヤリとキレイに光っている画像はインパクトがあるっちゃあると思うので、今回はちょっとそちらに脱線してみるといたしましょう。
まぁUVはDNAにダメージを与えるので、画像では何でわざわざ貴重なDNAサンプルにUV照射してるのか分かんないですけど(「肉眼で見ても分かる」のが売りなのに、わざわざUVを当てる意味があまり分かりませんが……まぁ「UVを当てたら光る」という性質が使える場面がなくもないかもしれないので、「そういう性質もあります」という紹介でしょうか)、いずれにせよこのPellet Paintを用いれば、DNAは紫外線が当たることでボンヤリと光ってくれる感じになるようです。
それに関して、「DNAが光る」というネタで、以前の記事で「エチブロ」という試薬でDNAを染めることで、紫外線ランプを当てるとDNAが光ります…なんてことを書いたことがあったわけですが……
検索したら結構な数の記事で触れたことがあったみたいですけど、詳しく触れたものではこの辺(↓)や…
…他にもこの辺(↓)の記事では「蛍光の励起スペクトルのグラフ」なんかも示しながら触れてましたけど……
まぁどっちもアイキャッチ画像には別の画像を使っていたので、全く似たような画像ではありますがちょっと違うパターンのやつが「蛍光イメージング」という英語版ウィ記事に存在しましたので、改めてそちらをお借りさせていただきましょう。
こんな感じで、UV光を照射することで、ゲルの中を流れてサイズに応じた一塊のバンドになったDNAがオレンジに光るわけですが(エチブロではDNAはオレンジに光るので、右上の黄緑っぽい光は、何か別の色素も反応しているように思います)……
…先ほどのペレット・ペイントでもDNAがボンヤリ光っていた画像を見て、一つネタが思い浮かびました。
大変下世話なネタになりますが、しばしば「中古のフィギュアにブラックライトを当てると、ボンヤリ光る(ことがある)」というのが話題になり、それはなぜかというと、ズバリ、可愛いフィギュアにキモオタさんがぶっかけるから……というもので、軽く検索しても、実際にお店で「ブラックライト反応アリ」と明示されている商品が話題になっているまとめ記事(↓)や…
↓のまとめでは、よりリアルなブラックライト照射時の汚れの様子を収めた画像なんかもありましたけど(まぁ写真自体が気持ち悪いこたぁないですが、別に気持ちいいもんでもないので、特に見ないでいいと思います(笑))…
…これはよりハッキリと有り体に書いてしまえばズバリ、「精液の残存物質がブラックライトと反応するから」って話なわけですね。
まぁしばしば「ブラックライト」と呼ばれますけど、これは結局は紫外領域の波長を含んだ紫外光=UVなので、先ほどの画像と同じく「UVに当てられて光っている」ことになるわけですけど、僕は中古どころか新品でもフィギュアは買ったことがないですし全然意識したこともなかったですが、せっかくなので意識して考えてみますと(あんま意識したいネタでもないですけど(笑))、これは一体何が光っているのでしょうか…?
上で書いていた通り、DNAってのはUVを当てるとボンヤリ光るので、「遺伝子の乗り物そのものと言える精液のDNAが反応するのかな…?」などと僕はボンヤリそう考えていたのですが、しかし、DNAが光るのはエチブロやペレット・ペイントといった補助物質が存在するからであり、「DNA単独では光らない」というのが常識で、知恵袋なんかを検索しても(参考:関連2記事↓)…
「DNA自体に蛍光性はありません。エチブロなどの物質が必要です」とされていますし、実際、まさに今日の出来事でしたが、今年に入ってから新しく実験を始めている大学2年生の面倒を最近見ているんですけど、一足先に去年から始めている別の子(Aさん)にも同じことを教えているので、忙しいときなんかは、
「Aさんに聞いてやってみて。お互いめっちゃいいトレーニングになると思うから」
…などと丸投げすることもあるのですが、その新人Bさんが、DNAをアガロースゲルで流した後、
「UVイルミネーターで検出しても何も見えないんだけど。失敗?」
と尋ねて来まして、順番に色々やったことを尋ねたらまさかのゲルをエチブロで染色しておらずそのまま直接見ており、
「エチブロで染めなきゃ見えるわけないじゃん!」
と、自分の指導の不届きを棚に上げて笑ってしまったんですけれども、
「Aはゲル流した後そのまんま検出できるって言ってたから。『染めなくていいの?』って聞いても、『いい』って言ってたのに…」
…と、実際は既に何度も教えたはずのBさんの勘違いだったわけですがまぁそんな細かい出来事はともかく、普段ゲルは必ずエチブロで染めるんで、「染めずに検出」なんてほぼ記憶になかったレベルなんですけど、行程を聞く前に自分でもゲルをチェックしてみたら、マジで何も光ってませんでしたからね。
まぁ言葉だけで書いても(状況説明が無駄に下手なこともあって)何のこっちゃって感じかもですが(笑)、実際、「エチブロなしでは、それなりの量のDNAがゲルの中にあっても、一切全く光らない」のはまさに都合よく本日、自分の目でチェックしていた次第です。
…なんですけど、実は、尋常じゃない量のヌクレオチドが存在する状況、具体的には、例えば「DNAを鋳型にしてRNAをチューブの中で合成する」という「転写」実験をすることも稀によくあるんですが、RNA合成酵素が鋳型DNAを繰り返し何度もRNAに変換するため、反応後はめちゃくちゃ大量のRNAが合成される形なんですけれども、それぐらい大量のRNAが存在すると、実は何も染めなくても、UV照射することでRNAはボンヤリ光って見えるんですよね……。
それどころか、下手したら肉眼でも蛍光灯の光に反応して、薄いゲルの中で一か所に固まって存在するような場合は特に、オレンジに見えることすらあるぐらいです。
正直そんな経験があったので、「DNAやRNAは、大量に存在すれば、別にエチブロとかかけなくても光って見える」と思い込んでいる節もあったため(というか事実なんですが)、それもあってフィギュアのブラックライトは「DNAが光ってるのかな?」とも思えたのですが、まぁ正直、ぶっかけられた精液にそこまで大量のDNA・RNAがあるとも思えませんし、これはやっぱり違うんですかねぇ…?
どれだけ科学的な記述が正確かは不明ですが、検索したら出てきました、以下の法科学鑑定を解説してくれている記事によると、法科学的には「精液判定」として確かに実際UVライトも使われるようですけど、このサイトの記述からすると…
「精液に含まれるタンパク質に反応する」とありますし、冷静に考えたら原則的には紫外吸収で蛍光を発する能力を持たないDNAではなく、アミノ酸の中には紫外吸収によって励起して蛍光を発する構造も余裕で取ることのできる、タンパク質が原因なのは当たり前だったかもしれません。
いずれにせよ、「体液に反応してブラックライトが光る」というのは法科学でも用いられる由緒正しい反応であり、これは間違いないことのようですけど、僕が長年ずっとボンヤリ思っていた(まぁそんなことボンヤリと思ってたわけでもないですが(笑))「DNAが反応するのかな?DNA鑑定とかいうし…??」というのは恐らく間違いで、普通に特定のタンパク質がUVに反応して蛍光を発するだけだと思われますね。
とはいえ、話がしっちゃかめっちゃかにも程がありますが、DNAやRNAが大量に集まるとUVに強く反応するというのも間違いなく事実で、例えばこちら、Thermo Fisherの記事(↓)にあります、「UVシャドーイング」と呼ばれる実験では…
…特にゲルを染めることなく、UVを直接照射して検出していますけど(ここではTLCプレートなんてのを使ってますが、僕は実際にやった経験がありますけど、プレートを使わず、真っ暗な部屋にしてUVを当てればもうしっかり光って見えるので、別に「影」に頼らず、そこでそのまんまDNAやRNAを切っちゃえばOKです)…
…しかし、「裸のDNAやRNAがUVを受けて蛍光を発する」という点に関する原理というかそれに関する記述すら、軽く調べた限りでは中々見つけられませんね…。
が、いずれにせよ、場合によっては本当に下手したら肉眼でもうっすら光って視認できるぐらいなので、「DNAは光る」と、どうか信じていただければ幸いの限りにございます……。
(って別に誰も疑ってないし、そもそも興味すらない話かもしれませんが(笑))。
と、話が逸れて今回も一記事終わりました。次回はまたフェノクロ・エタ沈の補足に戻っていこうと思います。